誤解にみちた世界

黎海波

 ブッシュ米大統領は中国を訪問中、222日清華大学で演説を発表し、アメリカの本当の姿を「中国人がかならずしもはっきり見てとれるとは限らない」ことを心配していると述べた。同大統領は、「中国の一部の教科書はアメリカ人を『貧しい者をいじめ、弱い者を侮る』やからだと言っている」と話してくれる人がおり、もう一冊の教科書は「連邦調査局の秘密工作員は『勤労人民の制圧』に使われている」と教えているが、「この二つの言い方はともに真実ではない」と述べた。

 ブッシュ大統領のこの言論の的確性がどうであるかについて評論する考えはない。当今の世界では、誤解の例を探すのは、掌を返すように容易なことだと言える。私の手元には似た例がたくさんある。例えば数年前、中国のある友人は私に「アメリカ人の言う『ファーストレディー』の意味はなにか。アメリカの大統領には二人以上の妻がおり、ファーストレディーが一番目の妻であるのかどうか」と尋ねた。本当のことを言えば、これに似たような質問は一回だけではなく、何回も聞かれたことがある。西側の読者、特にアメリカの読者は、きっとこのような質問はまったくばかげたもので、泣くに泣けず笑うに笑えないと思うだろう。私はとっちかと言うと、これは文化の差異によってもたらされた誤解であり、うなずけるところがあると思っている。ファーストレディーがどういう意味かというのは、一般の中国人の常識に属さないと言うべきである。小学校から高校に至るまで、生徒に「アメリカのファーストレディー」の定義を教える教科書が一冊もない。今回のブッシュ大統領夫妻が中国を訪問する間、ローラ・ブッシュを「ファーストレディー」と称した中国のメディアが一つもなかった。

 われわれはすでに情報時代に入っている。本来なら、人びとの交流はこれまでのいかなる時代よりも速く、効果的であり、誤解が減少するはずである。残念ながら、われわれは依然として誤解のみちた世界で暮らしている。誤解は依然として国際交流の一大障害となっている。長期以来、他国、他民族および別の文化についての情報はしばしば真実でなく、不完全なものであり、関係ある状況がしばしばあいまいなものであり、ひいてはねじ曲げられたものである。各国の人民、とりわけ中国のような発展途上国の人民は、しばしば誤解されて困惑し、苦悩を覚えている。ブッシュ大統領に自分の国が他人によって真実を失うほど描かれることに不満を覚える理由があるとすれば、中国人民は少なくとも心の中の遺憾と怒りを言い表す理由がその十倍もある。というのは、彼らの国、文化ないし彼ら自身が西側の一部政客とメディアによって極力誤解、歪曲されているからだ。だから、不満を覚えるのは発展途上国であって、西側の先進国ではないのだ。

 現在でも、西側に中国の農村では、人びとが纏足――女性が未成年の時に、長い布でその両足をかたく巻き付け、足を小さくする――陋習を保留していると信じる人はまだ少なくない。かれらは、早くも辛亥革命時期(1911年の辛亥革命は267年間も続いた清王朝を覆した)にこの陋習が広く非難され、1949年の中華人民共和国成立後は根絶されたことを知らないのである。最近、アメリカのある夫婦は私に、北京に来る前、北京の市民がみな青い服を着、至る所にスローガンがあると思っていたが、来て見ると、様子が全然違っている、北京と中国全体の現代化建設にはびっくりしたと話した。私の読んだ科学幻想小説の中で「時間トンネル」のことが書いてあるが、私から見れば、西側のこれらの人たちは「時間トンネル」を通って中国に来たようであり、かれらは過去に暮らしていたが、いままた未来に戻ってきたのである。

 西側の人は、自ら中国を訪れたことがなければ、この国の真実の姿を知るのが難しい。この現象が物語っているように、西側のメディアは、しばしば公衆をミスリードし、中国をありのまま報道していないのである。西側メディアの多くの報道の一面性がひどく、あまりにも真実でないことは、人びとをびっくりさせる。例えば中国の計画出産政策については、長期以来ずっと西側の一部メディアが攻撃する重点的目標であり、しばしば天理に反するものと宣伝された。その実、かれらは根からこの政策の合理性と正確性を知ろうとしないのである。人権の角度から言えば、この政策は中国人民の根本的利益に合致している。人口をコントロールしなければ、中国人民の自由と富裕を脅すばかりでなく、全人類にも危害を及ぼす。一部の人の非難について、外国のある外交官は、「これらの批判者たちは北京駅のようなところヘ行って見たらいい。かれらが人の群れにもみくちゃにされてから、この政策を理解して、でたらめに議論しなくなるかもしれない」と述べた。

 法輪功はいま一つの典型的な例である。西側の多くの人は、一部の善良な人を含めて、これは邪教組織であり、その生れ故郷では悪名高いものであることを知らされていない。法輪功のかしらはその信者に正常な生活と家庭を放棄させ、ひいては命を犠牲にしてその狂気じみた邪悪な観点を実践させている。かれらは実際には反人類、反社会の道を歩いているのである。それはわれわれのこの社会の癌であり、ほとんどの中国人は政府が法輪功を取り締まるのを支持している。中国は無神論が主流を占める国であるが、同時に各種の宗教、例えば仏教、道教、イスラム教、キリスト教の存在を許している。これらの宗教はいずれも憲法の保護を受けている。しかし、法輪功は従来から宗教ではない。不幸ながら、西側の一部メディアの宣伝により、この問題に対する中国のやり方を誤解している人がかなりある。 

 周知のように、9.11事件の被害者の中に、アメリカ人を除いて、中国を含む80カ国の公民もいる。中国は真先にアメリカ政府と人民に哀悼の意を表した国の一つである。はからずも、アメリカの一部メディアはこの問題をめぐってまたも騒ぎ立てた。かれらは、中国が反テロ戦争を支持するのは投機の考えから出たことで、この戦争を利用して新疆、チベット、台湾などの地区の分裂主義活動を圧制しようとしていると書き立てた。実際には、中国は同情から哀悼の意を表したのであり、反テロは平和を維持し、正義を伸張するためである。アメリカの一部の人のこの問題に対する見方はあまりにも複雑すぎ、想像力があまりにも豊富すぎるようである。

 見たところ、誤解は本当にどこにもある。その存在する時間は、恐らく人類の歴史とほとんど同じほど長く、もしかしたらバベルの塔を築く時から始まったかもしれない。それは早くからわれわれの日常生活の中で回避できない問題となっている。誤解の出現は、あるものが無知から出たものである。このような誤解をひとまず良性の誤解と呼ぼう、そのような誤解は回避し難いが、その多くは意識的にやったものではなく、しかも対話と交流を通じて解決できるものである。ブッシュ大統領は4ヵ月以内に中国を2回訪問したが、これは誤解と不信任をなくすのに役立つ。同大統領はりっぱな手本を示した。もう一部の誤解は悪性の部類に入れなければならない。それは偏見と敵意から出たものであり、「治癒」しにくいものである。ことわざにもあるように、偏見は無知よりも真理からはるかに遠く離れている。このような誤解も回避しがたいものであり、中国人はよくこのような誤解にぶつかる。前の方でこのような例をあげた。悪性の誤解はわれわれに多くの迷惑をかけ、将来も数え切れないほど迷惑をかけるだろうが、幸いにも人びとはそれに慣れている。誤解は多いが、中国の前進をさえぎることができず、また人類の前進をさえぎることもできない。

       (作者の電子メール hblii@263.net