WTO加盟で、訴訟を覚えた中国の企業界

 啓 明

 伝えられるところによると、EUは4月にライターの安全基準を高めることをねらったCR法案を表決するという。この基準が可決されれば、中国温州市の数百社の金属ライターメーカーが壊滅的な打撃を蒙ることになる。

 44日、対外貿易経済合作部のスポークスマン高燕氏はこれについて談話を発表し、同法案の規定が不合理で、WTOの公平競争の原則に背いているとし、次のように指摘した。

 中国政府は一貫して消費者の権益保護を重視し、消費者の安全を保護するため合理的措置をとることに反対しない。しかし、われわれはEUが目下、審議中のライターの安全基準法案の中で、価格を安全性とリンクさせていることに留意している。この規定はとても不合理で、WTOの技術貿易障壁取り決めに合致せず、WTOの公平競争の原則に背いている。同法案が可決されれば、中国製ライターの輸出は重大な影響を受けるだろう。中国とヨーロッパの経済貿易関係の健全な発展を守るため、EUとEU諸国政府および関係機構が中国側の関心を正視し、法案中の不合理な規定を取り消すよう望んでいる。

 EUが目下、審議中のライターの安全基準法案は、出荷価格が2ユーロ以下のライターに必ず子供が火をつけるのを防止する安全装置を取り付けなければならないと規定している。中国金属・自転車・電気器具・化学工業製品商業協会秘書長の朱仁和氏は次のように語った。この装置の特許権はとっくにヨーロッパのメーカーに所有され、特許を買うと、必然的にコスト高を招き、しかも多くの中国の中小企業にとって、高額の特許料は負担しがたいものである。

 中国の温州地区は労働力市場のコストがわりに安いため、金属ライターを生産する中小企業が集中している。温州製ライターの単価は約1ユーロであるのに対し、ヨーロッパのライターは少なくとも2ユーロである。質がよく値段が安いため、中国製のライターは毎年ヨーロッパに大量輸出され、40余億元の外貨獲得をしている。ヨーロッパの同業界のメーカーはかなり大きな衝撃を受けたため、共同で中国製のライターをボイコットした。反ダンピング調査がかなり長い時間がかかるため、新しい技術障壁が現れたのである。

ヨーロッパへ交渉に行く温州の企業家

 321日から45日まで、温州喫煙用具企業渡欧交渉団は、中国の「民間最初の交渉団」として、WTOの舞台で「平等な対話」を行った。これは、中国の企業界がWTO加盟後に交渉団を国外に派遣し、面と向かってEUがCR法規を使って、中国に対し技術障壁制限を設けるのを制止する初めてのケースである。

 温州に帰ってきてから、交渉団のスポークスマン黄発静氏は交渉の最新結果を次のように明らかにした。EUは中国側の意見に同意し、CR法案がライターの安全性を価格とリンクさせるのが確かに不合理であることを認めた。投票後、CR法案が可決されれば、EUは改正のプロセスを通じて、CR法案を改正するが、時間がかかるという。

 ヨーロッパに滞在した17日間に、彼らは昼夜兼行で、ドイツ、イタリア、ベルギー、ポルトガル、スペイン、フランスへ行って、それぞれヨーロッパの基準化委員会、衛生と消費者保護委員会、イタリアの生産生活省、フランスの財政経済工業省などと9回も話し合いをした。

 「民間最初の交渉団」の渡欧後の頻繁な活動は、CR法規の可決を推進する世界ライターメーカーの巨頭たちの高度の重視を引き起こした。BIC総裁はベルギーからフランスまで行き、会談を要求した。交渉団は会談で次のことを指摘した。温州製の金属ライターは、輸出前にすべて国際公認の安全基準の検査・測定にパスした。それは火をつけやすい使い捨てライターと違い、保護する金属の外殻があり、子供は簡単に開けられない。その価格が2ユーロ以下であるのは主に労働力が安く、協業化生産の能力が強く、生産がコスト・ダウンをしたからである。いくつかの国で子供がライターをもて遊んで負傷した事件の「元凶」はいずれも使い捨てライターであった。温州製の金属ライターは安全の面に問題がない。

 清華大学法学院国際経済法教授の車丕照氏は、これは中国がWTO加盟後、WTO加盟国の貿易障壁に出会った初めてのケースであると語った。

 温州ライター協会は次のように見ている。CR法規は表面から見れば、正当な理由があるようだが、実際には中国のライター業を目標としたもので、WTOの非差別原則に違反している。子供の安全を理由として、中国の売価2ユーロ以下のライターに保険の錠をかけるよう要求しているが、日本、韓国でも保険の錠をかけていないライターがあり、、値段が2ユーロ以上というだけで、CR法規の制限を受けていないからである。これに対し、ヨーロッパ側は、日本、韓国のライターの売価が高いため、購入者が少なく、子供がそれに触る機会も少ないからだと解釈した。

 黄発静氏は、ライターに錠をつけるならどの企業のものでもそれをつけるようにし、つけないならどの企業のものでもつけないようにすべきで、そうしなければ競争が不公平なものになると見ている。

 温州ライター協会は各企業に、WTOの規則を真剣に学び、政府の責任者や関係ある専門家、弁護士に教えてもらうようにさせ、同時に、ヨーロッパのライター輸入業者協会を招いて温州のライター製造業を視察させ、それとCR阻止の「欧亜同盟」を結成し、ライターの生産・販売状況を調査し、EUの関係機構に反対の意見書を提出し、抗弁の理由を陳述した。

 今回、温州の企業が外国へ交渉に行ったのは、国務院と省・市指導部の大きな支持を得、対外貿易経済合作部は4人の責任者を派遣して指導させた。関係者は交渉に効果がなく、CR法規が発効すれば、中国側はWTOの紛争解決メカニズムを始動させる必要があると語った。

温州製ライターの国際市場シェアは70

 温州のライター製造界は20世紀80年代末に始まったもので、現在はメーカーが700余社を数え、年間にライターを85000万個生産し、生産額は20億元に達している。その生産した金属の外殻をつけてあるライターが質、価格、品種の強みを生かして、速やかに国内市場で5%のシェアと国際市場で70%のシェアを占め(EUでは80%を占めた)、これによって、日本などの国と地域のライターメーカーが相次いで温州の企業と協力するかまたは商標を決めて温州で生産するようにさせ、温州のライターの名声が遠くまで広まっていた。2001年末、温州市は中国金物製品協会から「中国金属の外殻ライター生産基地」に指定された。

 ここ数年来、温州市のライター企業は技術改造、人材・頭脳の導入と科学的管理の強化を通じて、たえず製品をグレードアップさせ、産業の規模を拡大してきた。年間輸出額が1000万元以上のメーカーは20余社にのぼり、「多く、速く、良質、低コスト、円滑」を特徴とする業界の強みが形成された。品種が多く、どのメーカーも数十種以上の品種を生産している。設計と生産の時間が速く、新製品の開発は型入れ、型開き、生産から市場出荷に至るまで15日しかかからないが、日本、韓国など国外の同類メーカーは約80日かかる。品質がわりによく、同業界の28社の企業がIS09000品質体系認証を獲得し、205社の企業が国家検査検疫局の輸出検査基準に達し、一部の製品が世界先進レベルに達している。コストが安く、普通のライターの部品は少なくとも28個もあり、どの部品も専門の工場で生産され、コストを安くしている。販売ルートが円滑で、国外で商業を営んでいる多くの温州出身の華僑同胞が大勢おり、彼らは温州のために広くて便利な販売ルートを切り開いた。

 2001年、温州ライターの輸出額は7162万ドルに達し、EU諸国への輸出額は2530万ドルで、前年同期より3.62%増えた。統計によると、1997年から2000年までのEU諸国への輸出額はそれぞれ1293万ドル、1785万ドル、2271万ドル、2442万ドルに達した。歴年来のデータから見れば、EUへの輸出は高度成長期から着実成長期へ変わり、市場のスケールが一応形成された。

 温州のライターは業種の強みで、外国の競争相手を大きく抑えているとはいえ、国際市場では、数量と価格の面でしか優位を占めていない。2001年、温州製のライターは68カ国に輸出されたが、大部分の国への輸出額は数十万ドルしかなく、1000万ドルを上回ったのはアメリカと日本の2ヵ国だけで、市場で絶対的な優位がまだ形成されていない。

 呉敏一温州市副市長は、「温州市は300社余りのライター企業を擁しているが、国際ブランドが1つもなく、競争は価格面にとどまっている。自らの国際ブランドがあれば、価格と利潤が自ずと高くなるから、CR法規などの技術障壁を心配する必要がないであろう」と語った。

専門家が反ダンピングの策略を提出

 CR法規がEUに輸出される2ユーロ以下のライタに安全装置を取りつけなければならないことを要求しているため、温州のライター輸出は価格の強みを失って大きな打撃を受ける可能性がある。温州市は中国のライターの生産と輸出の主要地区として、新しく現れた厳しい情勢にどう対処するのか。杭州税関の一部の専門家は次のような対応策略を提出した。

 1、正しくCR法規に対処する。CR法規が可決されることを想定して、EUのCR法規の条項を真剣に研究し、大胆にわれわれの理由を提出し、勇気をもって積極的にEUに訴訟を起こす。

 2、全力をあげて中国の国際ブランドを作り出す。政府機構は法律、行政などの手段を利用して、業界参入の基準を厳しくし、ライター市場を整頓、整理し、WTO知識のPRに力を入れ、ブランドを偽る不法行為を厳しく取り締まり、ブランド企業の合法的権益を守る。一定の競争力をもつ企業に対し、政策面から導き、資金面からサポートし、企業が国際ブランドを作り出し、製品の価格を高め、国際競争に参与するのを援助する。

WTOルール利用の習得に意義がある

 中国はWTOに加盟してからまもなく、中国の鋼鉄とフロントガラスは相次いでアメリカに関税を増徴され、ライターメーカーもEUの反ダンピングの脅威にさらされた。このことは、WTO加盟が確かに中国にチャンスをもたらしたが、天下泰平を意味しないと中国の企業家に注意を喚起している。

 調べによると、1994年、アメリカがCR法規に似通った児童安全条項を制定したため、温州のライターは余儀なくアメリカ市場から退いた。当時、温州のライターの質がまだ安定しておらず、ヨーロッパ市場に与えた衝撃が大きくなく、EUのメーカーがさほどそれを気にしなかった。そのため、EUはアメリカのような法案を制定、施行しなかった。1999年、温州のライターの質が逐次よくなり、ヨーロッパ市場に占めるシェアが70%に達するようになった。そこでEUの少数のメーカーは温州のライターが安価でダンピングをしていると告発した。比較できる同類製品を探し出せないため、最後はうやむやになってしまった。20016月、温州製の輸出国ライターはすべて国家危険物センターの安全検査とヨーロッパの安全品質認証にパスし、市場のシェアに上昇の傾向が現れた。そこで、EUはあろうことか中国がWTOに加盟するとき、CR法規を持ち出そうとしたのである。

 EUは1994年のアメリカに見習ったのである。当時、われわれは消息がすこしも手に入らず、処置をとる暇がなく、ついに中国のライターがアメリカ市場から完全に消えてしまった。温州の大虎ライター工場の経営者周大虎さんは「いまでは状況が変わった。われわれは強い実力を持っており、法規がまた制定、施行されていないのにそこを知った。われわれはヨーロッパ輸入業者とともにCR法規の可決を食い止めるよう努める」と語った。

 対外貿易経済部部長の石広生氏は次のように語った。いままでのところ、中国の反ダンピングを起訴した案件は485件に達した。これは、中国が世界で最大の害をこうむった国の一つであることを示している。われわれは次のような態度をとっている。

 1、われわれはダンピングを乱用し、保護貿易主義を実施することに断固反対する。2、反ダンピングはWTOの関係規定に厳格に基づいて行わなければならない。新しいラウンドの交渉、とくにウルグアイ合意の中では、多くの発展途上国のメンバーが、現在、先進国が提出した反ダンピングの多くは、反ダンピングの規則を乱用していると明確に指摘した。そのため、反ダンピングの関係規則を充実させるべきであり、中国は新しいラウンドの交渉に積極的に参加して、WTO規則の中の反ダンピングの関係条項について話し合う。3、われわれはWTOの規定に基づいて応訴し、中国の企業と製品の利益を保護する。中国は反ダンピングの規則を運用して自国の利益を保護する。外国製品を中国にダンピングし、中国の産業に損害をもたらすならば、われわれはWTOの規則を運用して反ダンピングを行う。こういう状況に対処するため、中国は相応の機構を設立した。対外貿易経済合作部は公平貿易局を設立し、国家経済貿易委員会も関連機構を設立して、一緒に外国製品の対中国ダンピングを調査し、裁定する。