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印パ関係のしこり 鄭瑞祥
印パ関係がこれほど緊張するゆえんは、上記の突発事件以外に、さらに根の深い原因があり、それがカシミール紛争である。印パ関係の歴史を概観すると、両国間の緊張、衝突、戦争の根源にあるのは、いずれもカシミール問題である。時が経つにつれ、この問題はますます複雑で、ますます解決困難なものへと変化している。それは、単純な領土紛争というだけでなく、民族矛盾、宗派対立、双方の党内の派閥闘争、政局の変化及び外部環境の影響など諸々の要素にまで波及している。これらの要素は複雑に絡み合い、根が深く、中東のアラブ・イスラエル衝突と同様に50年以上も続いており、世紀にまたがる地域衝突となってしまったものである。 1989年以降、インドが支配するカシミール地方での暴力事件と武力衝突は、発生するたびにエスカレートし、すでに3万人以上の生命が奪われている。インド軍と警察が、そこのイスラム武装勢力に対して長期にわたる包囲討伐を進め、インド政府が現地のイスラム政党組織との話し合いを試みてもいるが、期待したような効果はあげていない。カシミールの暴力活動がエスカレートするにつれて、印パ両国の非難合戦もエスカレートしている。インド側は、インドが支配するカシミール地区でのイスラム武装勢力はパキスタンの支援を得ていると考えており、ひいてはパキスタンの領土内で訓練を受けたことのあるテロリストであるとすら考えている。パキスタン側は、インド側の非難を退け、カシミールのイスラムゲリラは自由を勝ち取るために戦う戦士であり、暴力活動はインド軍と警察のカシミール人民に対する鎮圧が呼び起こしたものだと考えている。 カシミール問題は、インド・パキスタン国内での党派の政治闘争において非常に重要な地位を占めている。インドでは、ヒンズー教とイスラム教の宗教対立はきわめて敏感な問題であり、少しでも処理のしかたを間違えれば、大きな災いをもたらしかねない。宗教色の強い一部の政党は、常に煽り立て、もめごとを引き起こしている。かつて1990年代初期にアヨーディヤ・イスラム寺院が破壊された事件は、宗派による大規模な流血の衝突を引き起こした。この事件は、カシミールのゆくえに大きなマイナス面の影響をもたらし、宗派間の衝突を激化させた。パキスタンでは、政権を握った者はみな、カシミール問題でインドに妥協することはできない。さもなければ、野党の一斉攻撃を引き起こし、ひいては政権の座をおびやかすことになろう。 むろん、印パ関係は一貫して緊張状態にあったわけではなく、緊張が緩和した時期もあったが、総体的に言えば、緊張のほうが緩和より多かった。たとえば、1998年5月に印パ両国が核実験を行ったあと、両国関係はかなり緊張したが、翌1999年2月には、両国の指導者が「ラホール宣言」に調印し、その中で、平和で安全な地域環境を創出することは両国の最高度の国益に合致するものだと指摘した。このため、双方は、安全環境を改善するために共に信頼醸成措置を講じることを重視した。宣言発表のわずか3カ月後に、カシミールのカルギルで武力衝突が勃発し、衝突は2カ月近く続いた。印パ関係は、にわかに状況が変化するのである。 最近出現した印パ緊張は「9.11」事件後、米国がアフガニスタンに対して反テロ戦争を発動した時である。インドの国内世論から見ると、インドのカシミールでの「反テロ」と米国のアフガニスタンでの「反テロ」を結びつけて考える見方がある。米国が他国の領土に行ってテロリストを掃討することが許される以上、インドも同じことをして構わないというわけだ。インドの与党の一つであるインド人民党(BJP)は、印パ国境を越えてテロリストを攻撃するよう政府に求めている。 現在、印パ間の一触即発の緊張状態は、国際社会の関心を呼び起こしている。インド・パキスタンという核能力を持つこの二つの大国は、南アジア地域の平和と安定にとって重大な責任を負っている。印パ間の緊張と衝突は、南アジアないしアジア全体の平和と安定にとって深刻な悪影響をもたらすであろう。国際社会は、印パ両国が両国人民の根本的利益から出発し、当該地域の平和と安全を擁護するという大局から出発して、抑制を保ち、和平交渉を通じて、懸案となっている未解決のすべての問題を解決することを願っているのである。 筆者・鄭瑞祥氏プロフィール: 中国国際問題研究所研究員。かつて駐ボンベイ総領事、中国国際問題研究所副所長(1991−1999年)を歴任、長期にわたって南アジアで活動。主に南アジア戦略と安全保障の研究に従事、国内外で多数の文章とレポートを発表している。 |