ロ米関係の変化が中国に与える影響――チャンスと懸念

清華大学国際問題研究所 中英

 ロ米関係はいったいどんな変化が生じたのか。一言で言えば、この変化は西側回帰というロシアが夢の間でも慕い求める目標が初歩的に実現し、ロシアがアメリカの同盟国、少なくとも友人になり、アメリカがロシアを友達か同盟者と見なすようになり、ロシアがアメリカの敵ではなくなったが、友人でもないという「ポスト冷戦」時代の過度期が終わったことであると思う。

 ロシアにこのような行動をとらせるのは、西側と親しくなる理想主義ではなく、主に現実の利益を考慮したからである。ひっきょう、ロシアはポスト冷戦時代にはすでに中国と密接な利益関係を樹立しているのである。ロシアは親西側政策を実行すると同時に、中国とも重要な二国間条約を結んだ。そのため、ロシアはアメリカに近づいているが、中国と疎遠にしないという言い方は成り立つものである。

 ロシアのある学者は、ロシアが西側世界に仲間入りし、ヨーロッパに融け込むのは中国の利益にも合致すると見ている。なぜなら、ロシアが東側と西側の間を往ったり来たりするよりヨーロッパに融け込んだほうがよく、東側と西側の間を往ったり来たりするロシアは中国により多くの問題をもたらすが、西側世界に融け込むロシアは中国により多くのチャンスをもたらすからである。

 中国社会科学院の学者鄭羽氏は次のように見ている。「ロシアは一極世界の原則を受け入れていない。北大西洋条約機構(NATO)と新たな関係を樹立したため、ロシアは特定の分野でNATOの行為をある程度制約する。新しい核軍縮条約の締結によって、核軍備分野におけるアメリカの一極計画がある程度の制限を受けている。これは国際社会の利益にも合致すれば、中国の利益にも合致する。」

 ロシアが西側に親しむのはこの国が行った歴史的選択である。これに対しこれ以上疑うべきではない。20025月のロ米戦略関係宣言は、ロシアが西側世界に融け込むプロセスのいま一つの一里塚である。これはソ連の解体後、ロシアが2回目に西側に近づく行動である。1回目はエリツィン時代であり、西側に親しむ幼稚な政策は西側に認められなかった(冷戦が終わったばかりのとき、西側に昔のいちばん手強い敵の後継者であるロシアを受け入れさせるのは不可能である)ため、ロシア人は西側に対し愛によって生じた怨みをあふれるほど抱いた。プーチン大統領の主宰の下で、ロシア人は再び西側に親しくなる政策を選んだ。今回、ロシアの10年にわたる「求愛」を経験したアメリカとヨーロッパはついにロシアの選択を認め、受け入れ、奨励し、ロシア人は大胆に西側に近づくことができるようになった。

 当面、ロシアは国の方向を変えているが、その意義と影響は、とりわけ中国にとって、ソ連の解体に劣らない。今回、ロシアはアメリカの支配下にある世界秩序の中で破壊的な役割ではなく、建設的な役割をより多く果たした。ロシアの西側接近によって、21世紀の世界秩序の輪郭はさらにはっきりするようになった。

中国はロ米関係を真剣に研究すべきである

 いま、中国にロシアと西側の関係の変化を深く注意し、それを懸念する人がいる。例えば、ロシアのアメリカ接近はある形式で中国の利益を代価とするのかどうか。近い将来に中国とロシアの関係が損なわれることは限らないが、時間が長くなればどうなるのか、中国が「ポスト・ポスト冷戦」時期のアジアや世界で周縁化されるのかどうか。中国周辺の国際環境が不利な方向に変わっていくのかどうかなどがそれである。

 ロシアが中米関係に対し日増しに中立化の立場をとる可能はあると思う。今後、ロシアがますますアメリカのその他の同盟国のように中国を扱うことが予想できる。ロシアがアメリカのように中国の政治の発展に干渉することはないが、中国でヨーロッパとアメリカが希望するような政治的変化が起こるかどうかに関心をもっている。つまり、ロシアはなおさら西側諸国に似てくることである。しかも、新しい成金が各方面で本当の金持ちをまねて暮らすように、ロシアという新興の西側の国は西側諸国よりももっと西側らしくなるかもしれない。アメリカの意にかなうために、また中国におけるロシアの利益が中米関係の悪化に影響されないように保護するためにも、今後、ロシアは中米問題の上で「幼稚にも」仲介者になりたくなる可能性も排除することができないだろう。

 中国と米日安保体制の矛盾が依然として大きい状況の下で、ロシアはアメリカの軍事戦略勢力が中央アジアに進出するのを許し、それにロシアが事実上NATOの準加盟国になったことを加えて、中国はかつて見ない複雑な国際安全環境に直面するだろう。中国は東部の複雑な安全情勢の下で西部と北部からの新しい圧力を考慮せざるを得なくなる。

 また、表面に現れている問題はこのほか、ロシアの西側への仲間入りが中国の台頭に対処する目的または潜在的、客観的効果があるのかどうかがある。この問題も簡単に答えられるものではない。ロシアはヨーロッパやアジア、とりわけ極東地区における自国の安全を維持する希望をアメリカに託している。アメリカが極東におけるロシア事務により多く巻きこまれると予想できる。アメリカはロシアに代わって東北アジアの安全問題を考慮する。ここでは注意に値するのは、ロシア、アメリカおよびその他の国がますます関心をもつロシアのシベリア地区にいるいわゆる「ますます増えている」中国移民の問題(それを調査したことがないが、それが誇張されていると思う)である。ロシアの「中国の脅威」の観点をもつ人は、ロシアの経済不振が続いており、人口危機がますます深刻になっているため、同地域の多くの都市と農村が荒れ果てるにつれて、シベリアと極東地域がますます中国化し、その結果、ロシアが同地域を喪失するおそれがあり、そのため、この方面ではモスクワはワシントンの援助が必要であると見ている。

 ロシアは近い将来に中国と疎遠にすることはないが、モスクワはロ米関係の大きな変化およびNATOとの新しい関係を非常に役に立つ切り札として中ロ関係の上で使うであろう。中国とロシアの経済関係が密接ではなく、両国関係の経済基礎が中米関係にはるかに及ばない。ロシアはその新しい国際地位を利用して中国がロシアとの経済関係を強化するように促すだろう。目下、ロシアが切望しているのは中国がロシアのWTO加盟を支持することであって、交渉を利用してそのWTO加盟を遅らせることではない。

 もちろん、ロ米関係は引き続き変わっていく。ロシアは巨大な潜在力のある国であり、アメリカは戦略の面でロシアに対し深い疑惑を抱いており、こうした疑惑は何回かのサミット会合で取り除かれるものではない。ロシアが本当に西側世界の一員になるのも短期間に実現できることではない。

 従って、私の初歩的な結論は、ロ米関係の変化が中国にとって「チャンスとチャレンジが並存しており」、チャンスよりチャレンジのほうが大きく、そのため、中国は相応に対外戦略を調整すべきであるというものである。