チベットカモシカを保護

――中国西部に生息する野生希少動物のチベットカモシカはその毛が黄金のように高価であるため、狂気じみた乱獲でむごたらしく殺されている。中国はチベットカモシカを保護するため乱獲者との闘いを繰り広げている。

汪孝宗

 中国西部の青海・チベット高原の北西部に、ココシリ(可可西里)という美しく神秘的な荒野がある。そこは中国の原始の状態を保っている最後の自然の土地であり、最も広い無人地帯である。この一帯の平均海抜は4600メートル以上、気候はきわめて寒いが、野生動物のパラダイスである。データによると、ココシリは現在中国の動物資源のわりに豊かな地区の一つで、野生動物が230余種も生息しており、その中に国家重点保護動物に指定された1級、2級の野生動物が20余種ある。

 チベットカモシカは、「ココシリの誇り」と称され、中国の特有な種で、国家1級保護動物に指定され、「絶滅に瀕する野生動植物種国際貿易条約」の中で貿易を厳禁されている絶滅に瀕している動物に組み入れられている。

 チベットカモシカは非常に寒い気候に適応するため、その毛は軽く、柔らかく、細く、弾力性がよく、保温性がきわめて強く、「カシミヤの王」と称されている。チベットカモシカの毛でつくられた「シャトゥーシ」は豪華なショールである。長さ12メートル、幅11.5メートルのシャトゥーシの重さはわずか百グラム、それを握りしめれば指輪の中を通すことができるため、「指輪ショール」とも呼ばれている。その値段は14万ドルもし、金よりも高い。

 青海省のココシリ国家クラス自然保護区の責任者によると、チベットカモシカは毎年の夏に毛を替えるが、自然に替える毛がまばらに落ち、チベットカモシカが野生の動物であるため、落ちた毛は風に吹かれてあちこちに飛び散る。いまでは自然に落ちた毛の収集を試みる人はまだおらず、チベットカモシカのカシミヤを得る唯一の方法はチベットカモシカを捕獲することである。チベットカモシカの毛に対する市場ニーズが大きく、価格が非常に高いことは、チベットカモシカに壊滅的な災難をもたらしている。

血なまぐさい虐殺

 以前、生存に必要な狩猟の外、牧畜民はチベットカモシカが生息している非常に寒い地帯に入るのはめったになく、狩猟およびチベットカモシカのカシミヤに対するニーズはきわめて少なく、チベットカモシカの群れの生存を危くすることはまったくなかった。

 1984年、ココシリの馬蘭山金鉱が発見されたことによって災害をもたらした。最初のうち、砂金採取者たちはほとんどが砂金などの鉱物資源に目を向けていた。1990年以後、国際市場に刺激されて、チベットカモシカの皮を買収する人は高い値段を出し、チベットカモシカの皮を売る利潤が砂金採集の利潤を上回ったこともあった。そのため、多くの人は砂金採集をやめて狩猟をし始め、もっぱらチベットカモシカを乱獲する犯罪活動をするようになった。

 チベットカモシカは群体意識が強く、群れの中に「負傷者」が現れると、チベットカモシカの群れは走るスピードを落として負傷者がついていけるようにし、猛獣に食われないように負傷者を守っている。ほかでもなくこの習慣は乱獲者に利用された。夜になると、狩猟者は車を運転してチベットカモシカの群れをめがけてやみくもに突き進み、同時に狂気のように銃で掃射する。乱獲の現場で数百頭のチベットカモシカがすべて殺され、地面のいたるところが血だらけで死体がころがっている情景がよく見られる。

 関連部門がここ数年来押収したチベットカモシカの皮、毛の数量と関係各部門がチベットカモシカの生息地で発見したチベットカモシカの遺骨の状況から分析すれば、2000年以前は毎年平均約2万頭のチベットカモシカが乱獲された。

 ほしいままに乱獲する直接的な結果として、チベットカモシカ群れの数が急速に減っている。現在、青海・チベット高原のチベットカモシカの頭数は10年前の10万余頭から5万余頭までに急速に減り、2000頭以上のチベットカモシカの群れはもはや見られなくなった。以前チベットカモシカが集中して生息したところでは、今ではチベットカモシカをまばらに見ることしかできない。この古い種はすでに絶滅の瀬戸際に瀕している。

乱獲者を取り締り

 1981年、中国は「絶滅に瀕する野生動植物種国際貿易条約」に加入し、チベットカモシカが付録Iの種であることにかんがみて、中国政府はチベットカモシカおよびその製品の輸出をいっさい厳禁した。1988年に「中華人民共和国野生動物保護法」が公布された後、国務院の認可を経て公布された「国家重点保護野生動物リスト」では、チベットカモシカは国家1級保護野生動物に指定され、不法捕獲を厳禁されている。中国政府はチベットカモシカの重要な生息地前後して青海省ココシリ国家クラス自然保護区、新疆アルジン(阿爾金)山国家クラス自然保護区、チベット・チャンタン(羌塘)自然保護区など多くの自然保護区を設置し、専従の管理機構と法律執行陣を設け、定期的に山をパトロールし、チベットカモシカの群れの活動に対しモニタリングを行っている。

 1992年、青海省治多県はココシリの資源を保護、開発するため「西部活動委員会」を設立し、乱獲取り締まりチームを発足させた。

 1998年から、青海省政府は3年連続してココシリ保護区に累計70万元を投下し、保護区森林公安支局を増設し、チベットカモシカの保護を強化した。199812月、国家林業局は「中国チベットカモシカ保護白書」を公表し、国際社会が一致協力してチベットカモシカを保護するよう呼びかけた。

 19994月、国家林業局は新疆、青海、チベットの三省・自治区の林業、公安、環境保護部門を組織し、日ましにはこびる乱獲活動を共同で取り締まった。

 ココシリ自然保護区管理局のツァイガトンチュ局長は、いままで、チベットカモシカ保護は段階的な成果をあげ、保護区内の乱獲の犯罪現象が著しく減り、犯罪率が往年同期比70%以上も下がったと語った。

 しかし、ここ数年来、不法捕獲の取締りに力を入れるにつれて、乱獲者の密輸ルート、手段、方法はいっそう隠蔽、複雑になり、さまざまな機会を利用して代価を惜しまずにチベットカモシカを捕獲している。

 青海省野生動植物と自然保護区管理局の鄭傑局長によると、チベットカモシカ資源の破壊をもたらした根本的な原因は、一部の国と地域でチベットカモシカのカシミヤ製品と「シャトゥーシ」貿易加工活動が行われていることにある。このような不法加工・貿易活動が行われ、巨額の利潤をもたらしている限り、乱獲活動を根絶するのは難しい。

 ココシリ地域が広大な荒野であるため、年中通行が困難であり、空気が希薄で、気候が極めて悪く、気温が非常に低く、現有の警察の力、装備、資金では間断なく全方位にパートロールすることができない。これを見て、ココシリ自然保護区管理局の管理保護の難度が大きく、任務が重いことは容易に見てとることができる。

人々の関心に集めるチベットカモシカ

 今年の初め、ココシリ自然保護区管理局は全国からチベットカモシカを保護するボランティアを募集することにした。ツァイガトンチュ局長によると、ボランティア活動は5月からスタートし、毎月一回行われ、全部で7回行われる。

 3月、ココシリ国家クラス自然保護区管理局は全国でボランティアを募集することを発表すると、社会の幅広い関心と注目を引き起こした。

 ココシリ自然保護区管理局によると、2カ月のうちに電話で問い合わせ、申し込む人は5000余人に達し、台湾、澳門を除いて、全国各地の環境保護事業に熱心な人が申し込んでいる。その中には、労働者、農民、幹部、教師、定年退職者、宗教界人士、記者、作家、船員、私営企業家など各界の人士が含まれている。

 上海で行われた「ココシリボランティア行動、ボランティアの集い」には、200余人が参加した。これら千人にのぼる申込者の中から選ばれたボランティアはほとんどが高い学歴を持ち、多くの人は高原で生活した経験があり、科学考察、創作、撮影などの専門的技能を身につけている。

 フランスのパリ大学を卒業した生物科学修士の喩燕倩さんはこの集いに参加するため、電話と電子メールで申し込んだ。彼女は「私は私のペンを使って、中国語だけでなく英語やフランス語で体験したことを書きとめ、われわれ中国人が野生動物の保護に尽くした努力を世界に伝える」と語った。

 厳格な選抜を経て、全国各地のボランティアは二回に分けて保護区の四つの保護ステーションに赴いてボランティア環境保護を行っている。