漢俳『旅心を吟じて』

 なが年、中国文化部の副部長として、日本を含めての世界各国との文化交流の分野で活躍してきた劉徳有氏は、引退後も中国対外文化交流協会常務副会長として世界各国との民間文化交流の分野で活躍をつづけている。また、中華日本学会会長として、中国における日本学分野の開拓、建設に力を注ぎ、日本の各分野を研究対象としている中国の学者たちと日本の学者との交流を支えつづけている。聞くところによると、劉徳有氏はすでに齢古希の域に達したということだが、文化を含めた日本についての研究に打ち込むエネルギーにはいささかの衰えも感じられない。

 先般、劉徳有氏から文化芸術出版社出版の『漢俳百首――旅心を吟じて』をいただいた。

 劉徳有氏は序文の中で、謙遜にも自分は詩人ではないし、そういう天分、資質もないが、21世紀90年代以後、国内の知名人たちが書いた漢俳を鑑賞するなかで、あえて後塵を拝して試みに自分も書いてみることになり、先輩の李芒氏(故人)や詩人の林岫さんの励ましのもとで、一歩、一歩、一首、一首と試みを続け、途中で何度か成果を公にしながら、とうとう今回の漢俳集を上梓することになった。

 劉徳有氏は、中国の文化史におけるこの新しい産物、新しいジャンルをより多くの人たちに知ってもらうため、序文の中で「漢俳とはなにか」という説明もおこない、これはジャンルとしては中国の「小令」に近いもので、20世紀80年代初期における中日文化交流の中で生み出され、育くまれたもので、中国の詩人たちと日本の俳人との友好交流の喜ばしい成果である、と述べている。

 この漢俳集の一ページから112ページまでは、日本各地やアジア各国での旅情をうたったもので、113ページからはヨーロッパ、アフリカを訪問する中で感じたことをうたっている。さらには、自分と俳句との出会い、日本の俳人たち、とくに青森県の「たかんな」の方々との交流についても触れている。

 なお、この漢俳集の挿し絵は、劉氏のご夫人である顧娟敏さんが担当している。

 劉徳有氏は、新中国成立後の第一世代の日本語翻訳畑のパイオニア的存在であり、若い頃から中国の国家指導者の通訳として活躍し、中国外文出版事業局として知られる機構で、翻訳者、編集スタッフ、そして副局長となり、その後に文化部副部長になったわけだが、役職の変化も重要ではあるが、そのほかにあまり語られてはいないが、中国の日本語翻訳界における劉氏の開拓者としての存在は、われわれ同じ分野で模索をつづけるものたちのすべてが認めるところである。劉氏は日本の文学作品を翻訳したこともある。もちろん、文化部の副部長になってからは多忙で、体系的な研究に没頭することは不可能に近かったにちがいない。引退後は、かなり「自分の時間」が持てるようになった劉氏にとっては、残りの十数年間に、それまで数十年間にわたる日本語畑での開墾の成果を上梓できるかどうか。これはわれわれにとっても、大きなたのしみである。この漢俳集はそのさきがけであり、次なる作品の呼び水であることを願っている。

(林国本)