アメリカの安全戦略に影響を及ぼす軍事技術革命

  ――今後のかなり長い期間に、新技術がアメリカの既存の安全戦略を補充し、充実させ、それに融合するが、新技術のもたらす変化は既存の安全戦略を根本から変えることができない。

外交学院国際関係研究所助教授 王 帆

 20世紀80年代に始まった軍事技術革命(MTR)は、数十年の発展を経て、アメリカの軍事と安全戦略に大きな影響を及ぼした。 湾岸戦争では、米軍の戦車が熱結像装置、レーザー距離測量機、安定大砲、劣化ウラン弾を総合的に運用して、23キロ離れたところからイラクの目標に打撃を与えることができ、命中率は85%に達し、アメリカとイラク双方の破壊損傷率は150であった。

 1999年のコソボ戦争はアメリカがハイテク防御区域外の作戦部隊を運用して戦う指導思想を体現し、この戦争で、アメリカは高空で空中作戦任務を遂行し、戦争で死傷ゼロの目標を実現するように努めた。

 アフガニスタンにおける反テロ戦争でも、新技術の優位が十分に体現されている。アメリカは、アフガニスタン戦争が速戦速決できたのは主に隠蔽の特殊部隊と軽歩兵の迅速な攻撃能力、精確な空中打撃力を使用したからだと考えている。

 アメリカにとって、軍事技術イノベーションの目的の1つは、アメリカに同時に起こる大規模な衝突の中で迅速に勝利を収めさせることにあり、ブッシュ米大統領の先手を打つ戦略は軍事技術に新しい要求を出した。つまり広範な戦略的空間でアメリカ軍をグローバルな打撃力になり、いかなる時、いかなるところでもアメリカにとって最小の代価で一方的行動をとれるようにすることである。この戦略はネットワーク戦を核心的能力として、ネットワーク、レーザー、電子戦の能力を強化し、無人偵察機と高効率燃料をいちだんと開発し、同時に特殊部隊の隠蔽能力、情報収集能力を強調している。

 アメリカの最近の安全戦略から言えば、新技術の開発と利用が大いに増え、アフガニスタンでの反テロ戦争ではグローバルなモニターシステムが十分に利用され、情報権の保護と使用がいずれも戦略の重点となっている。もし対イラク戦争が始まれば、湾岸戦争のように、新技術の優位を十分に利用して地上の死傷を減らすものと予想される。アメリカ政府筋の漏らしたところによると、イラクの防空施設、通信施設、大規模殺傷性兵器を携帯できる航空機とミサイルシステムは米軍が重点的に破壊する目標となる。アメリカはまた実戦を利用して新しい技術と設備、兵器および総合的協調能力に対し新たな実験を行い、技術開発のいっそうの発展を促す。米空軍の漏らしたところによると、アメリカは初めて指向性エネルギー兵器を含む秘密兵器を用い、イラク軍の軍用コンピューター、通信システムを破壊する。無人偵察機とその他の新型の軍事装備に頼れば、米軍は完全にイラク軍のミサイルを発見し、破壊することができる。

 冷戦終結後、アメリカの軍事的優位を維持し、重要な作戦目標を実現し、未来の軍事競争を主導するために根本的な改革、特に軍事技術革命を行うことを主張する人が一部分いる。資金をいちだんと投下し、優位を占め、機先を制し、効率を高めて、アメリカに10ないし20年内に情報優位、戦場全知、全方位防護、制御機動権、長距離精確打撃などの能力を持たせる。

 軍事革命の提唱者は往々にしてより多くの財政の資金を投入してイノベーションを行い、軍事作戦、訓練、戦争準備への財政投入を減らすことを主張している。ある人は、資金を浮かして軍事革命変革の戦略を実施すれば、アメリカのグローバルな参与を減らし、アメリカ軍の脅威態勢を弱めることができると主張している。その具体的な提案の一つはアメリカ軍の最前線の存在と和平維持行動を減らし、それによって資金を浮かして軍事革命を行うことである。これらの提案が採用されるならば、アメリカの安全政策に大きな影響を及ぼすのは明らかである。

 軍事技術革命が伝統的作戦方式を変える重要な目標は最前線の軍事的存在を減らすか取り消すことである。この目標は短期間に実現するのは難しい。空気動力学とエンジン技術の局限性にかんがみ、大多数の戦闘機の飛行距離はやはりあまり長くない。軽装化した部隊も依然として燃料油とその他の後方勤務保障の自動車、装甲車、艦艇が必要である。多くの類型の兵器にとって、長距離センサーの作用はやはり限られている。重要な戦略要地を奪取するかあるいはいくつかの政権に圧力を加えることも、長距離攻撃能力に頼るだけでは実現できない。同盟の協力は依然としてアメリカにとっては不可欠な安全戦略要素であるが、技術発展のアンバランスのために協調、交流が難しく、軍事革命は同盟協力の有効性を大きくするのはではなく、小さくする可能性があり、これはアメリカのグローバル戦略実施に大きな影響をもたらす。

 軍事技術革命は逆により大きな危機と技術面の新しい挑戦を引き起こす可能性がある。監視装置、情報処理、精密誘導とその他の分野の技術の急速な発展も新しい危険をもたらす。つまりアメリカに敵意を抱いている国は至るところで得られるできあいの技術を利用して兵器システムを発展させ、軍隊建設を進めることができ、それによって自国の能力を高め、それによってアメリカの基本的安全に対して挑戦を形成することができる。グローバル化時代の拡散の不可避性は、人々により容易に必要な技術と知識を獲得してアメリカとその同盟国に直接挑戦できる軍事手段をつくらせる。これには先進的な通常兵器と化学、生物、放射線、核、強化高性能爆薬(CBRNE)の兵器とその輸送手段の拡散を含んでいる。

 軍事革命はまた争って宇宙とコンピューター空間に入る可能性を招き、それによって判断を誤らせ、予想外の可能性を増加させる可能性がある。アメリカ政府と社会運営メカニズムの安全を保護するのは重要な環であり、例えば石油と天然ガスの運送と貯蔵、情報と通信、銀行と金融、電力、運輸、給水、緊急措置、政府サービスなどの施設がそれである。

 軍事技術の影響に対する問題の上で、軍部の政策決定者と相談者が完全に一致しているわけではなく、軍事技術革命に対する作用の上ではアメリカの政策決定者の位置付けがあいまいであることを見てとるべきである。実際には戦争の勝敗は完全に技術あるいは兵器によって決定されるのではなく、人の要素、環境の要素、国際世論、突発事件はいずれも戦争に大きな影響をもたらす可能性があり、単に1つの要素を強調すれば、兵器万能論に陥り、逆にアメリカに予想もできない打撃を被らせる。

 今後のかなり長い期間に、新技術はアメリカ既存の安全戦略を補充し、充実させ、それに融合し、変化の中に維持があり、維持する中で調整を行うが、新技術のもたらす変化は既存の安全戦略を変えることができない。