略奪された中国の文化財は返還を

 欧米19の機関は古代の文化財をその国に返還することに反対する声明を出しだが、これは中国で大きな反響を呼んでいる。

                   任暁風

 2002年12月19日、大英博物館など欧米18の博物館と1つの研究所は、「世界の博物館の重要性と価値に関する声明」を共同で発表し、芸術品とりわけ古代文化財をその国に返還することに反対する姿勢を示した。この声明は中国で大きな反響を呼んだ。

 これらの博物館と研究所に中国から流出した文化財がどれほどあるかを示すデータは今のところないものの、その数は少なくないと専門家は見ている。

 中華社会文化発展基金会海外流出文化財救出専門基金の馬保平副主任は「清朝(1616〜1911)末期以降、数え知れぬ文化財が海外へ流出したことに胸の痛みを覚える」と語っている。

 百年にわたる文化財の流出の屈辱の歴史は、近代中国の国力が衰退し、列強の侮辱に甘んじた事実を示すものでも。中国文物学会の統計によると、流出した文化財は驚くほど多く百万点にものぼり、逸品は数十万点を数え、47カ国に散在している。一部は戦争下で強奪されたものである。絵画について言えば、ニューヨーク市立博物館が最も多く、大英博物館は最高傑作を収蔵している。磁器について言えば、アジアの芸術作品の収蔵で有名なフランスのギメ美術館の所蔵品が最高である。アメリカでは、大型の古代青銅器は1千点にものぼり、逸品は少なくとも百点を数える。ヨーロッパで中国の文化財を最も多く収蔵している国が英国であり、中でも大英博物館は群を抜く。大量の優れた文化財では、代表的なものとして漢代の玉石彫刻のギョ(馬偏に又)龍、晉代の顧ガイ之の「女史シン(竹冠に減の右側)図」、敦煌の絹絵と文書などが挙げられる。中国の文化財収蔵で英国に次ぐのがヨーロッパではフランスである。ルーブル美術館の分館であるギメ博物館では、所蔵品の半数以上は中国のもので3万余点にものぼっている。

 現在、文化財返還問題は社会各界の関心を集めつつある。中華社会文化発展基金会は保利グループの資金援助を受けて、2002年10月18日に海外流出文化財救出専門基金を設立し、さらに多くの民間の力を結集して流出した文化財の返還に取り組んでいくことにしている。

 今年1月21日、中華社会文化発展基金会は国内の著名な文化財保護専門家と集めて「海外流出文化財救出フォーラム」を開き、欧米19機関の声明をめぐって討論を行った。参加した専門家はいずれも声明に反対する姿勢を明確に示すとともに、「国際条約の精神に背くものだ」と主張した。

 中華社会文化発展基金会の趙宏主任補佐によると、中国政府は1997年3月7日にユネスコ私法統一国際協会の『盗難または不法輸出された文化財に関する条約』(ユニドロア条約)に加盟した。この条約により、締約国の文化財輸出法に違反してその国の領土から輸出された文化財は返還するという原則が確立された。条約で言う文化財とは、宗教または民俗的な理由から、考古学、有史以前の歴史、歴史、文学、芸術または科学面で重要性を備え、当該条約に列挙された分類に属する物品のことである。条約の規定に基づいて、盗まれた文化財は返還しなければならず、締約国は別の締約国の裁判所またはその他の主管機関に盗まれた文化財の返還を命令するよう請求することができる。今後、不法な手段やルートを通じて国外へ流出した文化財について、中国政府は75年以内に法に基づき返還か帰還の請求を提出する権限を有することになる。中国政府は条約加盟の際、「この条約への加盟は、条約発効前に中国の文化財を盗み、また不法輸出したすべての行為は合法的だと認めることを決して意味しているのではなく、発効前に盗まれ、不法輸出された文化財については、中国は依然として取り戻す権利を保留する」との声明を出した。国家文化財委員会委員の鄭孝ショー氏は「文化は所有権のあるものである。中国の伝統文化が世界的な遺産であることは疑う余地のないものだが、中国の文化財の所有権はほかでもなく、中国にある。例えば、『永楽大典』、敦煌の壁画、麗江地区の東巴文化発展の記録である『東巴経』などがそうである。中華文化の精髄を具現するこれらの文化財はいずれも略奪され、海外の博物館や機関に収蔵されているが、その所有権が中国に属するのは疑いない。

 海外へ流出した文化財の返還問題については、参会した専門家は「一概に論じるわけにはいかない」と指摘している。中国文化財研究所の王世襄氏は「歴史的に見て、数多くの国宝は合法的な貿易または交換によって海外へ流出したものであり、今後も国外に保存されることにわれわれには異議はないばかりでなく、それらが中華文明の成果を示すことで、そうした文化財は国際間の文化交流の証しになると考えている。しかし、略奪された文化財は無条件で返還するよう要求すべきである。雲岡石窟と龍門石窟の仏教彫刻、敦煌の壁画、円明園の国宝などはいずれもこの範疇に属するものであり、国宝が略奪された証拠を力を尽くして探し集めて、無条件返還の交渉を行うべきである。龍門石窟と雲岡石窟の仏像は英国やフランスなどに盗み取られる以前に、日本人が数多くの写真に収めている。その写真と欧米の博物館に収蔵されている実物を照合すれば、龍門石窟のものなのか、それとも雲岡石窟のものなのかを証明することができる」と強調している。

 しかし、現況から見れば、流出した文化財の回収は相当難しい。北京大学文博学院の宿白教授は、「海外に流出した文化財は一体どれほどあるのか、どの国のどの機構に収蔵されているのかははっきりしない。文化財が海外に流出してすでに1世紀を超えているが、個人が実施した小規模な調査を除いては、国として系統的な調査を行ったことはない」と指摘している。

 趙宏主任補佐は、海外に流出した文化財の救出は外交、法律、政策、資金、市場、多くの専門分野に及ぶ数々の問題があり、系統的に研究しなければならない大きな事項だ、と見ている。

 1月13日、中華社会文化発展基金会は『北京青年報』に公式声明を掲載し、盗難または不法輸出された文化財の返還を要求する中国政府の立場を断固として支持することを表明した。内容は以下のようなものである。

 「海外に流出した中国の文化財の救出を旨とする民間の公益組織として、われわれは中国政府が『文化財不法輸出入・所有権移転禁止条約』(ユネスコ条約)など文化財保護に関する国際条約に加盟したことを支持し、国際条約の提起した原則にも非常に賛同している。われわれは、文化財は1つの国の悠久の歴史を示す証しであり、1つの民族の古文明を形象する担体であり、歴史と現実を結ぶ血脈でもあると一貫して考えている。文化財の流出はとりもなおさず民族の血脈の流出である。国際条約に基づき法律や外交ルートを通じて流出した文化財を取り戻す正義の要求から言っても、中国の古代文明を重視し、人類の文化遺産を保護するという素朴な願望から言っても、海外に流出した中国の文化財は祖国に再び帰るべきである」

 声明は最後に、「過去の戦争状態の下にあっても、今日の平和的な環境の中にあっても、非道徳的、不正義な、ないしは不法ルートを通じて流出した中国の文化財はいかなるものであれ、中国に返還されるのが当然である」と重ねて表明している。