チベットの生態建設と環境保全

中華人民共和国国務院報道弁公室

2003・北京

 

前書き

 中国のチベット自治区は青海・チベット高原の主体部分に位置し、地勢が高く険しく、地理が特殊で、野生動植物資源、水資源、鉱物資源が豊富であり、昔から「世界の屋根」、「地球の第三極」と称されている。ここは南アジア、東南アジア地域の「河川の源」と「生態の源」であるばかりではなく、中国ないし東半球の気候の「スターター」と「調節区」でもある。

 中国政府はチベットの生態建設と環境保全を非常に重視し、チベットの生態建設と環境保全を強化し、チベットの経済、社会の持続可能な発展を促進し、各民族人民の生活の質を高めるため、多大な努力を傾けてきた。半世紀余り以来、チベットの生態建設と環境保全はチベットの現代化建設の重要な内容として、経済の発展、社会の進歩、人民生活の向上と同時に推し進められ、重要な成果がおさめられた。チベットの生態建設と環境保全事業の発展過程を回顧し、チベットの生態建設と環境保全の現状を示し、チベットの持続可能な発展の見通しを顕示することは、チベットの生態環境問題に対する人々の誤解を取り除き、チベットに対する理解を深めるのに役立つ。

一、チベットの生態建設と環境保全事業の発展

 チベット自治区は面積が122万平方キロ、平均海抜が4000メートル以上、自然生態と地理的環境が独特である。チベットの気候は南東から北西へと温暖湿潤からちくじ寒冷乾燥に変わり、自然生態は森林、潅木、湿地、草原から砂漠へと帯状に変わっていき、複雑、多様な地形、地貌および特殊な生態系統の類型は、生物の多様性のために天然の楽園をつくっている。

 1950年代以前の旧チベットは、長期にわたって封建奴隷制の統治下にあり、生産力の発展レベルがきわめて低く、基本的に自然条件に受動的に適応し、天然資源を一方的に取り出す状態にあり、チベットの生態環境の客観的法則に対する認識などは全然問題にならず、生態建設と環境保全の問題も話にならなかった。19世紀後半から、一部の外国探検者と科学者は青海・チベット高原でいろいろな考察と調査を行い、中国の科学者も1930年代から、青海・チベット高原で考察と調査を行ったが、全体から言って、彼らの青海・チベット高原の特殊な自然生態環境に対する認識はまだ全面的、系統的なものではなかった。

 チベットの生態建設と環境保全はチベットの平和解放後から始まったもので、チベットの現代化建設の発展につれて発展している。

 ――平和解放によってチベットの生態環境を科学的に認識し、進んで保護し、積極的に建設する過程が始まった。1951年にチベットが平和解放されたばかりの時、青海・チベット高原の秘密を明るみにし、チベットの社会進歩と発展を促進するため、中央人民政府は「政務院チベット工作隊」を組織して(1958年にこれを踏まえて「中国科学院チベット総合考察隊」を成立させた)、チベットの土地、森林、草原、水利、鉱物資源に対し考察と評価を行い、科学的に開発、利用する意見を提出して、チベットの生態環境を科学的に認識、利用、保護する作業が始まった。

 これと同時に、チベット高原の生存条件を改善する生態建設と環境保全がちくじ繰り広げられ、国は林業技術者を派遣してヤルツァンポ江流域の一部地区を考察させ、またラサ市西郊外の七・一農場で育苗造林テストを行わせ、チベットで大規模な植樹造林を繰り広げ、生態を改善するための基礎を築いた。1959年に民主改革が行われた後、チベットでは地元の木の種類を主として、大衆が無償で行う大規模な植樹活動が繰り広げられた。植樹造林の展開によって、チベット人民は昔の受動的に自然に適応する状態から進んで自然を改造する状態へと質的飛躍を実現した。

 1965年9月、チベット自治区人民政府が正式に成立した後、生態建設と環境保全作業は人民民主政権の各方面の活動の展開に伴って議事日程に組み入れられ、組織面から保証された。1975年、チベット自治区環境保全指導グループと弁公室が設立され、1983年、自治区都市・農村建設と環境保全庁が正式に設立された。その後、組織機構と管理体制がたえず整備され、チベットの生態建設と環境保全作業は逐次良性発展の軌道に乗るようになった。

 青海・チベット高原に対する科学的考察が全面的に展開され、チベットの自然生態環境の対する認識がいっそう系統的になり、深くなるにつれて、生態建設は実質的な進展をとげ始めた。中国科学院は「青海・チベット高原の1973〜1980年の総合的科学的考察計画」を制定した。1972年、中国科学院は蘭州で初めて「チョモランマ峰地区科学的考察学術シンポジウム」を開き、その後、青海・チベット高原の自然生態環境に関する各種の総合的、専門的な学術会議が相次いで開かれた。多くの学術成果が相次いでおさめられ、『青海・チベット高原総合科学考察叢書』だけでも31部42冊、約1700万華字ある。これらの研究成果は、チベットが経済建設と発展の中で天然資源をよりよく利用し、人類の生存環境をたえず改善することに科学的根拠を提供している。1977年、国家農林部は全チベット自治区を対象として最初の全面的森林資源調査を行った。1978年から、造林緑化の必要に適応して、各地では苗圃が50ヵ所近くつくられ、チベットでの生長に適する造林緑化樹種を数十種類導入し、馴化させ、育成した。

 ――改革・開放でチベットの生態建設と環境保全事業の発展は法制化の道を歩み始めた。改革・開放後、生態建設と環境保全はチベットの現代化の発展につれて日増しに重視され、チベットの生態建設と環境保全事業は法制化の軌道の上でたえず発展している。1982年から1994年までの13年間に、チベット自治区人民代表大会常務委員会、チベット自治区人民政府および政府各部門が公布、実施した生態建設と環境保全類の地方的法規、政府の規範的文書、部門の規則などはあわせて30余件に達し、わりに系統的な地方的環境保全法規体系が形成された。内容から見ると、「チベット自治区環境保全条例」など生態と環境保全に関わる総合的法規もあれば、土地管理、鉱物資源管理、森林保護、草原保護と管理、水土保持、野生動物保護、自然保護区管理、汚染防除など生態建設と環境保全の各分野に関わる特定法規もあり、これらの法則は生態と環境保全の各分野を基本的にカバーし、依るべき法律をもつようになった。

 国は直接出資して生態環境の改善を重点とする「一江二河」(ヤルツァンポ江、ラサ河、ニャンチュ河)中部流域の農業総合開発プロジェクトを実施し、著しい生態効果をあげた。政府は、荒れた山、傾斜地、州で木と草を植える場合、「開発した人が経営し、利益を受け、長期変わらず、相続を認める」という政策を特別に制定し、人民大衆の植樹造林と草の栽培を奨励し、人民大衆の生態改善面のしかるべき権益を保証した。チベットでは相次いで土地資源、野生動植物資源、植物資源と昆虫資源、湿地資源など生態環境の現状に対する調査が行われた。生態環境の研究は人類活動の生態環境に対する影響に対するモニタリングと追跡に関心を持ち始め、「一江二河」中部流域の農業総合開発生態環境リモートセンシング動態モニタリング、チベットの食糧の有機塩素残留毒素による汚染の全面的検査、工業汚染源の調査などを展開し、汚染防除と関係ある政策・措置を提出した。

 生態改善と環境保全に関する宣伝教育活動が幅広く展開され、人々の心に深く入っている。放送、テレビ、新聞、インターネットなどのメディアはいずれも造林緑化、野生動植物保護、環境保全を重要なコラムとして、その宣伝、報道にいっそう力を入れている。世界湿地デー、植樹祭り、地球デー、世界環境デー、世界砂漠化干ばつ防除デーなど重要な記念日はチベット各界の関心を集めている。生態建設と環境保全の知識は教室で教えられ、「グリーン学校」を創設する活動は全面的に繰り広げられている。

 ――中央政府の関心、全国人民の支持の下で、チベットの生態建設と環境保全事業は新たな段階に入った。1994年、中央政府は第3回チベット工作座談会を開き、中央がチベットに関心を寄せ、全国がチベットを支援するという重要な政策決定を行い、チベットの生態建設と環境保全事業の急速な発展を力強く推し進めた。

 1990年代以来、国家環境保全総局は全国の環境保全部門を組織してチベットの環境保全能力建設を支援し、自治区、ラサ市、シガズェ市、チャムド地区の環境モニタステーション建設を援助し、多数の環境保全技術者、管理者の育成を援助し、生態保護と汚染防除計画の作成を援助した。1998年と2000年に、国務院は「全国生態環境建設計画」と「全国生態環境保護綱要」を制定し、チベットの生態建設と環境保全作業を高度に重視し、青海・チベット高原の氷結融解区を全国八大生態建設区の一つとして特別計画を制定し、明確な建設任務と建設原則を打ち出した。チベット自治区人民政府はこれに基づき、2000年に「チベット自治区生態環境建設計画」を制定し、チベットの生態環境建設を全面的に企画、配置した。国が西部大開発戦略を実施した後、中央政府は2001年に第4回チベット工作座談会を開き、チベットの生態建設への投資をいちだんと増加した。チベットは持続可能な発展を実現させる角度から出発し、観光業、グリーン農業などの発展を地方の経済成長を推し進める支柱産業とすることを明確にした。

 国はチベットの生態建設と環境保全への投入を増加し、生態環境分野の法執行に対する監督を強化している。統計が示しているように、1996年以来、中央政府がチベットの生態建設面に投入した資金だけでも3億6800万元に達した。これと同時に、天然林資源保護、耕地の林地と草地への還元、ラサ市及びその周辺地区の造林緑化、野生動植物保護と自然保護区建設など多くの生態プロジェクトが相次いで実施され、チベットの生態環境を効果的に改善した。

 半世紀余り以来、チベットの生態建設と環境保全事業は無から有へと絶えず発展し、自発から自覚へ、受動から主動へ、盲目的から科学的への質的飛躍を実現した。国の関係部門が2000年に公布した生態環境状況公報によれば、チベットの環境の質は良好な状態を保ち、大多数の地区は基本的には原生の状態にあり、世界の天然環境の最もよい地域の一つである。

二、生態建設と生物多様性の保護

 半世紀余り以来、チベット自治区は生態建設と生物多様性の保護のために積極的な努力を払い、著しい成果をあげた。

 ――天然の草地が合理的に利用され、草原の生態が積極的かつ効果的に保護されている。チベットは中国の五大牧畜区の一つであり、天然の草地が約8207万ヘクタールあり、全国の天然草地面積の21%、チベットの土地総面積の68.11%を占めている。全国で統一的に行われた最初の草地資源調査によると、チベットの草地の種類は全国の各省、自治区の中で最も多く、全国の18種類の草地のうち、チベットには17種類ある。草原生態の保護は、青海・チベット高原の生態チェーンの完全性と秩序を保つ重要な一環である。

 チベットの草地は面積が大きいとはいえ、家畜の負担能力がわりに低い。旧チベットでは、人口の増加が停滞状態にあり、自然災害が頻発し、雪害などの自然災害に見舞われるたびに、人畜が大量に死亡し、そのため草地の負担超過状況はそれほどひどくはなかった。チベットの平和解放後、チベット人の平均寿命が著しく伸び、人口が絶えず増加したため、家畜と草地の矛盾が現われ始め、草原の生態均衡を保つことは日増しに際立つ問題となっている。人と家畜、草地と家畜の矛盾を解決するため、チベットは一連の措置をとって、天然草地の合理的利用と生態保護を強化している。一は重点的に天然草地を囲み、水利建設を進め、草地の草生産量と単位面積当たりの家畜負担能力を全面的に高めることであり、二は草場責任制を実施し、草地の状況に基づいて家畜数を決定する原則にのっとって、輪牧期、輪牧地、禁牧区を画定し、家畜の飼育を拡大し、草場での過度の放牧を厳禁し、天然の草地を効果的に保護することであり、三は人工草地をつくり、家畜増加が天然草地に与える圧力を軽減することであり、四は科学的方法、人工と生物などの技術を運用して、鼠害、虫害、毒草の防除に力を入れ、草地の自然生態均衡を保つことであり、五はチベット放牧区の草原建設を強化し、遊牧民の生産方式を改め、牧畜区の経済発展を速め、牧畜民の生活レベルを高めるため、2001年からチベットで牧畜区の草地建設、遊牧民定住プロジェクト、天然草原の回復・建設プロジェクトを実施し始めることである。これらの措置は農民と牧畜民の収入と生活レベルの着実な向上も保証すれば、草原生態の良性発展も確保している。

 ――天然林資源を保護し、植樹造林を行い、生態環境を改善する。チベットの森林面積は717万ヘクタールで、木材蓄積量は20億9100万立方メートルに達し、中国最大の原始林を保存している。チベットの生態環境を保護するため、政府は森林の伐採規模を厳しく制限し、毎年の商品的伐採量を15万立方メートル以内に抑えている。同時に伐採基地を適時に更新し、森林の植生を回復させている。長江下流の生態に影響するギャンダ、ゴンジョ、マルカムの三県で長江上流天然林資源保護プロジェクトを実施し、総面積は3万1000平方キロに達している。風沙による危害と水土流出のひどい金沙江、、。、滄江、怒江の上流およびヤルツァンポ江流域の28の県で耕地を林地に還元するプロジェクトを実施し、農地から還元した林地で5万2000ヘクタール、造林に適する荒れ山と荒れ地で5万3000ヘクタールを造林する計画で、2002年は農地から還元した林地と造林に適する荒れ山と荒れ地でそれぞれ6700ヘクタールを造林した。政府はまた代替エネルギーの開発に力を入れ、薪炭林を植え、太陽エネルギーを普及させて、潅木の植生を保護している。

 植樹造林はチベットの広範な人々の自覚的行動となっている。チベット自治区は「チベット自治区造林緑化計画」、「造林緑化の加速に関する意見」を相次いで制定し、全自治区の人民は共に努力し、周辺の生活環境の改善からやり始め、庭園、通り、都市環境の緑化から人々が集まって住む河谷地帯および各主要道路沿線のグリーン回廊の建設に至るまで、植樹造林は著しい成果をあげた。統計によれば、50余年来、チベットの人工造林面積は7万ヘクタール余りで、村の傍ら、家の傍ら、道の傍ら、水の傍らで植えた樹木と経済林木はそれぞれ9000余万株と150余万株に達している。

 プロジェクトによる造林と生態保護プロジェクトがたえず実施されている。ラサおよびその周辺地区の造林緑化プロジェクト、ヤルツァンポ江保護林体系建設プロジェクト、マルカム長江防護林体系建設テストモデルプロジェクト、シガズェ林業砂漠化防除モデルプロジェクトなど重点プロジェクトの実施は、かなりな程度において所在区域の自然生態環境を改善した。1996年から、国はチベットで長江上中流防護林体系建設プロジェクトを実施しはじめ、2000年現在、総額370余万元を投じて、チベットが地元の条件に合わせて人工造林、伐採を停止しての造林を行うのを積極的に支持し、造林面積は累計1万3000余ヘクタールに達し、現地の人々の生産と生活条件を改善する上で良好な役割を果たした。「一江二河」農業開発重点プロジェクトのヤルツァンポ江防護林体系建設プロジェクトが実施された後、上流のシガズェからズェダムに至る数百キロもの人工林帯が形成され、チベットの新しくて美しい景観となり、ヤルツァンポ江の水土保持に対し積極的な役割を果たした。

 チベットの天然林資源の効果的保護および植樹造林を通じて、チベットの森林被覆率は1950年代の1%足らずから今の5.93%へとたえず上昇し、生態環境の改善に対し積極的な役割を果たした。関係部門の観測では、人工植生の増加によってチベットの砂塵が著しく少なくなり、30年前と比べて、ラサは32日、シガズェは34日、ズェダムは32日それぞれ減少した。

 水土流出の総合的整備は著しい成果をあげた。チベット高原は寒冷湿地と草原地帯に属し、水土保持能力が低く、水土流出問題がかなり深刻である。ここ50年来、植樹造林と水利施設建設などの総合的措置をとって、チベットの水土流出を効果的に解決した。特に近年来、国とチベット自治区は水土流出防除への資金投入を増加し、好ましい効果をあげた。2001年末現在、国がチベットに3680余万元を投じて、水土保持林を5万3000ヘクタール植え、草を6万7000ヘクタール植え、水土流出土地を1166平方キロ整備し、またラサ市チュシュ県ラドゥイ溝小流域の総合整備プロジェクトを始動させ、ギャンズェ、ニィモなど各県で水土保持総合整備作業を進めた。同時に、チベット自治区は「チベット水土保持計画」など多くの水土保持と水土流出総合整備計画を制定し、「チベット自治区水土保持プロジェクト管理規則」を公布し、予防、監督、保護を水土保持の首位に置き、人為的原因による新しい水土流出を防止している。水土流出の総合整備をいっそう科学的に行うため、2001年に、チベット自治区は6000余万元を投じて水土保持モニタリング・ネットワーク建設を始動させて、全自治区の水土流出に対し全面的モニタリングを行っている。

 ――沙漠化防除は積極的な成果をあげた。チベットの風砂は昔からあり、特に地球の温暖化によるオゾン層空洞拡大の影響を受けて、近年来、チベットでは雪線上昇、湖沼枯渇、草地退化などの問題が現われ、一部の地方では草地退化、石質化、低質化などの自然退化現象が現われた。草地の退化、土地の沙漠化を効果的に抑え、整備するため、チベットは河川の整備を基礎とし、小流域の整備および退化した草地の沙漠化防除を重点とし、比較的整った林業と草場の生態体系の確立を目標とし、喬木、潅木、草および造林、伐採停止による造林、飛行機による播種を結び付けた措置をとって、河川の周辺および草地の退化、沙漠化のひどい地域で大規模な植樹植草を行い、植生を回復させている。長江上流流域で天然林保護、耕地の林地、草地への還元、湿地保護プロジェクトを実施している。2002年は約1万3000余ヘクタールの耕地を林地に還元し、当年中央政府は苗木栽培補助費を1000万元補助し、耕地を林地に還元した農民と牧畜民に食糧を1万5000トン、生活費を200万元補助した。ラサ周辺地区で造林緑化プロジェクトを実施し、重要な農業区で農地林網化を推し広めて、土壌に対する風砂の浸食を軽減している。これらの整備措置はチベットの土地沙漠化の進展を効果的に食い止めている。

 ――生物多様性の保護は重要な進展をとげた。チベットは世界で生物多様性の最も典型的な地域の一つであり、地球の生物多様性を保障する重要な遺伝子バンクである。現在、チベットに野生植物が9600余種あり、「絶滅に瀕する野生動植物種国際貿易条約」(CITES)に組み入れられ、国が重点的に保護する絶滅に瀕する希少な野生植物は39種ある。チベットには現在さまざまな脊椎動物が798種、昆虫類が4000種近くあり、その中の125種が国家重点保護野生動物に指定され、全国重点保護野生動物の三分の一以上を占めている。青海・チベット高原特有の高等植物は600余種、陸棲脊椎動物は200余種ある。

 50余年来、国とチベット地方はチベットの生物資源状況に対し詳しい調査を行い、状況をはっきりさせ、チベットの野生動植物資源を保護する科学的な計画と方案を制定し、いろいろな措置をとって希少野生動植物資源を効果的に保護している。国の関係法律・法規に基づき、チベット自治区は森林公安執法機構を設置し、武装警察チベット森林総隊を創設し、青海、新疆、チベットの三省(自治区)が境を接する地域でチベットカモシカの保護を主とする「ココシリ1号行動」などの特別行動を展開し、野生動物資源を破壊する違法犯罪活動と盗猟行為を効果的に取り締まっている。同時に国は毎年数百万元の資金を投じてチベットで森林安全と森林防火のインフラ建設を進めている。2002年はまた国債の中から366万元を取り出してもっぱらチベットカモシカの盗猟を取り締まる重点的整備プロジェクトを実施し、野生動物保護の宣伝を強化した。現在、野生動物保護はチベット人民大衆の自覚的な行動となり、一時はひどかったチベットカモシカ盗猟活動が基本的に抑えられた。

 50余年来、チベットで絶滅に遭った物種は一つもなく、生物の多様性は効果的に保護され、生物の種類もたえず増えている。世界の動物研究界が20世紀に絶滅したと見ているチベットアカジカは、1990年代にまたも発見され、その群れがたえず増えている。チベットが開放をたえず拡大するに従い、これまでなかったコイ、フナ、ウナギ、ドジョウなどの水生動物、生産量の高い良質のウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、アヒルなどの家禽と家畜、トウモロコシ、スイカおよび各種の野菜など生産量の高い農作物は中国各地からチベットに導入されて生き生きと生長している。

 ――自然保護区の建設は大きな成果をあげた。自然保護区の設置はチベットが生態建設と環境保全を強化し、持続可能な発展戦略を実施する重要な措置である。1980年代からチベットでは70余ヵ所のタイプの異なる自然保護区が設置され、そのうち、国家クラスの自然保護区は3ヵ所(さらに4ヵ所新しく設置する予定である)、自治区クラス(省クラスに相当)の自然保護区は15ヵ所ある。この18ヵ所の自然保護区の総面積は40万1000平方キロで、全自治区の土地総面積の33.4%、全国の自然保護区総面積の30.8%を占めている。このほか、各地区(市)ではまた50余ヵ所の地区・市クラス自然保護区が設置され、種類がわりにそろい、分布がわりに合理的な自然保護ネットワークが初歩的に形成されている。国の総体的計画と要求に基づき、チベット自治区人民政府は「チベット自治区自然保護区発展計画(1996〜2010)」を実施しており、2010年以前にチベットで28の自治区クラス以上の自然保護区を設置する予定である。その時になると、海洋と海岸生態体系類型以外の自然保護区がいずれもチベットに分布していることになる。

 設置済みの自然保護区の中では、経済開発などの人為的活動が厳しく制限され、自然生態システムが回復し、多数の保護区の生態環境が安定し、良性循環に向かってちくじ発展し、絶滅に瀕する希少物種の繁殖地、生息地および重要な生態システム、渡り鳥が移動する重要な湿地および重要な研究価値のある自然景観、地質遺跡、生物遺跡などがちゃんと保存されている。チベットにある125種の国家重点保護野生動物、39種の国家重点保護野生植物および典型的な地質遺跡は、いずれも設置済みの自然保護区でちゃんと保存されている。チベット自治区の湿地面積は600余万ヘクタールで、全自治区の土地面積の4.9%を占め、中国のトップにランクされ、その高山湿地は世界でも唯一のものである。関係部門のモニタリングによると、保護区内の野生動物と野生植物の群れが著しく増加し、野生動物資源保有量が30%以上増えている。長年姿を消していた一部の希少動物は再び故里に戻り始めた。ヤャンタン自然保護区では、ここ数年のモニタリングによると、チベット野生ロバ、イワヒツジ、チベットカモシカなどの野生動物の数は程度こそ違うが、いずれも増加しており、ニマ核心保護区のカモシカだけでもその数は4、5万頭に達している。ヤルツァンポ江中流の河谷地帯にある黒首鶴自然保護区が設置された後、同地に飛んできて越冬する黒首鶴は年ごとに増えており、世界の黒首鶴の約80%を占めている。

三、経済発展が進む中の生態建設と環境保全

 チベット地区の生態システムは非常に弱く、災害抵抗能力が低く、自己更新能力も低く、いったん破壊に遭うと、長い間回復するのが難しい。50余年来、チベットは終始持続可能な発展戦略を堅持し、生態建設と環境保全を経済建設とかたく結び付け、協調して発展させ、経済を急速に発展させ、人民の生活レベルを着実に高めると同時に、生態環境をも効果的に保護している。最新のモニタリングによれば、チベットの現在の水環境、大気環境は基本的に汚染されておらず、都市部の大気の中に浮かぶ固体微粒子の平均濃度は一立方メートルあたり193〜268である。全自治区に重大な環境汚染事故が発生したことがなく、主な河川と湖沼はほとんど原生の状態を保っている。

 ――農業生産と開発は環境保全・生態建設と同時に進めるのを重視している。チベット農業の自然条件が悪く、基盤施設が弱く、食糧収量が低く、自然災害に抵抗する能力が劣っている。このため、農業の基盤施設建設の強化、収量の低い農地の改造、農業生態レベルの向上を農業生産と開発が積極的に追求する目標とし、農業発展の生態環境の改善を通じて食糧収量を高めることを重視している。政府は農民が昔から続けてきた田地を荒れ果てさせる「白色休耕」など水土保持に不利な耕作習慣を改めるのを援助し、食糧と草の輪作などの生物手段で土壌の肥沃度と水分維持能力を高めている。農地水利基盤施設の建設を進めると同時に、農地の林網化を推し広め、土壌に対する風砂の浸食を軽減している。たゆまぬ努力を経て、チベット中部の主要農業生産区の土地利用率は大幅に高くなり、土壌の浸食程度は著しく下がり、農作物の生長をささえる水、熱などの自然条件が改善されている。2000年の専門家の測定によると、この地区の農業総合生態環境評価指数は10年前より1.5ポイント上がった。生態環境の改善は農業発展の安定したレベルアップを促し、2001年に、チベットの農業は14年連続して豊作をかちとり、食糧総収量は98万2500トンに達し、基本的に自給を実現した。

 国は巨額の資金を投じ、チベットで多くの農業総合開発プロジェクトを建設し、終始土地開発と生態改善との結合に気を配り、土地面積の拡大を生態環境の改善と同時に進めるようにしている。中央政府が直接12億元を投じて建設した「一江二河」中部流域の農業総合開発など重要な建設プロジェクトは、環境保全と生態建設をプロジェクト建設の重点としている。関係部門が「一江二河」地区の農業総合開発10年来の生態環境に対し追跡、モニタリングを行った結果が顕示しているように、生物措置と工学的措置の有機的結合によって開発区内の土地利用タイプ、利用率と人工植生の面積は著しく向上し、土地の砂漠化、土壌の浸食が効果的に抑えられ、生態環境の品質総合指数の等級は1ないし3級上がった。農業の総合開発は好ましい経済効果ばかりでなく、著しい社会的効果と生態的効果もあげた。

 ――優れた工業プロジェクトを選び、汚染防除を強化する。チベットの工業は平和解放後に徐々に発展してきたものであり、今でも工業企業は相変わらず少なく、工業汚染の問題はさほど目立っていない。工業発展の生態環境に対する不利な影響を最大限に減らすため、チベット自治区政府は工業発展に対し終始発展と保護を共に重視する原則を堅持し、工業を発展させると同時に、経済効果、社会効果、環境効果の統一を実現するように努め、決して単に経済効果を追求し、ブランクを埋めるために工業プロジェクトを盲目的に実施するようなことをしない。汚染を効果的に防除するため、政府は次のような一連の汚染防除措置を積極的にとり、近代的工業の発展によって生態環境が破壊されないように確保している。一つは、産業構造、製品構成の調整および技術改造によって工業汚染を防除する。例えば、ラサ皮革工場はドイツから先進的設備を導入すると同時に、付属の環境保全設備をも導入した。ラサ市の重点的な水汚染企業であるラサビール工場は技術改造の過程で400余万元を投じて汚水を処理し、いまは基準どおりに排出している。二つは、環境監督管理を強化し、基準を越えて汚染物を排出する企業を厳格に整頓している。「大きなプロジェクトを実施するが、小さなプロジェクトを実施しない」という産業構造調整の原則にのっとって、ラサ市内の六つの汚染のひどい機立窯セメント生産ラインを閉鎖し、ひどい汚染をもたらす企業の操業を厳禁し、国が明確に禁止した立ち遅れた技術と設備を淘汰した。

 ──資源開発、重要なインフラ建設プロジェクトの生態環境への影響に対する評価と管理を強化する。すべての新規建設、改造、拡張のプロジェクトに対し、一律に環境への影響を評価してからはじめて立件できる政策を実行し、環境への影響の評価と「三つの同時」(汚染防除施設を主体施設と同時に設計し、同時に施工し、同時に操業に入る)の制度を厳格に実行し、大中型プロジェクトに関する生態環境影響評価の実行率は80%以上に達した。チベットのロブサ、シャンカ山のクロム鉄鉱開発プロジェクトは、ともに生態環境保全措置を資源開発の重点作業として実行している。内外の注目を集めているチベットのヤンゾユムツォ水力発電所の建設は、プロジェクトの確定、設計から施工、建設に至るまで、生態環境保全を十分に考慮した。同発電所は操業に入って以来、発電で湖水の水位が低下して、ヤンゾユムツォの自然生態環境に影響を及ぼすような問題が発生していない。

 ――都市部の生態環境の総合的整備を重視し、人口密集区域の人類の生存環境を改善する。都市部の生態環境の総合的整備は従来からチベットの生態建設と環境保全活動の重点の一つである。チベットは大気環境の質を保証するため、都市部で生活用の燃料として無汚染エネルギーの使用を積極的に普及させ、柴、草、牛糞、石炭、石油などをちくじ淘汰し、民用燃料のガス利用率を大幅に高めている。2001年現在、ラサ市、シガズェ市の石油液化ガス利用者は4万4600戸に増え、ガス使用普及率は83%に達した。同時に、チベットは水エネルギー、地熱エネルギー、太陽エネルギー、風エネルギーなどのクリーンエネルギーを積極的に利用し、水エネルギーを主とし、多種のエネルギーが相互補完するエネルギー建設利用の枠組みを初歩的に形成し、生態環境の保全に対し積極的な役割を果たしている。全自治区で太陽エネルギー使用が普及しているが、標準炭に換算すると13万トンに相当する。都市の公共緑地建設の面で、ラサ市、シガズェ市の緑化被覆面積は1693.6ヘクタール、公共緑地面積は47.48ヘクタールに達し、緑化率は23.5%である。都市部の上下水道パイプ網建設と廃棄物処理の活動を強化し、給水パイプラインを679.46キロ、排水パイプラインを392.77キロ建設し、5127万9400元を投資してラサ市で都市ゴミ埋立場を建設し、その他の各市・町のゴミ処理施設も積極的に計画、建設されている。

 ――観光業など生態環境保全にプラスとなる特色産業を大いに発展させる。生態環境への影響が相対的に小さい特色産業の発展は、ずっとチベットが経済発展を加速する重要な政策の一つである。チベットは独特な自然環境、地理環境、人文環境を備え、観光などの第三次産業を発展させる面で独特な自然の強みに恵まれている。チベット自治区人民政府は1996年に「観光業の発展加速に関する決定」を行い、支柱産業としての観光業を際立った位置に置き、それを大いに発展させている。2001年、自治区を訪れた国内外観光客は延べ68万6100人に達し、観光収入は7億5000万元に達し、外貨は4638万ドルを獲得した。観光業の従業員は6506人で、間接従業員は3万人を上回っている。チベットの国民経済における観光業の地位は日増しに高くなっている。これと同時に、観光業のような汚染の少ない業種に対しても、チベットはその発展過程でもたらす生態破壊と環境汚染の問題を非常に重視している。観光地のゴミに対し、観光と環境保全部門は積極的な措置をとり、収集、分類、処理を通じて生態環境への汚染を防止している。条件のきわめて劣悪なチョモランマ峰登山ベースキャンプでさえとくにゴミ箱を設けて、登山者と観光客が持ってきた生活ゴミを収集し、専従者が定期的にそれを運んで処理している。

四、生態環境保全型の青海・チベット鉄道を建設する

 チベットには平和解放前、道路が一本もなく、自治区内外の経済と社会の往来はすべて人が背負ったり、家畜で運んだりした。いまでは、チベットに2万4000キロの自動車道路、10余本の航空路、1000余キロの輸送パイプラインを含む立体交通網がつくり上げられている。しかし、チベットは依然として全国唯一の鉄道のない第一級行政地区(省、自治区、直轄市)であり、交通はずっとチベットの経済と社会の快速な発展、人民生活のレベルアップを制約する「ボトルネック」となっている。青海・チベット鉄道の建設はチベット各民族人民の前々からの願望であり、チベットが祖国各地との連係を強化し、チベットの経済と社会の発展を促進し、チベット人民の物質文化生活をレベルアップさせる必要であるばかりでなく、民族団結と共同繁栄の促進に対しても非常に重要な意義がある。

 2001年6月29日、中央政府の認可を経て、青海・チベット鉄道第二期工事のゲルム=ラサ区間が正式に着工した。同鉄道の総距離は1142キロ、投資総額は262億1000万元、工期は6年と見積もられている。「生態環境保全型鉄道を建設する」は、青海・チベット鉄道が建設論証初期に確定された目標である。

 ――前期の研究活動段階で、環境への影響に対する評価を着実に行う。鉄道建設の前期において、直面する生態環境の問題に対し、関係部門は多くの課題を確定し、研究を深くつっこんで繰り広げた。中国政府はこれを踏まえて、各方面の専門家を集めて、環境保全法、水土保持法、野生動物保護法などの法規および「全国生態環境建設計画」と「全国生態環境保護綱要」の要求に基づき、突っ込んだ実地考査を通じて、青海・チベット鉄道建設の生態と環境への影響に対し科学的、厳密な論証を行い、それぞれ環境影響評価大綱、環境影響レポートを編成し、生態環境保全案を打ち出し、環境影響評価を真剣に行った。評価の要求に基づいて、プロジェクト建設が「予防を主とし、保護を優先させ、開発と保護をともに重視する」原則を確定し、生態環境評価の結果で設計、施工、環境管理を指導する。沿線の生態環境を保全するため、青海・チベット鉄道全線が環境保全プロジェクトに用いる投資は12億元に達し、中国鉄道建設史上の最高を記録した。

 ――鉄道建設の設計段階では、生態環境保全が工事案の決定的要素となる。生態環境保全は青海・チベット鉄道設計の基本的理念となり、鉄道線路の選択では、できるだけ野生動物の棲息、活動の重点的地区をよけている。例えばもともと設計された線路はヤルンツァンポ江中流河谷黒首鶴自然保護区を通るが、野生動物への邪魔を避けるため、多方面の論証を経て、黒首鶴自然保護区をよけて、ヤンバジェンを通る線路を選択した。野生動物活動区域をよけることができず、どうしても通らなければならない区間、例えばココシリ、チュマル河、ソッギャなどの自然保護区の線路区間に対し、設計の中で多くの案を比較し、工事保護対策を検討、提出し、自然保護区に対する妨害をできるだけ減少した。沿線の野生動物の習性、移動の法則を調査、研究する基礎の上で、異なる区間で異なる種類の野生動物の通路25カ所を設け、橋下の排水管、トンネルの設計も野生動物が鉄道を横切る必要を十分に考慮し、多くの区間で陸橋をかけて野生動物が移動する通路とし、鉄道沿線の野生動物の正常な活動を最大限に保証するようにしている。ココシリに分布している国家絶滅寸前一級保護動物――チベットカモシカは毎年の6〜7月に群れをなし、長い道のりを歩いてゾナイ湖、太陽湖一帯へ行って子を産む。青海・チベット鉄道の建設部門はこのため4日間工事をやめ、労働者と機械が現場から撤退し、チベットカモシカを警戒心を持たせ恐れさせる彩色旗を抜いて、チベットカモシカが順調に工事現場を通過して子を産むところへ行くのを保証した。草地、湿地などの自然環境を破壊しないようにするため、設計の中で橋で道に代わる方法を大量に採用し、チベット自治区内だけでもこのために累計13キロの橋梁を設計した。

 完成後の青海・チベット鉄道の各駅の暖房は電気エネルギー、太陽エネルギー、風エネルギーを主とする環境保全型エネルギーを使用する。駅の廃棄物は収集後集中的に処理し、生活汚水は処理を経て基準に達してから排出し、できるだけ緑化に用いる。客車に閉鎖式車体を採用し、車中のゴミを袋に入れて高原の下へ運び、駅に渡して集中的に処理させる。管理の面では高原の特徴に適応して、中心駅の管理パターンを採用し、全線に七つの中心駅を設ける。どの中心駅の管理制御半径も80キロ前後で、列車通行と保守修理に全責任を負う。できるだけ遠隔自動化制御を採用し、機械化修理を行い、高原の組織機構と人員を減らし、青海・チベット高原の自然生態環境を最大限に保護する。

 ――施工中は生態環境への影響を最大限に減らす。生態環境にもたらす不利な影響を最低限に抑えるため、青海・チベット鉄道建設総指揮部は施工部門と生態環境保全責任書を結んだ。各施工部門が生態環境保全の制度と規則を制定し、健全にし、環境保全管理部門を設けて専従と兼職の管理者を配備する。生態環境保全を実行する具体的措置がなければならず、とる措置が科学的でなければならず、施工作業案が生態環境保全の要求に合致しなければならない。国土、環境保全、水利行政の主管部門と建設、設計、監理、施工の各関係部門は共同で土を取り、捨てる場所と砂石を置く場所を確定し、日照、氷の溶解の状況に基づいて、土を取り、捨てる場所および路盤の合理的な距離を確定し、施工人員と車両の走行路線を画定し、指定した範囲に厳格に基づいて施工し活動を行い、凍土層の安定を保持する。河川の源の水源と沿線の湿地を保護し、施工による水源地の砂漠化、湿地の萎縮、草地退化、水質汚染を避ける。地表の植生を保護し、回復させ、植生が生長しにくい地帯、路盤および施工車両が通るところの芝生を保留し、区間ごとに別の地区に移植して保存し、その後は完成した路盤の両側の傾斜地あるいは施工現場の地表を覆うようにして、地表植生の損失を最小限に減らす。自然条件がわりによい区間に対しては、高原での生長に適する草を精選し、適切な播種と繁殖技術を用いて、地表の植生をできるだけ回復させる。自然条件がわりによい区間で芝生の人工栽培テストを行い、噴射播種、ビニール被覆などの技術を使い、沱沱河の長江の源の地区で、高原の路盤に草を植えるテストを行い、初歩的成功を収めた。建設者はすべての可能な方法と措置をとって、環境保全の要求に合致する鉄道を建設することをめざしている。

 青海・チベット鉄道建設のカギは鉄道周辺の生態環境を保護することであり、各建設部門はいずれも施工の中で最大の努力を払っている。例えば、中国鉄道部第十四局が科学技術の難関を突破する13件の施工技術難題のうち、環境保全にかかわるものは半分を占めた。同局は生態環境保全監督・管理員を6人配備し、施工現場沿線の生態保護を担当させている。作業区の設置、人員と設備の現場進入、施工道路の建設、切通しの掘削などの施工では、作業面をできるだけ小さくし、生活区に線を引いて監督、管理し、高原の脆弱な植生を保護するように努めている。

 ――効果的措置をとって、施工作業が高原生態環境に与える汚染を最大限に減らす。施工が環境に与える汚染を減らすため、建設部門はできるだけ性能が高く、騒音が小さく、汚染が少ない設備を使用し、高度に機械化した施工方式をとって現場の管理と施工人員をできるだけ減らし、コンクリート構造に対しできるだけプレハブ部材を採用し、現場に運んで組み立てるようにしている。橋梁の施工では、泥水による環境汚染を減らすため、できるだけボーリング機械による乾式の穴開け方法を採用する。施工による水の汚染を防止するため、建設指揮部はすべての施工汚水と作業区の生活汚水は処理を経て相応の基準に達してから排出するよう要求している。施工の固体廃棄物と作業区の生活ゴミを分類して収集し、回収できるものをできるだけ回収し、分解処理できないものを環境保全条件のある地点に運んで集中的に処理する。

 ――環境保全の監督・検査を強化し、環境保全目標の実現を確保する。青海・チベット鉄道は初めて全線の環境保全監理制度を実行し、総指揮部は第三者に委託して全線の環境保全に対し全過程のモニタリングを行わせている。全線全過程の施工期間の環境保全の監督・検査を強化するため、国家環境保全総局と鉄道部は共同で「青海・チベット鉄道建設生態環境監督管理活動強化に関する通達」を出し、施工期間内の環境保全と監督検査活動について専門の配置を行った。国家環境保全総局、鉄道部はその他の関係行政主管部門とともに何回も検査グループを派遣して施工中の各項環境保全措置の実施状況を点検し、いったん環境保全規定に違反する行為を発見すると、厳しく処罰するようにしている。

 努力を経て、青海・チベット鉄道が環境保全の要求に合致する高原鉄道になり、真にチベットの各民族人民に幸福をもたらすと信じる理由がある。

五、持続可能な発展の戦略的選択

 50余年来、中央政府の重視と全国人民の支持の下で、チベットの各民族人民は奮闘努力を通じて、チベットの社会的様相を大きく改めただけではなく、生態建設と環境保全の面でも世人の注目を集める成果をあげた。今日のチベットは経済が発展し、社会が進歩し、人民が安らかに暮らし楽しく働いているばかりではなく、山河が美しく、川の水が澄みきり、動物の種類が多く、植物が生い茂り、名実ともに「シャングリラ」となっている。

 立ち遅れた状態からできるだけ速く脱出し、速やかに現代化の道を歩むことはチベットの社会進歩と発展の必然的な要求であり、チベット各民族人民の強い願望でもある。チベットは青海・チベット高原にあり、地理的環境が特殊で、生態環境がわりに脆弱であり、天然資源の再生能力を保護し、生態環境の質を改善し、自然生態システムの完全性と良好な調節能力を確保し、生態安全と経済、社会、生態の調和のとれた統一、協調した発展を確保することは、チベットの現代化発展の重要な内容と持続可能な発展の戦略的選択である。

 チベットの生態建設と環境保全は発展を停止することで維持してはならず、また生態環境の破壊で経済発展の短期的効果と交換してもならず、社会発展の法則に従い、経済建設と生態環境保全をともに堅持し、発展の中で保護を重視し、保護の中で発展を求め、持続可能な発展の戦略を実行するよりほかはない。生態建設と環境保全は積極的、主動的、動態的なものでなければならず、受動的、保守的、閉鎖的なものであってはならず、脆弱な原始、自然の状態の維持を理由として人と自然生態環境とのすべての交流、相互促進を拒否し、チベットの経済社会の発展と人民生活のレベルアップを妨害してはならない。

 チベットは現代化に向かう過程において、終始資源の開発利用と生態環境保全の関係を正しく処理し、経済成長方式の転換を促さなければならない。チベットの発展の経験が示しているように、資源の開発・利用は自然の法則に従い、長期の利益と全局の利益の両方を配慮するようにし、目先の功利を求め、生態環境の受容能力を超えるようなことをしてはならない。天然資源の開発と生態環境の保全は科学的な態度と方法に基づいて、開発、利用すべきでないものを絶対に開発せず、開発する必要のあるものは、目標が明確で、方式が科学的でなければならず、生態機能に不必要なマイナスの影響を与えるのを断固防止する。こうしてのみはじめてチベットの天然資源の合理的、科学的利用を促進し、経済発展と生態環境改善をともに実現することができるのである。

 チベットの生態建設と環境保全は経済・社会の発展と同じように、チベット各民族人民の根本的利益のあるところであり、全中国人民の共通の利益にもかかわっている。チベットの各民族人民はチベットの生態建設と環境保全事業の主な促進者と直接な参与者であり、生態環境保全成果の主な受益者でもある。チベットの生態建設と環境保全事業を発展させることは、国にも人民にも有利であり、功績はいまの人が立て、利益は子孫が受ける。半世紀余りいらい、中国の中央政府とチベット地方政府はチベット人民の根本的利益と全国各民族人民の共同の繁栄という根本的要求から出発し、子孫と全世界に対し高度に責任を負う精神で、チベットの生態建設と環境保全事業の促進、発展のために大きな努力を払い、世人の注目を集める成果をあげた。

 ダライグループと国際反中国勢力はチベットの生態建設と環境保全事業の発展という客観的事実を無視し、世界のいたるところでデマをとばし、中国政府が「チベットの生態環境を破壊し」、「チベットの天然資源を略奪し」、「チベット人の生存権を剥奪している」などと非難し、これによって国際世論を騙し、中国のイメージを醜いものにしようとしているが、彼らは実質的にはチベットの生態環境保全に関心をもつという看板をかかげて、チベットの社会の進歩と現代化の発展を妨害し、チベットで立ち遅れた封建農奴制の社会を回復し、祖国分裂の政治的目的を実現するために世論をつくろうと企んでいるのである。

 なるほど、チベットは生態建設と環境保全の面にまだ少なからぬ問題が存在している。世界の生態環境が悪化する中で、チベットの脆弱な生態環境が真っ先にその影響を受け、土石流、山崩れ、雪害などの自然災害が時々発生し、土地の砂漠化はチベットの生態環境を脅かしており、経済発展の中の人為的な生態環境破壊行為も時々発生している。中央政府とチベット地方政府はこれらの問題を高度に重視し、生態環境と天然資源の永久利用を確保し、災害を未然に防ぐため、チベットはすでに中央政府の支持の下で、大規模な生態建設と環境保全計画を制定し、2001年から実施を始めた。現在から今世紀中葉にかけて、220余億元を投じて、生態環境保全プロジェクト160件を建設し、チベットの生態環境の絶え間ない改善を促進する。疑いもなく、チベット人民は将来の発展の中でより麗しい環境をつくり出し、よりすばらしい生活を迎えるであろう。