中国版ナスダックをめぐる新たな論争

あまりにも遅きに失した論争ではあるが、中小ハイテク企業を対象として創設された株式市場をめぐっての論争の内容は中国ではかつて一度も現われたことのないものであった。中国の最初の計画によれば、この株式市場は香港に隣接する深セン市に開設される予定だったが、しかしこの計画は何度も延期された。いったい中国はこの市場を開設するのか、どのようにハイテク企業向けの株式市場を開設するのかをめぐっての論争がまた巻き起こった。

さる3月に開催された全国人民代表大会と全国政治協商会議では、広東省の代表と委員たちがそれぞれ大会に、中国版ナスダックの早期開設についての提案を行った。いわゆる中国版ナスダックとは、大きな成長の潜在力を持つ新興ハイテク企業を対象とする株式市場であり、アメリカのナスダックあるいは香港の創業ボード(GEM)市場によく似たものである。まるで静かな水面に石を投げて水の波紋を作り出したように、この提案の提出は経済界や業界、株式投資家、ウェブサイトなどで大きな議論が巻き起こされることになった。

賛成者は、できるだけ速く中国版ナスダックを開設すべきであり、それがなかなか開設されなかったため、国内のハイテク民営企業の発展が妨げられているとしているが、反対者は、2年前のネットバブルによって、ナスダックは投資者のロマンチックな幻想であり、失敗に終わったところがたくさんあることが裏付けられているので、中国はそれを模倣すべきではない、と見ている。両方はそれぞれ自分の見解に固執している。中国証券監督管理委員会主席の尚福林氏は代表たちのこの提案を真剣に検討する意向を表明した。

連名で全人代大会と政協会議に深センでの中国版ナスダック開設の提案をしたことに深セン市の苦心を見て取ることができるとか、深セン証券取引所が新株をもう発行しなくなったため、数多くの金融機関が深センから立ち去りつつある、形勢挽回のための深センの出撃の勢いは激しいものがあるとも言われた。

中国版ナスダックの早期開設を極力主張しているのは、深センひいては広東省が自らの利益を維持し、自分たちの地域への投資を囲い込み、大局を顧みようとしないものだと鋭い批判を出したウェブサイトもある。

議案の提出者である広東省副省長の宋海氏はこれらの議論にはコメントを行わなかったが、深セン市がもう新株を発行しなくなったため、広東省の資金は上海へと流出しつつあることを認めている。氏は、中国版ナスダックは3年前に創設の準備に入って以来ずっと政府の意思を体現し、中国の中小ハイテク企業の発展を加速する戦略の一環であり、中国の経済発展の法則に合致するものであった、と再三語るのであった。

中国がこの中国版ナスダックを開設するということは2000年に提出されたものであるが、深センは競争の中で開設のイニシアチブを勝ち取った。ナスダックと世界の新興企業向け株式市場の低迷に伴い、こうした開設の意欲はだんだんとしぼんでいった。しかし、中国版ナスダックを開設せず、深セン証券取引所が新株をもう発行しなくなったことは、深セン市ひいては珠江デルタ地区全域の発展にマイナスとなることであることは明らかである。そのため、深セン市と広東省の人民代表はあくまであきらめることなくさまざまなチャンネルを通じて深センでの中国版ナスダック市場の開設を呼びかけ続けたのである。

議案の提出

3月5日、第10期全国人民代表大会第1回会議の開幕の日に、全国人民代表大会代表である広東省副省長の宋海氏は大会に、「中国版ナスダックの早期開設に関する議案」を提出した。同議案に署名した提案者の中には、広東省省党委員会常務委員、深セン市市長の于幼軍氏、省人民代表大会常務委員会副主任の張凱氏、深セン市政治協商会議副主席の李連和氏、元深セン市人民代表大会常務委員会副主任の張余慶氏、珠海市市長の王順生氏ら広東省の代表の面々がいる。全国政治協商会議委員である元深セン市党委員会書記の似L為氏もその日に全国政治協商会議第10期第1回会議にこれと同じ内容の提案を提出した。

この人たちがこの議案を提出したのは以下の五つの理由からである。

一、中国版ナスダックは経済の持続的成長を促進し、就職と再就職を拡大する重要な力である。現在、全国には中小企業が約4000万社もあり、その生産総額は全国の工業生産総額の60%、新規増加額の76%を占めるようになっており、75%の都市人口の就業問題を解決しており、中小企業はすでに国民経済を発展させる重要な支柱となっている。中小企業とハイテク企業のための中国版ナスダックの開設は、中小企業の資金調達環境を改善し、中小企業とハイテク企業の資金調達難を部分的に解決することもできれば、資本市場に対する効果的な監督と社会監督メカニズムを運用して、中小企業の企業統治(コーポレトガバナンス)構造の整備と規範化した運営の実現を促進することもでき、中小企業の健全な発展を促すうえでかけがえない指導や模範、促進の役割を果たしている。これは2002年12月1日から実施された「中小企業促進法」を貫徹するための重要な措置でもある。

二、中国版ナスダックは民間投資の促進のためになる。現在、企業が銀行からの貸付に過度に依存し、間接融資に頼ることは、企業の高すぎる負債率、大きすぎる経営リスクをもたらすだけでなく、銀行資産の劣化及び負担とリスクの累積を引き起こすことにもなる。中国版ナスダックは直接融資の比率をアップさせ、より多くの預貯金資金を資本市場に流入させ、資本市場の発展と充実を促すことになる。

三、中国版ナスダックは国のイノベーション・システムの構築を推進し、ベンチャー投資の発展を促進する重要な一環である。アメリカの70%の技術革新は中小企業によるものである。ナスダック市場を支えとしたベンチャー資本運営メカニズムは、アメリカのハイテク企業の急速な発展をサポートしている。現段階では、中国の科学技術の成果の生産力への転換の割合は10%足らずで、先進国の60%−80%のレベルをはるかに下回っており、科学技術と資本が結びつくメカニズムがまだ形成されるに至っていない。中国版ナスダックは円滑なベンチャー投資メカニズムを形成させ、科学技術の成果の産業化への転換のプロセスを速め、中国のハイテク産業の発展と経済構造の最適化の促進に寄与するものである。

四、中国版ナスダックは海外の資本、技術、人材の中国への導入、経済発展の勢いの維持を促進することに寄与するものである。

五、3年間の準備を経て、開設の環境は成熟している。一つはここ2年間の整備・整頓を経て、証券市場の秩序が目に見えて改善され、市場主体の自己規制意識が大いに強まり、投資者のリスクに対する認識がいっそう理性的なものになり、監督機関の市場に対する管理能力とコントロール能力も目に見えて向上した。次には各方面が中国版ナスダックの開設のために十分な準備を行い、中国版ナスダック市場の運営に必要な法規、制度、技術及び人員育成などの面の準備作業も大体整った。三つは中国版ナスダックは資源にも恵まれており、現段階においては上場の条件が備わった企業が1200余社、株式制に転換した企業が500余社に達し、将来性のある、かなりの数にのぼる中小企業とハイテク企業を擁している。

宋海氏らの代表はまた中国版ナスダックの開設について次のような提案を行った。一方では、国は中国版ナスダック市場と関連のある法規の制定に力を入れなければならないが、もう一方では、段階的なやり方で中国版ナスダックの開設を進めることができる。つまり、今年の第2・四半期まで前に、既存の証券市場の法規、上場基準、発行審査手順及び市場ルールを変更しない前提の下で、将来性と科学技術の応用度の高い中小企業の流通株を深セン証券取引所に集中して上場させ、深センの現有市場の一部として別途にコントロール運営を行い、国が中国版ナスダックを開設したあかつきには、この企業を中国版ナスダックに編入して、中国版ナスダックの順調なスタートと規範化した発展のプラットフォームとすることである。

段階的に中国版ナスダックを開設することには3つのメリットがある。一、中国版ナスダックの既存のリスクを増大させることなく、中国版ナスダックの開設のためのノウハウの蓄積に寄与することができる。二、株券の発行ルートの制約のため、証券会社が中小企業の上場に対してそれほど意欲がなく、中小企業が資本市場で直接資金を調達しにくいという問題を一応解決することができる。三、中国版ナスダックの発展のためにしっかりした基礎をうち固め、中国版ナスダックを開設し、発展させるための望ましい環境を創り出し、中国の証券市場の安定した発展の促進に寄与することができるようになる。

宋海氏らの代表は中国版ナスダックの法律制定について以下の三つの提案を行った。一、中国版ナスダックと関連のある法律の起草と公布をできるだけ速く行うことを考慮すべきである。二、中国版ナスダックについての章節を中国の「証券法」に書き入れ、中国版ナスダックの開設、株券発行、審査、推薦、流通などについての原則的な法律、規定をつくり、具体的な運営については国務院あるいは証券管理部門が規則を制定することを考慮すべきである。三、中国版ナスダックの始動を確保するために、「法律制定法」の授限原則に基づき、全国人民代表大会常務委員会が認可し、国務院が行政規則を起草、公布してもよい。