中央銀行の新住宅融資政策に対する各界の見方

―――中国人民銀行(中央銀行)は新たな住宅融資政策を公布したが、これに対する各界の見方は様々だ。総じて言えば、歓迎する姿勢より懐疑的な見方が多い。

蘭辛珍

中国人民銀行は6月13日、不動産開発融資を対象にした資質信用等級や融資額、個人住宅融資などに関して厳格な規定を設けた『不動産融資業務の管理を更に強化することに関する通知』(以下、『通知』と略称)を公布した。

中央銀行が新たな政策を制定したのは、不動産市場にみられる投資過熱を抑制し、不動産金融リスクを回避するためである。

同行貨幣政策司の戴根有司長は「不動産業は国民経済の基幹産業であり、持続的かつ安定した発展を維持することは、経済の持続的かつ急速な発展を促進する上で重要な意義ある。『通知』の基本的精神は、不動産融資の健全な発展を促進し、存在する問題に対処し、関連する政策・措置を完備することだ」と説明する。

『通知』は社会各界に大きな反響を呼び起こした。

不動産業者

新政策に最も強い反応を示したのが、不動産開発業者だ。華遠不動産開発有限公司の任志強総裁は「不動産業界に冬が訪れた」と嘆息する。SOHO中国有限公司の潘石屹取締役は「この10年来で不動産業に最も厳しい通知だ」と指摘した。

現在、不動産開発はかなりの程度、銀行融資に依存している。1998年の商業銀行による不動産業への貸出残高は2680億元、2002年は6616億元に達し、年平均伸び率は25.3%。個人の住宅融資残高は1997年が190億元、2002年は8253億元と倍増した。中央銀行が不動産開発業者への融資条件を高め、融資額が貸出残高全体に占める比率を下げる政策を新たに制定したことで、企業が資金不足に陥るのは間違いない。任志強総裁は「政策によって、土地の準備や施工資金の立て替え、購入者が支払う一時金、この3段階で不動産業の生産チェーンは断ち切られてしまった。不動産企業の50%以上が淘汰され、建設工事は70%以上で継続が難しくなるだろう」と予想する。

セカンドハウスを購入する場合に支払う一時金を引き上げたことについて、今典投資グループの張宝全取締役は「国外ではセカンドハウスを買う場合は、より多くの優遇が受けられるのに、わが国はその反対だ。新たな融資政策は正常な市場規律や意識に欠けている」と不満を隠さない。

北京万科の呉有富社長は「新政策は恐らく、上海で起きた問題が影響しているのかも知れない。上海では不動産関連の上場企業4社が倒産し、20数社が“ブラックリスト”に盛り込まれた。中央銀行の今回の措置はまさに、“上海で起きた病気のために、全国が薬を飲まされる”ようなものだ」と指摘する。

資金面の圧力によって、開発は減速し、販売中の住宅も高騰する。これが不動産開発業者に共通する見方だ。

新政策が公布された10日後、北京では住宅価格がいくらか上昇し始めた。北京華貿センター販売部の張軍部長は「まもなく施行される新政策で一時金の比率は引き上げられ、優遇利率も実施されなくなるため、一部躊躇していた希望者が購入を決定したことから、全体に販売は以前より好調だ。販売の見通しが立ったので、1平方メートル当たり数百元アップさせる計画だ」と話す。

北京の望京にある「慧谷陽光」団地は6月23日から価格を1.5−5%引き上げている。こうした企業はすでに十数社にのぼる。

消費者

多くの消費者が一番購入したいのは、適当な価格でリスクの少ない住宅だ。中央銀行の新政策が消費者にとって朗報なのは間違いない。

「人民銀行は住宅完成後に個人融資を行う措置を講じるため、融資による購入リスクを回避することができ、より安心感が持てる」。首都医科大学管理課の職員、郭文元氏はこう話す。郭氏は近々、住宅を購入する予定だ。『通知』は、融資に当たっては低中所得者の購入能力に合った住宅プロジェクトを重点的に支援し、大型住宅や高級商品住宅、別荘などのプロジェクトに対しては適度に制限を加えるとともに、個人の住宅融資管理を強化し、低中所得者の需要を重点的に支援していくとしている。また商業銀行に対しては、個人の住宅融資を更に拡大し、多くの市民が利益を受けるよう求めている。

郭氏は「こうした政策は、サラリーマン階級が住宅購入に当たって金融政策の最大の恩恵を受けることを意味している。低中価格の住宅が銀行融資の重点になるので、価格が適当な物件を購入できるようになる」と評価している。

購入希望者はこれまで価格の高さに足踏みされてきた。2003年1−5月までの不動産価格は世界的に見ても異常に高い水準にある。多くの都市の平均住宅価格と一般市民の平均収入の比率は8:1から15:1と、世界の3倍近く高い。

業界の専門家

世界的に著名な格付け会社のスタンダードプアー社は「不動産開発業者や購入者への融資規制を求める中央銀行の新政策は、無制限な信用貸付を未然に防止するための正当な措置である。これは監視管理当局が実際的な方法を講じて銀行の不良債権問題に対処する姿勢を示したものだ」と指摘する。

中国社会科学院経済研究所の汪利娜研究員は「新政策は不動産業にとってメリットがある。産業が正常、適正化されれば、供給が急務の数多くの一般住宅が投資のスポットとなり、空き室率の高い高級住宅や別荘は抑制される。こうなれば金融リスクを避けることができる」と強調する。

中国人民大学土地管理学部の葉剣平教授は異なる見解を示した。「表面的には、銀行のリスクは避けられるの、非常に正常なことだ。だが理性的に見ると、この種の“一刀両断”式の政策は、法律を犯したり実力の伴わない不動産企業を取り締まるだけでなく、経営状態が良く実力のある企業をも巻き添えにすることになる」と指摘する.

各商業銀行

中央銀行が打ち出した新政策に、一部の商業銀行は複雑な思いを隠さない。新政策は厳格に実施されるだろうが、実際に進める段階で解決を要する問題もある、と指摘している。

2軒目以上の住宅を購入するための個人融資に関する規定について、民生銀行の李君儀氏は「人民銀行の信用貸付閲覧システムは、個人情報を含めネット化されていない。銀行は融資することはできるが、各銀行が申込者の購入が1軒目のものなのか、それとも2軒目のものなのかは閲覧できない。それができるようにするには、大規模な環境整備が必要となる」と指摘する。

中国農業銀行不動産貸付部の高亮副部長は「まだ難しい問題がある。何をもって高級住宅とするかだ。1平方メートル9000元にするのか、それとも1万元にするのか。実際の業務では、その画定は難しい」と話す。

中央銀行が公布した新政策は、商業銀行が自由に実施細則を制定できる余地を持たせている。現在の状況を見ると、各商業銀行は状況眺めの段階にあり、新政策は早急に実施されそうにない。