中国、銀行に対する監督管理を強化

――今年四月から国家審計署(会計検査署)が中国銀行業監督管理委員会、財政部とが行った中国の銀行業、特に四大国有商業銀行に対する全面的な合同会計検査では、多くの問題が発見された。今回の銀行業に対する合同監督管理は、並々ならぬ意義を持つものである。

馮建華

国家審計署の李金華署長は6月25日、、全国人民代表大会常務委員会に2002年度中央政府予算の執行状況とその他の財政収支の会計検査結果を報告した際、中国の銀行業、とくに中国建設銀行と中国農業発展銀行に対する会計検査で発見された不正貸付や、「裏金庫」などの問題を摘発した。

これに先立ち、中国銀行業監督管理委員会(以下銀監会と略)、中国財政部及び中国人民銀行も銀行業、特に四大国有商業銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)に対して大がかりな会計検査を行った。

国家情報センター経済予測部上級経済師陳明星氏の分析では、中国の政府トップの入れ替わりとWTO加盟を達成という特殊な歴史的時期に、政府が銀行業に対する大がかりな合同監督管理を強化することは、深遠な意義を持つものである。

審計署、国有商業銀行を視野に

2002年には、中国建設銀行と中国農業発展銀行が国家審計署の会計検査の重点対象と決まった。李金華署長は6月25日にこの二行の会計検査結果について次のように説明した。

中国建設銀行の経営管理の中には、収入隠匿や不正貸付、高利率預金といった長年延び延びになって解決されなかった問題が存在しているだけでなく、いくつかのルール違反の問題が新たに現れたため、新たな経営リスクも生じた。例えば、一部の支店が制限を超えて個人消費信用貸付やアンタイド消費ローンを行い、これらの貸付が大量に個人向けの株投機や債務売却に用いられているなどがそれである。

審計署が広州の8つの支店の不動産融資に対して抜き取り検査を行った結果、不正貸付は10億元にも達していることが分かった。さらにひどいのは、一部の権力部門の政府関係者が職権を利用して、グルになって銀行融資をだまし取っていたことである。

農業発展銀行とその34の支店の2001年資産負債損益に対する会計検査を行った際、1995年以来、農業発展銀行本店は不正支出報告による資金入手、形を変えた融資による高利率受取などのやり方で「裏金庫」を設け、これによって不法に入手した金額は累計で5736万元に達していることが分かった。

今回の会計検査で明らかになった中国建設銀行、農業発展銀行の経済犯罪案件の手がかりは52件にのぼり、案件は75人の責任者とかかわりがあった。これについて、中国建設銀行は6月26日、会計検査で明らかとなったさまざまな問題はすでに調査、処理され、今年に入って以来474人の責任者が処分されたことを明らかにした。

審計署の関係筋によれば、今年の会計検査は四大国有商業銀行の中で規模が最大の中国工商銀行を重点とし、金融リスクの防止を目標とし、銀行融資の他の用途への利用など重大な違法行為や規律違反問題を告発し、取り締まり、法律に基づいた経営を促すとともに、金融資産の質を向上させる。当面、「資産、負債、損益」を会計検査の重点とする実施計画が出来上がっており、間もなく全面的実施に入ることになる。

ちなみに、全国では18の特派員事務所の約300人の会計検査係りが徹底的な会計検査を行っている。

銀監会、財政部もこれに従って動く

今年2月に開かれた中央金融工作会議では、中国の指導層が何度も「監督管理の強化は金融活動の重点の中の重点である」と強調した。これも政府が今年銀監会を発足させた重要な原因の一つであり、業界は銀監会に大きな期待を寄せている。

中国銀監会主席、前中国銀行董事長の劉明康氏は、中国銀行業の不良資産の割合はかなり高く、かなりのリスクに直面しており、中国のWTO加盟後、商業銀行と銀行監督管理機関に残された時間は限られている、と憂慮している。

4月28日に発足したばかりの銀監会は5月27日、国有商業銀行の貸付資産以外の全体の状況とリスクの状況を全面的に調べるため、最近この四大銀行の貸付以外の資産に対する会計検査の配置を行っていることを明らかにし、また6月24日、四大国有商業銀行のオフ・バランス取引とオフ・バランス取引業務の状況に対する全面的な会計検査を行うという通達を出した。

オフ・バランス取引とは、不確定財産権、委託代理、備考登記及びそのほかの項目を含む四大商業銀行のすべてのオフ・バランス取引に対応する内容である。オフ・バランス取引業務とは商業銀行が取り扱う、現行の会計準則により貸借対照表に記入せず、実際の資産、負債にはならないが、損益を変えられる業務である。具体的には担保、引受業務及びディリバティブという三つの種類が含まれている。

銀監会の関係責任者の説明では、ここ数年来、商業銀行は自らの競争力を強めるため、オフ・バランス取引業務を急速に発展させ、種類と取引量を絶えず増やしてきたが、潜在的経営リスクもそれに伴って顕在化するようになった。オフ・バランス取引業務のリスクは銀行リスクの全体の一部分であるため、商業銀行の全体的な経営リスクの減少を目指すならば、オフ・バランス取引業務のリスクを防がなければならない。

それと同時に、財政部も通達を出し、今年6月から9月中旬にかけて、銀行業を重点とする全国的範囲における会計情報検査を行うことを決めた。

ここ数年、中国政府は銀行の不良資産率を引き下げることを重要な仕事として取り組んでおり、かなり大きな成果を収めた。しかし、各銀行について具体的に見ると、その不良資産率の実質減少率は当該銀行の公表データと一致するかどうかに疑念を抱いている人も一部にはいる。業界筋の分析では、財政部の今回の銀行会計情報検査は、これに対応するためのものである。

金融の安全を守る合同監督管理

6月に入って以来、上海の何人かの不動産業界の大物が「不正融資」で事情聴取されている。中国人民銀行は不動産業の過熱を抑制するため、不動産融資政策を引き締め、一部の銀行の不動産融資の現状について抜き取り検査を始めた。それと同時に、国家審計署、銀監会及び財政部の銀行業に対する合同会計検査が複数のメディアによって報道されてからは、中国政府の銀行業に対する合同会計検査は、経済過熱の兆しを抑制し、緩和し過ぎた貨幣政策を引き締めるためだと考えている人も現われた。

しかし、一部の専門家の見方では、今回の銀行業に対する合同監督管理の目標は、当面のマクロ経済の過熱に対するものではなく、金融の安全を守るためである。

銀河証券金融専門家の苑徳軍氏は次のように分析している。

中国人民銀行に貨幣政策を穏健なものから引き締めへシフトさせるというマクロ環境はまだ現れてはいない。審計署などの部門の銀行業に対する監督管理措置の目標は金融の安全と融資リスクに対応するものである。

不動産ブームの過熱のため、大量の空室や中途でストップした工事が現われる恐れがある。中国人民銀行は延滞債権の増加によって金融リスクが生じることを懸念して、銀行融資の需給をコントロールする対策を取ることにした。これは総量から貨幣政策を全面的に引締めるのではなく、貨幣需給の構造に対する調節である。

安邦グループ研究本部のアナリストの鄒衛国氏の見方では、銀行業に対する合同監督管理の強化は、銀行業の全面的な改革と金融監督管理体系の全面的な始動の到来を前もって告げるものである。2006年には、中国の国有四大銀行が上場し、外資銀行も大挙中国に進出することになり、監督管理部門はさまざまなプレッシャーの中で、金融改革案の早期策定をはかることになろう。

陳明星氏は次のように分析している。

中国国内の銀行では20%の大口預金者が預金と貸付金の80%を占有している。大口預金者にとって、国内銀行より外資銀行のほうが魅力があるようで、外資銀行が中国へ進出したら、こうした資金の構成状況は中国の銀行業にとって非常にマイナスとなるにちがいない。外資銀行の中国進出というプレッシャーを前にして、銀行業に対する各部門の合同監督管理は、間もなく上場する国有四大商業銀行のために最終的な「資産査定」を行うことであり、それによって各銀行の資産の質と経営能力を向上させることになろう。