広がる健康志向

潭 偉

北京にある馬華フィットネスクラブ。数十人がインストラクターの指導の下、音楽に合わせてエアロビクスダンスを踊る。その中の1人、張麗君さんは46歳。専業主婦で、実際の年齢よりずっと若い。「体を鍛えるのは暇な時間を費やすためではなくて、命の源泉だからです」と張さん。彼女は10年前に血液病と診断され様々な治療を施したが効果はなく、体を鍛えて体質を向上させようと試みた。その後、意外にも病状は好転し、今では病魔との闘いから抜け出すことができた。「エアロビクスは私に健康な体をくれただけでなく、新しい友人もできたし、生活を愉しくしてくれる消費ですね」。

SARS(新型肺炎・重症急性呼吸器症候群)が終息した後、運動を重視する人、健康志向の人が増え続けている。最新統計によると、北京で経常的に運動をしている市民は78%と、去年より34%増加した。毎日やっている人はその半数、週に3−4回が37%。馬華フィットネスクラブでは毎日、平均400人前後の人が汗を流しているという。

健康志向の人が増えるに伴い、各地に相応規模の健康広場が建設されている。広州では10カ所に専用の“健康道路”が造られた。北京は緑地建設計画を制定して開放された緑地を拡大するとともに、500メートル以内に公園を設置する目標を5年以内に実現する予定だ。西安も西北地区最大の健康センターを建設中で、瀋陽も750万元を投資して健康広場を建設する計画。

公共の場所以外にも、健康づくり場はいろいろある。1つは、設備の整った専門のフィットネスクラブ。いま1つは、外国人専用ホテル付属のフィットネスクラブ。そして団地にある大衆向けの健康センター。

現在、北京のフィットネスクラブや健康センターの数は百を超える。性別や年齢、性格、身体的特徴、経済状況の違いから健康志向に対するニーズも異なる。エアロビクスにしても目的や好みは様々だ。今年20歳になる任燕さんは、馬華フィットネスクラブに通って既に1年になる。彼女は「健康づくりは科学的で個性的でなければ。人それぞれの身体に合った運動方法を選ぶべきです。クラブは環境もいいし、系統的に指導してくれる。初心者にはこれがすごく重要ですね」と話す。「男性は壮健な筋肉を持つべきですよ。クラブに通いだした目的は、インストラクターになるためです」と、学生時代に健康づくりを始めた王鋼さん。

だが、スポーツ、特にクラブ通いは大多数の人にとってはお金のかかること。例えば、北京で週に1回、水泳やバドミントンをした場合を例にすると、プールの入場料は約20元。往復タクシーに乗り、飲料を買ったり食事をしたりすれば、1回で100元は消費する。バドミントンは1コート1時間で35〜50元。羽代やタクシー代などを入れれば100元を超してしまう。2種目楽しめば、1カ月に要する費用は600〜800元、1年で8000元になる。サラリーマンにとっては大きな負担だ。

公共の健康広場は無料だが、クラブに入るには料金に違いはあるが入会金や年会費を払わなければならない。青鳥フィットネスクラブは高級で知られているが、入会金と年会費合わせて7000元と高額であっても、健康志向の人には別に驚きでもない。開業以来、会員は既に8000人を超えたという。外国企業も健康市場に熱い視線を注いでいる。世界3大フィットネスクラブの1つである英国フィットネス・ファースト・グループは、2002年に北京のCBOビジネス地区に「The Span」を開設した。それに続いて、中米合弁の「中体倍力健身倶楽部」がオープン。米国側企業は世界各地に430のチェーン店を構えており、会員数は全世界で40万人。オープンした理由について、同倶楽部の万驪華総裁は「2008年のオリンピック開催、現代化された国際都市に照準を絞って北京を選んだ」と話す。

健康づくりは消費の面でハードルは高いものの、それでも健康のために“高消費”を望む人は少なくない。22歳になる羅??さん。コンピュータ画像の処理・設計が彼女の仕事だ。月収は僅か600元だが、1カ月にフィットネスにかける費用は2000元。両親が払ってくれるという。「前はすごく太っていたし、体質も良くなくて、病気ばかりしていたので、ダイエットトレーニングに参加したのです。インストラクターが私のためにダイエット計画を作ってくれてトレーニングを始めたのですが、3カ月で23キロ減りました。今はすごく健康だし、両親やボーイフレンドは綺麗になった、性格が明るくなったと言ってくれます」と羅さん。今の自分に頗る満足の羅さんは「両親はごく普通のサラリーマンですが、クラブ通いにすごく賛成してくれたし応援してくれました。フィットネスはボディラインの維持や健康保持に非常に重要だと思います。そのための消費は惜しんではだめですね」と話している。

より多くの会員を呼び込もうと、各クラブは様々な策を講じている。フィットネスローンも登場。青島健身倶楽部の李?社長は「中国建設銀行と提携して、フィットネスローンを開設しました。会員になれば、5000元の年会費は分割払いできます。収入の少ない人でも会員になれるようにしたのです」。

健康志向が広がる中、フィットネスクラブを積極的に開設する動きもあるが、従来からの制限が障害となってなかなか国際レベルには達していない。しかもクラブの立地条件は特別。幅広いしかも空気の流れの良い空間が必要であるため、現有の商業施設ではこの基準に合わない。クラブ開設に対する政府の優遇政策も少なく、運営コストも高いのが、料金を引き下げられない要因だ。米国では1ヶ月の会費は20ドル余りに過ぎないが、国内の最も一般的なクラブでも月に300元は必要。クラブに通いたいと思っても、おのずと足が遠のいてしまう。

健康づくりの条件は改善すべき点が多々あるが、人々の強い健康志向を阻止することはできない。ハルビン理工大学の楊文超教授は「健康な体、健康な心の基礎は、幸せな生活と仕事だ」と指摘する。楊教授が言うように、健康づくりという消費は単純な消費ではなく、一種の“投資”であり、求める報酬は健康だけでなく、気持ちの愉しさだろう。