世界経済と中国経済に対する「911事件」の影響

――中国の専門家3氏に聞く

専門家のプロファイル

甄炳禧 研究員、現在は中国国際問題研究所副所長で、以前にニューヨーク駐在中国総領事館領事を担当したことがあり、長年世界経済と国際経済関係の研究に従事し、『外債――第三世界諸国の桎梏』、『大変革――21世紀に向かう世界経済』(共著)、『アメリカの新経済』などの著作がある。

梁優彩 経済オブザーバー、評論家、国家情報センター高級経済顧問、長年マクロ経済モデル方法の研究、中国経済と世界経済についての分析と予測に従事し、中国Linkグループの仕事を主宰し、『中国のマクロ経済のモデル』(国連世界経済モデルシステムにおける中国のモデル)の改版、更新の仕事を担当している。

胡堅 教授、博士コース大学院生の指導教師、現在は北京大学経済学院副院長兼金融学部主任、北京大学中国金融研究センター主任、第三世界女性科学者学会会員で、『アジア――金融危機後の再飛躍』、『日本の金融――危機と変革』などの多くの学術的専門著作、2冊の訳著を出版した。

9.11事件」とアメリカ経済の衰退

 問 911」テロ事件は、軟調のアメリカ経済と世界経済にとっては、泣き面にハチであった。20011126日、アメリカは 「経済が衰退期に入った」と正式に発表したが、これはアメリカと世界にとって何を意味しているか。

 甄炳禧 「911事件」は突発的事件で、アメリカ経済と世界経済に対する役割は「泣き面にハチ」にすぎない。それは供給と需要を通じて経済に影響を与え、アメリカの直接経済的損失を1000億ドルに増やし、世界経済の損失を3500億ドルに増やし、さらに多くの数量化しにくい損失をもたらし、人々に自信を失わせ、消費の需要と投資の意欲をなくしたが、それは経済が衰退の直接の原因ではない。「911事件」はアメリカ経済をいちだんと衰退させ、アメリカ経済と世界経済の回復を遅らせたと言うことができる。

 アメリカ経済の衰退の原因は、一つは周期的な生産過剰がもたらしたもので、特に数年前のIT産業への投入が多すぎて、経済衰退の可能性が潜んでいる。二は株式市場のバブル崩壊によって引き起こされたもので、特にナスダック指数の暴落が経済衰退の導火線となった。三は政策的要素によって生み出されたもので、1999年の経済過熱と石油価格上昇の情勢の下で、アメリカ連邦準備制度理事会は引き締め通貨政策を実施し、経済衰退の温床となった。四は構造的要素が累を及ぼしたもので、巨額の貿易赤字、会社と家庭の多額債務と低い預金率が経済成長を制約した。

 季節でたとえるならば、2000年の世界経済情勢は「春」であり、ここ10年来最もよく、経済成長率は3.8%(世界銀行のデータ)であった。2001年は「冬」で、世界の経済成長率は急に1.3%前後に下がり、1991年来の最低となった。

 どうしてこのように大きなコントラストが現れたのか。私個人の考えでは、これは主に経済のグローバル化と情報化の時代に、各国の経済が互いに依存し合う程度が高くなり、それより重要なのは、アメリカ経済が世界経済において重要な位置を占めていることで、その発展の方向が世界の経済と貿易の各分野及びその他の国と地域の経済に重要な影響を与えている。アメリカ経済の衰退は世界の経済成長の「牽引車」としての役割を果たせなくなり、世界経済の衰退はアメリカ経済のリスクが急速に伝わっていった結果である。

 具体的に言えば、貿易の面で、アメリカが世界輸出入貿易総量の約25%を占め、世界のIT製品の最大の吸収地でもあるため、その経済の軟調は貿易ルートを通じて直接または間接的にその他の国と地域の経済に影響を及ぼしている。株式市場の面で、アメリカが世界の株式市場総額の46%を占めているため、アメリカの株式市場のバブル崩壊の後遺症は世界の株式市場に広がっている。推測によると、20009月から20019月までに、世界の株式が11兆ドルも減少し、そのうちの日本とヨーロッパの株式の市場価格はそれぞれ2兆ドルと15000億ドル減った。投資の面で、アメリカとヨーロッパの多国籍企業の欠損と多国籍買収のブームが下火になったことは対外直接投資の減少をもたらした。

 問 ごく少数の学者の考えでは、アメリカ経済の今度の衰退は短期間のものではなくて長期にわたるものであり、日本のように再起不能になるかもしれない。より多くの専門家はこのような見方に賛成せず、彼らはアメリカ経済を10年前の日本経済と同一視することができないと考えている。それでは、アメリカ経済の回復におおよそのタイムテーブルがあるかどうか。

 甄炳禧 大きな意外がなければ(たとえば戦争規模の拡大やテロ報復活動のエスカレートなど)、アメリカ経済は今年の第1・四半期に停滞状態にあり、第2・四半期から回復しはじめる可能性はあるが、年間を通じて低成長である。というのは、テロ事件がアメリカ経済に与えた消極的影響は一時的なもので、限られたものでもある。「911事件」は根本からアメリカの経済的土台を揺がしておらず、経済と金融体系を崩壊させなかった。テロ事件によって世界貿易センタービルにある多くのアメリカの金融会社を壊滅させたにもかかわらず、アメリカの金融体系または金融市場を麻痺状態に陥れるようなことがなく、株式市場は4日間休業したあと再開し、損害を受けた金融会社は速やかに回復した。ノーベル経済学賞の獲得者ジョセフ・E.スティグリッツ氏(JosephE. Stiglitz)によると、経済不況による脅威が存在しておらず、データが表明しているように、基本経済のテロ事件に対する反応は秩序だったもので、人々がやたらに驚きあわてたにすぎない。アメリカ経済顧問委員会は1970年以来の20数回の大災害に対する研究が表明しているように、すべての災害が経済に与えるマイナスの影響は一般には普通一四半期を超えるようなことがなく、災害後の再建は往々にして経済の回復に役立っている。特に、現在、アメリカ経済にはいくつかの有利な要素が存在している。たとえば、アメリカ連邦準備制度理事会が「911事件」のあと何回も利率を大幅に引き下げたこと、政府の支出増加が経済の回復を促進する重要な要素となったこと、建築業が依然としてその経済の重要な成長要素の一つであること、アメリカがヨーロッパ、日本とマクロ政策協調を強化し、利率、為替レート、資金流動の方向などの面で協力し、金融市場の安定を維持していることなどがそれである。

 これと同時に、2002年のアメリカ経済の回復の勢いが大きくなく、強い原動力に欠けている。これは主に経済運営そのものに次のような制約要素が存在しているからである。一は、ハイテク産業の調整がまだまだ終わっておらず、生産過剰と財務悪化(会社の債務がGDPに占める割合が150%に達する)の状況の下で、企業が新しい設備投資の高まりを盛り上げるのが難しい。二は、株式市場の価値超過が依然として深刻なもので、それに企業の利潤獲得の見通しが相変わらず明るくないため、近い将来に株価が持続的に大幅に反騰するのが難しい。三は、失業率が引き続き上昇するため、家庭の可処分収入が下がる可能性があり、そのうえ家庭債務が相変わらず大きく、預金率が下がり、消費者の支出に新しいブームが現れるのが難しい。四は、世界経済が軒並みにスローダウンし、アメリカ経済の外需拡大のスペースが限られたものである。

911事件」後の世界経済の発展方向

  2002年の世界経済の発展方向はどうか、それは主にどのような要素によって決定づけられるのか。

 甄炳禧 私の見方では、今年の世界経済の見通しは依然としてアメリカ経済の発展方向によって決定づけられる。具体的に言えば、主に以下の4つの重要な要素によって決定づけられる。

 一、マクロ経済政策の役割。通貨政策の面では、米連邦準備制度理事会は2001年に11回も利子を引き下げ、連邦基金の利率をここ40年来の最低水準に引き下げた。ヨーロッパ中央銀行、イングランド銀行なども利率引き下げを行っている。低利率は消費支出を増加させる上で役割を果たし始めた。財政政策の面では、アメリカ政府の大幅な減税と支出増加は、資本収益税と企業所得税の減少や低収入家庭への補助金提供および失業救済の増加などにかかわるが、企業の投資と消費支出の役に立つものである。

 二、消費者の支出。アメリカのGDP3分の2を占める消費者支出は、経済の回復にとって極めて重要である。2002年に、消費者の自信と支出は次第に回復し、経済回復の主な原動力となる。消費者の支出を促進する積極的要素は、利率引き下げと減税のほか、不動産価格と株価が安定を保ちながら上がることは消費者の支出の重要な拠り所であり、また、長期利率などの要素は消費者に一部の費用を節約させる。これはその購買力を増やすのに等しい。しかし、前の方で話したように、さまざまな要素は消費者の支出を制約するだろう。

 三、「新経済」の調整。IT産業への投資とその生産は5年前の好調から低迷に変わったことは、「新経済」の終結を表明するものではなく、生産と市場関係の調整である。最近の状況から見て、「新経済」の調整は依然として目的を達していないが、アメリカの各級政府が政府の安全機能を強化するため、今後多額の資金を支出して情報技術設備を購入するようになり、その他の国では、IT、特にソフトとサービスに対する需要の増加によって、生産過剰が改善されるが、企業の利潤が予想より少ないため、2002年に、企業が投資と生産の新しいブームを盛り上げるのは難しいだろう。

 4、反テロ行動の発展方向と影響。アフガニスタンで行った反テロ戦争がわりに順調に進められているため、株価と原油価格は有利の方向に向かって発展している。しかし、反テロ戦争の規模と範囲が拡大され、しかも長期にわたって続いていくと、原油価格、消費者と投資家の自信は新たな、より大きな打撃を受けるだろう。しかし、持続的な戦争は経済を刺激するだろう。

 梁優彩 「911事件」はもともと人々の気を落としていた世界経済をいっそう悪化させた。ごく一部の先進国、特にアメリカから始まった経済成長のスローダウンは、ますます多くの国と経済実体に広がっていった。たとえば、国連LINK世界マクロ経済模型のアナログ分析によれば、アメリカの経済成長率が1%下がるごとに、世界貿易の成長率は0.87%下がる。

 他方、テロ事件のいま一つの明らかな結果は、多くの先進国と経済実体がそれぞれのマクロ経済政策を調整し、より緩やかな通貨政策とより拡張された財政政策を実行したが、これらの政策はいずれもより刺激的なものである。しかし、当面の周期的な低迷の時期において、通貨政策の刺激作用は限られているかもしれない。その一部の原因は新しい経済環境下の若干の特徴によって、企業が短期政策の変化に敏感でなくなり、しかも自信がとくに低い時、経済の中に「流動する落とし穴」が現れる可能性があり、緩やかな通貨政策の作用が効果をあげられなくなる。このほか、長期わたって拡張された財政政策の効果にも問題があり、個人投資を部分的に排斥し、労働生産性の向上に響く可能性がある。

 長期から見て、われわれは「9.11事件」、特に軍事行動と政策調整が一部の国の内部及び国と国の間の資源の再分配に与えた影響を無視すべきではない。事件で誘発された公共部門と個人部門の軍事と安全面の支出増加は、より多くの資源が生産分野から生産以外の分野へ移されることを意味し、その結果は世界経済、特にアメリカ経済の長期成長率がマイナスの影響を受けることになる。それと同時に、軍事行動を絶えず拡大し、その持続時間が長ければ、国際貿易と資本流動のモデルと規模は明らかに変わる。共同でテロリズムに反撃する必要から、一部の発展途上国に対する発展援助を増加する可能性もある。しかし、世界政府発展援助資金の総額はさらに減少する。国際金融市場の相互影響と株市場の価格下落の相互伝染が著しいものであるとはいえ、国際貿易は依然として国際経済活動の国と国の間で伝播する主なルートである。2002年の世界商品貿易量は年内に再び増加するようになり、年間伸び率が5%前後に達する希望がある。

 それと同時に、国際個人資本の国際間流動も少なくなる。最近の国際投資家の投資リスクが大きくなっているため、2002年に発展途上国と体制転換国に流入する個人資本も著しく減少すると見られる。同時に、「9.11事件」の影響で、発展途上国と体制転換国の国際市場における融資コストも明らかに上昇する。

 国際商品価格の動きが以前の予測にわりに接近しているにもかかわらず、「9.11事件」は潜在する需給の動態均衡を複雑なものにしてしまった。

 外国為替市場では、「9.11事件」によってドルとその他の主要な通貨の間の為替レートに転換点が現れた。

 当面の経済成長のスローダウンは疑いもなくグローバルな現象であるが、しかし、その程度は国と地域によって違っている。例えば、日本経済はずっと衰退の中にあり、その大多数の問題は国内問題と構造問題であるが、アメリカ経済の衰退は日本経済の衰退を激化させた。2002年に日本経済が回復するのはとてもおぼつかないことである。

 ヨーロッパでは、多くの先進国の経済成長が低下する最初の原因は主にアメリカからきた外部の衝撃であったが、後にこの低下は逐次内部の要素に主導されるようになった。ヨーロッパ中央銀行の大幅な利率引き下げと石油価格の低落は、2002年のヨーロッパの経済回復をある程度支持するだろう。

 その他の先進国がアメリカの影響を受ける程度は同じではなく、アメリカ経済の衰退がカナダ経済に与えた影響は疑もなく著しいものであるが、オーストラリアとニュージーランドに与える影響ははるかに小さく、この二国の経済成長の下落もずっと緩慢である。

 発展途上国にとって、最も大きな影響を受けたのはアジアの経済実体である。これは主に対米輸出と対日輸出が減少し、全世界の情報と通信部門に衰退が現れたためである。それと同時に、自信が持てなくなったため、同地域の株式市場は続落している。

 中南米の経済成長も著しく悪化し、アメリカ経済の衰退の波及効果が同地域の対外経済を悪化させるのは必定である。

 世界経済のように低迷していないのはアフリカ経済である。北部と西部アフリカの一部諸国の経済成長率に対する予測の引き下げは、主にこれら諸国の政治情勢の激動あるいはその他の国内要素によるものである。

 2001年、アメリカ経済の衰退は独立国家共同体と東欧、中欧の多くの体制転換国(ポーランドを除く)の経済にほとんど影響を及ぼさなかったが、2002年も大きな影響を及ぼさないだろう。

 しかし、世界の反テロ戦闘は中央アジア、南アジア及び西アジアの一部諸国の経済に影響を及ぼし、そのGDPの成長を明らかにスローダウンさせるだろう。各国の地理的位置、国内の政治と経済情勢が明らかに異なっているため、反テロ戦闘の各国経済への影響もかなり大きな違いがある。

中国経済に対する「9.11事件」の影響

 問 中国と世界経済の関係はますます密接になり、そのため世界経済に低潮あるいは衰退が現れる時、中国は多かれ少なかれ遅かれ早かれショックを受けるが、「9.11」テロ事件は中国経済に対しどのような直接的影響を与えた

か。

 梁優彩 私は、「9.11事件」が主に中国の輸出増加、国外への直接投資、デフレ、人民元の切り上げ、消費者の自信など5つの方面に最も直接的な影響を与えるものと思っている。

 問 輸出は経済成長の重要なエンジンであり、「9.11事件」発生後、それは中国経済にどれだけ大きな影響を与えたか。

 梁優彩 中国に対する9.11事件」の最も直接的な影響は輸出である。これ以前に、世界経済はすでに低潮に陥り、テロ事件が発生した後、北米、ヨーロッパ、東アジア地区の多くの国と地域の輸入需要がいちだんと下がっている。現在、これらの国と地域に対する中国の輸出は輸出総額の83.6%前後を占めている。そのうち、アメリカは21.5%を占め、日本は16.6%、EUは15.0%を占め、アジアの新興工業化地区は30.5%である。GDPに占める中国の輸出、輸入の割合はすでに1970年の4%から現在の40%以上に上がり、そのうち輸出の占める割合は約20%前後である。そのため、アメリカなどの国と地域の輸入需要の低下は必ずや中国の輸出増加のスローダウンを招く。これは必然的に中国の経済発展に影響を及ぼす。また指摘しなければならないのは、統計データによると、昨年の第2・四半期から、中国の主な貿易パートナーの輸出入伸び率が著しく下がり始め、そのうち東アジアの新興工業化地区の一部経済実体の輸出入に数カ月連続してマイナス成長が現れていることである。国連の予測によると、世界の2001年の商品貿易量はゼロ成長になり、「9.11事件」以前の予測よりも6%も低くなる。2002年の中期に回復的な成長を始める可能性があり、年間5%前後成長する見込みである。世界経済と各国貿易の成長に対する国連の予測を基礎とし、中国貿易と世界貿易との関連のある関係に基づいて、「9.11事件」が中国の2001年の輸出伸び率を約2%低下させ、2002年の伸び率を約6%低下させると推算することができる。そのほか、「9.11事件」の影響を受けたため、中国のサービス貿易、特に観光業の収入伸び率も著しく下がる。

 問 「9.11事件」が中国の輸出に不利な影響が与えたとはいえ、國際には中国の政治安定と経済発展の局面が国際資金の中国への流動を速めさせると考える人がいる。2人の専門家はこれをどう見るか。

 胡堅 国際上のこのような観点はもちろん一定の道理がある。なぜなら中国の経済と政局の発展が比較的よく、国際投資と国際資本が中国で新しい「オアシス」と「立脚点」を探し出せるからであるが、全体から見て、「9.11事件」は多国籍投資企業の普遍的な恐怖的心理と不確実性を増大させた。これはそれらの企業にすべての国に対する投資を減らさせる可能性があり、中国の経済が発展し、政治が安定を保ち、国際投資に対しますます大きい吸引力があっても、やはりある程度影響を受ける。

 梁優彩 私も、中国は外資を導入する面で楽観できないと思う。2000年、中国は発展途上国の中で国外の直接投資を最も多く吸収した国で、総額は407億ドルに達した。2001年には、世界の大多数の国の経済成長が著しくスローダウンするため、中国は世界の経済成長の最も速い国の一つとなり、その上中国のWTO加盟という有利な要素を加えて、中国に流入する国外の直接投資は急速増加の勢いを見せている。1月から9月までの国外の直接投資は累計3219600万ドルに達し、2000年同期より20.7%伸びた。しかし、2001年第2・四半期以降、国際上の主だった資本輸出国の経済が大きな困難にぶつかったため、資本輸出が減り、昨年の全世界の国外直接投資が明らかに減少した。「9.11事件」後、このような減少の傾向は更に明らかになった。世界銀行の予測によると、昨年発展途上国に流入した国外の直接投資はわずか1600億ドルで、2000年より800億ドル少なく、33.3%下がる。このような低下は中国の国外直接投資導入に対し明らかなマイナス影響を及ぼした。もちろん、それと同時に、「9.11事件」は世界の多くの国の経済成長率を大幅に下がらせたが、中国経済は引き続きわりに速い成長を保ち、外資導入の強みをそれ相応に高め、外資の中国流入を促進している。しかし、総合的分析によると、「9.11事件」が中国の国外直接投資導入に与える影響はやはり利益より弊害が多い。そのため、もし「9.11事件」が発生しないならば、昨年と今年中国に流入した国外直接投資はいっそう速く増加するだろう。 :それでは、あなた方は中国がどのようにすれば国際資本に対しもっと大きな吸引力があると思うか。 胡堅 中国にとって言えば、そのするべきことは引き続き政策の連続性と安定性を保ち、世界情勢全体が不安定な状況の下で、積極的な財政政策と穏健な貨幣政策をとって、中国経済の成長と政局の安定を保ってこそはじめて中国は国際資本に対しもっと大きな吸引力をもつことができるのである。そのほか、中国がWTOに加盟した後、外資の導入あるいは対外開放を加速しなければならず、内国民待遇、市場参入などは中国にはまだ5年の時間があるにもかかわらず、いまからそのプロセスを加速し始め、より多くの国際資本を導入しなければならない。それから危機予防に対し心構えがなければならない。国際資本も一部のマイナス影響をもたらし、一定の問題をもたらす可能性があるため、中国はこの面で監理、防止、抑制にいっそう力を入れ、特に法制と法規の健全化でいっそう力を入れ、立法をよくしなければならない。私は、いま中国が国際資本、直接投資あるいは間接投資を健全に発展させる理想的な環境づくりの面でまだかなり長い道を歩まなければならないと考える。

 甄炳禧 中国は「WTO加盟」をきっかけとして、経済構造と経済体制の改革を速め、投資と商売の環境をいっそう改善し、外資の中国流入増加の可能性を現実性に変え、中国の輸出減少の不利な状況をカバーしなければならない。

  データの分析によると、「9.11事件」の前に、中国のデフレの圧力は大きくなり始めた。「9.11事件」の後、このような圧力は間違いなく大きくなると判断する人がいる。梁先生はどう見るか。

 梁優彩 確かにそうだ。「9.11事件」は中国のデフレの圧力を大きくした。1997年の東アジア金融危機の影響を受けたため、1998年から1999年にかけて、中国は2年連続してデフレの特徴がいくつか現れ、物価全体のレベルは引き続き下がっている。2000年にデフレが初歩的に抑制され、物価全体のレベルが再び上昇を始めた。積極的な財政政策はこの結果の主要な原因で、国内需要を刺激して力強く回復させた。そのほか、国際市場の石油価格の大幅な上昇も中国の物価が再度上昇する重要な原因である。中国国内の商品価格の変動は国際市場価格の動きと密接な関係があり、そのため、国際市場価格の下落は中国のデフレの圧力を大きくする。それより重要なのは、輸出増加がスローダウンし、国内の消費増加が速くないため、国内の供給が必要より大きいという矛盾は先鋭化する。そのため、2002年に中国のデフレの圧力が大きくなると思う。

 問 梁先生、現在、人民元の利率はドルの利率より高くなり、ヨーロッパの主要な通貨との利率差も明らかに縮小している。このような原因から、あなたは人民元に平価切り上げの圧力があると考えているのかどうか。

 梁優彩 人民元の為替レートの変動は主に国内外の経済成長の格差、国際収支の均衡状況、人民元と主要な国際通貨との利率差などの要素の変化によって決定付けられる。「9.11事件」の後、これらの要素の変化は人民元に対し平価切り上げの圧力を生じた。

 2001年、中国経済は引き続きわりに速い成長を保ち、第1・四半期から第3・四半期までのGDP成長率は7.6%に達した。「9.11事件」の影響を受けたにもかかわらず、第4・四半期の中国の経済成長はスローダウンする可能性があるが、積極的な財政政策の支持とWTO加盟の有利な要素による刺激で、年間のGDP成長率が依然として7%以上に達することができる見込みである。中国経済の景気周期とより積極的な財政政策に対する好ましい予想に基づいて、2002年の中国経済が依然として7%前後の成長を実現し、世界の平均成長レベルよりはるかに高く、中国と主要な先進国の経済成長率は依然としてかなり大きい格差を保ち、人民元の強い状態を保つのを支えるものと信じる。

 1994年から、中国の国際収支は毎年黒字であり、外貨準備は絶えず増加してきた。1994年から2000年までの中国の貿易は連年輸出超過で、国際収支は引き続き黒字である。現在、中国の外貨準備高はすでに2000億ドルを上回り、これは人民元に対し平価切り上げを支える力となっている。

 ここ数年、人民元の利率はドルとヨーロッパの主要な通貨の利率より低く、中外通貨の利率差は人民元に対し切り下げの圧力を構成する。だが、2001年以降、経済の低迷を抑えるため、米連邦準備制度理事会は連続して利率を引き下げ、絶えず貨幣政策をゆるめ、人民元とドルの利率差をちくじ縮小させている。「9.11事件」の後、2カ月足らずのうちに米連邦準備制度理事会はまたも数回連続してドルの利率を引き下げ、経済衰退はドルに切り下げの趨勢を出現させている。人民元の為替レートを決定する基本的要素から見て、人民元は平価切り上げの圧力を見せている。「9.11事件」の経済に与えるマイナス影響をを軽減するため、中国は積極的な財政政策を実施すると同時に、いっそう緩やかな通貨政策を実施すべきである。しかし、いまのところ、人民元の1年期預金の利率を引き続き引き下げる空間も限られている。

 問 「9.11事件」は中国の消費者の自信にも不利な影響を及ぼしたが、他方では中国はいっそう内需を拡大しようとしている。この矛盾をどう解決すべきであると思うか。

 梁優彩 テロ事件のもたらした心理的なショック、恐怖、憂慮と不安全感は、中国の消費者の自信にも影響を及ぼす。「9.11事件」の後中国の主要な貿易パートナーの経済に衰退が現れたため、中国製品に対する国際市場の需要が下がっている。その結果、中国の一部企業の稼働率が下がり、レイオフする人数が増加する。失業者の増加は必然的に消費者の自信のいっそうの低下を招く。関係ある統計データによると、9月の中国の消費者の自信指数は8月よりいっそう下がった。需要の深刻な不足の状況の下で、消費者の自信の低下は、住民の消費のための支出を減らし、そのため、消費増加がスローダウンして経済成長の低下を招き、経済成長の低下が必然的に住民の収入増加の低下を招き、これがまた消費者の自信を引き続き低下させ、消費者に消費の支出をいちだんと減らさせ、経済の成長をいっそうスローダウンさせるという悪循環を形成する可能性がある。そのため、自信の回復を安定させ、促進することは、現在の中国のマクロ経済政策の核心であるべきである。

 長い目から見て、中国の輸出増加は依然としてスローダウンするが、輸入増加はいくらか速くなる。こうすれば、貿易の黒字は年を追って減少する。このような状況の下で、中国は主として内需に頼って7%以上の経済成長を維持する。今年、中央政府は住民の消費特に農村住民の消費の増加を促すことをマクロ経済政策の重点の一つとしなければならない。1996年に入って以来、中国の農産物と副業生産物の価格は毎年平均7%余り下がり、農民の生産額は毎年3%余りしか増えない。こうして農民の収入は減少する。農民の収入問題を解決するには、農民の負担を軽減し、それによって生産を拡大し、生産を発展させ、農村の基礎的な消費環境と施設をちくじ改善しなければならない。

 問 9.11事件」の後、中国の株式市場は欧米の株式市場のように恐慌に陥らなかったが、いま中国の株式市場も低迷する状態に置かれている。胡教授はこの原因がどこにあると思うか。

 胡堅 私は、中国の株式市場に問題が生じても、その原因は恐らく国際金融市場の影響を受けたことではないと思う。なぜなら、人民元が自由に兌換できないため、外資はB株の投資に頼ってのみ中国に進出することができるのであり、A株市場と比べて、B株市場は非常に小さい。一部の外資企業の上場を許可したばかりであるが、これは限られたもので、そのため、欧米の株式市場のように連鎖性と世界的な恐慌に陥ることがないだろう。でも、中国の株式市場は現在確かにとても低迷しているが、これは自身の原因がわりに多く、上場企業、証券機構の問題がわりに多く、会計士事務所の信用問題を含めて、差し迫って解決が待たれている。特に昨年、監理にいっそう力を入れたため、問題がより多くなったように見える。もちろん、投資家の自信は一定の影響を受けるだろう。実際には、中国の株式市場は制度全体の構造の面でなおも完全にする必要があり、特に政府は株式市場の管理の面でまだあまり熟していない。政府が株式市場に干与する行為はまだ多く、昨年中国の株式市場の何回かの起伏は政府の政策の変動と大きな関係がある。私は、政府は比較的穏健なあるいは市場化の方式で株式市場を監理すべきであり、さもなくば、株式市場の起伏がとても大きくなると思う。

 指摘しなければならないのは、一国の金融市場は決して株式市場であるばかりではなく、それは有機的な構成部分にすぎず、現在多くの問題も単に株式市場の問題ではなく、同様にその他の金融市場の問題もある。実際には、株式市場の整備は、銀行市場、債券市場、同業者コール市場などその他の市場の発展と整備から離れられない。つまり、株式市場を発展させると同時に中国のその他の金融市場を構築し、改善することにも留意し、金融のイノベーションにいっそう力を入れ、株式市場をそれらと同時に発展させるべきである。

 問 中国の経済成長を促すのは投資、消費、輸出である。梁先生は、自身の指摘した「五大影響」を前にして、これらの影響を軽減できる方法があると思うか。

 梁優彩 私の話した「五大影響」については、その総合的な結果は昨年と今年の中国経済の成長率の低下、デフレの圧力の上昇である。そのため、「9.11事件」のマイナス影響を軽減し、引き続き国民経済の快速成長を保つため、中国は引き続き内需拡大の方針を実施する必要があり、積極的な財政政策にいっそう力を入れるとともに、金融規制を緩和し、通貨供給を増加しなければならない。それと同時に、輸出を奨励する政策と措置を制定し、できるだけ海外市場を切り開き、輸出製品と地区構造を調整し、市場多元化の戦略をいちだんと推し進めなければならないが、これは長期の過程であり、目下、中国は効果的な措置をとって輸出を拡大し、元の市場を確保し、新しい市場を開拓すべきである。そのほか、さきほど話したように、投資と商売の環境をいちだんと改善し、もっと多くの外資を導入するように努めなければならない。