911」事件が国際情勢と中米関係に与えた影響を評す

国防大学国際関係教学研究室教授  江凌飛

 「911」事件は世界の歴史の進行過程に重大な影響を及ぼす事件で、転換性と中枢性の意義がある。世界の歴史に対するこの事件の深遠な意義は、それ自体と後続の発展がグローバル化の三つの基本的趨勢を現していることにある。 第一はグローバル化が各国に関わる趨勢である。テロリズム勢力がアメリカ本土の心臓部に加えた壊滅的な打撃は、当面の世界の安全に対する脅威が世界強国の防御線を超えることがまったくできることを物語り、世界の相互関係がすでに隅々にまで広がっていることを示している。これは反面から、グローバル化によって、各国が経済面だけでなく、安全面でも関連がますます緊密になり、誰もが他人を損なうだけで自分を傷つけないことができないことをいちだんと裏付けている。各国は経済面だけではなく、安全面でも互いに依存し合っているのである。

第二はグローバル化が世界を統合する趨勢である。われわれは以前、経済のグローバル化しか語らなかった。これはとくに全世界における市場経済、自由貿易の普及、冷戦後の経済の区域化と一体化の急速な発展、およびここ数年来の大手多国籍企業の大規模な併合・買収と拡張活動に際立って現れている。しかし、経済は最終的には政治を決定づけるものである。世界経済のグローバル化はある程度まで発展すると、その内在の論理は非然的に、世界範囲における政治面の統合を要求する。問題は政治面の統合が必要であるかどうかにあるのではなく、誰が統合をするのかおよびどのような方式で統合をするのかにある。アメリカが「911」事件の提供した世界反テロ戦争の機会に乗じて、アメリカ主宰下の統合を実現しようとしているのは確かである。というのは、経済のグローバル化の中で最も多くの利益を獲得した国として、アメリカが政治面からその既得利益を強固にし、拡大しようとしているからである。

 第三はグローバル化が矛盾を分化させる趨勢である。国際テロリズム現象は結局、グローバル化の過程で、国際社会の貧富の二極がひどく分化し、西側文明と非西側文明の矛盾と衝突が空前に激化する極端な表現形態である。

911」事件によって示されたこの三つの趨勢は、実際には国際政治のグローバル化の趨勢を集中的に顕示している。これはつまり安全問題発生のグローバル化、安全に危害を加える脅威のグローバル化、安全を守る行動のグローバル化である。これはとりもなおさず「911」事件が明示した将来の世界の発展方向である。この事件の転換的と中枢的な意義は、実際にはそれが世界の政治時代あるいはグローバル化の政治時代の到来を宣告したことにある。

そのため、「911」事件を観察するにあたって、より重要なのはアメリカと国際社会の後続の反応を見ることである。これは事件自体の一構成部分で、ひいてはテロ分子がビルを爆破することよりさらに重要である。というのは、この事件が国際情勢に及ぼす最終的影響が結局、アメリカが反テロ戦争をどう進めるかおよび効果をあげるかを見なければならないからである。

 新世紀におけるアメリカの世界戦略目標は、政治面から世界を統合し、アメリカが単独で世界を指導するのを実現することである。国際テロリズムを処理、解決することは、アメリカに世界で大規模な行動をとる理由と便宜を提供した。冷戦後、アメリカは湾岸戦争を通じて中東をコントロールし、コソボ戦争を通じてヨーロッパをコントロールし、アフガニスタン戦争を通じて中部アジアをコントロールしている。戦争をするたびに、アメリカの同盟がさらに拡大され、アメリカが組織する国際共同行動の規模も大きくなる。湾岸戦争は西側連盟と一部のアラブ諸国が参加し、コソボ戦争はNATO全体とヨーロッパ全体が参加し、アフガニスタン戦争では、アメリカはほとんど全世界を動員した。アメリカは反テロ戦争を組織し、国際反テロ同盟を結成することを通じて、アメリカが世界を指導する目標に向かって大きく一歩を踏み出した。

 しかし、「911」事件は中米関係悪化の局面を転換させ、中米の戦略的協力の大局を安定させ、総体的に有利な国際安全環境を引き続きつくり出すことに重要なチャンスを提供した。これは主として次のような三つの方面に現れている。

 1、中国が主な競争相手と見なされる安全面の苦境とプレッシャーがある程度で緩くなった。

 「911」事件が中国に提供した有利なチャンスは、同事件が国際社会の主な矛盾の順序に変化を生じさせ、東西側の矛盾(現実には単極と多極との矛盾、アメリカと中国、ロシアとの矛盾として現れている)に再び緩和に向かうという重要なチャンスを出現させ、南北の矛盾をいちだんと突出させ、南北の矛盾と関係ある国際社会と三つの勢力(民族分裂勢力、宗教極端勢力、テロリズム勢力)との矛盾を急に最も先鋭な矛盾に上昇させた。これは、アメリカに主要な脅威がどこから来るかという判断を変えさせ、ブッシュ政府にもともと中国をアメリカの最も現実的な戦略相手と見なす認識を変えさせ、国際矛盾の焦点になる可能性のある中米間の緊張関係をある程度緩和させた。

 2、中米双方は国際テロ勢力に打撃を加える面で新たな利益の結合点を探し当て、これは中米関係の大局を安定させるのに有利である。

 歴史的から見れば、中米両国がかなり良好な関係を保つには一般には三つの条件を備えていなければならない。1、中国が弱く、アメリカが強く、中国がアメリカに対しチャレンジを構成しない。2、中米両国の社会制度と価値観が同じで、中国がアメリカの同盟国であり、政治上でアメリカに依存する。3、中米両国が戦略上重大な共通の利益があり、多くの場合、このような共通の利益は連合して第三者に対処することに現れる。この基準で冷戦後の中米関係を見れば、当面と今後、中米両国が関係をよくする基礎は主として三番目の条件をどれだけ備えているか、つまり中米間の共通利益の多少と重みによって決定づけられると思うようになる。

911」事件は中米協力の基礎を強化し、冷戦後の大国関係に協力と競争が同時に存在するという二重性を中米関係の中でいちだんと突出させ、中米双方がともに両国が経済と反テロ闘争の面で無視できない共通の利益が存在していることを意識した。これで、不安定だった中米関係を安定させた。

 3、アメリカが戦略重点を東に移すテンポを牽制し、中国が台湾独立勢力の悪質的な発展を抑え、平和統一実現活動を深化させるために条件を整えた。

 クリントン政府の後期、とくにコソボ戦争の後、アメリカの軍事力移動の重点をアジア地域に置く傾向が現れた。特にブッシュ二世は政権を握ってから、中国をロシアの前に置き、潜在的な主要相手と見なし、台湾への承諾と兵器売却を増大し、中国の周辺での兵力配置にいっそう力を入れ、アジアで「小さなNATO」を確立することに拍車をかけ、あくまで日本と作戦区域のミサイル防衛システムを共同で開発し、二つの作戦区域戦争に同時に勝つ戦略を一つの作戦区域戦争に勝つ戦略に変えることを明らかにし、さらに東アジアでその戦争が発生する可能性が大いにあると考えて、アジアに戦略面から特別な関心を寄せることを明らかに示している。これは近年来、台湾独立勢力が台湾島内外で分裂活動に拍車をかける国際背景である。

 しかし、「911」事件の発生は、調整中のアメリカの世界戦略に深い影響を及ぼした。アメリカはテロリズムに打撃を加える面で注意力をアフガニスタンと中部アジア地域(中央アジア、西アジア、南アジア)に集中しているが、これはアメリカの東に移す予定の重点を西に移し換える行動である。アフガニスタンで勝利を得てから、中東のテロリズム勢力を重点的に解決し、パレスチナとイスラエルの平和の進行過程を改めて推進して、中東の戦略上の行き詰まり状態を打開するため、アメリカが軍を率いて再度イラク、中東と北アフリカの一部国に打撃を加える可能性は大いにある。これはアメリカの勢力が西の中央アジアに向かってから、さらに西へ向かうものである。この二回の西へ向かう戦略的調整は、ユーラシア大陸に関心を持つアメリカの全体の戦略方針を変えることはないが、アメリカが戦略の重点を東に移すことを制約するものである。

 101日に発表されたアメリカの『4年国防事務評価レポート』は「911」事件後、再度評価、改正した米国初の対外安全に関する戦略的文書である。同レポートは、将来の世界の安全情勢に対し、状況が複雑で「予測しにくい」と判断し、アメリカが世界各地からき来る「多様化の安全の挑戦」と各種の「新しいタイプの脅威」に直面するとしている。脅威についての判断では、「不確実性、突発性、非対称性」を強調している。同レポートは、近年来の米国の大型戦略レポートが中国を潜在的な戦略相手、安全問題を考慮する主な対象とするやり方を変え、全文に名指しで中国について述べるところがなく、中国についての表現をあいまいにしている。他方では、アメリカがいつ、どこで、だれに攻撃されるかを確実に知ることができないと強調している。しかし、同レポートは引き続き次のように強調している。バルカン地区のほか、ヨーロッパは平和状態にあり、ロシアはNATOに対しこれ以上大規模な通常の軍事脅威を構成せず、ロシアと協力するチャンスが存在している。アジアの安定の均勢を維持するのはきわめて複雑な任務で、「ぼう大な資源をもつある軍事上の競争者」がこの地区に現れ、東アジア沿岸(ベンガル湾から日本海に至るまで)は特殊な挑戦を持つ地区である。同レポートの内容の若干の保留と改正の中から、アメリカのグローバル化戦略の重点が一体どこに置いているかという問題が、国際テロリズムのひどい打撃を蒙ってから、逆にあいまいになったことを見てとれる。これはアメリカが世界戦略の重点をどこに置くかの問題の上でジレンマに陥り、どうしたらよいか分からない状態を表している。

 アメリカの戦略的重点の移転テンポの調整によって、アメリカが短期間にその主な軍事力を東アジアと台湾海峡地区に配置することが回避された。台湾独立勢力もこうした情勢の下で軽挙妄動する勇気がない。これは、われわれが時間をかせいで、平和統一の大業をいちだんと推進することに役立ち、台湾問題の最終的解決のために条件を整える。