法の名のもとの計画出産

連 可

 夫婦ともに80歳になる老夫が生育権の侵犯で妻を訴えた事件は、2001年の法律界と社会学界に侃侃諤諤の議論を巻き起こした。江蘇省南京市に住むこの老人の妻は、前夫との間にできた子供が冷遇されるのを恐れ、若いころ、3回にわたってひそかに中絶し、この老人の晩年を、我が子がなく、生育の権利を享受できない状態におとしいれたというのである。これに類した事件は四川、北京などの地でも続々と出現した。当時は男性の生育権について法律上は空白状態であったため、各地の法院は、審理の中で「婚姻法」または「民法」の関連法の準則に従って裁定を進めるしかなかった。

 この空白は、20011229日に埋められることとなった。この日、第9回全国人民代表大会常務委員会が、「中華人民共和国人口・計画生育法」を審議、可決したのである。200291日から施行されることになっているこの法律は、中国の計画出産の分野における初めての国法である。この法律は全747条から成り、そのうち「生育調節」の章の第一条は、生育権に関するもので、それは、性別にかかわりなく公民はすべて生育権を有する、と規定すると同時に、公民は法に基づき計画出産の義務を有する、と規定しており、計画出産において夫婦双方が共同責任を担うことを実行したものである。この規定によって、子供は夫婦二人のものであり、いずれの一方も単独で子供の出産・非出産を決めてはならないことになったのである。

機は熟した

 計画出産は、70年代初めから中国の都市と農村で進められ、80年代には国の基本的な国策として確定されるとともに、憲法にも記載されることになった。しかし、非常に長い間、この仕事の具体的な実施については、主に地方の法規と行政措置に依拠して進められてきたのである。

 計画出産活動の絶えざる進展につれ、国法を成立させるかどうかをめぐる議論がやむことなく続き、この法律の登場をきわめて困難なものとした。1977年にこの法律の論証と起草の仕事に着手してから今日まで、20余年の間に、40稿を超す条文に次々と手が入れられた。

 議論は、主に次の二つの面からなされた。一つは、人口の急激な増加を抑制するために講じるそうした政策規定や行政規定、行政措置を法律の規定に高めることは難しいと多くの人が考えており、また、国際的に一部の国が、中国の計画出産に対して一貫してあれこれ言っていることが終始、政府を圧力に直面させている、というものである。二つには、国情により、各地の出生政策には一定の相違が存在し、これを統一的に表現するのは難しい、というものである。

 前世紀末までずっと、人々は、日増しに経済が発展するこの国が世界に対してもう一つの貢献をなすこと、すなわち人口を成功裏に抑制し、30年で3億人余りの出産を減少させ、社会の大量な扶養コストを節約し、資源と環境に対する人口過多圧力を緩和させることを意識し始めたのである。

 中国は依然として世界の人口最多国ではあるが、その人口の過度な急増傾向はすでに抑制され、人口再生産タイプは、高出産、低死亡、高増加から低出産、低死亡、低増加への転換を実現し、計画出産の基本的国策でもすでに社会全体のコンセンサスが形成されている。

 国家計画生育委員会の張維慶主任は次のように語る。

 中国の計画出産は、すでに新たな歴史的時期に突入している。すなわち低出産の程度を安定させ、出生人口の素質を高める時期に入っており、こうした背景のもとで、中国の基本的国策として、計画出産には当然ながら国法の保障がなければならない。現行の出生政策は、すでにかなり長期間にわたって実行され、中国の国情に合致していることが証明されているうえ、実際の仕事の中で非常に好ましい効果をあげ、30年かけて億万の民と末端幹部が計画出産という仕事の実践の中で、きわめて豊かな成功の経験と有効な措置をつくり出しており、これらの成功の経験と有効な措置に、国の立法という形を通じて肯定を与えるべきである。

 国家計画生育委員会国際合作司の趙白鴿司長は、「国際社会が中国の人口・計画出産活動をもっと理解すれば、懐疑や批判は少なくなり、肯定や賞賛が多くなる。計画出産規則の実施は、その他の多くの国に有益な手本を提供することになる」と語る。

 地方が先行して実施した立法も、国の立法のために貴重な経験を蓄積することになった。1980年に広東省が「広東省計画生育条例」を公布して以来、これまでに全国で新彊とチベット自治区政府の計画出産規則のほか、29の省、自治区、直轄市が相次いで地方の計画出産条例を制定した。

 審議に参画した全人代常務委員会委員で、全人代教育・科学・文化・衛生委員会の副主席である張懐西氏は次のように語る。

 立法界は一致して、人口・計画出産法の提出時機がすでに熟したのは間違いないと見ている。この法律は、現行の出生政策を安定させることができ、人口・計画出産事業を安定させ、持続させ、健全に前進させて、最終的には人口と経済・社会・自然環境との協調的発展と持続可能な発展という目的に到達することができるだろう。

第二子を産めるのは誰か

 計画出産任務にかかわる多くの重要な難題のために、「人口・計画出産法」は全人代常務委員会の3年にわたる3回の審議を経て、ようやく採択されたのである。

 世論の関心の焦点はこの法律の第18条である。それは次のように規定している。

 「国は、現行の出生政策を安定させ、公民の晩婚と比較的年をとってからの子育てを奨励し、一組の夫婦につき一子の出産を提唱する。法律、法規の規定する条件に合致する場合は、第二子出産の割当を求めることができる。具体的な方法は省、自治区、直轄市の人民代表大会またはその常務委員会が規定することとする」。

 「少数民族も計画出産を実行する必要があるが、具体的な方法は省、自治区、直轄市の人民代表大会またはその常務委員会が規定することとする」。

 この条項に照らせば、現地政府の法律と規定に合致しさえすれば、第二子の出産を求めることができるのである。

 「この条項は、過去の出生政策に対する法律化、制度化の総括だ」と解釈する全人代常務委員会の法制工作委員会副主任である張春生氏は、次のように語る。

 強制的な一人っ子政策は決して政府の政策ではない。現実条件を考慮し、さらにできる限り人々が受け入れられるように、この法律はある種の人が第二子を出産してもよいという内容になっている。しかし、国が大きく、各地の状況も異なるため、具体的な条件については地方が立法で規定しなければならない。

 現実の状況は、目下すでに19の省が、農村の夫婦の第一子が女児であった場合、第二子を出産しても構わないと規定し、27の省、自治区が、夫婦双方がいずれも一人っ子である場合、二人の子をもうけることができると規定し、31の省、直轄市、自治区がすべて、出産した第一子が障害者で、成長して正常な労働力となる見込みがない場合、第二子を出産することができると規定している。

 まず、計画出産は決して、人々に絶対に子供を減らすよう、または産まないようにさせるものではなく、必ず大衆、とりわけ農村の労働力問題や老人扶養の問題といった現実の難しさを考慮しなければならないものである。次に、計画出産は、人口の過度な急増の抑制を考慮するとともに、これを社会発展と協調させ、持続可能な発展を維持できるようにしなければならない。中でも肝心な問題は、経済・社会発展と労働力の合理的な数量とを抱き合わせて考えなければならないことだ。法の立案にかかわった者として、数年後には突入するはずの高齢化社会に、きっと労働力不足の状況が出現するであろうことを想定する必要があった。

 この法律は計画出産政策に対する「微調整」だ。計画出産の仕事が始まってから20年余り、中国には目下すでに8000余万人の一人っ子がおり、新たに登場したこの法律の規定に照らせば、彼らの中の多くの者は第二子を出産しても構わないことになっている。これは、人口増加にちょっとした影響を与えるかもしれないが、さして大きくは影響しないだろう。

 国家計画生育協会の調査では、都市部で暮らす多くの若者はいま、多くの子供を産むことを決して望んではおらず、たとえ彼らがこの優遇条項を完全に享受することができたとしても、子供はいらないという選択をする者まで一部にいることが判明した。典型的なのは上海市で、現在、上海市の人口自然増加率はすでに0.6%にまで下がっており、一部の西側諸国よりさらに低い。北京の2000年の人口自然増加率は、この数字よりさらに低い。この調査では、北京市の出産適齢男女の約10%が、子供はいらないという選択をしていることが明らかになった。広州、北京、上海などの大・中都市は、すでに60万のディンクス・ファミリーを有しているのである。

社会扶養費

 20021月中旬、国家計画生育委員会は、メディアおよび全国各地の下部機構に対し、今後は超過出産者に対して罰金を科すことをやめ、代わりに社会扶養費を納めさせるようにする、と正式に発表した。

 政策法規司の司長である江亦曼女史は、次のように語る。

 「超過出産者」とは、「『人口・計画生育法』第18条の規定に合致せず、子どもを出産した公民」を指すのであり、「社会扶養費」の出典はこの法律の第41条だ。

 この法律の第42条はさらに、「本法第41条の規定に照らし、社会扶養費を納める者が国家公務員である場合は、法に基づきさらに行政処分を与えることとし、その他の者である場合は、その所属機関または組織が紀律処分を与えることとする。」と規定している。

 社会扶養費は、超過出産者が社会に対して行う経済補償であり、それは、多く産まれた人口は、それだけ多くの教育、医療、公益事業といった社会・公共資源を占有するからである。

 社会扶養費の徴収は、規定を超えた出産を欲する者にとって一定の抑制作用があり、国の法律に背くこれらの人々の行為に対する一種の懲罰である。当面、出産に対する観念がまだ普遍的に転換されずにいる間は、この法規は積極的な働きを発揮できることになり、法律で規範化された社会扶養費は、計画出産を実行する家庭に対する一種の励ましにもなる。

 「罰金」は、かつて計画出産任務を推進する有効な手段であり、超過出産、多子出産を防止する面で、重要な役割を果たしてきた。社会の進歩と法制の完備にともない、こうした経済制約的な手段も、実践の中でしだいに規範化していく必要がある。

 漏れ聞くところでは、「人口・計画生育法」が正式に実施された暁には、社会扶養費はすべて国庫に納められ、計画出産部門の手を離れ、徴収部門と納入部門との切り離し、収支別建ての管理が実行されて、計画出産部門に発生する可能性のある不正の気風や一部の腐敗現象を根本から絶ち、関連法規の順調な施行を根底から保証するという。

付表

20022005年の中国総人口変動状況予測

単位:億人

総人口(1

総人口(2

2002

12.9

12.9

2005

13.1

13.3

2010

13.6

13.8

2015

14.0

14.3

2020

14.3

14.8

2025

14.6

15.1

2030

14.6

15.4

2035

14.7

15.6

2040

14.6

15.7

2045

14.4

15.7

2050

14.1

15.6

注:・「総人口(1)」はTFR1.8に基づく計算によるもの。

「総人口(2)」はTFR2.0に基づく計算によるもの。

TFRTotal Fertility Rate)合計特殊出生率とは、ある年における各年齢ごとの女性の出産率の合計データのもととなる数値である。(国家計画生育委員会)