中米関係の情勢

――ブッシュ米大統領の訪中と中米関係

清華大学国際問題研究所助教授 ?中英

 ブッシュ米大統領は221日中国を訪問したが、中米関係が今後どう発展するかは各方面の関心を集める焦点となっている。外交面から見れば、ニクソン米元大統領の訪中30年後、世界と中国にきわめて大きな変化が生じた情況の下で、ブッシュ大統領が再度中国を訪れたことは、中米関係に抱いている人々の自信を強め、当面の中米関係の望ましい勢いをはっきり示すもので、中米関係のさらなる発展と改善に役立つであろう。

 中米関係の発展を予測するのは極めて大きなリスクを伴うことである。中米関係はきわめて複雑で、冷戦後はずっと激動し、普通の大国関係ではない。ブッシュ大統領の今度の訪中はたぶん「911」テロ事件後の反テロを踏まえての中米関係の新たなクライマックスの継続である。このようなクライマックスの後、中米関係は相変わらず大きな起伏を繰り返し、このようなクライマックスの後予期できる低潮が現れるかどうか。

 私は、当面の中米関係に次のような特徴があると見ている。

 まず、中米双方は当面の反テロを借りて双方の関係を改善することを望み、中国は反テロというチャンスを積極的に利用しているが、アメリカは反テロのために中米がこれまでのしこりを忘れ、一緒に活動していることを認めている。

 129日、ブッシュ大統領は「一般教書」の中で、今は「機会の時刻」で、テロリズムの共通の危険によって昔の敵が味方となり、アメリカはいまロシア、中国、インドととともにテロリズムに反対していると述べた。胡錦涛中国国家副主席は119日「中米関係国際シンポジウム」に出席するため北京を訪れたアメリカ側の代表と会見した際、当面、中米関係はさらなる発展という重要なチャンスに直面しており、双方が両国関係を「建設的協力パートナーシップ」に向かって発展させることを望んでいると述べた。胡錦涛副主席が述べた「チャンス」とは、もちろん国際社会の反テロと中国のさらなる改革・開放という二つの方面を指している。

 次に、アメリカは両国関係の利益と意見の相違に対しては、人々をびっくりさせるほどの率直な態度をとっている。中国は意識的にアメリカとの相違を縮小している。

 中国問題はブッシュ大統領の対外政策スケジュールの中で顕著な位置に置かれている。アメリカは「911」事件後、中米関係がすでに好ましい方向に発展していることを肯定すると同時に、依然としてその「強硬な」立場に立って、中国に警告し、注意を喚起するのを忘れていない。つまり、アメリカは中国との好ましい関係を積極的に求めていることを認め、アメリカがいくつかの分野で中国と共通の利益を持っていることを強調している。例えば、自由貿易促進の面では、中国の経済成長はかなりの程度において世界の多角的貿易システムおよびアメリカとの貿易とかかわりをもっている。反テロの外、アメリカは朝鮮半島などの問題の上でも中国の協力を必要としている。ここでは「一部の分野」であって「すべての分野」ではないことに留意してほしい。というのは、アメリカも自国が中国とまったく相反する利益を持っていることを認めているからである。例えば、アメリカは中国の上昇の勢いとアジア地域における影響の拡大を心配している。アジアでは、アメリカ政府は極めて重要な戦略、政治、経済の利益の上で中国と妥協できないばかりか、これらの面で中国に対して更に強硬な立場をとっている。アメリカ政府は台湾におけるその戦略的利益および必要な場合の台湾に対する武力支持をいささかも覆い隠していない。

 中国政府は従来から中米関係が自らの予期している目標に向かって発展していくことを望んでいる。中国はかつて中米の「建設的戦略パートナーシップ」(19971998)の推進に努めたが、この目標はアメリカが中国のユーゴスラビア駐在大使館を爆撃したこととブッシュ氏が大統領に就任したことによって実際には実現しなかった。反テロ戦争が始まってから、中国は再び中米関係の新しい目標を確立したが、それはつまり「建設的協力関係」であった。この目標は200110月の上海APEC(アジア太平洋経済協力会議)で打ち出されたものである。それには二つの核心的な概念が含まれている。一つは協力であり、もう一つは建設性である。中国はアメリカとの「相違」と衝突について言うのをあまり望まず、低調に処理し、両国間の食い違いを抑え、他方では中米が「仲良くすれば双方に有利である」と強調し、アメリカとの建設的関係を積極的に探し求めている。

 アメリカの戦略家は「中国の協力がなければアジアの平和はありえない」という道理を当然分かっているが、アメリカは超大国であり、アメリカがアジア地域の秩序はアメリカが管理することを自認しているため、アメリカはいまでもどのようにアジアで中国に適切な位置を探してやるかが分からないのである。アメリカは中国を必要とする時、特に当面の「反テロ」の中で、中国の「協力」と「建設性」が必要であり、これは争う余地のないことであるが、依然としてその前に中国側が必ずしも喜ばないが同時に反対しがたい「率直な」という語をつけ加えた。

 第三、中米関係には依然として協力が相違より大きいという堅固な基礎が欠けている。反テロは中米関係がこれまで10年間の衝突あるいは協力を乗り越えるという単純な二分法を示しているが、双方はまだ中米関係の次の段階の発展の新しい構想について共通の認識に達していない。

 冷戦終結後、中米両国の間にソ連に反対する戦略的基礎がなくなったが、冷戦終結後の10年間は、いくら努力しても、双方は新しい戦略的基礎を探し出せないでいる。反テロはこのような基礎になれるかどうか。一部の人はこうなることを望んでいる。というのは、アメリカが現在と将来の最も重要な任務はほかでもなく反テロと経済回復の促進であるからだ。この二つの任務はいずれも中米関係の改善に役立っている。しかし、私の考えでは、たとえそうであっても、テロリズムも以前の旧ソ連のような脅威といっしょくたに論じることはできない。中米両国は反テロについて共通の認識があり、一緒に活動を行っているが、相違点も少なくない。中国のテロリズムの定義はアメリカとまったく同じではなく、テロリズムの根源に対する認識、テロリズムに打撃を加える方式などの問題の上では、共通の認識がなおさら限られている。中国の一部戦略家がアメリカが反テロを利用して中央アジア地域で長期にわたって戦略的配置を行い、中国の西部で戦略的圧力を形成するのを心配しているのは明らかである。

 これまでの10年間にわたる激動を経て、中米双方の一部の勢力は両国関係の大きな起伏に慣れているように見える。人々が中米関係の改善を目にした時、慎重なオブザーバーはおそらく、次の中米間の衝突あるいは危機はいつかと聞くかもしれない。中米関係が危機に陥った時、楽観的な人は、中米関係にあまり悲観的な態度をとってはならないと人々を励ますかもしれない。私個人の考えでは、このような状況の繰り返し自体が非常に危険である。そのため、中米関係は規範化(制度化)する時に来ている。

 ブッシュ大統領は200110月、上海で中国の経済繁栄と大きな市場を目にした。2002年にブッシュ大統領は北京で中国の指導者から中米関係発展に対するより切実な願望を聞かれるだろう。両国はいったい現在と将来の両国関係をどんな基礎の上に打ち立てるのか。われわれはこれをブッシュ大統領訪中の一つの焦点と見なすべきである。

 第四、中米間の現実と潜在する戦略対抗は両国関係の進展を妨げる

 ブッシュ大統領の訪中は中国一国だけ訪問するのではなく、早くから計画していた東アジア三カ国歴訪の最後の訪問国である。この訪問は「公式訪問」ではなく、「仕事のための訪問」である。ブッシュ大統領の東アジア歴訪スケジュールの中で、先に日本を訪問するのは同大統領の一貫した同盟国優先の立場を表明しているだけでなく、日本が確固としてアメリカ側に立っているというシグナルを中国にはっきり出した。アメリカは全力あげて日本に、中国の崛起と日本の衰退はアジア最大の戦略問題の一つであり、アメリカは日本の改革を借りて崛起した中国を制約することを望んでいると伝えている。これは第二次世界大戦後のアメリカが日本を盛り立てて旧ソ連を封じ込める太平洋戦略とまったく一致している。

 中米間の戦略面のいま一つの重大な食い違いは台湾問題である。上述のように、アメリカは台湾問題の上で再びその強硬な立場を中国側にはっきり示し、アメリカは反テロのために中国と台湾問題にかかわる「四つ目の共同コミュニケ」を締結するようなことがない。その実、中国はこのようなコミュニケを発表する理想化の予期がない。それにもかかわらず、中国は依然として中米関係を発展させることを望んでいる。これは中米関係における台湾問題の地位が相対的に下がったことを顕示しているのかどうか。海峡両岸の現状は「一国論」と「二国論」の対立で、予見できる将来に「二国論」が「一国論」(台湾)に変わるかあるいは「一国論」が「二国論」(大陸)に変わる可能性はともにない。両岸対抗の膠着した局面は変わらない。アメリカが求める台湾問題の平和解決(米中関係発展の必須条件)は実際にはただこの厄介な問題の上での中国に対するにすぎない。「平和解決」というすばらしい辞令の下で、アメリカは実際には「台湾の民主を支持する」という名目で台湾の事実上の独立を支持し、この問題におけるアメリカのいわゆる戦略的利益を擁護しているのである。このような状況の下で、中国は中米関係における台湾問題をいかに妥当、慎重に処理するかという挑戦に直面している。

 ブッシュ大統領のアメリカの対外政策は、全般的な大戦略は一方主義であり、このような一方主義は中米関係にとって非常に不利である。一方主義はアメリカの二重心理の表れである。一方では、アメリカはこの傲慢で無秩序の世界をコントロールしようとし、他方では、アメリカはまた露骨な「国家利己」に満ちあふれ、単独で世界をコントロールしようとしている。前者から言えば、アメリカの秩序は中国の協力を必要としており、後者から言えば、一方主義はもちろん中国の「多極化」戦略と中国の大国としての地位と両立できないものであ

 そのため、私の結論的見方は次の通り。中米関係は近い将来に心配事がないが、遠い将来には憂いがあるかもしれない。最近の中米の間には有利な要素がたくさんあるが、長期から見て、中米は少なくとも新しい国家関係の基礎を確立するのが難しく、若干の状況の下では(例えば台湾が独立を宣言するなど)、中米の衝突の要素は協力の要素より大きくなる。ブッシュ大統領は中国を訪問したが、アメリカは反テロと国内の経済回復に精力を食われて、中国との意見の食い違いを考える余裕はなく、同時にアメリカはこれらの問題の上ではなんと言っても中国に求めることがある。中国の国際地位が高まり、なんとかしてアメリカとの衝突を回避しようとしている。これらは中米関係が近い将来に大きな問題が出ないことを決定づけており、ひいてはさらに改善されるであろう。しかし、長期から見て、中国が確定した今世紀に現代化を実現させ、世界大国になるという目標がアメリカの一方主義の大戦略と対立している。アメリカはアジア太平洋地域でカギとなる位置を占めており、今またイギリス帝国がかつてインド、中央アジア・中近東の結合部で占拠した地位(ソ連解体後に残されたロシアが受け継ぐことができなかった戦略的真空を埋めた)を初めて占拠したので、アメリカは中国にアジアで影響を拡大できるいかなる空間をも残さなかった。中国はいままた力を入れてかつて見ないアジア政策を制定、貫徹しており、これによって、東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化、上海協力機構設置など強固な地域的拠り所を確立しようとしている。このような戦略的配置はほとんどアメリカ軍部の中国に対する戦略的敵意を引き起こさないわけにはいかない。これは中米の間に長期にわたって存在している利害関係である。