台湾問題に対するアメリカの政策の特徴と変化

中国人民公安大学警官管理学部政治学教学研究室 段林萍

 中国の国家指導者が何度も表明しているように、台湾問題は中米関係の中の最も敏感で、最も核心的な議題であり、中米関係の変化の歴史もこの点を立証している。1979年に中米が外交関係を樹立して以来、中米両国が台湾問題をめぐって展開した外交闘争はこれまで中断したことがなく、冷戦終結後、特にここ10年来、台湾問題をめぐって両国の矛盾と衝突はほとんど中米関係の善し悪しに影響を及ぼす主な要因となっている。

 台湾問題に対するアメリカの基本政策は、中米が1972年に発表した「共同コミュニケ」(上海コミュニケ)、19791月に発表した「国交関係樹立コミュニケ」、1982年に発表した「八・一七コミュニケ」という三つの共同コミュニケおよび1979年にアメリカ国会のつくった「台湾関係法」の中に体現されている。

 政策の核心は三つの共同コミュニケがいずれも約束した「一つの中国」の原則、クリントン前大統領が1998年中国を訪問した時に公に発表した「三つのノー」の政策(アメリカは台湾の独立を支持しない、「一つの中国、一つの台湾」、「二つの中国」を支持しない、台湾がいかなる主権国でなければ参加できない国際組織に加盟するのを支持しない)を含んでいる。1999年にクリントン前大統領がうち出した「三つの支柱」(つまり一つの中国、平和解決、積極的対話)、およびレーガン政府が1982年に行った対台湾の「六項目の保証」(いわゆる「六項目の保証」とは、1982年のレーガン政府時期に、当時アメリカ「在台湾協会台北事務所」(AIT)所長を担当していたジェームス・リリー氏が口頭で蒋経国に伝達した内容で、それにはアメリカの対台湾兵器売却は締め切り期限がないこと、対台湾兵器売却は事前に北京と協議しないこと、アメリカは両岸の間の調停者にならないこと、アメリカは「台湾関係法」の中で行った約束を変更しないこと、アメリカは台湾の主権に対する認知を変えないこと、アメリカはむりやり台北を交渉のテーブルにつかせないことが含まれている)。

 これらの基本政策は変わっていず、歴代のアメリカ政府に守られている。しかし、若干の調整も行われた。これらの調整には、「一つの中国」政策の内包に変化が生じ、「一つの中国の原則」が「漂流化」の危険があること、対台湾兵器売却が「八・一七コミュニケ」の中の性能を制限し、数量を制限し、最後は売却を停止するという約束に背き、それに変わって両岸の兵力の動態均衡を維持し、中国大陸があくまで「台湾に対する武力行使」を放棄することを前提とすることに変わり、アメリカ国会は 「台湾関係法」の効力が中米間の三つのコミュニケより大きいと強調し、兵器売却に法理面から支持を提供し、兵器売却問題が日ましに中米関係に影響する議題となっていること、アメリカが台湾問題を「平和方式」で、台湾が「自由意志で受け入れる」状況の下で解決しなければならないように一方的に拡大し、分裂勢力に「保護の傘」を提供したこと、台湾がオブザーバーなどの資格でWHO(世界保健機関)など主権国の資格を必要とする政府組織への加盟を含めて、国際組織に加盟するのを支持することが含まれている。

ここ数年、台湾問題をめぐる中米間の闘争の焦点は主に次のいくつかの方面がある。

「一つの中国」の内包はなにか

 1972年の中米「上海コミュニケ」の中で、アメリカ側は「アメリカは、台湾海峡両岸の中国人がみな中国は一つしかなく、台湾は中国の一部分であると考えていることを認識した。アメリカ政府はこの立場に対し異議を唱えない」と声明している。1979年の中米「国交関係樹立コミュニケ」は、アメリカが「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し、この範囲内で、アメリカ人民は台湾人民と文化、商務とその他の非政府関係を維持する」、アメリカが「中国の立場、つまり中国は一つしかなく、台湾は中国の一部分であることを承認する」といっそう明確に規定している。二つのコミュニケの中で、中米は「一つの中国」の政策の上では立場が基本的に一致し、双方はともに中国は一つしかなく、台湾は中国の一部分であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であることを承認している。このような立場はいかなる前提条件もないのである。しかし、19791月に発効した「台湾関係法」はアメリカの立法部門が国内法の形式で制定したアメリカ国内事務以外のことに関する法律であり、これはアメリカの立法史上あまり見ないことである。「台湾関係法」は中米国交関係樹立の精神に従うと公言しているが、具体的な条項は国際上の正常な外交関係準則に明らかに背き、中国の内政に干渉している。同法は中米国交関係樹立を台湾の前途と結びつけて、国交関係樹立を「台湾の前途が平和方式を通じて決定されるというような期待に基づいている」と称し、台湾に防御性兵器を提供する権限を与え、法的地位の面で台湾を「外国とその他の民族、国家、政府あるいはそれに類似した実体」と見なしている。換言すれば、アメリカの台湾との「国交断絶」がアメリカ法律の台湾への適用に影響しない、つまりアメリカは国内の法律事務の面で中米外交関係の影響を受けない独立した地位を台湾に与えることである。この時から、アメリカは「一つの中国」の原則を遵守しているとはいえ、「一つの中国」の原則に前提条件をつけ加えたのである。

 冷戦終結後、アメリカの対台湾政策はちくじ調整が行われ始めた。1994年、クリントン政府は「対台湾政策を調整する」枠組みを発表し、アメリカが台湾とより高いクラスの接触を行い、台湾の高級指導者がアメリカの国境を通過するのを許すこと、定期的に次官クラスの経済対話を行い、貿易投資枠組み取り決めについて交渉し、締結すること、台湾が基本会員単位が国家に限らない国際組織、例えば関税貿易一般協定(ガット)への加入を支持し、一部の国際組織で台湾が「合法的役割を果たし、発言できる」ようにはかること、米在台湾協会台北事務所(AIT)主任(あるいは所長と訳す)、副主任らすべての職員が台湾の「外交部」に入って公務について面談するのを許すこと、アメリカの経済・技術担当閣僚が在台湾協会を通して台湾の代表と政府機関で会談するよう手はずを整えるのを認めること、アメリカ側は台湾の駐米機構「北米事務協調委員会」を「台北駐米経済文化代表処」に改名するのに同意することを規定した。上述の文書はアメリカが「一つの中国」という大きな枠組みを維持する前提の下で、台湾との半政府関係を大幅に発展させることを示している。

 ブッシュ政府は就任後、その政策がいっそう台湾よりとなった。「一つの中国」の内包についての米国務省の標準答案は「一つの中国とはつまり一つの中国であり、海峡両岸の平和な決定に残しておく」というものである。しかし、台湾側では、多くの人は、アメリカが引き続き「一つの中国」を強調し、台湾の「主権の地位」の否定に近い言論を若干発表したが、これらは「古い教条」で包装した政府筋の言い方にすぎず、実際には非常に「空洞化」したものであると考えている。台湾の駐米代表程建人と台湾の高官も、目下「一つの中国」についての版本はたくさんあり、アメリカの「一つの中国」の内包は中国のとは同じではなく、どっちかというと台湾のに近いと何度も公言した。このような判断は中米の食い違いを誇張する要素があるが、アメリカの「一つの中国」の内包が確かに台湾の「二国論」に傾いているきらいがあることを否定できない。米民主党のブラウン下院議員は、アメリカの「一つの中国の政策」を北京当局の「一つの中国の原則」といっしょくたにしてはならないと公言した。「一つの中国」に対する台湾当局の立場は「二国論」であり、つまりいわゆる世界に中国は一つしかなく、それは中華人民共和国であり、台湾は「主権独立国」であり、「『中華民国が台湾にある』は存在している事実であり」、両岸は互いに従属しないことである。

両岸関係の現状と未来の方向はなにか

 この問題では、アメリカは「三つのコミュニケ」の約束からひどく離れ、台湾当局の立場と近づいている。

 「台湾関係法」はあいまいな空間をたくさん残している。「台湾関係法」は、「台湾の前途は平和な方式を通じて決定される」と公言し、一連の関連措置を規定して、台米関係に「外交関係」がない状態の下で「実質的関係」を維持させている。「台湾関係法」はあいまいな空間を残しており、アメリカは中米関係の変化を見ながら同法を実施することができ、必要があれば、「国と国との関係」で米台関係に対処することができる。

 現状は「一つの中国」であることを承認しない。例えばアメリカ在台湾協会理事会のリャード・ブッシュ理事長は一月末に演説した時、アメリカ側の以前の態度を変えて、大陸が「一つの中国」を両岸交渉再開の前提とすることに反対したが、これはめったにないことで、実際には台湾分裂勢力の主張に呼応し、両岸関係が同じく「一つの中国」に属する客観的事実を形骸化し、両岸関係に「一つの中国」かそれとも「互いに従属しない」かという論争に陥らせている。

 台湾問題を無条件に「平和解決」しなければならないと一方的に強調し、「平和」を絶対化させている。アメリカは一再ならず、未来の台湾問題解決は台湾当局と島内の民衆が「受け入れられる」二重の「自由意思」の原則に従わなければならないと言いふらした。それによって両岸の未来の方向に不確実性をあふれさせ、ひいては台湾が独立に向かうことに「平和」、「自由意思」というような保護の傘を提供した。リャード・ブッシュ理事長は最近台北で、アメリカは平和解決が「無条件」のものだと考えると公言した。

 両岸が統一に向かうという究極の目標を支持しない。アメリカは両岸が「紛争を平和解決する」しか堅持せず、両岸の未来の関係の見通しを予測せず、アメリカの「一つの中国」の政策が両岸がどのように双方の食い違いを解決すべきかを主導することを決して示しておらず、アメリカは台湾をむりやり交渉させるようなことをしない。

両岸関係の現状と未来の方向に対する中国の立場は、両岸の目下の現状は内戦の継続であり、一国の内部の事務であること、両岸は「一つの中国」の基礎の上で国家の統一を実現しなければならず、両岸は統一に向かうことしかできず、統一の方式は「一国二制度」であること、大陸は台湾各界とともに統一事業について検討したいことである。国民党も台湾で政権を担当していた時、「一つの中国」の原則を厳格に守り、「統一」の目標を堅持し、大陸と違うのは統一の方式とプロセスだけである。民進党と李登輝の基本的立場は「二つの国家」、つまり「独立して建国する」、「憲法(あるいは「基本法」)を制定する」、「国際法」で両岸の往来を規定する、「国連に復帰する」などを主張している。その後言い方をすこし修正し、現状が「主権独立国」であり、現在の「憲法」に従って「中華民国」と称しているが、中華人民共和国と「互いに従属しない」、台湾の前途は住民によって決定され、「独立の現状を改変するいかなる変動も、住民が公民投票の方式で決定しなければならない」ことを提出した。民進党が政権を握った後、やるだけでなにも言わない「二国論」を推進し、「一つの中国」は話し合う議題であって、前提ではなく、「統一は唯一の選択ではない」などを提出した。

「対台湾兵器売却」をどう見るか

 長期以来、台湾を利用して中国を封じ込めることはずっとアメリカの対中国政策の一つの重要な側面であり、アメリカの対台湾兵器売却の日ましの拡大は、平和的統一という対台湾政策に対しますます大きな脅威となっている。1979年の中米国交正常化後、アメリカは台湾と経済、文化、その他の民間関係だけを維持することを約束する一方、「台湾関係法」などを通して、別の形で台湾との実質的関係を発展させている。1982年にアメリカと中国が発表したもっぱら対台湾兵器売却を制限する「八・一七コミュニケ」は、アメリカが台湾に売却する兵器の「性能と数量が国交関係樹立後のここ数年のレベルを越えてはならず」、年を追って対台湾兵器売却を減らし、最後的に停止するように要求しているが、アメリカはコミュニケを対台湾兵器売却がいわゆる台湾問題の平和解決を前提としているように一方的に解釈して、ひそかに台湾にコミュニケの精神に背く「六項目の保証」を行った。兵器売却政策の面では、アメリカは「八・一七コミュニケ」の制限にひどく背いて、いわゆる両岸兵力の動態均衡を維持し、あくまで中国大陸が「台湾に対する武力行使」の放棄を条件としている。当面の対台湾兵器売却の焦点と趨勢は、アメリカが絶えず「台湾が合理的な防衛の必要に達するように援助し」、「両岸の間である種のバランスを求める」ことを口実に、台湾に軍事装備を大量移転していることである。兵器売却方式の面では、アメリカは売却はするが、すぐには荷渡しをせず、技術を移転せず、敏感性の劣る兵器で敏感性の高い兵器に取って代わるなどの方式で敏感性を下げることにより気を使っている。

アメリカの新しい「思惟チェーン」はなにか

 ここ数年、アメリカでは台湾問題をめぐって新しい思惟のパターン、つまり安定―平和、平和―対話、対話―兵器売却、兵器売却―安定という「思惟チェーン」が次第に現れている。このような循環の中で、兵器売却の地位がいっそう際立っている。具体的に言って、現段階では「統一」あるいは「独立」がともにアメリカの全体的戦略を破壊することから、アメリカは台湾の現状を維持することがその利益にかなった選択であると評価した。しかし、台湾は現状を維持したければまず高度に緊張している両岸関係を安定させなければならず、安定してこそはじめて平和をもたらすことができるのである。平和を実現するには両岸の対話が必要であり、台湾当局は大陸との対話を頑くなに拒否しているが、主に力が足りないことを心配しているのであり、台湾に「十分に」兵器を売却してのみはじめて台湾に自信をもって大陸と対話を展開させることができる。兵器売却はいわゆる「脅威・阻止」の効果を提供でき、アメリカの提唱する「予防性外交」の政策にも合致しており、そのため、兵器売却は安定を「つくり出す」ことができる。この循環政策はアメリカの対台湾政策の上では、対話の推進と兵器売却の強化が同時に行われる、つまり両岸が対話を展開することも求めれば、同時に引き続き台湾に軍事設備を売却し、ひいては「兵器を売却してのみはじめて台湾を対話するように励ますことができる」という考えに極端に発展するという互いに矛盾しているような二つの基本点に簡略化して現れている。アメリカの関係責任者が、「台湾はアメリカ兵器の提供する安全感があってこそはじめて大陸と接触することがいっそうできるのであり」、「アメリカの観点によれば、兵器売却は自信を鼓舞して両岸の交渉展開を促すことができ、解決策を探し出す可能性がある」と表明したのはその一例である。