WTO加盟後、中国の就業に影響する要素と対応措置

張国初(中国社会科学院数量経済と技術経済研究所 研究員)

 WTO加盟後、中国の就業に影響する要素はいろいろあるが、総じて言えば利益が弊害より大きい。WTO加盟後、特に最初の数年内に、中国の就業はわりに大きな圧力に直面するが、あまり悲観する必要がない。すかさず対策をとって、潜在する積極的要素を掘り起こし、マイナスの影響を取り除き、就業活動をりっぱに進めるべきである。

有利な要素

 第一に、WTO加盟後、中国の経済はいっそう開放するが、開放した経済環境は中国の経済成長を促すことができ、それによって就業の人数を増やすことができる。

 第二に、WTO加盟は中国の経済構造調整を加速し、経済発展と就業促進の関係を協調させ、就業率を高めるのに役立つ。

 第三に、WTO加盟後、中国は多くの面で次第に国際とリンクし、立法、行政、監督レベルがいずれも向上し、中国は就業レベルを高める面でまだ潜在力を大いに掘り起こすことができる。

 第四に、具体的に言って、一方では、WTO加盟は中国の第三次産業にビジネスチャンスをもたらし、外国のビジネスサービスを導入し、小売市場と卸し市場を開放するため、商業、観光、サービス業は大幅な発展をとげ、数百万の就職口を提供することができる。外資企業の進出も金融、保険、情報諮問サービス業、コンピューター応用サービス業の発展を促し、第三次産業をグレードアップさせ、それによって実体経済を活発化させ、就業を促すことができる。第二次産業の面では、WTO加盟後、就業の機会は増加もあれば減少もあるが、増加は減少よりも多い。就業を増加する機会は主に紡績、アパレル、文房具、製靴、皮革製品、食品加工、建物、建築材料、化学工業、インフラなどの労働集約型の産業および家電産業に集中する。そのほか、WTO加盟後、輸出が4ないし5%増加する可能性があり、国民経済の対外貿易依存度が20ないし25%で計算すれば、経済を1%生長させることができ、それによって就業の増加が促される。例えば紡績とアパレル業は、WTO加盟後、輸出を25ないし27%増やす可能性があり、50余億ドルを獲得することができ、1億ドル当たり1万人の就業機会を増やすことで計算すれば、毎年50万人の就業機会を増やすことができる。

不利な要素

 WTO加盟後、不利な要素もいくつかあり、これは第105カ年計画期(2001-2005年)にわりにはっきり現れる。

 第一に、WTO加盟の初期に、国際市場環境に変化が生じ、中国は産業構造調整を行って、外部からの衝撃を防ぎ止めなければならず、産業構造の調整はどうしても一定量の構造的失業を招く。

 第二に、第105カ年計画期はまさに国有企業の従業員の一時帰休と失業が一本化し、第95カ年計画期に再就職していない一時帰休者は失業者に仲間入りするため、合計約300万人になる。

 第三に、第105カ年計画期は中国の労働力供給増大のピーク期である。

 この3つの力がいっしょになると、必ず就業の圧力を大きくする。

 具体的に言って、WTO加盟後、就業の不利な要素は主に農業と工業の中の在来産業と一部の独占的業種に現れている。中国の小麦、米、綿などの農産物は質が低く値段が高く、WTO加盟後、農産物の輸入割当額が高くなり、食糧を3%輸入することで計算すれば、約960万人の就業機会が減ることになる。しかし、その前に中国はすでに農産物の構造調整と農業改革を行ったので、このような影響は小さくなるだろう。工業の面では、中国の自動車工業は消費者が自動車の値下げを期待しているため、その前にすでに影響を受け、WTO加盟後はなおさら影響を受けるようになり、しかも自動車産業の関連産業が比較的多いため、影響の面もかなり大きい。そのほか、冶金、機械、計器、電子通信設備などの業種では、数百万人の就業機会が減るだろう。例えば冶金産業は30%の減産を予期し、百万近くの人の就業に影響する可能性がある。

提案

 一、中国の現状と経済の法則に基づき、就業活動の面では効率を優先させ、合わせて公平を配慮し、効率と公平をともに実現するという指導的思想を堅持すべきである。

 まず、あくまで改革で就業を促す。当面中国の就業問題の難しさは労働力総量の深刻な過剰と経済体制改革、経済構造調整のために引き起こされた就業の矛盾が重なったことにある。しかし、そのために改革と構造調整を緩めたり先に延ばしたりしてはならない。

 次に、経済成長で就業を促し、就業を経済成長の質をはかる重要な指標とすべきである。一般に言って、経済成長は就業を促進することができるが、事実はいつもこの通りにはいかないものである。中国の現在の就業情勢の下で、就業の相応増加をもたらさない経済成長はいい経済成長ではない。

 第三に、積極的な財政政策を実施し、内需を促進し、公共投資プロジェクトはプロジェクト建造施設自体の機能の目標を含むばかりではなく、就業の機会をつくり出し、貧しい人の収入を増やす経済と社会の目標を含むべきである。公共投資プロジェクトの国民経済評価は就業を重要な内容の一つとすべきである。

 二、WTO加盟が農村の就業に与える衝撃を取り除くため、農業経済構造を調整し、労働集約型産品を発展させ、農業の集約化生産を促進するなどの措置をとって、農村と農業内部で農村の労働力を吸収すべきである。

 農村の外部から見て、都市化レベルの向上を加速し、農村の余剰労働力を吸収すべきである。関係データによると、中国に現在約19万個の小さな町があり、一つの町の人口は平均45400人であり、就業人口は11800人で、人口の25.9%を占めている。もし中国の町化レベルが10%以上上昇して、45%の世界平均水準に達するならば、25000万の農民が町の住民になり、就業人口が大幅に増加する。

 三、非国有経済を大いに発展させ、中小企業を発展させる。改革・開放以来、非国有経済が中国の就業に大きな貢献をし、ここ数年、中国の95%以上の新規増加の就業機会は主に非公有制経済が発展してもたらされたものである。

 四、第三次産業を積極的に発展させ、就業の容量を拡大する。第95カ年計画期に中国は就業人口を3203万人増やし、そのうち第三次産業は約85%を占める2715万人を増やし、中国の就業のメーンルートとなった。商業、飲食業、観光、交通などのサービス業、地域社会のサービス業などの労働力集約型産業は多くの労働力を就業させることができ、特に地域社会のサービス業はまだまだ大きな発展の潜在力がある。例の知力型の第三次産業、例えば金融、保険、情報諮問、技術仲介サービス、コンピューター技術サービスの発展は自業種内部で就業の機会をつくるばかりではなく、また肉体労働型のサービスの需要をつくり出すこともでき、それよりも重要なのはこれら産業の発展が実業を活発に発展させ、生産要素の流動を加速し、資源の配置を最適化させ、経済成長の質を高めることである。

 五、第三次産業を積極的に発展させると同時に、第二次産業特に工業の発展を無視することができない。第二次産業の発展を基礎とする第三次産業の発展がなければ、見かけだけの繁栄であり、バブル経済であり、現段階の工業は依然として中国の経済成長の牽引車である。

 六、労働力市場の建設を強化し、就業サービスシステムを整備する。労働力市場の情報ネットワークを確立し、情報サービスを強化する。労働力市場の管理サービスを規範化させる。就業サービスと失業保険の組織システムと専従者陣を健全にする。各種のサービスの仕事を住民委員会、地域社会に広げ、社会の弱い人々に対し進んで訪問サービスを行い、WTO加盟が弱い人々にもたらした衝撃が最も大きく、社会は彼らに最大限の関心をもつべきである。