WTO加盟で観光業にチャンス

魯 皮

 WTO加盟後、外資の参入で中国の観光業はある程度のダメージを受けるだろう。新たな競争の中、観光業はいかに発展していくのか。業界の専門家は「WTO加盟は観光業にとってチャンスでもあり、またチャレンジである。だが、もたらされるチャンスのほうが大きい」と指摘する。 観光業が自由化されてかなりの時間がたつ。70年代末から80年代にけて外国企業はホテル業界に投資するようになり、70年末に初の合弁ホテルが誕生したが、現在では観光業界な全面的な開放に向かいつつある。1999年に『中国外国合弁旅行社に関する試験的暫定規則』が公布されて以降、国家観光局は外国との合弁旅行社の試験的運営を許可するようになり、観光地をはじめ一般的な観光グッズの生産などで合弁や提携を認めた。トラベラーズチェックや旅行保険、交通手段などの面でも市場への参入が緩和された。

観光市場、全面的な開放へ

 WTO加盟以前、外国資本は合弁形態でしか観光分野に進出できなかった。昨年5月末現在、認可された合弁旅行社は8社を数えるが、既に開業したのは6社である。『中国外国合弁旅行社に関する試験的暫定規則』によると、現在、外国企業による旅行社経営は出資比率が49%を上回らない、年間売上高が5000万元以上などの規定で大きく制限されている。また営業範囲についても、国内観光に限る、合弁パートナー以外の旅行社と観光業務で合弁または提携してはならない、中国公民の海外旅行は扱わない、年間受入観光客数が1万人といった規制もある。

 国家観光局の孫鋼副局長は「WTO加盟で旅行業界は関係する確約を履行し、合弁旅行社の外国側の出資比率制限を段階的に緩和していく。2003年末までに持ち株を許可し、2005年末までには全額出資旅行社の設立を認めるが、レジャー観光業務のみを扱う、年間売上高が5000万元を超えなければならない、との2つの付帯条件がある。従来の業務範囲や地域的な規制も取り消す」との考えを示している。

 現在、合弁旅行社は合わせて8社。北京地区に3社、広東地区2社、雲南と天津、甘粛にそれぞれ1社ある。

 政府は2005年末までに合弁旅行社の支店設立の制限を取り消すことにしているが、中国公民の海外観光業務には従事できない、との考えを表明している。

 確約によれば、中国はWTO加盟後に観光市場を全面的に開放し、外国企業は共同経営の形で国内にホテルやレストランを建設、改築、営業し、また持ち株の保有が許可されることになっている。遅くとも2003年までに、関連する規制は撤廃される。

発展に向け空前のチャンス

 中国は現在、観光消費の“臨界点”を迎えようとしている。1人平均年収が800ドル、というのが臨界点である。国際的に見て、年収が8001000ドルに達した時に観光への消費が急速に伸びる傾向にある。臨界点に達すれば、中国の観光への消費も“雪崩式”に増加していくだろう。WTOへの加盟で各業界でも開放が進むことから、観光業の発展にとって多くの障害が取り除かれることになる。

既に3つの分野が完全に開放されているが、これによって観光業も更なる発展に向け直接的なメリットを得ることができる。先ず、金融業界の開放の拡大である。観光に関する支払いが至便になり、サービスそのものの競争力を向上させることができる。情報産業の開放の拡大に伴い、電子商取引や販売ネットワークの拡充が推進されることで、観光形態の現代化を促進することができる。輸入自動車の関税の引き下げでは、長年にわたり観光業の発展を妨げてきた観光バスの問題が解決されることになり、その他の関税の引き下げは高級ホテルの経営コスト削減にプラスとなる。

中西部地区は観光資源が豊かだが、資金不足から多くの資源がまだ開発されていない。WTO加盟は外資の更なる参入、観光開発の促進、東部では観光グッズのグレードアップの促進、高級観光商品の開発にプラスとなる。

次に、観光業界自身から言えば、圧力と競争で改革と発展が促されることになる。業界にとって急務となるのは、質の良いサービスと経営メカニズムである。競争という巨大な圧力の下、国内企業は体質を強化し、できるだけ速く現代的な企業制度や一連の科学的な運行メカニズム、人材運用メカニズム、品質保証メカニズムを構築することで観光の現代化と国際化を進め、国際的な相互促進を図ることが求められていくだろう。

 旅行社は一貫して観光業の“ウィークポイント”だった。この20年来、「小規模、乱立、弱体、体質の悪さ」という状態は根本的には変わっていない。WTO加盟以降、外国の強大な全世界販売ネットとルートを利用すれば、市場構造は様変わりするだろう。その結果が、旅行社大手のグループ化、中規模旅行社の業務の特化、小規模旅行社のネットワーク化である。旅行社の状況の変化が期待できそうだ。

 また更に対外開放が進めば、経済交流はより頻繁、より緊密となり、ビジネスマンや観光客も増え、観光業は一層の発展を遂げるだろう。

攻勢とチャレンジ

 WTO加盟後、観光業は構造的な攻勢、短期的な犠牲と調整の段階を迎えるだろう。旅行社は全国に約6000社あり、うち1300社余りの国際旅行社のほとんどが国の全額出資企業である。資金、実力、規模、管理ノウハウ、分野の特化などで様々な強みを持つ外国に比べ、規模や実力で劣り、経営ノウハウは集約されておらず、体制に機敏性がなく、販売手法で遅れを取り、技術的またネットワーク化のレベルが低く、市場が適正化されていないといった現実的状況が、外国企業が競争という攻勢に出ることで顕在化してくるだろう。それに加え、長期にわたって地方保護主義の影響を受けてきたため、旅行社がネット経営のルールに沿って地域を越えた競争力を持つ企業グループを確立しようとしても、一朝一夕にはいかない。

 これについて国家発展計画委員会社会発展司の饒権氏は、WTO加盟後の更なる対外開放が観光業にもたらす攻勢は、次の2点に絞られると指摘している。

 先ず第一は、これまで十分に開放されていなかった分野に対する攻勢である。主に旅行社だ。旅行社は一貫して中国が対外開放を更に拡大する鍵となる分野であり、開放の度合いの低かった領域でもある。

国内の旅行社は先ず、世界の同業他社からのチャレンジに直面することになる。多くの中国観光客を手中に収める海外の旅行社について言えば、更に関心を寄せるのは、国内に旅行社を設立することで直接、各地の旅行社やホテル、レストラン、航空、鉄道、船舶関連企業、ショッピングセンターとの関係を構築し、その中から優良かつ廉価な企業を選択することである。そうすれば旅行社としての信用は保証され、より多くの収益を上げることもできる。

 外国の旅行社が進出すれば、国内の旅行社は顧客と人材の引き抜きで直接的な影響を受ける。その後、できるだけ速い時期に国内各地を結ぶ経営ネットワークを構築していくだろう。

 第二は、開放が比較的進んだ分野に対する攻勢である。主にホテルなどの業種だ。従来から開放の度合いが高いため、WTOに加盟しても一部の業種は根本的なダメージを受けることはないが、主として数量や構造、管理体制などの面で調整が行われるだろう。ホテル業界は構造や顧客源、人材などの面である程度攻勢にさらされることになる。構造面では、外資の参入で現有のホテルは構造調整を迫られ、単独出資や合弁、提携するホテルが増え、またその他の所有制度、特に国有ホテルへの攻勢に出て合弁ホテルの数は更に増加し、国内ホテル業界の対外依存度が強まるだろう。顧客源の面では、多国籍グループはその顧客源、ネームバリュー、販売ネットなどの面での強みを利用して顧客市場でのシェアを拡大させるため、企業のネームバリューによる顧客の流動化が始まるだろう。人材面では、外国企業が投資したホテルは高給など利益誘導型のメカニズムを活用して幅広く人材を集め、顧客源と管理の強みを背景に人材が集合した強みが更に顕著となり、最終的に収益でもその強みが示されることになるだろう。

平常心をもってWTOに対応

 国家観光局の孫鋼副局長は「我々は平常心をもってWTOに対応する必要がある。チャンスを逃すことなく、チャレンジを迎え入れる。加盟後に国内の旅行社が直面する最も直接的なチャレンジは、人材の流失である。合弁企業が国内で業務を展開するには、地元で専門的な人材を集めなければならない。一部の経営不振で労働条件の悪い旅行社はダメージを受け、中堅が引き抜かれることもあり得る。だが、こうした状況を恐れることはない」と強調した上で、「改革開放当初にも一時期、似通った状況があった。当時、合弁ホテルの優秀な中国人管理者の多くが外資ホテルに“鞍替え”したが、発展していく中で新たな中堅を養成したことで、業界全体がダメージから立ち直り徐々に成熟していった。そのため今では、“回流現象”が起きているほどだ。旅行業界は発展を速め、自らの競争力を高めて初めて人材流失のチャレンジに耐え得ることができる」と指摘している。

 中国青年旅行社の蒋建寧総裁は「外国の旅行社の中国市場への進出を歓迎する。外部からの攻勢を借りて、また企業内部の自覚と自律、内在する力をもってすれば、共に観光市場を改善することができる。外国の旅行社に真に国内での旅行社経営に興味があるのなら、国内の観光市場の整備にとって歓迎すべきことであり、我々は管理や販売の面で先進的な手法を参考にすることができる。同時に、規模と実力を備えた旅行社の進出で国内市場のスケール化を図ることもできる。WTO加盟後の外資による攻勢は、デメリットよりもメリットのほうが大きい」と指摘し、次の4点を列挙した。第一は、観光が産業として発展してまだ日が浅いため、市場が適正化されていない。こうした状況を自らの力で転換させるのは難しい。第二は、旅行社は人材を養成する場ではなく、仮に旅行社のメカニズムを根本的に改善できなければ、人間の資質を判断する際に学歴の高低は役立たない。第三は、市場はまだ無秩序な競争状態にあり、旅行社は信用やネームバリューなど無形資産に目を向けておらず、伝統的な販売手段を改めようともしない。企業内部は刷新されたメカニズムに欠けており、こうした現状は速やかに変える必要がある。第四は、旅行社市場では構造と基盤の改善が待たれており、それをすべて企業内部の自覚にゆだねるのではかなり不充分である。

 広之旅国際旅行社の鄭堺社長は「外資の参入では単に競争相手が増えるだけであり、大げさに騒ぐ必要はない」と指摘する。同社は既に45年前から市場での競争を意識していた。1998年に株式制を取り入れたが、これこそが市場競争に参与する基盤である。人材の競争では、中堅幹部に株を持たせることで企業と社員が利益を共有し、またリスクを分担するなど強い吸引力があり、他社から転職する中堅が相次いでいる。人材があれば、外資のチャレンジを恐れることはないのだ。