弱い人びとに目を向けよう

柴 米

 朱鎔基総理は3月に開かれた第9期全国人民代表大会第5回会議で行った政府活動報告の中で、「弱い人びとに就業の面で特殊な援助を与える」と述べた。これは「弱い人びと」という概念が初めて政府活動報告に書き込まれたもので、それは人々、これらの人がすでに政府の大きな関心を引き起こしたという重要な情報を伝えている。その後、「弱い人びと」は人民代表、政治協商会議委員および最近一時期のメディアと社会公衆が最も関心を持つ人の群れとなった。

  オブザーバーは、弱い人びとの存在を正視し、彼らに各方面から関心を寄せるのは、社会観念の一大進歩であると見ている。

 国務院発展研究センターのある研究は、社会の安定と経済の持続可能な発展を維持するため、弱い人びとの保護を全面的に強化することは今後の政府の社会政策の重点となるべきだとしている。

弱い人びとはどういう人びとか

 全国人民代表大会代表、遼寧省のある製鉄所から来た張前江氏は、弱い人びとが社会の幅広い関心を引き起こしたことをとてもうれしく思っている。これは彼が人民代表であるというためばかりではなく、同時に彼の同僚、友達、身内の中にもこのような人がいるからでもある。

 張前江氏は高炉で鋼鉄をつくる仕事に従事し、妻はある欠損を出したゴム工場で働いているが、賃金は長年遅配している。彼の二番目の兄も似通った問題に直面している。「低所得の人びとの状況は関心を持たれるべきであり、皆が知恵と力を出し合って彼らを助けて困難を克服しなければならない」と語った。

 政府がさまざまな措置をとったにもかかわらず、中国の経済、社会の体制転換に従い、張前江氏の妻のような低所得の人はかなりの人数に達している。報道によると、さまざまな原因で貧しい状態にある都市部の人口は1000万ないし3000万あるはずで、そのうち一部の人は最低生活保障を享受できないでいる。農村では、貧困から脱却していない人はまだ3000万人いる。弱い人びとは生活、就業、医療、教育などの面で非常に大きな困難にぶつかっている。

 全国政治協商会議常務委員、社会学者のケ偉志氏は、弱い人びとは富を創出するが、富を集める能力が弱く、就業競争力、基本的生活能力がわりに劣っている人の群れを指すが、最近の各方面の視点をまとめてみると、これらの人びとは農村では主にまだ貧困から脱却していない農民であり、都市では主に身体障害者、一時帰休者と失業者の群れ、貧しい人びと、一部の高齢人口、都市に出稼ぎに来た農民、早くから定年退職した国営企業の従業員および災害に見舞われた少数の人であると語った。

制度を整備

 国務院発展研究センターの研究は、中国政府がここ数年弱い人びとを保護し、社会の矛盾を緩和するなどの面で努力を傾け、大きな成果をあげたとはいえ、新しい情勢の下で、現行の体制は多くの面でまだ弱い人びとに十分かつ効果的な保護を提供しておらず、低所得の人びとに対する援助制度は整備が待たれているとしている。

 都市部では、中国が現在低所得の人びとに対する保護制度は主に失業保険制度、都市部住民の最低生活保障制度である。現行の失業保険制度の最も際立った問題はまだ広くカバーしていないことである。都市部住民の最低生活保障制度の進展はわりに速いが、またいくつかの問題が存在している。最低生活保障が地方政府を主として実施するものであるが、地区間の経済発展レベルに差違が存在しているため、保障の基準は通常実際の必要ではなくて地方の財政能力に基づいて確定されている。同時に、目下の都市部住民の最低生活保障は基本的には衣食の必要を保障するだけで、貧しい人びとの医療、教育などその他の基本的生活の必要に手が届いていない。

 農村では、長年続いてきた貧困扶助で多くの貧しい人が貧困状態から脱却したとはいえ、経済後進地域では相変わらずかなり多くの農村人口が貧しい状態あるいはそれに近い状態に置かれている。彼らに対し、いまでもまだ安定した援助メカニズムが構築されていない。WTO加盟の初期に、農業が厳しいチャレンジに直面するため、すかさず政策を調整しなければ、農村の貧困人口が増加するかあるいはもっと貧しくなる現象が現れる可能性がある。

 朱鎔基総理は政府活動報告の中で、失業保険制度を完全なものにし、都市部住民の最低生活保障制度の建設を強化して、条件に合ったすべての都市部の貧しい住民に最低生活保障が得られるようにしなければならないと述べた。政府活動報告も大量のスペースをさいて農民収入の増加と農村人口の貧困脱却についての計画を述べている。

 そのほか、「二つの会議」(全国人民代表大会、全国政治協商会議)の期間に、多くの代表と委員は、「社会保障法」、「社会救助法」、「社会福祉法」などの法律をできるだけ早く制定し、法律の力で弱い人びとの利益を保障するよう呼びかけた。

 河南省人民代表の楊徳恭氏は、立法は容易なことではないが、それは低所得の人びとの生活に関わり、社会の安定と改革の成敗に関わっているため、先に延ばしてはならないと語った。

投入を増加する

 中国では弱い人びとに対する主な救助基金源は、財政収入の中からすこし支出する、社会福祉税を新たに増設して、企業からすこし徴収する、福祉宝くじの所得からすこし取り出す、各種基金会が社会と個人の寄付からすこし分けてもらうという「四つのすこし」と略称されている。この「二つの会議」で、「マイナス所得税」という観点を打ち出し、個人所得税の徴税起点と最低生活保障ラインの間にある場合は所得税を免除し、最低生活保障ライン以下の場合は所得税で補償することを提案した人がいる。また利息税、個人所得税、遺産相続税をすべて社会保障に用い、それによって財政支出増加メカニズムを形成することを提案した人もいる。

 項懐誠財政部長は全人代で行った予算報告の中で、中央財政は今年社会保障のために860億元支出するが、不変価格で計算して、昨年より28%伸びた。都市部の低所得人口の基本的生活保障問題を解決するため、国務院は今年これらの人に対する補助を昨年の2倍の46億元に増やすことを決定した。そのほか、中央財政は今年企業の養老年金と国有企業の一時帰休者を補助するため512億元支出する。

 これほど大規模な投入は空前のものである。実際には、ここ数年、中国政府は都市部の貧しい人びとに対し、前よりもずっと関心を寄せるようになり、特に昨年、都市部住民の最低生活保障のカバーする人数は、年初の400余万人から年末の1120余万人に増し、中央財政がその年社会保障のために支出した金額は1998年の6.18倍であった。

 それにもかかわらず、資金はまだかなり不足している。そのため、各クラスの地方政府と社会各界も次次と援助の手を差し伸べた。

 39日、中華慈善総会が行った「慈善のために一元を寄付しよう」という大規模な慈善寄付行動は北京で正式にスタートし、第一陣300個の無料で靴を磨く機能をもつ慈善寄付箱がすでに北京の各銀行の貯蓄所などの公共の場所に置かれた。この活動は主に全社会向けの大規模な長期的な小口寄付行動であり、寄付した資金は主に弱い人びとの生活、医療、教育などを救助することに用いられる。

教育と医療面の貧困扶助

 全国人民代表大会代表、北京市広渠門中学の元校長李金海氏は、「現在、弱い人びとにとって、食事、住宅、受診および子供の教育の四つの難題の中で、最も際立っているのは受診と子供の教育である」と語った。

 全国人民代表大会代表、北京市第10期人民代表大会常務委員会秘書長の王昭鉞氏は次のように語った。経済の貧困は往々にして文化の貧困と密接につながっている。そのため、多くの貧しい家庭の貧しさは代々伝えられている。このような局面を変える最もよい方法は教育に頼ることである。都市部の多くの家庭は暮らしが苦しいが、自信にあふれ、子女が役に立つ人になるように教育を受けさせることはすでに彼らが貧困から徹底的に抜け出す望みの所在である。そのため、国と各級政府は教育貧困扶助基金を設立し、条件のある貧しい家庭を助けて中等専門学校以上の学歴をもつ子女を一人育成すべきである。一人の子供が役に立つ人になったら、この家庭も貧困から抜け出すことができる。

 李金海校長の説明によると、広渠門中学にはもっぱら貧しい家庭の子供のために設立した学費と雑費を減免する「宏志クラス」があり、「宏志クラス」の子供は過去の7年間に4期卒業し、彼らは残らず大学に進学し、その中の96%は重点大学に入り、6人は外国へ行って留学している。

 低所得の人びとの受診が難しい問題も差し迫って解決しなければならない問題である。

 目下、広州市は都市部で特別貧困者基本医療保障制度を確立し、地元の最低生活保障基準の14%に基づいて都市部の特別貧困者に医療救助を与えている。この制度が実施されてから、合わせて21342人に医療救助を提供し、そのために支出した医療救助金は700万元余に達し、ある程度受診難の問題を緩和した。広州の市、区2クラスの慈善会はまた慈善外来診察制度を確立し、困難な大衆のために無料で診察してやり、1995年から現在までに無料で医療を提供した人数は延べ5万人に達したという。今年、広州市政府はまた1000万元の資金を弱い人びとの特殊な医療救助費にあてている。

 最近の報道によると、最初の慈善病院がまず新疆に設立される可能性がある。新疆ウイグル自治区慈善総会の馬莉副秘書長は次のように述べた。目下、すべての条件がすでに整えられている。関係部門の認可を得れば、ウルムチの某部隊の病院は直接慈善病院に変身する。慈善病院の設立は新疆の身体障害者、身寄りのない老人、貧困家庭、職業のない人などの弱い人びとおよび麻薬吸引者に低額または無料で治療を受けさせるためである。病院は正常な経営をするほか、助けを求める者の中から最も助ける必要のある弱い人びとを選んで、彼らに低額または無料で医療と救助を与える。老年リハビリセンター、マンション、臨終配慮病棟を設立し、生活を自分で管理できない身寄りのない老人に安らかに楽しい晩年を過ごさせ、不治の病をわずらっている病人に臨終の前に社会の関心と配慮を十分に享受させる。そのほか、慈善病院は年間利益の30%を慈善事業に返還し、自治区内で災害が発生した時に、医療チームを結成して被災地区に行って救助、治療する。新疆ウイグル自治区慈善総会はこの慈善病院をテストケースとして逐次全自治区に広め、新疆の弱い人びとの衛生保障システムを確立する。伝えられるところによると、新疆社会の各方面はいずれもこれに大きな支持を表明した。定年退職した多くの高級医学専門家は慈善事業のために力を尽くすことを示し、市内の某銀行は2000万元の貸付けの提供を申し出、新疆の多くの企業家と企業も資金援助の意向を明らかにした。

就業を拡大

 全国政治協商会議常務委員ケ偉志氏は、補償は焦眉の急しか解決できないため、根本的に考慮して、重要なのは弱い人びとに就職の機会を提供することであると述べた。

 国家発展計画委員会の曾培炎主任が第9期全国人民代表大会第5回会議で、中国の今年の国民経済と社会発展の主要な任務に言及した際、今年の都市部の就業人数を昨年より800万人前後増やすように努めると述べた。

 弱い人びとに対し、政府は「再就職援助行動」を実施する。たとえば、夫婦の双方が同時に一時帰休したとか、離婚して子供を連れているとか、技能が低いとか、年齢が大きすぎるなど特別貧困者に対しては、異なる状況に基づいて「完全に就業」させ、主要な形式は政府が金を出して職務を買い取るとか、企業に相応の補助を与えるとか、公共工事に参加させるなどである。説明によると、上海の「4050プロジェクト」は、40歳以上の女性と50歳以上の男性の再就職を援助するためのものである。

 有名な学者の胡鞍剛氏は次のように述べた。中国が1993年から4年ないし5年かけて初めてマクロ経済の「ソフト・ランディング」を成功裏に実現し、高いインフレ率を効果的に抑えたと言うなら、いまからさら4年ないし5年かけて、2回目の「ソフト・ランディング」を実施しはじめ、わりに高い経済成長率を保つ条件の下で、都市部の高い失業率を下げる必要がある。

 「第二次の『ソフト・ランディング』は第一次よりいっそう難しく、いっそう挑戦的である」。