米経済の回復に望みはあるか

 世界経済が低迷する中、米経済も不振は避けられず、とりわけ9.11テロで打撃を受けた。半年余り調整が続いたが、米経済は苦境から脱したのか。以下、3人の中国人専門家に米経済を各方面から分析してもらった。

              ――編集者

 

21世紀初の米経済の不振を透視する

(甄炳禧・中国国際問題研究所副所長)

 21世紀に入り米経済は不振に陥ったが、それはかなりの論議を呼び、また特殊なものだった。工業生産は15カ月連続して落ちこんだが、国内総生産(GDP)が減少したのは僅か1・四半期だけだ。不振は需要不足ではなく、供給過剰によって誘発され、周期的な要素によるものではなく、突発的な要素が主因である。不振は戦後の米国では最も軽度のものだとは言え、世界経済に及ぼす影響の広さと深さでは戦後希に見るものである。今年は回復の度合いが過去幾つかの周期に比べ小さいものの、下半期には加速すると思われる。

米経済不振の新たな特徴

 今回の経済不振は戦後10回目であり、生産が低下し、株市場が暴落し、利益が減少し、企業が破綻し、失業が増大するなど一般的不振に見られる特徴を備えているが、過去とは異なる特徴が幾つかある。

不振が穏やかだということである。業種から見ると工業、特にハイテク産業が深刻だが、サービス業では「9.11」後になって不景気感が顕著になってきた。時間的には、工業生産は15カ月続けて低下したが、GDP1・四半期だけがマイナス成長となり、これは米国史上珍しいことだ。GDPの下げ幅を見れば、最高から最低までは0.3%下がったにとどまり、戦後の経済が不振となった時期の平均2.2%の下げ幅をはるかに下回っている。失業率から見れば、最高で5.8%に達したが、それでも過去9回と比べれば低い。総体的に言って、今回の経済不振は戦後で最も軽微なものであり、一部の経済学者は「小規模な後退」と呼んでいる。

 原因が特殊だということである。従来は需要に起因するものだったが、今回は先ず供給に端を発し、企業が利益減少と生産過剰の下で、設備投資と在庫を大幅に削減したため生産が減少したが、消費支出はむしろ増え続けている。また、過去の不振では周期的な要素が主役となったが、今回は突発的な要素が決定的なものとなった。過度の投資、株価のバブルなど周期的、構造的な要素が不振を招く可能性を秘めていたが、それが「9.11」で現実のものとなった。米連邦準備理事会(FRB)のグリーンスパン議長は「『9.11』前にはすでに景気低迷に安定した光が見え始めており、これ以上自ら悪化していくことはない」との見通しを示した。

 世界経済に影響を与えた程度と規模がかつてないものだというである。昨年、世界の貿易と投資はこの20年間で最も落ち込んだ。米日独の3大経済体は70年代半ばごろから初めて同期に不振となり、一部東アジアやラテンアメリカの国も不振に陥り、世界4分の3の国で経済が減速した。これはグローバル化の流れの中で各国経済の相互依存度が強まり、グローバル化の中で主導的地位にある米国のその他の経済体に及ぼす影響が大幅に強まっていることを物語る。

不振軽微の要因

 内需拡大が主役を演じたことである。GDP3分の2以上を占める消費支出が堅調であり、それを支えたのは次の4つの要素である。@マクロ政策が消費支出を有効的に刺激したこと。FRB11回も金利を大幅に引き下げ、住宅や自動車など耐久消費財の販売を促進し、また政府の減税で消費者の可処分所得が増加した。A生産性の向上で、企業不振の中でも賃金を引き上げることができたこと。昨年の実質引き上げ幅は過去60年で最高を記録した。B富の長期にわたる蓄積を背景に消費支出が増大し、また株式市場の暴落による富のマイナス効果のダメージを食い止めたこと。C2000年初頭以降の住宅価格の上昇で個人財産が18000億ドル膨れ上がり、株の値下がりによる損失を一部で補填できたこと。

 新たな経済要素が重要な役割を果たしたことである。先ず、ITの普及で労働生産性の向上が促され、不振の程度も軽減できた。昨年の第2・四半期から第4・四半期の非農業部門の生産性は平均して2.7%を上回ったが、前9回の不振では生産性が平均0.6%下がっている。次に、政府と企業がITを利用して経済運営を注意深く監督したことから、マクロ・ミクロ両面の政策決定と政策調節の能力が向上し、経済不均衡の問題を時を移さず有効に対応・解決できるようになったことである。またFRBは需給変化のリアル・タイムの情報を時宜を逸することなく把握し、適時に金利を引き下げることでそれ以上の悪化を抑え、企業は在庫調整と人員削減を速やかに行って、損失を軽減させた。さらに各国と企業が情報を共有し、政策的協調を強化したことが、リスクの軽減と分散にプラスとなった。第三は、IT製品の価格が下落し続けたことが、インフレ抑制や消費者の購買力の向上にプラスとなり、金利の引き上げが可能となったことである。

米経済回復の見通し

 先ごろ発表されたデータから推測すれば、昨年末から年初にかけて、米経済の不振は底をついたように思われる。格別に意外なことがなければ、今年の米経済は戦後の前数回に比べ温和な回復を見せ、下半期には経済成長率は上半期より速くなり、年間を通じて中低速で成長していくだろう。

 米経済回復の原動力として、主に次の5点が挙げられる。@在庫調整が一段落し、企業が物資購入に転ずることが先ず原動力となる。A政府が回復に向け資金投入を拡大すること。ブッシュ政権は赤字財政になったとしても軍事費を増大し、国内の安全を強化し、経済を刺激することにやぶさかではなく、先ごろ今後3年間に約1200億ドルを新たに拠出する経済刺激方案に署名している。B生産過剰が緩和するに伴い、企業収益は黒字へと転換し、下半期には固定資産投資が拡大すること。C消費支出と住宅建設が引き続き増加し、伸び率は以前の幾つかの周期ほど大きくないものの、回復に役立つこと。D新たな経済要素が今後も生産性の向上を促し、コスト低下とインフレ抑制にプラスとなることで持続可能な回復が進むこと。

 しかし、米経済は回復に向け制約的な要素と潜在的リスクにもさらされることになろう。第一に、回復が他国に先行すれば、経常収支の赤字が拡大し続けることになる。第二に、米ドルに対する評価が高すぎることである。現在の貿易加重指数に基づく為替レートはほぼ1985年の水準にある。第三に、主要経済貿易パートナーとの経済・金融問題だが、とりわけ最大の債権国としての日本(米政府債券の10%を保有)が、情勢の悪化に伴って大量に売り払えば(昨年は170億ドル)、経済回復と米ドルの安定に影響を及ぼすことになる。第四に、企業と家庭の債務負担が日増しに重くなっていることである。第五に、株価が依然高く評価されていることである。現在、スタンダード・アンド・プーア社の500社株価指数(SP500指数)の市場利益率は24倍であり、1957年以来の平均値より19%高い。このほか、テロ活動や反テロ作戦など不確定な要素も存在している。これらは、米経済回復の勢いにはまだ脆弱性があり、潜在する一部のリスクが現実となれば、回復は「W」形を呈することを物語っている。だが、近いうちにリスクが現実に転じる条件はまだ成熟してはおらず、回復は「V」形になる可能性がさらに大きい。

 

両刃の剣――米国の鉄鋼製品に対する保護主義

(達 巍・中国現代国際関係研究所米大陸研究室研究員補佐)

 米国は今年320日、鉄鋼製品の輸入に高関税を課す「201条」(セーフガード・緊急輸入制限措置)を正式に発動した。今後3年間、鋼材や熱延鋼板など主要鉄鋼製品の輸入に対し8%から30%追徴課税することになる。

 この情報が伝わると、中国をはじめ、日本、韓国、ロシア、ブラジル、欧州連合(EU)などは驚きを隠さず、グリーンスパンFRB議長やオニール財務長官も暗にこれを批判し、舌論や二国間交渉、WTOへの提訴が相次いだ。中国はいかに自国の鉄鋼産業の利益を保護するかという問題に直面しただけでなく、WTOの枠組みの中で紛争を解決するチャレンジに立ち向かうことになった。こうしたことから、今回の貿易紛争に中国人は格別に関心を寄せた。

 米国のセーフガード発動はその他国にも自国の鉄鋼市場を封鎖したのに等しく、各国に巨大な経済損失をもたらすばかりでなく、WTOルールも著しく損ねることになった。WTOでの紛争解決が長引くことで、米国に対する提訴が最終的に棚上げされてうやむやとなり、紛争解決メカニズムが脆弱になる可能性さえもある。EUやカナダが米国に右ならえして自国の鋼材市場を封鎖することも考えられるため、国際鋼材市場にドミノ効果が現れ、各国がその他の貿易分野で米国に報復を加え、二国間の貿易戦争が引き起こされることにもなる。

 実際、高関税は両刃の剣であり、米経済にとっても利害が半々である。米国はこれによって景気低迷する鉄鋼産業に“一息つかせる”チャンスを与え、業界のこれ以上の失業者増を避けることはできるが、鋼材の値上がりが自動車や住宅などその他の業種の競争力を低下させ、さらに多くの労働者の失業を招くのは必然である。しかも、政府の保護措置では鉄鋼産業の競争力を高めることはできない。米国の鉄鋼産業の不景気はグローバル化がもたらした資源再分配の産物であり、米国の労働・資本集約型産業の不景気と、世界に比肩できるもののない知識集約型産業の好景気は実際、硬貨の裏面の現象だと語る。米国は従来から自らを「自由競争経済のモデル」と標榜し、常に東アジアの発展モデルを「政府主導による成長」だと批判してきたが、今回なんらためらうことなくその“明からさまな手”を差し出したのは何故なのか。

  EUの貿易担当委員は、米国のこの決定は政治的なもので、法的にも経済的にもまったく根拠がないと見ている。ブッシュ大統領にとっては、考慮すべき政治的要素が確かに多い。中間選挙を控えたブッシュ氏は当初、大統領選に向けて鉄鋼業界を保護すると業界巨頭に確約したが、これを果たさなければならない。ワシントンの政治顧問は、ブッシュ大統領が鉄鋼産業という米国工業界のナンバーワンを怒らせることにでもなれば、この秋、共和党は議会の多数派を失うことになり、2004年の大統領選も危くなると見ている。鉄鋼労働者が手にする票は現在のブッシュ大統領にとってこの上なく重要であり、従って「同情心ある保守主義」を示す絶好のチャンスでもある。また、決心のつかない議員たちの歓心を買う必要もある。彼らから権限を授けられて初めて、ブッシュ大統領は南米諸国と交渉を行い、新たな自由貿易協定を取り決めることができるからである。どの問題もかくの如く重要ではあるが、「自由貿易」という崇高な言い方はひとまず棚に上げざるを得ないだろう。

 ブッシュ大統領が就任して1年余り、われわれは余りにも多くの一極主義を目にしてきた。「京都議定書」から離脱した環境面での一極主義、「ABM・弾道弾迎撃ミサイル制限条約」からの一極脱退や「核態勢見直し報告」では核の敷居をほしいままに低くするなど、軍備抑制での一極主義、「悪の枢軸」なる言葉を思いつきで作って反テロ作戦を拡大するなど、反テロでの一極主義などがそうである。現在、ブッシュ大統領は鉄鋼に対する関税を突然引き下げたことで、世界は貿易面でもその一極主義に立ち向かわざるを得なくなっている。「9.11」やアフガン戦争で、ブッシュ大統領は断固で果敢、有言実行の指導者としての資質を示したと言うべきだろう。それはまるで開拓時代の沈着かつ勇敢なカウボーイを彷彿させた。しかし、戦争と反テロ以外の分野では、ブッシュ大統領の資質はむしろ無鉄砲で頑固、独断専行だと言えるかもしれない。現在の世界は白人の植民地主義者とインディアンが対峙した米西部とは違う。一極主義による強硬なやり方は、米国が責任を負わない国だと思わせるだけである。中国は産業構造の調整、労働者の一時帰休や失業といった厳しい挑戦に直面している時ですら、果敢に関税を引き下げてチャレンジを迎え入れたが、米国は世界一の経済先進国として、また「自由貿易の最も断固たる擁護者」として、困難に遭遇すると誰よりも先に自由貿易の原則を捨て去ってしまった。

 冷戦後も米国は一貫して唯一の超大国としての地位を保持しようとしているが、強さと利己主義でその地位を保つことはできるのか。中国だけではなく、ロシアもセーフガードに不満を抱えており、日本やEUなど米国の同盟国はそれ以上に激しい反応を示している。「道にかなえば助けは多く、道にそむけば助けは少ない」。最終的にその「両刃の剣」で真に傷つくのは米国自身だろう。

 

米軍需産業に再建のチャンス

(黄仁偉・上海社会科学院世界経済研究所研究員)

 反テロ作戦によって、米国の軍需産業はより高度な要求を突き付られることになった。米軍がより精確な攻撃目標が必要としているからだ。より精度の高い遠距離攻撃、高速反応、情報収集と分析、いわゆる「戦場の透明度」をさらに拡充するというものである。「9.11」以前、ラムズフェルド米国防長官は冷戦時代の戦略的思考と装備放棄することで、「軍事変革」を推進していく決断を示した。そして、「新軍事革命」は「9.11」後に加速された。米国は今後、主に“低震度”の反テロ作戦を進めていくだろう。それには、情報資産の強化システム、“電子戦”に必要な製品、無人偵察機、航空機搭載レーダーなどの軍事装備が必要となる。まさにここに「新軍事革命」と「新経済革命」の接点があり、米国の軍需産業に再建に向けたチャンスがもたらされる結果となった

軍事・IT・ネットの複合体

 米軍需産業が再び台頭し始めた背景には、IT産業とネット経済のバブルが崩壊し、数多くのIT技術者が相次いで軍事工業グループに転職し、新軍事革命の生産力となった特殊な事情がある。生き残ったIT企業も競って軍事工業グループと関係を築き、巨額の軍事契約でそのシェアを獲得しようとしている。ロッキード・マーティン社、ボーイング社、レイシオン社、ノースロップ・グルマン社、ゼネラル・エレクトリニック社などはいずれも民間から技術者を幅広く募集、またはネット企業とパートナー関係を結んでいる。こうした動きが進めば、IT産業と軍需産業を独占する複数の軍事・IT・ネットの複合体が出現することになるだろう。

知能兵器・通常兵器にもチャンス到来

 現有のミサイル制御システムでは複雑な状況に対応できないことが、反テロ作戦で顕在化した。テロ組織が情勢に応じて機敏に拠点を移したことから、トマホーク巡航ミサイルは常に目標を見失い、誤爆が時に発生した。そのため、米国防総省・ペンタゴンは軍事企業に対しより多くのより精確なレーダーシステム、ミサイル制御システム、無人偵察機を提供するよう求めている。レイシオン社はトマホーク巡航ミサイルの的中率を高めるため、現在のミサイルヘッドに衛星制御装置を据え付けた改良型の巡航ミサイルを生産する計画である。さらに巡航ミサイルが発進途中で命令を待ち、標的を捉えた後に攻撃させるのが次の目標である。この「機動化」計画は2年以内をめどに完成させるという。他の軍事企業も追随して主要兵器システムのコンピューター化を進め、いかなる作戦の下でも目標を捉える「知能兵器」を開発いていく計画だ。

 軍事革命はIT分野に集中しているが、反テロ作戦は通常兵器のメーカーにも多大なチャンスをもたらすことになった。この分野で最大手のゼネラル・エレクトリニック社は、海軍だけで年間売上高の34%を占める100億ドルの兵器を受注した。とりわけミサイル発射と情報収集機能を兼ね備えた潜水艦は引く手あまたであり、ニューポート造船所を買収すれば、同社は米海軍唯一の空母と潜水艦の供給メーカーになる可能がある。「9.11」後、大企業の最高経営責任者(CEO)が次々と同社の専用機に乗り換えているため、ジェット機の生産台数も著しく増加していくだろう。ジェット機の生産高は現在、同社の動力分野で44%を占める。。

戦後初の戦争国債を発行

 兵器改良計画の達成には巨額の軍事予算を計上して支援することが必要であり、軍事費としては第2次世界大戦終結以来の最大の支出となるだろう。議会が認可した2002年度の国防予算は3450億ドル、ブッシュ政権が年初に提出した3250億ドルをはるかに上回っており、また「9.11」後、ブッシュ大統領が提起した反テロ緊急対策資金は200億ドルだが、議会が認可したのはその倍である。

 表面上、アフガン戦争にかかった費用は湾岸戦争よりずっと少ない。湾岸戦争では650億ドルを費やし、今回は約400億ドルとなっているが、戦場以外の支出は湾岸戦争をはるかに上回っている。さまざまな情報活動にかかる費用や米本土防衛のための支出を加えると、反テロ作戦の実質支出は2630億ドルに達し、短期間で終結しなければ毎月の支出は10億ドルとなる。連邦政府財政省は200112月から「愛国者」と銘打った大戦後初の戦争国債を発行したが、これを見れば、「9.11」が長期的な国防支出の大幅増加をもたらし、軍隊と軍需産業に「需給関係」を築かせる“十分な理由”をブッシュ政権に与えたことが分かる。

軍事費増加分、大企業に傾斜

 米国の国防支出の増加は長期的かつ戦略的な政策なのか、それとも応急的な措置なのか。長期的なものなら、支出は一体どれほどの規模になるのか。米JSA研究所の試算によれば、2003年までに実質支出は4000億ドルに達し、2005年には2001年末より66%多い5000億ドルに達する。ホワイトハウスが政策上、国防支出を長期的に拡大していけば、軍需産業もその恩恵を受けることになる。

 とはいえ、実際、分配というものは決して不均等なものであり、最大のシェアを得られるのは米国の国防政策に最も影響力をもつ大企業にほかならない。

 200110月末、ロッキード社は総額2000億ドルに上るステルス戦闘機3000機の納入を落札した。JSF戦闘機は今後数十年間に米英軍の主力戦闘機になると見られており、F22ステルス機の海外での潜在的市場も考えれば、実質契約高は4000億ドルに達する。

経済構造の軍事化を加速

 ニューヨーク株式相場の下落とは反対に、軍事関連企業の株価は「9.11」後の取引き開始1週間で急騰した。レイシオン社の株価は2週間で37%増、ノースロップ・グルマン社は24%増、ロッキード・マーティン社やゼネラル・エレクトリニック社も数十ポイント上昇したほか、一部軍事科学技術関連の小企業の株価も3040%値上がりしている。2000年以降、軍事関連株価は右肩上がりの傾向にある。

 つまるところ、米国の経済構造は「9.11」以降、軍事化の傾向がますます鮮明となり、こうした傾向は経済の低迷によって強まりつつある。米経済の低迷は「9.11」でいっそう深刻さを増しているため、軍事工業への投資拡大は経済回復を刺激する重要なテコにはなるだろうが、こうした刺激策は“急場しのぎ”のものになる可能性がある。軍需産業が経済成長の“牽引車”となれば、財政予算や税収政策、外交政策、与野党間の結束やイデオロギーの動向も大きく変わることになり、ひいては冷戦時代の枠組みに後退する危険すらある。

 米国が巨大な資源を軍事工業に移転することになれば、世界の平和と安定にはメリットよりデメリットのほうが大きい。