軍備抑制は救えるか

李 彬

 ブッシュ大統領がホワイトハウス入りしてから、アメリカ政府は信じ難いスピードで国際軍備抑制体制を破壊しはじめた。アメリカ政府が「生物兵器禁止条約」の検証議定書を拒み、「包括的核実験禁止条約」を支持するための現場視察研究経費を削減し、核実験再開の準備時間を短縮し、「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約」から脱退すると宣言し、軍事費を史上最大の規模に増やし、その「核配備見直し報告」の中で核戦争に興味を持っていると表明したことなどがそれである。上述の事実に基づいて、アメリカの科学専門誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(原子科学者の会報)」が最近、核戦争の危機が再びこの世界に近づいてきていると警告を発した。

 ブッシュ政府と密接な関係にあるシンク・タンクは、いつでも変えられる一方的な声明で長期軍備抑制協定に取って代わることを提出し、また必要の時再び使用するように、アメリカ政府が削減計画に組み入れた兵器を貯蔵するよう提案した。この提案がアメリカの今後の長期政策になった場合、現存の国際軍備抑制体制は重大な破壊を遭い、世界各国が安全問題で再びジレンマに陥るばかりでなく、軍備抑制によって提供される安全保証も受けられなくなるだろう。それとは逆に、世界各国は安全に脅かされる時に自分の力に頼って自分を助け、兵器発展計画を制定する時に最悪の状況から出発して制定せざるを得なくなるだろう。

 世界がこのような無秩序に陥るのを避けるため、政府とNGOを含めた国際社会は新たな努力を払って国際軍備抑制体制を救っている。今年42日から4日まで北京で「21世紀における軍縮プロセス」国際シンポジウムが開かれ、各国の軍備抑制と国際安全担当の政府高官とNGOの代表が参会し、軍備抑制の推進力を再検討した。「核不拡散条約」予備委員会は48日から19日までニューヨークで会議を開き、2005年に開催される「核不拡散条約」審議会の準備を進めたが、これも非核保有国とNGOが核軍縮を呼びかけるフォーラムである。この会議が軍縮促進の面で成果を収めるようにするため、多くの「核不拡散条約」締約国とNGOは会議開催前に積極的な活動を行った。この二回の会議は国際的な圧力を生じ、国際軍備抑制体制の擁護を推進することだろう。そのほか、アメリカの一部のNGOもこの二回の会議の軍備抑制推進活動に参与し、それがアメリカの外交政策に影響を与え、アメリカがより積極的な軍備抑制政策をとるよう推進することを望んでおり、アメリカの大衆も軍備抑制逆転の危険な趨勢を逐次意識するようになるだろう。そのため、たとえブッシュ政府が国際社会の軍備抑制についての呼びかけにすぐ応えなくても、時間の推移に伴って、この二回の会議はやはりいくらかの効果的な影響を生じるはずである。

 この二回の会議が軍備抑制の衰勢を転換させることができれば、現存の制度化した軍備抑制は引き続き存在し、しかも全世界に奉仕することだろう。ブッシュ政府の核心メンバーが軍備抑制の懐疑派ばかりで、国際安全実務の中で制度よりも自分で自分を助けることを信じているという要素を考慮すれば、このようなよいことが現われる可能性は小さい。アメリカは国際軍備抑制の中で明らかな影響力を持っており、その消極的な態度は軍備抑制のいかなる実質的な進展を阻止するのに十分である。しかし、これは世界にすぐにも激しい軍備競争が現われることを意味しない。大多数の国は軍備競争に巻き込まれたくない。アメリカの民衆は高い軍事費が必要でないことが分かれば、この負担を背負いたがらないだろう。そのため、アメリカも長期にわたって高い軍事費を維持するわけはいかない。同時に若干の技術問題が解決しにくいため、アメリカもすぐには真の全国ミサイル防御力を作り上げることができない。こうして、アメリカの「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約」からの脱退は国際軍備抑制体制を破壊する以外に、アメリカの安全に利益をもたらすことができない。アメリカの「核配備見直し報告」の中で打ち出した核戦争の概念は幼稚な冷戦思惟の産物であり、とっくに危険であることが証明されている。

 アメリカの世論は核戦争の概念を復活させる企みに批判的な態度をとっている。世論の圧力を受けた後、アメリカ政府は軍備抑制に対する敵意を減らすかもしれない。たとえ正式の条約がなくなったとしても、依然としていくつかの事実上の軍備抑制を擁護するのに有利である。このような状況の下で、多くの国は自由意思を踏まえて各自の軍備を制限し、同時にずっと警戒心をゆるめずに、その他の国が軍事面に突発的な変化が現われるのを防いている。制度化された軍備抑制よりも自由意思で一方的に発表した軍備抑制のほうがもっと信頼できないにもかかわらず、このような軍備抑制は依然として推進、擁護する値打ちがある。前述の二つの会議で、条約の形式をとった軍備抑制の衰勢を挽回できなければ、国際社会は自由意思による軍備抑制の方法を探し求めることに努めるべきである。世界各国が低い軍事費レベルを維持する自信をまったく失ったら、激しい軍備競争と大規模の戦争の危険は恐らくこの世界に近づいてくるだろう。平和によってもたらされる利益は夢となり、もともと教育や社会福祉、医療保険の改善に用いる金は新しい兵器の製造に使われてしまう。これはいかなる国にとっても不利であるため、それを避けるべきである。

 中国はすでに経済と社会発展の肝心な時刻に入り、平和で秩序だった世界は中国の改革と開放にプラスとなる。たとえワシントンが「弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約」から脱退すると発表したとしても、中国はやはり軍備抑制の中国に対する重要性を改めて強調するとともに、国際軍備抑制を擁護するという願望を表している。上述の二回の会議は一つの機会であり、これによって中国は今後その他の国とともに、世界軍備抑制体制を救い、世界平和を擁護することに努めるだろう。

(筆者は清華大学国際問題研究所副研究員、博士)