中国の最も重要な問題――農民の就業

本誌記者 汪孝宗

 中国は伝統的農業大国であり、農民はずっと中国社会の主体となっている。江沢民国家主席は今年3月に開かれた第九期全国人民代表大会第五回会議で、「農業、農村、農民問題は改革・開放と現代化建設の全局にかかわる最も重要な問題である。農村の改革を深化させ、農村の発展を速め、農村の安定を維持すれば、全局の活動の主動権を握ることができる」と指摘した。

土地が少なく人口が多く、労働力が過剰している

 中国は人口が多く土地が少ない国であり、現有の耕地面積は13332万ヘクタール足らずで、一人当たり耕地は0.1ヘクタールしかないが、世界の一人当たり耕地面積は0.25ヘクタールである。全国では、0.05ヘクタールという国連食糧農業機関の定めた一人当たり耕地面積の臨界値より低い県(区)は666を数え、中国の県(区)総数の23.7%を占めている。国家土地局の調査によれば、1990年から1994年までの5年間に耕地面積は年平均626700ヘクタール減少し、毎年新規増加する耕地にほぼ相当するものである。当面の経済と技術の条件の下で開発、利用できる未開墾耕地は7067万ヘクタールしかなく、それより厳しいのは、そのうち耕地として開発できる部分が1293万ヘクタールしかないことである。土地が増えないのに、人口が絶えず増加している。最も楽観的な推測では、人口は2050年に15億ないし16億人になった時はじめてその増加が停止する。人口が多く土地が少ないという矛盾が日増しに深刻化し、大量の余剰労働力が生まれた。

 中国の統計部門の統計によれば、昨年の農村労働力は48200万人で、前年より0.6%相当の267万人増え、全国労働力総数の約70%を占めた。労働力と土地の正常な比率では、中国の農業に1億人前後の労働力があれば十分であり、そのため、3億人以上の労働力を農業以外の業種に就業させる必要がある。

 前世紀の80年代から中国の郷鎮企業が急速に発展したことは、農村経済の発展に新たな活力を注ぎ込んだが、同時に農村余剰労働力の農業以外の産業への移転に多くの就業のチャンスを提供した。1980年から1995年までの郷鎮企業の就業人数は年平均数百万人増えたが、1995年以来、郷鎮企業の有機的な構成と労働力雇用コストの上昇につれて、農村余剰労働力を受け入れる数量がだんだん減少し、労働力を受け入れる能力が弱くなり、年平均90余万人しか増やすことができない。サンプリング調査によれば、昨年、省内で移動した農村余剰労働力のうち、所在地の郷鎮企業に就業したものは9.2%しかなく、以前より4.5%下がった。しかも、毎年農村労働力が数百万人新規増加しており、労働力資源の増加は社会生産の必要をはるかに上回り、労働力が明らかに過剰している。最新推計では、現在移転を待っている農村余剰労働力は17000万人前後で、現有の農村の従業者総数の35%を占めている。これほど膨大な余剰労働力は社会に大きな圧力をかけており、それを解決しなければ社会が不安定になる。

労働力の過剰で、農民の収入増は緩慢

 中国の社会・経済の発展に伴い、都市・農村住民の生活水準はかなり大幅に向上したが、20世紀80年代中期から、農村の発展が相対的に遅く、都市と農村の生活水準の開きが大きくなり、特に農村の余剰労働力の増加のため、土地が少なく人口が多いという状況の下で、農民の収入増はスローダウンしている。

 中国の農村、特に中・西部の農村は都市部と比べて十数年ないし数十年立ち遅れている。都市部住民と農民の収入の格差は、1978年は2.31で、1984年は1.71に縮小したが、1999年になるとまたも2.651に拡大された。それに都市部住民には住宅、医療、社会保障など面で目に見えない収入があるのに、農民にはそれがほとんどない、だから実際の格差はもっと大きいものである。国家統計局が公表した統計資料によれば、1997年の農村住民の1人当たり純収入の実際伸び率は4.6%で、前年より4.4%下がったが、1998年は4.3%に、1999年はさらに一歩進んで3.8%に下がった。2000年上半期の農民の現金収入は1.8%しか増えず、農民の収入増が引き続きスローダウンして、農村の消費増加を抑制しており、そのため、中国の国民経済の持続的発展と社会の安定に影響する重要な要素となった。

 国家統計局の専門家の見方では、農産物価格の続落、農民が増産しても増収しない現状を変えるため、農業発展の新たな段階の客観的要求にかんがみて市場ニーズに応えない遅れた生産物を淘汰し、良質と高効率の農業を発展させることは、農業現代化を実現するためにとるべき対策である。しかし、農業の構造調整は緩慢な過程であり、耕地面積、食糧安全、価格調節メカニズムなどの要素の影響を受けるため、短期間内に農民の収入増が明らかな効果を上げるのが難しい。そして農業構造の調整と農業生産性の向上によって、農村の余剰労働力は増える一方である。そのため、農民の収入増は高効率農業を発展させ、農村労働力を移転して農業以外の産業を発展させることに頼らなければならない。しかし、長期以来実行されてきた都市と農村の分割および戸籍管制は大量の農村労働力を移転できないようにしている。

農民の就業を秩序だてて解決する

 中国が実行しているのは都市と農村を分割する戸籍制度と就業制度であり、農村労働力の流動は厳しい制限を受けている。

 1984年から、農民が自ら資金を工面し、必要な食糧を手に入れ、都市部へ出稼ぎに行くことが許されるようになった。この政策は「農村労働力の流動を許可する」標識となり、30年も実行されてきた都市と農村の人口流動を制限する就業管理制度が緩くなり、それによって農村労働力の移転と流動がわりに速く増加する時期に入った。

 そこで、農村労働力の移動過程に見られる特有な現象--「農民就労ブーム」が現われ、交通運輸、社会治安などの面にもたらすマイナス影響も現われるようになった。そのため、中国各地の地方政府は農民の都市への盲目的流入に対する管理を強化し、農民が土地から離れても村を離れないように導き、「農業戸籍から非農業戸籍に変わる」人の速すぎる増加を厳しく抑え、農民の出稼ぎに必要な手続きなどを厳しくするが、あるいは一時停止することにした。農民の農村を離れる手続きを規範化させ、合理的に秩序だてて流動するようにした。農村からの臨時就労者に対する管理政策は「盲目的な流動」から「マクロコントロールの下での秩序だった流動の奨励、指導、実行」に調整され、就業証明書管理を中心とする、農村労働力が地区にまたがって流動する就業制度を実施しはじめ、また町の戸籍管理制度を改革した。しかし、それと同時に、都市の産業構造調整と都市の一時帰休者増加という影響を受けて、一部の省、市は農村労働力の都市流入及び出稼ぎを制限するさまざまな規定と政策を実行した。

 2000年に入ってから、中国は農民の都市流入と就業に対する不合理な制限を取り消し、都市と農村の労働力市場の一体化を逐次実現し始め、就業、社会保障、戸籍、教育、住宅、町の建設など多くの面の関係ある改革を積極的に推し進め、農村労働力をいっそう合理的に秩序だって就業させるようにした。

 権威ある部門の資料分析によれば、今後5年、中国の農村労働力の出稼ぎに新たなピーク期が現われ、毎年新規増加する農村からの臨時就労者は800万人以上に達する。このため、中国政府は戸籍制度の改革と社会保障制度の整備を通じて、労働力の合理的な流動を制限するいくつかの規定を取り消し、公平に就業できる市場環境をつくり出す。一連の政策調整が示しているように、中国は都市と農村の分割体制を改革し、農村の余剰労働力の就業のルートを拡大する面ですでに実質的な一歩を踏み出した。