ソフトウエアの強国に追いつく

唐元かい

 今年から、専門技術者はコンピューター応用能力試験を受けなければならなくなった。その成績が、技術者を招聘する条件の1つとなる。試験科目には初めて、国産ソフトの「WPS Office中国語プロセッサーソフト」と「用友財務ソフト」が採用された。

 全国的な試験科目に初めて国産ソフトが加わったことは、政府がソフトウエア産業を重視し、わが国のソフトが品質と応用で新たな段階に入ったことを意味するのは間違いない。

 しかし専門家は、ソフトウエア産業はすでに一定規模を有しているが、ソフト先進国(例えばインド)との距離はまだ目立って縮小してはおらず、全体的に見れば、満足できない部分も存在していると指摘する。報道によれば、関係機関はソフトウエア産業の総量で二年以内にインドに追いつく発展目標を策定しているという。

深層的な問題解決に着手

 科学技術部ハイテク発展・産業化司の李健司長は「先進国に追いつくには、ソフトウエア産業に存在している深層的な問題、規模が小さく集約度が低い、産業競争力が弱く核心技術に欠ける、市場秩序が混乱している、海賊版が深刻である、といった問題を無視してはならない」と指摘する。

 その原因として、李健司長は(1)長期にわたり、ソフトウエア産業の発展戦略の検討が不十分である(2)ソフトウエア産業発展の規律に対する理解と認識が不足している(3)ソフト企業グループの上場やソフトベンチャー基金の設立など、国務院が提起した、一部の政策がいまだ着実に実施されていない―――の3点を挙げた。

 李健司長はインドがソフト大国として最大の成功を収めたのは、国情に合致したソフト発展戦略を制定し実施したからだ指摘し、「我々もそれに学ぶ必要がある」との考えを強調した。

 わが国は現在、関係する問題の解決に当たっているところだ。ソフトウエア産業については、内需の牽引を主体に、また本体がソフトを牽引し、ソフト、ハードともに協調の取れた発展を目指すと同時に、分層的に推進させようとしている。

 「内需牽引」とは、ソフトウエア産業の国際化を継続的に推進すると同時に、まず国内市場の開拓とシェア獲得に立脚し、それを基礎に、輸出を拡大して輸出入バランスを徐々に実現するというものだ。インドに比べ、わが国は大きなソフト応用市場を擁しており、殊に国民経済の情報化が深まるに伴い、社会全体のソフトへのニーズは日増しに強まっている。同時に、世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、国内市場と国際市場は一体化しつつあり、この意味から言って、国内市場のシェア獲得は国際市場の中国の部分を占有したことになる。

 李健司長は「今は国内市場で約3分の1のシェアを占めているのみだが、今後数年で50%まで高めることができれば、ソフトウエア産業の売上高は倍増する」と予測する。   

 ソフトの発展は本体の発展と切り離せない。現在、わが国の製造業の規模は世界4位、本体の開発・生産能力もかなりのレベルにあり、情報産業の生産高は2000年に1兆元(インドの10倍)を突破した。こうしたことから専門家は、わが国はインドとは異なる発展の道―――本体の輸出でソフトの輸出、特にビルトインソフトの輸出を牽引させる道を歩むことになると指摘している。

 ソフトの発展は分野によってばらつきがあるため、関係機関はソフト企業を分類し、個別に発展させていくことにしている。優位性のある分野、例えば教育ソフト、財務ソフト、政務ソフトといった応用ソフト、中国語情報ソフトなどは早急に拡大するよう求める一方、優位性はないが国の利益にかかわり、戦略的意義のある分野では一定の地位を有するよう求められている。

 第105ヵ年計画(20002005年)期間中、科学技術部は8億元を拠出して企業オペレーションシステムや大規模データバンク管理システム、中間ソフトなど核心となるソフトの技術開発を重点的に支援し、自主的な知的財産権と国際競争力を有するネットワークソフト核心技術プラットフォームの確立を目指すことにしている。

 現在、ソフトウエア産業関連の管理機関は十数を数え、関係機関は国家レベルのマクロ的協調問題の解決について検討しているところである。同時に仲介機構の発展を強化することで、CMM認証の取得と海賊版の取締まりでその役割を発揮させていく考えだ。

 専門家は、民営ソフト企業を大々的に発展させると同時に、国有企業にも同等の待遇を与え、またソフト団地の建設を引き続き強化し、集団としての優位性と規模効果を十二分に発揮させ、ソフト企業のために発展に向けた良好な環境を整備することで、企業を淘汰できるようにして、インドのような大型ソフト企業に段階的に成長させていくべきだと提言している。

純正版の使用を指導

 昨年8月、国家版権局と国家発展計画委員会、財政部、情報産業部など4省庁は共同で『政府機関が率先して純正版ソフトを使用することに関する通知』を出した。同通知は、政府機関は今年、専用の予算を計上して純正版のソフトを購入し、純正版ソフトを購入しなかったために起こされた権利侵害の訴訟については、民事責任を負うほか、主管する幹部と当事者の行政責任を追究すると規定している。これは各政府が使用している各種の非純正版ソフトを徐々に淘汰し、かつて海賊版の苦しみを深く味わったソフト企業が政府から大口注文が受けられることを意味する。

 同年末、北京市は政府機関が使用するソフトの状況について詳細な調査を実施した。また国内外の一部ソフト製品に対して測定試験を行い、公平、公正、公開を原則に、入札方式で優れたソフトメーカーを選定した。通常予算に大量の専用資金を上乗せし、国内の落札企業7社からデスクトップ・オペレーションシステム、オフィスソフト、アンチウイルスソフト合わせて27000セット余りを購入し、67の直属部署で使用している。オフィスソフトや一部のアンチウイルスソフトだけで1500万元を超え、社会に大きな反響を呼んだ。

 北京市科学委員会の任●慈主任は、ソフトウエア産業体の整備を支援する重要な手段の1つとして今後、電子政府やICカードなどの重要プロジェクトで政府購入の実施を積極的に推進していく考えを表明している。

 政府購入とは、国の情報化の必要性に基づき、国の「863計画」や「科学技術難関突破計画」に合わせて重要技術の研究への資金投入を拡大することで、LINUSシリーズ製品の研究開発などの分野で新たな成果を実現し、自主技術を有する産業体の形成と拡大を牽引していくというものだ。

 このほか、北京市はさらに100万元余りを投資して、120万人の小中高生を対象に純正版保護キャンペーンを展開している。

 天津でも“純正版擁護者”は増え続けており、自発的に海賊版を使用しないだけでなく、社会に対して不使用キャンペーンを行っている。

 政府の購入量が増えれば、ソフト企業にとって市場は安定し、また市場に新たなブランド選択の機会がもたらされる。政府の発注を受けた企業は安定的により多くの資金を得られ、益々発展していくことができる。だが小売りのみに依存または少量購入しか受注できない会社にとっては、脅威となる可能性が極めて高い。政府が購入計画を達成した場合、わが国のソフトの純正版率は35%以上になると試算されている。首都である北京が全国に対して旗を振り上げ、各省・直轄市・自治区に純正版購入ブームを引き起こしていけば必ず、国産ソフトに発展に向けたより大きな市場が創造される。政府が講じる実質的な純正版購入と知的財産権の保護は、わが国のソフトウエア産業の高度成長を刺激するだろう。300万余りの公務員1人ひとりが1セットのオフィスソフトを持てば、100億元の市場が生まれることになる。市場を刺激していく中、今後10年はソフトウエア産業の発展が最速の時期になる、と楽観的に予測する人もいる。

 政府の“純正版消費”は、国内純正版ソフトメーカーの市場競争も刺激するだろう。昨年末以降、メーカー大手数社は相次いで海賊版価格と大差ない低価格、多種類のソフトをシリーズで発売しており、良質のサービスと品質で多くの一般消費者を引きつけている。

 消費者は純正版ソフトのメリットを益々味わうようになってきた、と言っていいだろう。北京市建築設計研究院でコンピューター管理を担当する沈雪梅さんは、純正版を使用すれば、メーカーの正規の研修やアフターサービスを受けられるので、設計者は以前使えなかった多くの機能を学ぶことができると話している。

版権の保護

 修正された新しい『コンピューターソフト保護条例』が今年から正式に施行された。新条例では、版権の保護は最終ユーザーの領域まで拡大されている。つまり、いかなる権利を侵害した事業体や個人にしろ、いずれも法的制裁を受け、刑事責任も負うことになる。

新規定はインターネット上で論議を呼び、全国人民代表大会や政治協商会議でも代表や委員から、新条例の最終ユーザーに関する規定はWTOのソフト版権保護のレベルを超えており、先走り、過度の保護ではないかとの意見が出された。これに対し、先ごろ開かれた『コンピューターソフト保護条例』について話し合うシンポジウムで、国家版権局版権管理司の許超副司長は「最終ユーザーが使用する海賊版ソフトに対する法的責任の追究は、決して先走りではなく、版権に対する過度の保護でもない」との明確な姿勢を示した。

 最終ユーザーに対する法的責任の追究については、199164日に公布した従来の条例にも規定があり、決して新しい条例における新しい規定ではないが、個人による海賊版ソフトの使用は往々にして「法的に責任を問うのが難しい」ため避けられてしまう。

 許超副司長は「その他の知的製品との相違性はそのソフトの技術的特性によって決まるが、コピーが非常に簡単にできるため、メーカーの経済利益を擁護し、わが国のソフトウエア産業を発展させるには、立法と懲罰の度合いを強化しなければならない。ソフトウエア産業は知的な創造を核心とするハイテク産業であり、その発展には投資や税収、人材吸収などの面で政府が関連政策で支援する必要があるが、さらに必要なのは良好な知識保護の環境だ」と指摘している。

 ソフトウエア産業界では、海賊版がわが国のソフトウエア産業の発展を阻害する主因だと広く考えられている。これについて、許超副司長は「根源から海賊版行為を取締まるには、公衆の知的財産権保護の意識を高めなければならない。現在、国産のソフトは非常に少なく、また実力も国際企業とは比較にならない。ソフトの財産権を保護して権利が侵害されないことを前提にして初めて、中小企業に公平な競争の機会を提供し、彼らの競争力を向上させることができる」と強調した。

 国際ソフトウエア協会の試算によると、わが国のソフト市場での海賊版率が6%低下すれば、純正版ソフトの売上高は倍増するという。

ソフトエンジニアの修士を募集

 今年のメーデーの1週間続いた連休の間、中国科学院大学院にある300人収容できる大教室はほとんど毎日満席となった。聴講したのは、6月初旬に初めて実施される全国ソフトウエアエンジニア修士(MSE)の入学試験を受ける人達だ。23年後には初の“国産”修士卒のエンジニアが誕生することになる。

 ソフトウエアの修士課程は昨年末に国務院学位弁公室が認可して新設されたコースで、中国科学院大学院や北京大学など51の機関が学生募集資格を取得した。

 ソフト大国のインドに比べ、わが国では人材のバランスが取れていない。まず人数だ。国内のソフト企業数は約数千社、従業員数は25万人余りしかいない。千人を超す企業は数えられるのみだが、インドではざらだ。

 次に人材の構造比率の問題だ。いかなるソフト企業も3類の人材が必要とする。第1類は、技術や管理を理解する高級人材。第2類は、システム分析や設計を行うエンジニア。第3類は、熟練したプログラマーで、「ソフトブルーネクタイ」と呼ばれている。企業ではこの3類の人材比率がピラミッド型を呈していれば正常だが、わが国では上下が少なく中間が多いという楕円形となっている。高級管理者や基礎プログラマーが欠けており、人材の数で産業の必要性を満たすのはかなり難しい。これについて、李建司長は国産人材の養成と訓練の重要性を強調するとともに、ソフト専門学校を開設するハードルが高いのが人材養成にマイナスになっているとも指摘している。

 北京大学ソフト学院開設準備室の責任者によると、ソフトウエアエンジニア修士の教育システムは一般大学のコンピューター、ソフトウエア学科とは異なり、国際的に通用する高級人材を養成する教育モデルを採用し、実践と技能教育を重視するとともに、ソフト企業と市場のニーズに直接対応して層の高い、実用型、マルチ型、国際化された高級エンジニアと管理者を養成することにしている。ソフトウエアエンジニアの修士にはソフト設計と開発能力、エンジニアリング組織と管理能力、外国語と国際競争能力が求められる。

 中国科学院では「個性ある管理」をキャッチフレーズに、「学生を中心とし、採用する事業体のニーズを指向する」教育指針を打ち出している。市場のニーズに適合するため、外国の先進的教材を全面的に導入するとともに、マイクロソフト社やモトローラ社など著名な大企業の高級技術者とカリキュラムの設置について何度となく検討を重ねてきた。

 専門家は、ソフトウエアエンジニアの修士教育が行われるようになったのは、わが国のソフト教育が世界とリンクし、専業人材から職業人材の育成に向けた転換を示すものだと評価している。

 WTOの加盟は直接、ソフトウエア産業の人材競争を激化させるだろう。この産業は実際、頭脳産業であるため、ある角度から言えば、産業発展に対する人材の重要性はその他の業種を超えており、これが一貫して産業競争の焦点だった。わが国のソフト企業は資金や規模などの条件で制約されているため、国外企業との人材競争では劣勢にある。現在、ソフトウエア産業は発展に向け一定の政策上の優遇を受けているが、WTO加盟後は、競争力のある給与水準、優れた職場環境、魅力に富んだ研修や発展のチャンスを備えた外国企業は、国内の人材にとって魅力ある大きな存在となる。

 米国シリコンバレーが成功した二大要因は、シェアオプション制度の実施とベンチャー投資基金の確立であり、実際、ソフトウエア産業がハイテク産業としての典型的な特長を備えているのは、この2つの面でのサポートと切り離しては考えられない。こうしたことから李建司長は、全体的には環境は完全に熟したとは言えないが、人材を激励し、人材を留める役割を発揮させるためにも、ソフトウエア業界で試験的にシェアオプション制度を実施してもいいのではないかと提言している。