アジアの地縁経済の中の競争と協力

清華大学国際問題研究所 中英

 中国が経済大国となるのは避けられないことである。経済が衰退している日本は極力中国とアジア諸国を争奪しているが、口先はいいことをいいながら、一向に実行していない。それと違って、中国は実際にアジアの協力を推し進めているのである。

 現在、中国はますます名実ともに「世界の工場」となっており、世界クラスの多国籍企業はほとんど中国市場に進出し、とりわけ製造業の多国籍企業は圧倒的多数と言っていいほど中国に生産基地を設立している。中国は往年の大英帝国のように自ら育て上げた産業に頼って世界に広がっていったのではなく、多国籍企業に対する自らの吸引力に頼って「世界の工場」となったのである。このような新興の世界工場の重要な意義は、自由貿易が中国を改造することと中国とアジアの関係を変えることにある。歴史的にかつて見ないチャンスを前にして、中国は帝国の威望と尊厳や儒家の哲学および飲食方式といった「ソフト影響」に頼るのではなく、西洋式の砲艦政策に頼るのではなおさらなく、経済の影響力で自らの経済、政治、文化の勢力圏を拡大しているのである。アジアから見れば、中国は海上と陸上という二つの大きな貿易ルートに沿って、言いかえれば、中国とアジア隣国との自由貿易ネットワークに沿って経済大国を築き上げたのである。事実上、中国のWTO加盟は中国とアジア経済の一体化のために明るい見通しを切り開いた。アジアでは、ロシアがまだWTOに加盟していないのを除いて、その他の国はいずれも多国自由貿易システムのメンバーである。こうして、WTOの枠組みが中国とアジアとの経済関係の転換点となっており、アジアの地域化が中国を中心として展開されるのは避けられないことである。中国がWTOの規則に従って市場を開放し、国際規則や法律に基づいて経済ゲームをしているから、もともとアジアが抱いていた、中国が責任を負わず、国際規則の制約を受けないのではないのかという懸念がいくらか取り除かれるだろう。中国はアジアで地縁経済を拡大するのに法律と規則をもつことになろう。

 中国が経済大国となった状況の下で、誰が地域経済を主導するかはアジアの地縁経済の顕著な問題の一つとなっている。アジアの地縁経済に、アメリカ、日本、中国の3つの大国が存在しているのは明らかだ。この3カ国のうちに、アメリカは超経済大国の地位とアジアにおける軍事的存在に頼り、日本はアジアで半世紀にわたって営んできた東アジア経済の分業システムに頼っている。中国は典型的な後から発展してきた国で、最近になってから全面的にアジアの経済事務に参与しているのにすぎない。それにしても、中国はすでにアメリカと日本につぐアジア3番目の貿易大国となっている。為替レートで計算すれば、中国の国内総生産(GDP)は世界の第7位であり、年平均成長率は7.5%以上である。これとは逆に、日本経済はここ10年間にずっと不況に見舞われ、マイナス成長さえ現れている。アメリカでは、クリントン時代の新経済の高速成長期が終わって、再び経済周期の谷底に落ちこんでいる。アメリカと日本の経済成長の長期の見通しははっきりしていないが、中国は向う10年間に高速成長を続けるものと見られている。こうして、中国はアジア経済の希望のあるところとなったのである。

 経済が衰退している日本の当局、産業界、戦略家は当然ながらアジアにおける中国経済の挑戦の重大さを知っており、なんらかの措置をとってアジアにおける日本の地縁経済戦線を強固にしようとしている。20021月、初めて東南アジアを訪れた小泉首相は、日本と東南アジアのニュータイプのパートナーシップの枠組みを発表した。20024月、小泉首相は中国の海南省で「東アジア自由貿易区」をつくると述べた。これら慌しく発表された日本の対外経済計画はいずれもアジアにおける中国の経済攻勢に対するこの世界の2番目の経済大国の受動的な反応である。日本製造業の競争地位をよくするため、日本は製造業を中国市場に移して、創造能力および国際競争力を保全せざるを得なかった。ところが、小泉首相が発表した日本と東南アジア連盟(ASEAN)のパートナー計画は実施されにくいものであり、日本は自国の経済を顧みる暇さえないのだから、アジアの地縁経済に対する貢献などはなおさら話しにならない。

中日両国の異なる競争

 アジアでの中日両国の経済配置は違っている。中国はアジア金融危機の後にアジアで拡張したのである。アジアの金融危機は、アジアにおける日本の国際分業システムの破綻を宣言し、中国は日本の設計したガンの列のしんがりにならず、アジア経済の成長の中心となって、アジア地域経済システムに参与しているのである。

 香港アジア太平洋21世紀学会会長を務める黄枝連教授は最近、次のように述べた。中国経済がさらに8年間(2010年まで)高速成長を続ければ、アジア最大の経済体となる。こうすれば、持続的な高速成長を30年近く保つことになる。これは人類史上未曾有のことである。

 それだけに、グローバル化の角度から見れば、中国はいま大きな吸引力をもつ経済磁石である。日本の著名な経営顧問である大前研一教授は、「経済が国境を越える色彩が日増しに強まる時代に、“4C”という国境を越える流動現象が現れた。いわゆる“4C”とは資本(CAPITAL)、企業(CORPORATION)、消費者(CONSUMER)、情報(COMMUNICATION)を指す。その結果、一部の国に“4C”が大量に流れ込み、同時に、他の一部の国は“4C”が避ける対象となる。前者はすべての資本と企業を吸収して発展するが、後者は後退し、“4C”を吸収した大国の衛星国しかなれない」と指摘している。現在、中国経済は確かに大量に吸収している。これに対し東南アジア諸国が最もはっきり感じとっている。もともと東南アジアへ投下されるはずの国際投資が金融危機の発生後中国へ大量投下された。台湾は両岸の「三通(通商、通航、通郵)」を開放すると、島内経済がいちだんと空洞化することを懸念している。日本産業界は、中国の発展が速すぎるという「中国衝撃論」を絶えずにしている。

 しかし、一つの経済大国が成功を収めるには強大な吸引力のほか、強大な輻射力もなければならない。総合的に見て、日本の経済吸引力も輻射力も中国より強いが、長期にわたる経済不振、それに国土が狭く、日本市場ではアジアの製品(とりわけ農産物)に対し自由化を実行できず、日本の経済吸引力と輻射力はともに大幅に下がっている。他方では、中国の吸引力は絶えず強くなっており、アジアのどの国でも中国製品が見られ、中国の企業も対外投資を始め、人民幣も中国周辺の一部の国・地域で実際には使用されているものの、中国経済の輻射力がまだまだ足りない。その最も根本的な原因は、これまでの20余年間に、中国経済の高速成長が外需依存を基礎としていたことにある。つまり、経済成長は主に貿易や外資によって推進されたのである。付加価値を増加させる産業としてのサービス業が立ち遅れている。地域発展の面では、中国の多くの地区ではまだ経済独立を実現しておらず、中・西部の広大な地区は依然としてまだまだ開発されていない。国の教育システムは国際経済の競争能力をもつ人材を育て上げることができず、大勢の学生は西側諸国の大学にあこがれ、知識、技術が原始的創造性を欠いている。各業種は西側から知識、技術、設備を大量に導入し、西側の貿易や投資の基準および価値観をも受け入れている。こうして、中国はまだ自らの創出・革新システム、生産システム、サービスシステムを形成して、アジア地域及び世界へ輻射することができないのである。

中国の周辺をできるだけ「アジア経済協力」システムに入らせる

 中国の対アジア政策(アジアに対する経済政策も含む)は主にこの地域における中国の国家戦略利益によって主導されるべきである。アジアは中国の安全の基盤であり、中国の発展の基本的な依拠である。アジアにおける中国の利益は中国の最も肝心、基本的、重要な国益である。中国は必ず本地域の経済発展と社会進歩のためにより大きな責任と義務を担わなければならない。アジアの経済協力を推し進めることは中国の利益に合致し、中国がこの地域の平和と発展に対して行った約束(「責任をもつ大国」として)を履行することでもある。

 東アジア諸国は中国の東部にある周辺諸国であり、長期の目から見れば、東アジア地域全体にはちくじ貿易自由化へ向かう基礎と発展の見通しがある。東アジア諸国との協力強化は今後中国が区域経済協力に参与する重要な目標である。中国は東アジアとの協力を非常に重視している。ここ3年間に、中国の指導者はASEANと中国、日本、韓国(10+3)の会合およびASEANと中国(10+1)の首脳会合に5回出席した。3回目の10+3会合期間に、各国の指導者は経済・貿易、金融、科学・技術、人的資源の開発、文化と情報の交流などの面の協力を強化することを確定した。これらの努力は政治的に東アジア地域の経済協力をさらに推し進める。

 中国は中国の西部においても同じく自由貿易の原則にのっとって、「上海協力組織」の枠組みの下で地域経済協力を展開している。カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの5カ国と貿易投資便利化をスタートさせ、経済技術協力を適時に展開し、貿易と投資の環境を最適化させ、商品や資本およびサービスの流動コストの引き下げを通じて、この地域の貿易自由化の実現のために条件を整えた。

 中国はまた、アジアとヨーロッパの協力を非常に重視している。この数年、中国はヨーロッパとの経済連係をいくらかないがしろにしたため、外貨準備の中にユーロが不足し、中国とヨーロッパの経済貿易関係が中米に及ばないのである。アジアとヨーロッパが経済戦略の大きな碁盤である。例えば、中国経由の数本のユーラシア・ランド・ブリッジは21世紀のシルクロードとなり、両大陸の緊密な経済連係を実現する面でカギとなる役割を果たし、非常に重要な意義を持つものである。

より多くのアジアの国に「中国は脅威ではない」と言わせる

 ブッシュ米大統領をはじめとするアメリカの指導グループがいわゆる「悪の枢軸」をでっち上げた時、シンガポール人は世界に「善の枢軸」が存在していると思っていた。この正しい言い方は国内ではまだ重視されていない。これはシンガポール人がアジア地域の平和と発展のために行った独特な貢献だと思う。20023月、シンガポールで開かれたある地域シンポジウム(東アジアの主要な国の学者や業界の人々が出席した会合)において、シンガポールの巡回大使、著名な学者の許通美教授は、ASEANが日本、韓国とともにアジアの「善の枢軸」を結成し、この地域の経済一体化を推し進めるべきであるという他の人と違った説を提出した。

 理論的に言って、5億の人口をもつASEANは共同自由貿易区であり、共通の電子産業基地を擁しており、そのGDPの総和が中国の3分の2に相当する。経済力から言って、日本は1位、中国は2位、ASEAN3位であり、3者は競争しながら協力し、経済関係を密接にし、最終的には自由貿易の旗印の下で共同市場を作り上げられれば、3者にとっても有利である。中国が実行している経済アジア化の戦略は、日本とASEANにとっても巨大な経済チャンスとなる。新興の経済大国としての中国との協力関係を発展させないのは、日本とASEANの長期的利益にとってマイナスであるのは言うまでもないことである。

 小泉首相はアジアフォーラムで演説を発表し、「中国の経済発展は脅威ではない」と述べ、中国が脅威ではないと言った最初の日本首相となった。小泉首相が日本の主流世論のように中国が脅威であると見ないのはなぜか。外交の場で中国を刺激してはならないほか、その実「中国脅威論」を言うと中国の地位を高めることになると考えており、中国がアジア地域の経済大国となるという現実に直面したくないため、中国が脅威ではないと自ら進んで言ったのである。

 中国が脅威ではないとアジアが言う動機がどうであるかにかかわらず、中国はより多くのアジア人が小泉首相のように発言するのを歓迎するのは確かである。小泉首相のロジックによれば、中国が脅威でない以上、それは中国が日本およびアジアの国、企業、個人と手を携えてアジアで大事業を興すチャンスであり、中国、ASEAN、韓国、日本などが一緒にアジア自由貿易区をつくって、アジアの吸引力と輻射力を高め、ヨーロッパやアメリカと対等に振る舞い、世界に3つの勢力が経済面で鼎立する局面も出現させることである。

 経済分野では、世界は一極ではなくて多極である。米ハーバード大学ケネディ政治学院院長、著名な政治家のジョセフ・ナイ氏は、アメリカが単一の経済大国ではなく、常に平等な立場に立ってヨーロッパと駆け引きをしなければならない。中国の高い経済成長率により、中国が世界4番目の経済大国となる可能性があると述べた。残念ながら、日本も中国も一国ではヨーロッパやアメリカと競争することができない。従って、グローバル化の角度から見れば、競争関係が存在し、互いに脅威と見なしているにもかかわらず、ヨーロッパとアメリカを前にして、アジア諸国は経済面で協力を行わなければ、その競争力と利益がそれぞれ打ち破られる。中日の競争と協力はアジアの経済的運命を決定付けている。中日両国に競争させないのは不可能であるが、競争しながら協力し合うなら、アジア全体の雰囲気を変えるであろう。両国は戦略の高度から競争を制約し、協力を強化すべきである。中日間の協力がなければ欧米と肩を並べるアジアがないからである。