北京で人間味溢れるコミュニティーづくり

 緑鮮やかな芝生、花々が咲き乱れる花壇、天を突く大樹が創り出す緑陰、玉石が敷き詰められた健康広場、モダンな姿で立ち並ぶアパート群―――北京市の西部、石景山区八角に建設された団地は実に清々しさを感じさせる。憩いの場所では子供たちが戯れ、老人はウォーキングで健康づくり、また新聞や雑誌を見たり、将棋をしたりして時を過ごす。多忙をきわめる団地内にあるサービス・医療センター、情報センターの職員たち……。

建設に着手してまだ10

 コミュニティーは都市化社会の“基礎細胞”。多くの国々が都市管理の強化のために、その建設を推進している。国連は1950年代初めに「コミュニティー発展計画」を提唱し、100数カ国がこの計画を実施してきた。

 中国でコミュニティー建設が始まったのは10年前のこと。計画体制下の都市基盤管理方式では改革開放後の政治や経済、文化などの面での変革と社会生活の発展の必要性に適合できなくなったため、管理とサービスを強化する観点から、民生部は1986年に市民を主要対象にしたコミュニティーの建設を打ち出した。その後、民生部は1991年に中国の国情を踏まえ、外国の経験を参考にした独自の「コミュニティー建設」構想をまとめた。コミュニティーの建設を全面的に推し進めるというものだ。

 国務院は政府機関の改革を進める中、1998年に民生部に対しコミュニティー建設とサービス管理作業を所管する権限を与え、従来の部署である「基層政権建設司」の名称に「コミュニティー建設」を正式に加えた。この改革の目的は、コミュニティーの建設を強化することで、住民へのサービスと都市管理サービスの水準を高め、資質また文明的向上をめざすとともに、資源を十分活用してコミュニティー事業の発展に努め、住民の生活レベルを絶えず向上させて生態環境に優れ、サービスが完備し、文化・教育が発達し、社会秩序が安定し、人間関係が協調の取れた都市型コミュニティーを建設することにある。経済発展と都市化を一定の段階にまで押し上げるには、これが必ず求められる。

 国情に合った都市型コミュニティーの建設管理体制と運営メカニズムを模索するため、民生部は1999年から全国19の省・自治区・直轄市、市区全体の3.3%に当たる26都市で試験的に実施してきた。同時に、北京市の八角団地など108の「優秀文明モデルコミュニティー」を表彰し、これをはずみに、全国に文明的なコミュニティーを建設していく考えだ。

多様化されたサービス

 最新の多機能ディスプレイ、何台も並ぶコンピューター、真剣に操作する職員たち……。八角団地のサービスセンターでは、先進的で機能が完備した自動サービスシステムが整備されていた。また各家庭には、色の違う複数の呼び出しボタンが電話の傍に取り付けられている。電気製品が故障した、老人や身障者が急病になった、泥棒が入った―――こんなとき、必要な色のボタンを押せば、サービスセンターや医療センター、警備センターがすぐに応対し駆けつけてくれる。住民は非常に便利になったという。

 責任者の孫剛さんは「サービスセンターと情報センターはオンライン化されており、情報センターはまた、各団地や居住者とネットで結ばれています。各種サービスや管理、居住者に関する資料も整っているので、サービスセンターや住民は随時検索することができる」と説明する。

 八角団地で今年87歳になる独居老人の蘇紹gさんを取材した。蘇さんは体が年々弱くなり、ときには動くのさえ困難で生活が不便になったと話す。自動呼び出しボタンを取り付けてからは、必要に応じてボタンを押す。食品の購入、掃除や診察、散歩にも連れていってくれる。蘇さんは「これがあるので、生活が便利になったよ。自分の娘よりずっと便利だ」と喜んでいた。

 八角団地のサービスセンターでは(1)身障者や特別介護者、生活困窮者など特殊な人のために社会福祉サービスを提供し、コミュニティーサービスの社会保障機能を発揮させることに努める(2)老齢者に目を向け、日ごろの生活の世話や医療・保健、精神生活などのサービスを提供することで、人口の高齢化に適応していく(3)一般住民を対象に利便的なサービスを提供する(4)管轄区内の事業所や機関・団体を対象に、保障面でバックアップ・サービスを提供する―――の4点が当面の主要な責務となっている。

 北京では現在、107カ所にコミュニティー・サービスセンターがあり、サービス・ステーションは3000カ所、介護施設は308カ所、ベッドは1万床を数える。ホット電話回線は154本、サービス内容も衣食住や交通手段、医療や娯楽など多岐にわたる。また情報呼び出しシステムの整備を積極的に進めており、治安や医療、家政婦派遣などのサービスは迅速で便利になった。コミュニティーでサービス活動に従事する人は市全体で47000人、登録済みボランティアは23万人に達している。

 北京市政府は今後も財政投入を拡大してコミュニティーの建設を推進するとともに、建設に当たってはマクロ的計画指導を強化し、優美な環境、安定した社会、便利な生活、調和のある人間関係が確立された文明的なコミュニティー建設に力を入れていく方針だ。

医療・衛生の個性化

 世界保健機構(WHO)は、80%以上の住民の健康問題は社会の基盤層で解決できると指摘している。そうであるなら、最良の解決方法はコミュニティーの衛生サービスを発展させることだ。北京市では衛生サービスシステムを確立することで、コミュニティー医療と大病院との関係を円滑にするとともに、基礎医療機関のサービス形態と方向性を調整して、指定病院以外でもスムーズに治療を受けられる医療システムを確立し、大病院にコミュニティーへの門戸を開かせ、合理的な構造を持つ医療機関の新たなネットを構築することにしている。

 石景山区八角団地の医療サービスセンターでは、全診察科目で医師が招聘されており、65歳以上のお年寄りや身障者、介護の必要ある慢性病患者についてはカルテを作成し、年間を通して理学療法を無料で行っているほか、その他の住民に対しても一般的な疾病の治療に当たっている。また大病院と連係を図り、対処できない重病についてはすぐに大病院に入院して治療が受けられるようになったため、住民の心配は解消された。センターは先進的な健康機器や医療設備を購入し、安い費用または無料でサービスを行っているので、住民の医療、衛生・保健に対するニーズは満たされ、また経済的負担も軽減された。取材の際、何人かのお年寄りが自動マッサージ器の上に目をつぶって横たわり、慢性病の患者が点滴を受けながらおしゃべりしている姿を目にした。理学療法に当たる医師、診察する医師、往診する医師と、分業が明確で秩序がある。診察を受けたある患者は「センターができたばかりときは、みんな試しにという感じで来たのですが、医師や看護師さんが非常に熱心で、テキパキしていたので感心しました」と話す。もう1人の患者は「みんなと顔見知りになって。仲の良い友人もいますよ。イヤなことがあると、わざわざここに来て話をするんです」。90%以上の一般病、慢性病の患者は団地内で安い料金で診察を受けられる。また健康教育や予防と保健、健康な生活スタイルを学んで病気をなくすこともできる。重病の場合には、指定外病院診察制度で大病院でも治療できるようになった。診察に当たっての不必要な手間が省けたことで、医療面で住民は便利さを強く感じている。

 八角団地責任者の孫剛さんは「衛生サービスでは健康を中心に、家庭を対象に、コミュニティーを範囲に、ニーズを重点に、そして老人や女性、児童、身障者を主要な対象にした、予防や保健、医療、リハビリ、健康教育、計画出産を一体化させたものになっています。このシステムを通じて、住民は各科の医師からいろいろと健康に関するアドバイスを受けられるので、健康への願望を満たすことができる」と説明していた。

豊富多彩な文化教育活動

 石景山区の古城公園では毎朝、のびやかな二胡の調べが流れてくる。それに合わせて京劇ファンが歌い、道行く人の足を止める。老人たちが自発的に組織した京劇グループだ。まるで吸引力のある磁石のように、祭日や週末には多くの人たちが参加するという。地元以外の人も少なくなく、ここで腕前を披露するそうだ。

 個人ばかりでなく、団地が組織する芸術団、ドラ・太鼓チーム、田植え踊りチームも29を数える。伝統的な祭日や夏の催し物広場、文化・娯楽センターでは演奏会や中高年ファッションショー、夕涼み映写会、カラオケ大会、運動会が開かれる。また住民による写真展や書画展、根っこ彫刻展も開催されるなど、様々な方法を講じて住民を文化・娯楽活動に積極的に参加させている。これによって余暇の生活は豊かなものになり、コミュニティーにより文化的な雰囲気が漂ってきた。

 団地では常に掲示パネルや刊行物、情報誌、専門家による相談などの形で住民に対し科学技術や法律の知識、医療・保健、生物の飼育、文化・歴史などに関する教育を行っている。またコミュニティーを文明的なものにするためのグラビアを編集したり、ホットな話題をビデオにとって住民に紹介することで、科学・文化的な知識を身につけ、民主や科学、法律、環境保護、道徳に対する意識の向上をめざしている。

 団地内にちょっと変わった廃品回収所があった。目のつく場所に環境保護キャンペーン

のペインティングとキャッチフレーズ、その傍に古新聞や古雑誌、使い古しの綿、プラスチック、空瓶、ペットボトルなど20種の廃品の回収価格表が貼ってある。新しいものや他の物と交換できるが、古電池や発泡スチロールは無償回収だ。このほかに回収所では、訪問や予約、電話回収も行っている。数十台のグリーンの回収車がアパートの間を走り回り、廃品を回収していく。

 北京では今、多くのコミュニティーが多彩な文化教育活動を展開中。これにより市民の科学・文化知識は広まり、また資質も向上してきた。またコミュニティーが提供する娯楽はすでに、住民の生活になくてはならない存在となっている。

家庭で進む情報化

 家にいながらにしてインターネットでショッピング、教育、ビデオ・オンデマンドができる。水道やガス、電気の使用量ももう自分で書き記す必要はない。遠隔操作による料金徴収システムが整備されたからだ。10キロほど離れたところからでも、家の空調の温度を調節できる。情報化システムが完備した朝陽区の北辰団地では先ごろ、ブロードバンドネットが開通した。こうした生活ができる団地は急速に増えていくだろう。

 北辰団地のブロードバンドネット整備は国の「863計画情報技術分野」で重点プロジェクトの一つであり、首都情報化の試験的プロジェクトでもある。オリンピック村にある北辰団地は商業取引、金融、会議・展示、エンターテイメント、ショッピング、高級マンション、オフィスビルなどの施設が融合した総合商業住宅団地で、現代化された情報サービスが強く求められていた。ブロードバンドネットは高効率の金融、商業取引、証券などが主体で、まさに団地のニーズに合致したもの。企業や個人は高速でインターネットに接続し、株式情報の検索やオンデマンド、ネットショッピング、ネット教育もでき、会議も開くことができる。また家電の自動制御システム、室内安全防護システム、遠隔メーター読み取り料金徴収システムなど、オフィスや家庭でのインテリジェント管理が実現された。居住者はこうしたシステムを絶賛してやまない。「以前は水道、電気、ガス、電話などの使用料金の支払手続きに何時間もかかったけれど、今では便利になりました。家にいながらネットで支払いが済ませるし、ショッピングもできて無駄が省け、神経も使わなくてよくなりました。子供もインターネットで先生と直接話ができる」とある住民は話していた。

 現在、情報化されたコミュニティーの建設は世界各国の政府や企業、住民の強い関心を集めている。北京は今まさに、現代化の流れのなかにある。