中国のGDPデータは真実である

――中国の統計データに重複と遺漏の問題が存在しているにもかかわらず、
全体から見れば、データは基本的に真実で信頼できるものである。

華東理工大学工商経済研究所所長、教授  石良平

 昨年から、米ピッツバーグ大学のトーマス・ロースキ経済学教授が発表した中国のGDPデータの真実性についての2編の文章によって引き起こされた中国の統計データの真実性についての討論がいまでも行われており、内外の多くの専門家、学者および経済界人士の関心を集めている。私は長期にわたって統計部門でGDPの統計活動に従事しており、20世紀80年代初めに中国GDP計算試行グループのメンバーとして国家統計局の専門家と協力して中国のGDP計算及び調査案の制定活動に参与し、中国のGDP計算の確立と充実の全過程を目にし、経験した。そのため、本文はロースキ氏の観点について少し評論したい。

計算方法が違うためデータも同じでない

 ロースキ氏は中国のGDPデータが過大評価された基本的な理由は四つあると見ている。一つはエネルギー消費の増加率がGDPの成長率とわりに大きな相違がある。二つは航空旅客輸送収入の増加率がGDPの成長率と一致しない。三つは各工業産業の成長率が工業総量の成長率と一致しない。四つは全国の商品小売額の増加が消費者の1人当たり支出レベルと一致しない。そこから中国のGDPデータが真実性を欠くという結論を引き出した。

 ロースキ氏の中国の統計データの真実性に対する評価の方法があまりにも簡単、倉卒である問題については、北京航空宇宙大学管理学院の任若恩教授がすでに分析と評論を行ったので、ここでどくどと述べない。しかし、ロースキ氏の分析方法から、私は20世紀80年代に、われわれがかつてエネルギー消費データを利用して文化大革命(1966-1976年)で中断した不完全な統計データを推算した状況を思い出した。私は統計局に入ると、すぐ国民所得計算の仕事に従事した。当時ぶつかった問題は、「文化大革命」のため、10余年の統計データがほとんど空白であり、それによって統計データが時間面で中断していたことである。当時、私の任務はこれらの空白あるいは不完全なデータを補修することであった。仕事をする時は、歴史的な原始データを探すほか、エネルギー消費が国民所得額との関連性がとても高いことを発見したので、エネルギー・データを使って国民所得指標(ノルマ)を推算した。しかし、その後このような方法で80年代後期から90年代にかけてのデータを検証したとき、その関連性が明らかに小さくなくなり、関連性がない年も少なくならずあったことを発見した。その原因は、中国の国民経済計算制度に重大な変化が生じたことにあった。

 80年代において、中国の統計計算は物質平衡表体系(MPS)を実行したが、これは有形産業(主に農業、工業、建築業、運輸業、商業の五大部門)を対象とする計算体系で、サービス業を計算範囲外に排斥した。しかし、GDPは国民口座体系(SNA)の核心的指標(ノルマ)であり、その計算範囲は有形産業のほかに、また法律が経営を許可するすべてのサービス業を含んでいる。エネルギー消費と有形産業との関連性およびサービス業との非関連性は言わなくても明らかである。過去20年間、中国のサービス業のGDPに占める比重はたえず上昇し、すでに80年代初めの約20%から2000年の33%に上昇し、これによって、GDPの成長率がエネルギー消費の増加率と一致しないのも必然的な趨勢である。任若恩教授は日本、韓国、ドイツ、イギリス、アメリカの統計データを調べて、エネルギー消費の増加率がGDPの成長率と関係がないという結論を引き出した。この点は西側学者が誤解することはないはずである。

 国連の統計基準によると、GDPの統計方法は生産法(増加額法)、収入法(分配法)、支出法の3種あることをわれわれは知っている。この3種の方法で統計した結果に誤差がある場合、支出法を基準とする。これは生産法と収入法のデータの出所がわりに複雑で、統計の誤差がわりに大きいからである。ロースキ氏はずっと収入法で中国のGDPを推算しているため、1998年から2000年までの毎年のGDPデータが中国政府の公表したデータより小さいと思ったのである。ロースキ氏のデータ推算の出発点を考慮せず、単に二種類の計算方法として見るなら、ロースキ氏の推算したデータと中国政府のデータと一致しないのも正常なことである。人々に統計方法に存在する相違を理解させるため、次に私は支出法で統計したGDP統計に基づいてその構造を分析してみる。

支出法で計算したGDPデータはいっそう信頼できる

 支出法でGDPを計算する基本的準則は、国内の最終消費、国内資本の形成、貨物とサービスの純輸出(輸出から輸入を差し引く)の3項目のデータに対しそれぞれ統計を行ってから合わせてなったものである。2000年のデータから見て、GDPに占めるこの3項目の比重はそれぞれ61.3%、36.2%、2.5%である。

 統計のルートから見て、輸出入のデータは主に税関が提供したもので、輸出入統計の口径の面にまだ認識上の偏差が若干存在していたが、中国の国際収支平衡表ははやり世界各国と国際機構から真実だと考えられている。GDPに占める比重がわりに小さいため、この方面の誤差を無視し、計算しないこともできる。

 国内資本の形成は2つの部分に分けることができる。一部分は固定資産投資であり、もう一部分は商品在庫品の変動である。中国では、固定資産投資の大部分は政府の投資であり、この部分の投資の統計データは最も規範的である。もう一部分は企業の投資である。企業投資の中で、国有企業の投資はモニタリングできるルートが2つあり、銀行ローンの投資を通じての投資は銀行システムを通じてモニタリングすることができ、自己資金の投資部分は国有資産管理部門がモニタリングする。そのため、この部分の投資の統計もわりに規範的である。当面統計の難度が大きいのは民間の自己資金の投資であり、ある意味から言って、この部分の投資の遺漏部分は偽りの報告の部分より多いが、重大投資プロジェクトに対し申告と審査・許可制度を実施していたため、民間の重大プロジェクトの投資も帳簿を調べることができ、誤差はあまり大きくならないだろう。 

 第三は国内消費支出の統計である。住民の消費支出の品種が非常に多いにもかかわらず、全国から言って、3つのルートから統計データの正確性を確認することができる。1つは商業部門の社会商品小売り総額の統計であり、2つは都市・農村住民の家計調査統計であり、3つは銀行の消費財と労務販売の現金回収である。統計の実践から見て、このように数方面の資料を通して検証、確認した資料は、そのデータの誤差が大きくないものである。

 上述のような支出法で計算するGDPの統計のルートと方法から見て、中国のGDPデータの真実性はたやすくはっきり分かるものである。ある意味から言って、このデータはロースキ氏が中国のGDPのエネルギー消耗量、各産業部門の成長率および住民の一人当たり収支レベルの検証に用いたものよりいっそう信頼できる。

 多くの人が中国の統計データの真実性を疑うもう1つの重要な原因がメディアによく見られる地方官吏の統計データを偽って報告することに関する報道にあるのは、否認できないことである。長期計画経済の影響を受けて、現在でも、確かにまた「役人がデータをつくり、データが役人をつくる」状況が存在している。このような状況が一歩一歩好転しているにもかかわらず、一部の地区ではこの問題がいまでも存在しており、深刻なものでさえある。そのため、国家統計局は毎年大量のコストと時間を費やして統計面の法律執行状況に対し大がかりな検査を行っている。しかし、面白いことに、一部の地方官吏のこのような統計データを偽って報告する状況がいささかも中国のGDPデータの真実性に影響していない。全国のGDP総量が各地の統計データをとりまとめてなったものではなく、国家統計局は上述のルートを通して自ら統計、検証した結果であるからである。これは全国の各省市の統計のGDP総和が往々にして全国のGDP総量を上回る原因でもある。

 統計データを偽って報告することを討論すると同時に、統計の遺漏問題も正視しなければならない。統計の遺漏の最大の部分は個人経営と小企業の経営データである。わたしが統計局で働いていた時、多くの外国政府の役人とこの問題を探究したことがある。これを見てもわかるように、この問題は各国の統計機関の頭を痛める問題である。小企業と個人経営者は数量が多く、経営が分散し、経営する業務の転換が速く、特に納税の原因から、申告漏れひいては申告しない現象が非常に普遍的である。中国はいま体制転換期にあり、このような民間小企業が絶えず増加しており、申告漏れと申告しない数量も増大している。すでに多くの方法を使ってこれらのデータを推算したが、遺漏の現象は依然として無視してはならない。もちろん、統計は会計ではなく、統計の基本原則は大きな数の法則に従うことである。統計学はわれわれに、統計の見本量が一定の大きさに達した際、統計の誤差が序列と関連さえなければ大きな数の法則が統計の重複部分と遺漏部分を互いに相殺させるということを教えている。この点について言えば、中国の統計データに重複と遺漏の問題が存在しているにもかかわらず、全体から見て、データは基本的に真実で信頼できるものである。

経済構造は経済成長の質をよりよく反映できる

 中国の統計データに対する疑問は前からそうであるが、疑う目的は同じではない。早くも国連における中国の合法的議席が回復され、各国際経済機構における中国の合法的地位が回復された時から、中国の統計データは各国際機構の厳格な審査を受けた。長年来、多くの国際機構は専門家を中国に派遣して統計関係者を養成し、トレーニングするとともに中国が国際規範に合った統計制度を確立するのを援助した。20年余りの努力を通して、中国の統計データの質は著しく向上し、国際機構の専門家は、中国の統計データの中国経済の発展趨勢に対する分析が真実で信頼できるものとし、中国の統計データを一致して認可した。しかし、中国の統計データが自らす定めた目標に奉仕するものだと評価する人も少なくない。中国をWTOに加盟させるかどうかを討論した際、国際で中国の統計データが過小評価されていると見る世論があり、この世論はもし購買力平価で計算するならば、中国経済の実際レベルはすでに中等発達国のレベルに達し、先進国の要求に基づいて中国の経済行為を制約すべきだとしている。

 いわゆる購買力平価の方法は、両国の経済を比較する時、各自の通貨の為替レートに基づいて換算せず、一括の商品と労務を選び、現地の通貨の購買力に基づいて換算して計算する比較の方法である。国外学者の推定によると、彼らの計算した購買力平価に基づいて比較すれば、アメリカと中国の購買力の実際の比価は12.22.8であって、当面の実際為替レートの18.27ではない。彼らのこのような計算方法によれば、ドルで計算した中国の経済実力は34倍増える。しかし、中国がWTOに加盟してから間もなく、中国経済の実際レベルが過大評価されていると見る人がいる。このようなまったく相反する観点が余り離れていない2つの異なる時期に出現したことは、人々にある道理を悟らせることができる。

 実際には、経済分析に従事する人はみな、統計データがすべてを概括することができないことを知っている。GDPというデータについて言えば、それに対する批判は早くからあった。このデータは基本的には経済成長の質を反映せず、経済成長が環境にもたらす汚染を反映せず、非市場的な経済活動の価値を反映せず、不法な経済活動を反映せず、人々の社会福祉の増加などを反映しない。そのため、国際ではこの指標を修正する研究がずっと停止したことがない。一国の経済の実状に対する考察は、その経済構造の変化、例えば産業構造、都市と農村構造、輸出商品構成、地区構造、人々の収入構成の変化などをより多く考察すべきであることをも人々ははっきり知っている。

背景の資料

 2000年、米ピッツバーグ大学のロースキ教授(ThomasG.Rawski)は相前後して「中国のGDPの統計にどんな問題が発生したか」(What'sHappening to China's GDP Statistics?)および「中国のGDPの統計は警告されるべきか?」(China'sGDP Statistics -A case of Caveat Lector?)という2篇の文章を発表し、経済成長とエネルギー消費の萎縮、物流の低下と主要工業製品の緩慢な増加、アパレルなどの消費および農業の遅滞などの要素から、1997年から2000年までの中国のGDPの成長数字の真実性に疑いをもった。ロースキ氏の文章が発表されてから、すぐにも至る所に引用、転載され、西側のメディアの注目を集めるホットスポットとなった。イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』、『ザ・エコノミスト』、アメリカの『ニューズ・ウィーク』『ビジネス・ウィーク』『チャイナ・エコノミックレビュー』などは次々とロースキ氏の文章を大々的に報じた。

 これに対して、中国政府の関係責任者と経済学者は次々と反駁している。中国国家統計局の邱暁華副局長はこのほど、「中国経済は偽りの数字ではなく、経済の発展に頼って繁栄しているのである」と明確に指摘した。著名な経済学者、国務院発展研究センター研究員の呉敬氏もこのほど、上海で「WTO加盟後の中国経済」をテーマとして講演を行った際、「中国の経済成長に対する海外のこれらの疑問は大きな根拠がない。われわれが以前の数年に実行して効果をあげた政策を堅持し、改善しさえすれば、中国経済の7%以上の成長は完全に維持できるものであり、7%を上回る可能性もまったくある」と言明した。そのほか、より多くの機構と内外の専門家・学者は、中国の経済は若干の問題が存在するとはいえ、確かに世界経済の希望となっており、将来性が大いにあると普遍的に見ている。