冴えなくなった小泉政権

中国国際問題研究所研究員 孫 承

 さる518日と19日、『朝日新聞』が電話を通じて日本全国で世論調査を行った結果は、小泉内閣の支持率が同内閣発足以来最低の38%に下がり、支持しない率が同内閣発足以来最高の47%に上昇したことを示している。これは1年前の小泉内閣発足当初の85%もの高い支持率と鮮明な対照をなしている。日本内外の世論は、小泉内閣は以前と比べものにならなくなった、小泉本人も日本のアイドルとして冴えなくなったと見ている。

 小泉内閣の支持率が一年のうちにこれほど大きく変わったのはなぜか。ここで小泉内閣の内政と外交の面から分析して見よう。

なかなか進まない構造改革

 日本がいま直面している問題は経済成長を回復させることである。20世紀90年代初めのバブル経済崩壊後、日本経済は低迷しつづけている。日本経済に低迷をもたらした原因はいろいろあるが、その主な原因の一つは日本の経済構造と経済体制がもはや内外情勢の変化に適応できなくなったことにある。そのため、改革は経済の苦境から抜け出す唯一の活路である。小泉内閣以前の数代の日本内閣は改革の旗印を高く掲げたが、さほどの実際効果も挙げられず、日本国民は政治に対する自信をますます失っている。小泉氏は橋本元首相らとの競争で、斬新な政治スタイルに頼って、有権者の支持を獲得し、特にその打ち出した「日本を変え、自民党を変える」、「改革しなければ、経済を回復できない」という主張は、人々が変化を求める情勢と時代の流れに順応し、小泉氏を最も「人気」のある首相に仕立てた。

 しかし、1年過ぎたが、小泉首相が立候補した時に約束した改革措置は相変わらずあまり実施されていない。財政改革の面では、小泉首相は財政を建て直し、国債の増加を抑えるため、新しい国債の発行額を30兆円以内に制限することを提出した。だが、通貨引き締めの状況の下は、税収の増加が難しいが、社会保障費用が引き続き増加し、行政費用だけでも維持することができず、そのため2003年の国債発行額をまだ確定できないでいる。通貨引き締めを解決するカギは消費を刺激することだが、失業率が高い状況の下では、人々は将来のことを心配して、消費を控えているだから、多くの専門家は、財政改革は単に財政赤字を削減し、国債発行を制限すべきではないとしている。

 金融改革の面では、銀行の不良債権は解決の難しい問題であり、各代政府はいずれもそれを優先的に解決する課題とした。小泉内閣は2003年までに不良債権の増加の趨勢を抑制し、それから約3年の時間をかけてこの問題をちくじ解決することを約束したが、実際には2001年末に、日本の主要銀行の不良債権は247000億円に達し、前年度より40%増えた。これは不良債権の増加を抑えるのが難しいことを示している。目下、政府は資金を投入して不良債権を解決するのかどうかは、なお確定するのが難しい。

 特殊法人の改革も実質的な進展をとげていない。道路公団と政府所属の金融機関の改革は一時中止した。小泉改革の金看板としての郵政事業民営化も同業界と関係ある議員が反対しているため、関係法案が国会でなかなか採択できないでいる。

 行政改革の面では、小泉内閣は政治運営を「派閥主導型」から「首相主導型」に転換して、首相の権限を強化することを提出し、このために経済財政諮問会議を設置した。しかし、実際には税制改革、郵政改革などが反対されているため、改革はなかなか推し進めることができない。

 改革が進展をとげていないため、日本経済も好転が見られない。小泉内閣発足の時と比べて、今年第1・四半期に、景気回復の兆しが現れたが、見通しがはっきりせず、年度の実際成長率はもともと17%と見込まれていたが、いまは-1%に修正された。日経平均株式指数は14000円からバブル経済崩壊後の最低値の9400円に下落した(20022月)。消費者物価総指数は前年度に比べて1%下がった。日本国債に対する国際の評定等級はAa2からA2に下がった。『朝日新聞』が100社の主要企業に対し行った調査によると、半数以上の企業は小泉内閣の改革のスピードが遅いと見る企業が半分以上を占める。改革が進展をとげていないと見る企業が40社あった。経済学者、元大蔵省財務官の榊原英資氏は、小泉首相は改革に対する国民の期待を背いたと直言した。

崩壊した政治基盤

 政治の面で小泉首相を支持する基盤はゆゆしく弱くなった。

 まず、小泉首相は昔の盟友を見捨てた。田中角栄元首相の娘の田中真紀子氏は選挙期間に小泉氏のために戦功を立てた。田中氏はその率直で、腕も冴える態度で日本の有権者、とくに女性と若者の支持を得た。小泉氏は組閣したとき、イメージを変えるため、以前のように党内派閥に頼るのではなく、女性と民間人を入閣させ、とくにすこぶる人望のある田中真紀子氏に外相を担当させ、人びとに耳目一新の感じを与えた。20017月の参院選では、小泉内閣の高い支持率に頼って、自民党は半数を超える議席を獲得した。その後、小泉内閣の支持率はずっと70%前後に保たれていた。しかし、政策面の意見不一致のため、今年1月に、小泉首相は田中氏が野上外務次官とアフガニスタン復興支援国際会議への非政府組織(NGO)の出席を認めるかどうかについて意見が合わなかったことを口実に、田中氏を解任した。これによって、小泉内閣の支持率は一度に20%も下がった。世論調査によると、田中氏解任に批判的な人は78%にのぼったという。

 次に、政界ではスキャンダルがたえず現れ、党内における小泉首相の支持基礎が揺れ動いた。小泉内閣発足以来、政界のスキャンダルがたえず現れた。例えば、今年に入ってから、かつて田中外相に対抗した鈴木宗男代議士が対ロ外交問題と政治資金疑惑で引責辞職し、加藤紘一元自民党幹事長が加藤事務所元代表を脱税容疑で自民党から離党し、国会議員を辞任し、現任自民党幹事長山崎拓の女性問題が暴露されたなどがそれである。とくに加藤、山崎、小泉の三氏が小泉内閣の支柱となっているため、加藤氏と山崎氏がスキャンダルに巻き込まれたため、小泉内閣の基盤がひどく弱められた。

 第三、小泉内閣の内政、外交政策が各政党の支持を得るのが難しい。小泉内閣の基盤が弱められるにつれて、各政党の小泉内閣支持が減る一方である。野党が政府と自民党首脳のスキャンダル事件を追究するよう強く要求しているだけでなく、連立与党の公明党、保守党も小泉氏の指導能力を疑うようになった。自民党の内部でも小泉氏を更迭する考えが現れ、小泉退陣後のために準備を進めている。

つづけさまに挫折する対アジア外交

 小泉外交は主として対米外交と対アジア外交からなっている。

 対米外交では、ブッシュ政府が日米同盟を強化し、反テロ戦争をおこなうため、日本の役割を重視している。アメリカの要請に応えるため、また「普通国家」の目標を実現するため、小泉政府は前後して「反テロ協力法案」、「有事法制法案」(審査のため国会に提出済み)を採択し、初めて戦時の米軍の行動に呼応し、安全戦略の面で重大な転換を行った。日本の安全政策の変化は、日本国内で各政党と世論から幅広く批判され、アジア隣国も日本の動きに疑問を抱き始めた。

 対アジア隣国外交の面では、小泉内閣はつづけさまに挫折にあった。まず、小泉内閣は歴史教科書と靖国神社参拝などの問題で、たえず中国、韓国などの隣国と摩擦を生じ、日本と隣国との関係を常に動揺させている。例を挙げてみると、1998年、金大中韓国大統領が訪日し、韓日関係が大きく改善された。日本側は書面の形で韓国に謝罪の意を示し、韓国は日本の文化製品の輸入を認めた。日本は韓日関係が日本のアジア外交の新たな突破であると見ている。しかし、歴史教科書と靖国神社参拝問題はまたも韓日関係には重大なトラブルを生じさせ、日本は隣国の信用を失った。小泉首相は1年のうちに2回も靖国神社を参拝した。これは戦後の歴代の内閣に見ないことである。小泉首相のアジア人民の感情を無視することのようなやり方に対し、日本の国内世論と西側の世論は一斉に批判し、小泉首相が隣国の信頼に背き、アジアの指導者としての覚悟に欠けているとしている。日本評論家の船橋洋一氏はそれを「小泉単辺主義」と鋭く称し、この傾向に憂慮を表明した。小泉内閣のやり方によって、日本は歴史問題における立場と対アジア隣国外交の上で後退した。

 次に、小泉内閣のアジア外交が遠見を欠いていることも国内外から批判されている。当面の東アジア協力にはわりによい発展の趨勢が現れており、日本はもともと地域協力の提唱者と実践者であるが、経済の低迷は、アジア経済における日本の役割にも影響を及ぼしている。小泉政府が東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力の面で行動が中国に遅れているため、国内から批判されている。ASEAN諸国と自由貿易区を設置する討論の中で、農産物保護などの問題も、ASEAN諸国の不満を引き起こした。これらの諸国は東アジアの国内総生産の60%を占める日本は地域の協力と発展により多く貢献すべきだとしている。

試練に立たされる小泉内閣

 小泉首相が執政した1年間の実践が示しているように、改革家としての小泉首相の能力が疑われており、小泉首相の後光が消えてしまった。しかし、日本の改革は引き続き行われる。というのは、改革してのみはじめて経済を回復させることができるからだ。そのため、小泉首相は今年初めの施政演説の中で、今年は「真に改革する年」であり、「経済再建のために基礎をつくる年」であるとアピールした。就任1周年の記者会見でも、改革を推進する決意が少しも動揺なしていないと述べた。しかし、執政の基盤が弱くなり、支持率が下がっている情勢のもとで、今年に改革を実現できるかどうはまだ分からない。当面、小泉内閣の延長にとって有利な条件が二つある。一つは、政治面では、現在、自民党内に小泉氏に代って首相になれる人がまだおらず、小泉内閣を辞職させられる衆、参両院の選挙あるいは統一地方選挙もないことであり、もう一つは、経済の面では、景気がどん底に落ち込む可能性があることを今年第1・四半期の経済指標が顕示していることである。しかし、世論は相変わらず、小泉内閣が「危険水域」に近づいており、小泉内閣の支持率を決定するのは依然として経済であると見ている。