ロ米は互いに戦略的脅威の時代の終結を求める

董竜江

 ブッシュ米大統領は523日から26日までロシアに対して、大統領就任してからの最初の訪問を行った。これはここ一年来、プーチンロシア大統領との5回目の握手である。両国の指導者はモスクワで調印した一連の条約、宣言、共同声明の中で、ロ米攻撃的戦略勢力削減条約がブッシュ大統領の訪ロの最大の成果であり、ロ米両国が互いに敵と見なし、戦略的に脅迫する時代が「すでに終わった」ことを示していると公言した。

 ロ米攻撃的戦略勢力削減条約は、新しいグローバルな挑戦と脅威に対処するため、両国は斬新な戦略的関係を樹立すると称している。同条約は、20121231日までに、双方の戦略的核弾頭の総数を1700個ないし2200個を越えないまでに減らすべきであり、双方は限定された核弾頭の総数に基づいて、自国の攻撃的戦略兵器の成分と構成を独自に決定すると規定している。

 国際問題のオブザーバーは、ロ米攻撃的戦略勢力削減条約の調印はロ米両国間の戦略的安定の維持に対し積極的な意義を持っているが、ロ米両国が今後どのようにこの条約を実行するかはまだ大きな疑問があるとしている。

 ロ米両国は、この新しい核軍縮条約を締結するまでに、曲がりくっねった複雑な長い道を歩いた。冷戦終結後、膨大な核兵器庫をもつアメリカとロシアは戦略的核兵器を大規模に削減し始めた。ソ連が解体する前夜の19917月、米ソ両国は両国がそれぞれ擁している約1万個の核弾頭を6000個に削減することを規定した第1段階戦略兵器削減条約に調印した。この条約は199412月に発効し、有効期間は15年である。19931月、ロ米両国は2003年までに各自の核弾頭を3000ないし3500個に削減すると規定した第2段階戦略兵器削減条約に調印したが、アメリカ下議院が批准しなかったため、この条約は最後にはうやむやになってしまった。

 ここ10年来、ロシアは国力が下がって、現有の核戦力を維持するのが重い負担となった。プーチン大統領が政権を握ってから、自国の実際から出発して、ロ米両国が各自の核弾頭をさらに1500個に削減することを提案したが、アメリカの共鳴を得られなかった。昨年12月、アメリカは国際社会の強烈な反対を無視し、一方的に1972年にソ米両国の調印した「反弾道ミサイル条約」から脱退すると宣言した。ロシア側は、これは新しい核軍備競争を誘発し、ロ米両国の核戦略のバランスを破壊する可能性があり、ロシアが受け入れられないことであると考えた。ロシアの提唱の下で、ロ米両国は核軍縮問題について新しいラウンドの張り詰めた協議と駆け引きを始めた。

 削減した核弾頭をどう処理するかはずっとロ米両国の論争の焦点で、ロ米両国のこのラウンドの核軍縮交渉の核心でもある。最初のうちにロシアは双方の削減した核弾頭を廃棄することを堅持したが、アメリカは核弾頭を貯蔵することを主張した。最後の結果はロシアが完全にアメリカの提案を受け入れ、両国が自ら核弾頭を廃棄するかどうかを決定することになった。

 ロ米攻撃的戦略勢力削減条約の調印がアメリカに有利であるのは明らかであり、ロシアがアメリカのように核弾頭を貯蔵するのが不可能であることも明らかである。これは最終的に、必然的にアメリカの擁する核兵器がロシアより多く、ロ米両国間の核バランスが徹底的に打ち破られる可能性があるという結果をもたらす。

 同条約によれば、ロ米双方は執行委員会を設立して、条約実行状況を調査させることになっているが、削減期限が10年にも達し、しかも具体的な削減指標がなく、そのため10年の期限が切れる前の日に削減しても違約とは言えない。そのため、ある評論は、この条約は名ばかりのもので、空文にすぎず、条約の調印は逆にアメリカに政治と軍事の両方で二重の優位を獲得させたと評している。

 ロ米攻撃的戦略勢力削減条約の調印により、アメリカは国際反テロ行動を続ける面で、ロシアの支持を得ることができ、またロシアがヨーロッパとアジア地域で持っている特殊な影響力を借りて、地域的衝突の解決、核拡散の防止などの問題の上でロシアと協力することもできる。このほか、アメリカはこの機会を借りて、長い間非望を抱いているロシアの広大な市場に進出する可能性もある。

 ロシアが核軍縮の新しい条約に調印するように促す最も主な原因は、ロシア政府が自国の現有の国力に頼って、引き続きアメリカと対抗できないことをはっきり認識していることにある。NATOの東方への拡張からコソボ戦争まで、ミサイル防御の争いからここ数年来その他のさまざまなホットな地域問題の処理まで、ロシアはずっと劣勢に立たされている。ロシアが、ロ米双方の戦略核兵器削減交渉で行ったのが「つりあわない」交渉であったことをはっきりしていながら、それでも大きく譲歩することを決定したのは、アメリカと対抗しない状況の下で最大限に自国の安全と利益を守ることを望んでいるからにちがいない。

 そのほか、プーチン政府はアメリカとの友好関係を発展させることを通じて、自分の国内における政治的信望をいっそう高めようとしている。条約の調印はロシアにとってあまり実際的意義がないが、少なくともロシアは依然として世界の大国であり、世界でアメリカと交渉して核軍縮で合意に達した国であることを世人に顕示することができる。ロシアはまた、アメリカと核軍縮条約も調印することを通じて西側社会に融け込む過程を速め、できるだけ早くロシアに対するアメリカと西側諸国の政治上の支持と経済面の援助を得ることを望んでいる。

 ロ米攻撃的戦略勢力削減条約はロシアの国内で異なる反響を引き起こした。イワノフロシア外相は一再ならず、条約はロ米の「双方が妥協した」産物で、ロシアの安全と利益を損なうことがないと強調した。

 ロシア共産党などの左翼勢力はこの条約がアメリカに「無条件降伏する」ものだと非難した。ロシア軍部の多くの高級将校は、アメリカが解体したた核弾頭を貯蔵することに憂慮を表明している。このため、一部の人は、ロシアが通常武装力を優先的に発展させる軍事改革計画を再考慮し、本国の核の盾を強化し、それによって国の安全に対する潜在的脅威に対処することを提案さえした。

 ロ米両国の大統領の会談はますますにぎやかになり、プーチンとブッシュの間の個人友情も絶えずエスカレートしている。しかし、ロ米両国間の真の相互信頼関係は、恐らく何回かのサミット会議で確立できるものではない。まず、ロ米両国の根本的な戦略目標と利益が大きく違っている。アメリカはなんとかして自国の世界覇権を維持し、強固にしようとし、対等にふるまう競争相手の出現を許さない。ロシアは多極化世界をつくることを主張し、国際舞台における自国の役割を十分に果たし、永遠にアメリカの「小さな仲間」になることに甘んじることができない。

 次に、アメリカは自国のグローバルな反テロ行動では使い慣れている二重の標準を放棄せず、依然としてチェチェン問題など全くロシアの内政に属する問題をやたらに批判、非難している。そのほか、ロ米両国は、NATOの東方への拡張、イラクに対する打撃、ロシアとイランの原子力分野での協力、アメリカ軍事力の中央アジアと外カフカス地区における長期の存在および独立国家共同体の一体化などの問題の上で、利益が異なり、大きく食い違っている。これらの問題はいつでもロ米関係に新たな危機を出現させる可能性がある。