不正資金洗浄に宣戦

林 時

 ――ここ数年来、不正資金洗浄犯罪は中国で日増しに増えており、国内でかなりの規模に達しているだけではなく、国際でも中国をねらっている犯罪者が少なくない。経済と社会生活の隠れた危険を取り除くため、不正資金洗浄取締体系は中央銀行を中心として確立されている。

 今年426日、中国銀行は北京で不正資金洗浄取締および法規活動会議を開き、いかにして国際的背景の下で日増しにはびこる不正資金洗浄犯罪に対処するかについて討議した。75日、中央銀行は支払取引監督処と不正資金洗浄取締活動処を設立したことを公布した。その以前に中央銀行は不正資金洗浄取締活動指導グループを設立している。このほど、国家外国為替管理局と公安部は、今年に外国為替不法売買取締の重点の一つは不正資金洗浄取締活動と結び付けて、「闇銀行」をいちだんと取り締まることを共同発表し、中国銀行も最近、不正資金洗浄取締活動を積極的かつ着実に行う意向を表明した。

 この一連の挙動は疑いなく、中国は不正資金洗浄に対し宣戦したという情報を伝えている。

厳しい情勢

 6月末、中国共産党中央の機関紙『人民日報』に掲載された報道は国内外各界の注目を集めた。文章は次のように指摘した。「調査で明らかにされたように、ここ数年来中国で不正資金洗浄犯罪が日増しに増えており、金額も絶えず増えているが、そのうち不正資金洗浄によって国外に流出した資金の金額は小さくない。資本流出というマイナスの影響は無視することができない、それは国の税収を減少するだけでなく、外貨準備にも影響を及ぼす、これが中国金融の安全を脅かし、ひいては金融危機の根源になるおそれがある、と心配する人もいる。

 不正資金洗浄(マネーランドリング)とは、きたない資金をきれいに洗うことである。犯罪の過程から見れば、犯罪者は一般には不法な所得を一部分の合法的所得と混同させ、銀行などの金融機構を通じて複雑な関連取引を行い、資金の出所をあいまいにし、それから合法的なやり方で「きれいに洗った」資金を移転するのである。

 最近の報道によれば、中国国内で不法な金融機構を通じて洗浄された不正資金は毎年少なくとも2000億元にのぼっている。これは驚くべき数字である。中国の2001年の統計データを例として見ると、不正資金は国内総生産95933億元の2%を占め、年末の国家外貨準備高2122億ドルの11%を占め、同年の外貨準備高の増加額466億ドルにほぼ等しいものである。これらの不正資金で2002年の国家予算赤字3098億元を埋めるならば、赤字は64%も減少する。

 不正資金洗浄は麻薬密売者、密輸犯罪者、腐敗した政府関係者及びその他の犯罪者の活動と発展に原動力を提供し、社会の安定に危害を及ぼすだけでなく、経済活動、金融市場にも相当の脅威をもたらすだろう。

 現在、不正資金洗浄を一種の犯罪行為と見なすことは、国際社会では共通の認識となっている。80年代中期以来、多くの国は相次いで不正資金洗浄取締の関連法律を制定した。中国は199710月に施行した新しい「刑法」の中で、正式に「不正資金洗浄犯罪」の性質を定めている。

 経済のグローバル化に伴って、「不正資金洗浄」もグローバル化している。アジア太平洋経済協力機構(APEC)の高官によると、毎年、少なくとも2000億ドルの不正資金がアジア太平洋地域の金融機構を通じて移転されているが、この地域の不正資金洗浄問題はずっと低く見積もられている、という。

 中央銀行の研究レポートの分析では、中国では現在比較的厳格な銀行秘密制度が実行されており、口座の管理手段が比較的立ち遅れ、手形市場があまり規範化されておらず、銀行のコントロール能力がいちだんと増強する必要があり、そのうえ香港は世界の貿易自由度の最も大きな地域の一つである。そのため、国内の不正資金洗浄はかなりの規模に達しているだけでなく、国際上の多くの犯罪者も大陸と香港をねらっている。中国の不正資金洗浄取締活動は極めて大きな挑戦に直面している。

腐敗と不正資金洗浄

 腐敗した公務員のうち、不正資金洗浄問題にかかわるものが少なくない。

 元広西チワン族自治区人民政府主席成克傑の腐敗事件では、成克傑はその情婦李平を唆して、4109万元の賄賂金を香港商人の張静海に渡って「洗浄」してもらい、このために成克傑は1150万元を張静海に支払った。

 前連雲港市副市長鹿崇有の腐敗事件では、鹿崇有は80の坂を越えた父と70歳の母に法定代表人として化学工業企業を登録してもらい、自分の不正な所得を同企業に投じて、資金の出所を隠した。

 ここ数年来、中国は腐敗に反対するためにかなり多くの重大な措置をとった。金融の面では預金実名制を実行し、司法の面では刑法に巨額資産出所不明罪を規定している。汚職、賄賂で受け取った不正な資金を合法的な収入に変え、それによって公然と湯水のように使い、享受し、ひいてはこれで投資や価値増加をしている。このため、「不正資金洗浄」は「腐敗者」の必然的な選択となった。

 隠れた経済の研究で有名な経済学者の黄葦町氏は、ここ数十年来、腐敗した公務員の不正資金洗浄が世界的範囲において日増しに頻繁になり、その発展の速さはすでに伝統的な不正資金洗浄を上回り、この新たな不正資金洗浄現象は中国でも非常に深刻である、と指摘した。

 黄葦町氏の見方では、中国の腐敗分子の不正資金洗浄は次のようないくつかのやり方がある。一つはまず不正な手段で金を手に入れてからそれを洗浄する、つまり公職にあるものがやたらに汚職、収賄を働いたあと、辞職して商売をしたり、株式投機をしたりして、新しい身分で自分の成金を説明することである。二つは不正な手段で金を手に入れながらそれを洗浄する、つまり自分は権力を利用して金を手に入れ、親族が「商売をする」身分を利用して不正資金の出所を隠すことである。三つは不正な手段で金を手に入れると同時にそれを洗浄する、つまり政府関係者あるいは国有企業の支配人が私営企業、代理人企業を創設し、経済の往来を通じて不正資金をこれら企業の口座に移すこともできれば、正常な納税と経営を通じてもう一回儲けることもできることである。このほか、外国で不正資金洗浄を行うこともある。つまり国内外市場の日増しに密接になる連係を利用して、なんとかして不正資金を転移するか、あるいは国外で不正資金を受け取り、「洗浄する」ことである。

 しかし残念ながら、この新たな不正資金洗浄現象は「不正資金洗浄罪」で処罰することができない。それは中国の新しい「刑法」第191条は、麻薬にからむ犯罪、暴力団犯罪、テロ犯罪、密輸犯罪の違法所得及びそれによる収益であることを知りながらもその出所を隠すことを「不正資金洗浄罪」と定めているからである。

 黄葦町氏は、不正資金洗浄罪を犯す以前の犯罪を以上の数種に限定するのは明らかに狭すぎる、と見ている。

中央銀行が先頭に立って不正資金洗浄を取り締まる

 不正資金洗浄取締システムは中央銀行が先頭に立って確立したものである。このシステムは組織構成と法律・法規の二大方面からなっている。

 組織構成の面では、昨年の九月から十月にかけて、中央銀行は史紀良副行長をはじめとする不正資金洗浄取締指導グループを設立し、中央銀行内部の15の関連司・局が人員を参加させた。最近発足した支払取引監督処と不正資金洗浄取締処は作業を始めた。

 説明によると、支払取引監督処は人民銀行の支払決算管理弁公室に設けられている。その主な職責は、@支払取引レポート管理規則と異常支払取引監督実施規則を制定し、それを実施する、A大口支払取引監督システムの業務需要を測定し、システムの開発、運行、点検を行う、B支払取引情報を収集、整理、分析する、C疑わしい情報に対しては、必要に応じて人民銀行の支店、商業銀行に必要な調査を行い、疑わしい取引分析レポートを作成し、それを不正資金洗浄取締指導グループ弁公室に提出する、D商業銀行と関係者に対し関係法規、異常支払取引の識別についてのトレーニングを行う、E支払取引レポートを報告のために送致する義務のある機構と人員が「支払取引レポート管理規則」を遵守するように監督するなどがある。

 不正資金洗浄取締処は人民銀行保衛局に設けられ、不正資金洗浄取締指導グループ弁公室の日常の仕事を担当し、その主要な職責は、@不正資金洗浄取締指導グループのメンバーである部門間の連絡と調整を担当する、A商業銀行、公安部との間の不正資金洗浄取締活動の連絡と調整を担当する、B公安機関の疑わしい取引資金の捜査に協力、呼応する、C人民銀行を代表して国際の不正資金洗浄取締機構との連絡と情報交換に参与し、不正資金洗浄取締とテロ融資取締の面の交流と協力を展開する、D国内、国際の不正資金洗浄取締とテロ融資取締活動の状況を追跡するなどである。

 聞くところによると、中央銀行不正資金洗浄取締処は目下、各商業銀行とその他の金融機構が関連部門を設立するかあるいは現有の部門にこの活動を管理させ、それによって中央銀行から商業銀行に至る不正資金洗浄取締機構を設立するという案を練っている。

 法律・法規の面では、昨年中央銀行は「不正資金洗浄取締法律レポート」を公布したが、目下は「不正資金洗浄取締問題についての若干の意見」、「中国商業銀行の不正資金洗浄取締指導」、「疑わしい情報申告規則」などの関係文書を制定中である。これらの文書は商業的金融機構に不正資金洗浄取締についての原則的要求と操作規則を提出する。

 報道によると、20031月までには、中央銀行から商業的金融機構に至るまで、不正資金洗浄取締機構と法律の枠組みが初歩的につくられる。

 中国政府は金融部門で完備した監督・抑制制度の確立に努めるだけではなく、不正資金洗浄にからむ関連事件をも厳しく取り締まった。関係情報によれば、中国の警察機関とアジア・ヨーロッパの法律執行機構との協力はすでに明らかな効果をあげ、国外での不正資金洗浄犯罪の取締だけでも、中国の警察機関がここ2年外国の警察機関に協力して調査した不正資金洗浄にからむ犯罪の手がかりが70余件に達し、17の国と地域に及んだ。

充実する必要がある

 より健全な不正資金洗浄取締システムの確立は、多くの部門の協力にかかわる大規模なプロジェクトであり、その中には、中央銀行、財政、税務、商工、税関、外国為替管理、外交など多くの行政部門もあれば、公安部、裁判所、検察院などの司法部門もある。現在、不正資金洗浄取締と関係ある部門には効果ある協力メカニズムがまだ形成されておらず、とりわけ行政と司法部門との調整の難度はもっと大きい。それは中国の基本的制度として行政が司法に干与できないからである。

 中央銀行の研究局も不正資金洗浄取締問題の理論研究を展開し、国内、国際の不正資金洗浄犯罪と不正資金洗浄取締制度の研究を基礎として、課題グループは上級に次のような政策的提案を行った。

 第一は不正資金洗浄取締における各部門の職責を明確にし、協力を強化する。

 第二は不正資金洗浄罪の外延を拡大する。李徳処長の説明では、中央銀行課題グループは、国際慣例と国外の法律制定の経験を参考にして、不正資金洗浄犯罪をすべての犯罪収益の移転と隠匿に定義づけることを提案した。

 第三は不正資金洗浄罪に対する処罰に力を入れる。課題グループは研究の末、不正資金洗浄犯罪によってもたらされた巨大な収益は犯罪者が危険を冒すことを決定づけており、厳しく処罰しないとこの種の犯罪を懲罰することができないから、法定の最高の量刑をもとの5年以上10年以下の有期懲役から無期懲役に改め、処罰金額をもとの5%以上20%以下から50%以上200%以下に改めることを提案した。

 第四は国際組織、その他の国との不正資金洗浄取締の面の交流、協力を強化する。これには中国の不正資金洗浄取締の法律規範を国際とリンクさせること、不正資金洗浄取締の国際組織に参加すること、不正資金洗浄取締についての国際上の情報交流と共同使用を強化すること、不正資金洗浄取締の司法協力を強化することなどが含まれている。

 今年3月に開かれた全国人民代表大会と全国政治協商会議の開催期間中、有名な経済学者の呉樹青氏は「『不正資金洗浄取締法』の早急制定を提案する」という議案を提出した。

金融機構の義務

 不正資金洗浄取締活動の展開過程のいま一つの難題は、商業的金融機構が自身と短期利益の角度に立っているため、積極性が高くないということである。それは、不正資金洗浄取締体系の設立は商業銀行のコスト投入の増加を必要とするが、直接利潤を生まず、ひいては預金が減る時もある。しかし、長い目で見れば、この体系の設立は銀行全体のイメージの樹立、金融体系の安全と国の利益に役立つものである。

 中国人民大学法学院教授、博士コース大学院生教官の盧建平氏は、刑事政策の立場から出発して、中国は金融立法を適当に調整し、銀行と金融機構の不正資金洗浄取締の面の義務的規定と人民銀行など機構の総合的監督職責を増加すべきであるとしている。

 事実上、中国では、多くの銀行はすでに不正資金洗浄取締が必要であると感じている。中国銀行は国内最初の不正資金洗浄取締メカニズムを構築した商業銀行となった。

 国内の商業銀行の中では、中国銀行の海外支店が最も多く、しかもこれらの支店はほとんど不正資金洗浄取締メカニズムが比較的健全な国と地域に設けられている。中国銀行の支店も不正資金洗浄取締部門を設立しなければならないよう要求されているため、昨年6月、中国銀行総行は中国銀行不正資金洗浄取締活動委員会を設立し、劉明康行長が主任を担当し、メンバーは同銀行の11の関係業務部門の責任者である。

 委員会は発足後、「中国銀行不正資金洗浄取締ハンドブック」を制定した。説明によると、ハンドブックは具体的な防備措置について非常に詳しく規定している。例えば、「疑わしい取引の識別と処理」という一節では、銀行業務の段階で犯罪者が資金洗浄を利用されやすく、特に防備する必要のある部分は、大口現金取引、預金、送金及び小型金庫、資金の金融体系の内部及び国外への移転、しかも明確な商業あるいはその他の不当な目的がない、登録地でいかなる商業、制造業あるいはその他のいかなる形式の商業活動にも従事しない機構、公司、基金会、信託公司など、及び実際には経営活動があまりない公司の行う大口取引であると明示している。以上の業務のほか、ハンドブックは貸付、決算、クレジットカード、外国為替と証券取引などの業務にもとくに意を配り、犯罪者に不正資金洗浄のルートとして利用されることを防止することも強調している。