中国の周辺はまだ安定しているか

 アメリカがテロ反対を利用してアジアでその新たな戦略をさかんに推し進めており、中国の周辺情勢にわりに大きな変化が生じ、中国に対する挑戦となっている。

               張崇防(新華社情報センター)

 アメリカがテロ反対を利用してそのアジアにおける戦略的利益を推し進めているが、主に@アフガニスタンをしっかりと抑える、A中央アジアに全面的に浸透する、B南アジアにいちだんと介入するという三つの方面に集中している。

 アメリカはまだ十分な証拠を握っていないときからアフガニスタンに軍事打撃を加え始めた。タリバン政権が打倒されたあと、アメリカは一方では積極的にアフガニスタンの政局に影響を及ぼし、他方ではアフガニスタンに長期にわたって立脚することを積極的に図っている。アフガニスタンはアジアとヨーロッパを結ぶ通路の要衝を抑えており、東アジア、南アジア、西アジアを結ぶ中枢である。アフガンニスタンに長期間軍隊を駐留させることを通じて、アメリカは南アジアの情勢にいちだんと介入することもできれば、東部からイランに対し、西部から中国に対し戦略的威嚇を与えることもできる。

 アメリカは中央アジアに浸透することを通じて、北の方からロシアの戦略空間に打撃を与え、圧力を加え、東の方から中国の西に向かっての発展を牽制し、南の方からイランの対外連係を抑え、このようにしてその戦略的地位を大いに強化しようとしている。これまで、アメリカはユーラシア大陸の極東地域から中国を抑え、ユーラシア大陸の遠い西部からロシアを抑えることしかできなかったが、長期にわたって中央アジアに軍隊を駐留させるならば、中ロ両国に対し同時にはさみ撃ちすることになる。アメリカは一連の策略と手法をとってその中央アジア地域における戦略的利益を推し進めているが、その中の一つはロシアと関係を改善し、発展させ、ロシアの影響を借りて同地域への全面的浸透を実現することである。アフガニスタンに対する軍事行動を順調に完成したあと、アメリカは中央アジア地域の戦略的利益を具体的に実施する段階に入る。テロに打撃を与えることを名目として、中央アジア地域で軍事基地を拡大、新設し、中央アジア諸国との軍事協力を強化するなどが含まれる。

 南アジアでは、アメリカはパキスタンとの関係の改善やインドとの協力のグレートアップを通じて南アジア地域に対する影響を強化している。「911」事件の発生後まもなく、アメリカは1998年来印度とパキスタンに対し実施してきた制裁と禁輸を解除し、パキスタンに10億ドルの一括経済援助を提供すると発表し、インドとは5年間中断した軍事交流を再開した。アメリカとインドは軍事情報交流の保護に関する「軍事情報の全般的な安全に関する協定」を結び、防衛協力とテロリズム打撃などの問題について共通の認識に達した。「911」事件後、米印両国の関係がたえず改善されていることを顕示するため、アメリカ国防総省はインドに14600万ドルの軍用レーダーシステムを売却することを決定した。パキスタンに対しては、ブッシュ大統領はムシャラフ大統領を訪米に招請し、ハイレベルの接待を与え、パキスタンは全世界のテロ反対連合戦線における「カギとなるパートナー」であり、米パは「長期のパートナーシップ」を樹立し、双方が力強い協力を行う時代がまもなく訪れるなどと公言した。アメリカは2003会計年度にパキスタンの10億ドルの債務を減免し、パキスタンの教育改革の実施援助に1億ドルを提供し、パキスタンの服装輸出シェアを14000万ドル増やすことに同意した。アメリカは印度、パキスタンとの関係を同時に発展させるにあたって、重点を両国が引き続きテロ反対でアメリカと協力することにおいてあり、同時に、南アジアにおけるアメリカの戦略的利益を守り、できれば南アジア情勢を主導し、中国の発展を牽制しようとする考えもある。

 上記の三つの方面の重要な利益を追求するほか、アメリカはまた絶えず日韓両国との同盟協力の内容を充実させ、東南アジア諸国との協力を強化している。例えば、アメリカはフィリピンへの軍事援助を大いに増やし、軍事専門家と特殊部隊を派遣して、フィリピン政府が南部のテロ組織を一掃するのを援助している。アメリカはまたタイ、マレーシアと軍事要員のトレーニングと情報交換の面で新しい進展をとげ、東チモール危機で中断したインドネシアとの軍事協力を回復した。

 要するに、「911」事件後、アメリカがアジアへの戦略投入を増加したのは、テロ反対の現実的な必要でもあれば、この地域におけるアメリカの主導的地位を守るという長期の考慮でもあり、その中に同地域の強国の興起に対処することも含まれている。総合国力が着実に上昇している中国は、地縁政治の面でアメリカと競争し、ひいてはアメリカをアジアから締め出そうとし、イデオロギーの面でアメリカと対立し、両国の国家利益が衝突しているとアメリカ側は見ている。中国に対しとっている「接触プラス抑制」という二面戦略の中で、抑制の一面はいっそう際立っている。

アメリカの中央アジアへの介入は中国の将来のエネルギー安全の潜在的脅威となる

 カスピ海のエネルギー通路を切り開き、同地域のエネルギーの主導権を握ることは、テロ反対の過程におけるアメリカの重要な考慮である。中央アジアとカスピ海地域の石油・天然ガス埋蔵量は世界の確認済み総埋蔵量の16%を占めており、中東とノボシビルスク地域に次ぐものである。アメリカが同地域の資源開発に熱心なのは、一方では、中東の石油に大量に頼ってもたらされるリスクを解消し、自国経済の安定した発展を保障するためであり、同時に同地域のエネルギー業務面におけるロシアの独占地位を打破しようとする考慮もある。より重要なのは、急速な発展をとげている中国のエネルギーに対する巨大な需要にかんがみ、中央アジア地域の石油・天然ガス資源は中国が重点的に開発する地域となる。そのため、アメリカがカスピ海のエネルギー通路を切り開けば、中国を力強く抑えることができるのである。

 1993年から、中国はエネルギーの純輸入国となった。2001年に、中国は石油(原油と精製油を含む)を8171万トンも輸入し、輸入額は151億ドルに達した。専門家の推測によると、むこう15年内に、中国経済の安定した急速な発展に伴って、中国の原油需要量は10%前後のスピードで増える。石油安全戦略はすでに中国の国民経済にかかわる最も重要なものとなり、多元化による石油輸入は中国の石油安全を保証する重要な手段である。

 カスピ海地域は石油資源がきわめて豊富な地帯であり、同地域の開発は中国の石油輸入ルートを広げる重要な一環である。2001年に、中国はロシアと中央アジア地域から当年の中国の石油輸入量の8%を占める701万トンの石油を輸入したが、両者の間に石油パイプラインがないため、これらの石油はほとんどタンカーで輸送された。中国は自国のエネルギー輸送状況を改善するため、中央アジア、カスピ海地域と地つづきであるという有利な条件を利用して、パイプラインを建設、利用してエネルギー輸送を行えば、中国のエネルギー供給の長期性と安定性を保証することができる。これは中国が中央アジアの石油・天然ガス資源を大いに開発する戦略的意義のあるところでもある。現段階では、中国が中国が企画中の石油・天然ガスパイプラインはカザフスタンのカスピ海地域から中国の新彊に至り、さらに中国の東部地区に輸送するものである。

 しかし、アメリカのパイプライン計画は中国にとっては潜在的な衝撃である。アメリカが計画しているカスピ海地域の原油エネルギーパイプラインは2本あり、一本はアゼルバイジャンからトルコに至るパイプラインで、もう一本はトルクメンからアフガニスタンを通って、パキスタンに至るパイプラインである。前者はアゼルバイジャンのエネルギー生産が限られているため、経済的利益が悪く、基本的にストップの状態に陥っている。もう一本のパイプラインはタリバンの存在によって、ずっと棚上げにされている。現在、タリバン政権の失脚に伴って、アメリカが2本目のパイプラインの建設を通じてカスピ海のエネルギー通路を切り開く可能性が大きくなった。

 中国にとって、企画中の中国とカザフスタンの間のエネルギーパイプラインは経由地域の政局が安定し、第三国の牽制を受けない政治的強みがあり、その上、カザフスタンの石油が豊富で、中国が巨大な需要があるため、生産と販売の問題が存在しない。しかし、同パイプラインは全長4000余キロで、多額の資金を投下し、しかもパイプラインの大部分がカザフスタンの国内にあり、期限どおりに投資を回収するのを保証するため、20年内に同パイプラインを通じて輸送される原油が毎年2000万トン以上に達するのを確保しなければならない。しかし、当面の状況から見て、カザフスタンの生産能力と中国国内の輸送能力がこの要求を満たすのはまだ困難である。アメリカがトルクメン、アフガニスタン、パキスタンを結ぶエネルギーパイプラインを完成すれば、海に近いため、経済上から考えれば、トルクメニスタン、カザフスタンはこのパイプラインを利用してエネルギーを輸出する可能性があり、中国の石油パイプライン計画はその挑戦に直面することになろう。

中国の周辺情勢はどう発展するか

 中国の周辺情勢に現れた変化は、弁証法的に評価する必要がある。一方では、中国の周辺情勢にはアメリカがテロに反対し、またこの機会に乗じてグローバル戦略を推進するという大背景の下で確かに中国にいくつかの不利な変化が生じた。アメリカが中央アジア地域でその政治、経済、安全面の利益の推進を急ぐにつれて、同地域におけるアメリカの軍事的存在が長期化する可能性も大きくなっている。アメリカの南アジアの政治、安全に及ぼす影響はたえず大きくなり、米印間関係の戦略性は以前より突出し、米パ関係は明らかに改善され、アフガニスタンの新政権は主にアメリカに頼っている。中アジア、南アジア、西アジアにある中国の障壁に動揺が現れ、多くの面で同時にアメリカとの戦略競争に陥っている。東南アジアはアメリカのテロ反対の新たな戦場となり、アメリカの軍事力はテロ反対拡大をきっかけとしフィリピンに戻り、異なる方式でインドネシア、タイ、シンガポールなど諸国とのテロ反対協力を強化し、同地域に新たな不安定要素をもたらした。東北アジアの情勢に複雑な新しい変化が現れた。アメリカは朝鮮を「悪な枢軸」国と非難し、対朝鮮政策は強硬かつ硬直化したもので、またも朝鮮半島の情勢に変化を生じさせている。

 当面の周辺情勢の変化が中国にもたらした影響と挑戦は多方面にわたるものである。まず、中長期から見れば、周辺情勢の変化は中国の戦略空間を小さくし、その興起と発展をある程度制約する可能性がある。次に、アメリカは中国の周辺で日ましに綿密に配置し、同地域の情勢に現れた各種の変化を利用し、必要に基づいて、異なる方向から中国に対し戦略的牽制を実施する可能性がある。第3に、地縁経済の面では、アメリカが中央アジアと南アジアで突破をとげたことによって、中央アジアとカスピ海のエネルギーがアフガニスタン、パキスタンの経由でインド洋に南下する可能性が大きくなり、中国のエネルギー多元化戦略に不利である。

 中国の周辺環境に複雑な要素が増えているにもかかわらず、その周辺の平和と安定の大趨勢に逆転が現れていない。一方では、アメリカが中国周辺の各亜地域の政策を調整する意図は多方面にわたるもので、テロ反対、拡散防止、情勢支配、安全利益の確保、機会をつかんでの地域とグローバル戦略推進など多くの目標を含んでおり、しかも重点がそれぞれ異なっている。東北アジアと東南アジアでは、アメリカは地域の力の枠組みの中で日ましに強くなる中国の要素がつり合うようにすることに重点をおいている。南アジアでは、アメリカは米印関係で中国を牽制しようとする長期の打算があるが、当面は、主に地域の相対的な安定を守り、印パ衝突によって情勢をコントロールできなくなるのを防止することを考えている。中央アジアでは、米ロの争奪は依然として主導的なものである。アメリカの戦略目標の中に中国の要素が含まれているが、これによって、アメリカの行動が全く直接中国に対応するものであると見ることはできない。他方では、中国周辺の多くの国はアメリカのテロ反対に程度の差こそあれ支持と援助を与えているが、その目的は協力を名目とし、機に乗じて車に便乗し、自国の利益をはかることにある。中国の総合的国力がたえず上昇し、周辺の多くの国の政治、経済が次々と調整期に入るにつれて、力関係の変化は依然として中国に有利である。