グローバルな戦略的枠組みの今後の発展の方向

中国国際問題研究所研究員 楊成緒

 冷戦終結以来、グローバルな戦略的枠組みに重大かつ深刻な変化が生じた。国際情勢は、全体として緩和に向かっているが、局部に激動が持続し、激しくなる時も緩くなる時もあるという基本的態勢を保っている。

 地域的衝突と国家間の戦争及び一国内部の政治的動乱などの問題も、もはや冷戦時期の東側と西側の勢力の消長や勢力圏争奪の「ゼロ・サム・ゲーム」ではなくなり、平和な方式で紛争を解決すれば各大国のためにウィンウィンの局面を創り出す可能性がある。相対的に大規模の戦争の見通しがない情勢の下で、各国は内外政策を絶えず調整し、平和な環境の中で自国の総合的国力の強化、国民の生活水準の向上に力を入れることを期待している。

 世界はいま、テロリズム、環境悪化、大気圏汚染、難民激増、麻薬氾濫、エイズ流行などかつて見ない厳しい挑戦に直面しているが、これらすべての問題は国際協力なしには緩和、解決しにくいものである。相互経済貿易関係の発展のため、相互投資の成長は国家関係をいっそう改善、強化する積極的要素となっている。経済のグローバル化は経済と科学技術の発展を推進し、国家間関係を密接にすると同時に、世界の貧富のギャップをいっそう拡大し、南北の矛盾を絶えず激化させている。一部の発展途上国のいっそうの貧困化は国内情勢の持続的激動の重要な原因の一つとなっている。一部の大国は地縁政治に目をつけ、勢力圏と戦略要地を奪い合い、勝敗のための争いが激しくなったり下火になったりしている。大規模の戦争がない環境の下で、大国は互いに相手を自分の敵だと公言するのを避けている。一部の大国は内外政治の必要から、往々にして一部の特定の国を隠れている敵と見なしている。これは相互防備の激化という趨勢をもたらし、大国関係における不安定な要素になりかねない。大国に共通の利益もあれば、異なる利益もあるため、各国の戦略と内外の要素を考慮に入れれば、今後の国際情勢の発展には多くの不確実的な要素が存在するだろう。

 昨年911日に起きたテロリストによる米国襲撃事件は世界を驚かせ、在来の安全観と安全戦略を猛烈に衝撃している。戦略目標が違うためによって生じる大国間の食違いがしばらく棚上げられ、大国間の対立と利害衝突が激しくなった形勢が緩和されている。世界のテロリスト反対闘争が深く発展するにつれて、どのようにテロリストを定義し、アメリカの決めた「悪の枢軸」に基づいて逐一行動をとれるかどうかは、国際社会に食違いを生じさせ、しばらくの間共通の認識に達することができないようにしている。

 国際社会の長期の理想は政治の多極化である。同様に国際社会にとって言えば、いかなる国が他の国の利益を顧みず、自国の利益だけから問題を考慮し、方策を決定することも、明らかに世界の平和と安定に役立たないことである。今後、一極が天下を統一し、多極の勢力が互に制約しあう枠組みが長期にわたって勝負する過程で、新たな国際秩序が逐次形成されて、大国と小国の間、強国と弱国の間、貧しい国と富める国の間の利益に大体バランスが保たれるようになるだろう。

アメリカは超大国の地位を確保できるか

 冷戦終結後、アメリカの経済実力が絶えず発展し、科学技術と情報産業の分野もリードする地位を占め、軍事力が先行の優位を保持している。

 21世紀の初葉に、世界に米国に挑戦できる大国が現われないだろう。アメリカは唯一の超大国として、この「戦略間欠期」を十分に利用して、いかなる政治勢力がアメリカの指導的地位に挑戦する可能性をも防止しようとしている。アメリカの共和党は8年ぶりに政権を奪還して、より高圧的な戦略をとっている。アメリカはヨーロッパとアジアをコントロールすることを基礎とするグローバルな戦略を堅持し、絶えずロシアの戦略的空間を小さくさせ、ロシアが超大国に回復するのを防止すると同時に、アメリカのメディアはアメリカが「戦略を東方に移転して」、アジア太平洋地域の兵力配置を強化し、グアム島前線の進撃基地を充実させていると一再ならず宣伝している。ブッシュ政府が登場してから、米ロの間にスパイ事件が発生し、米中の間に軍用機衝突事件が発生し、ヨーロッパ諸国もアメリカの一方主義の推進に大きな不満をもっている。米国が各国の反米情緒をあまり気にかけていないが、これはアメリカの心理状態を際立って現している。「9.11事件」後、アメリカは各大国との協力を図っており、各国もできる限りの支持を与えて、相互関係を緩和し、協力を強化した。

 しかし、唯一の超大国の地位を保ち、いかなる一極の政治勢力がアメリカに挑戦状を突きつける可能性をも防止するというアメリカの基本的戦略には本質的変化が生じていない。アメリカは唯一の超大国として、できる限り多くの国際実務における主導的地位を維持することを目指している。

米欧日同盟とその食違い

 米欧日は政治上では同盟を結んでいるが、経済上では競争し合う三極を構成している。米欧はNATOの東への拡張を通じて矛先をロシアに向けているが、米日は軍事同盟を強化して矛先を中国に向けている。

 米欧と米日の間では共通点が相違点より多いが、その間に矛盾がないわけではない。EU(ヨーロッパ連合)が強くなり、大きくなり、独立自主の方向へ向かって発展し、アメリカに過度に依存しないように努力するのは依然として今後の発展の趨勢となっている。日本は「普通の国」になることを求め、現在の立場には不満足で、時にはアメリカの戦略的意図と合わないこともある。

 大国間の錯綜して複雑な関係は、米欧日がロシアと中国を防備する面では共通の利益を持っているが、ロシアと中国に対処する面では、いつでも何事でも絶対に一致するのは不可能である。しかも大国の相互の間、ロシアと米欧日の間、中国と米欧日の間にも共通の利益が存在している。アメリカが一方主義を推し進めているが、当今の世界にはアメリカを牽制できる国は一つもなく、各大国も連合してともにアメリカに対処する意向もない。しかし、これは各大国がアメリカの一方主義推進に賛成しているわけではない。当今、世界には中米日、中米ロ、欧米ロ、中日ロ、中ロ印(インド)などさまざまな三角関係がたくさん存在している。多くの三角関係の中で、アメリカが超大国の地位にあるため、等辺三角形を形成するのが難しく、こうした三角関係は冷戦時期の三角関係と違って、いかなる両国によって形成される対立関係もない。しかし、弱い地位にある二つの国がいくつかの重大な問題で共通の認識を拡大し、協力を強化するならば、ほかの大国をある程度牽制する役割を果たす可能性がある。

中国、大国外交を重視

 中国と西側大国との関係、特にアメリカとの関係は大国関係の重要な環を構成している。1989年に開かれた西側七カ国首脳会議は中国に制裁を加える決議を可決した。その後、米欧諸国は絶えず人権などの問題で中国を非難した。ここ数年来、人権などの問題をめぐっての西側諸国と中国の対立はいくらか緩和した。中国は米欧日など西側大国との関係発展を重視し、中国とヨーロッパの関係が逐次安定し、双方は中欧関係の発展が双方の利益に合致することをますます認識するようになった。日本との間には時々いくつかの問題が生じているとはいえ、持続的発展の態勢がほぼ保たれている。

大国関係の中で中ロ両国の似たところは、同じような挑戦に直面し、米欧日が絶えず同盟を強化して矛先を中ロ両国に向けることである。このため、両国は協力を強化し、自国の利益を守らせざるを得なくなった。

 中国とアメリカの関係は幾多の曲折を経て安定していないと言えよう。冷戦終結後十余年このかた、中米双方の外交政策は絶えず調整する段階に置かれている。中米両国関係の発展は世界と地域の平和と安定を維持するうえで大きな意義がある。ここ数十年来、両国関係の発展は両国にも利益をもたらした。しかし、新興国としての中国はアメリカにとって災いなのかそれとも福なのかは、アメリカの国内で激しい論争を引き起こしている。一部の人の考えでは、中国は地域大国であり、アメリカのグローバルな戦略の利益から考慮して、アジア太平洋、特に東北アジアなどの地域の平和と安定を守るため、アメリカは中国との協力を強化し、それをアメリカの利益に合致する方向へ発展させるべきである。もう一部の人の考えでは、中国の振興は新興の大国が必然的に既存の覇権国に挑戦を出すように、遅かれ早かれアメリカのグローバルな戦略に対する挑戦となる。米中両国は社会制度とイデオロギーの食違いのため、遅かれ早かれ対抗に向かうようになる。目下、アメリカは唯一の超大国であるが、中国は台頭しつつある大国であり、アメリカは中国がまだ強くならないうちに中国を封じ込めるべきである。しかしながら、これはほかでもなく、ここ数年来中米関係の発展がたびたび挫折を受ける重要な原因の一つである。アメリカ政府は中国を、アメリカの全世界とアジア太平洋地域における競争相手と見なすと同時に、中米の間に存在している共通の利益をも見ないわけにはいかない。これはアメリカの対中政策の中で再三考慮する必要のある二つの重要な側面である。