高額所得者の脱税を防ぐ

唐元かい

 中国では高額所得者の脱税が比較的普遍的である。このため、関係部門は監督・管理と取り締まりに力を入れ、租税制度を整備している。

 最近、映画・テレビ女優の劉暁慶が脱税容疑で逮捕された。 劉暁慶は知名度が高く、長期にわたって演技と商業の面で中国女性の「ナンバーワン」を自認している。映画界からフェード・アウトしたあと、商売をやり始め、90年代には化粧品、不動産、テレビ製などの分野に進出し、わずか数年で巨額の富を築き上げた。

 現在までのところ、劉暁慶が逮捕された原因は彼女が法人代表を務める公司の脱税と関係があるが、この事件によって引き起こされた焦点は高額所得者の脱税行為である。とくに、ますます多くの人が豊かになっている状況の下で、納税者数と納税額がいずれも絶えず増えているにもかかわらず、個人所得税の徴収状況は依然としてアブノーマルであることを人々は発見した。

 毎年約1000億元の個人所得税は中国の四番目の大税目となっている。しかし、それは年間税収総額の6.6%しか占めておらず、比率は非常に低いものである。

 今年から、中国の税務機関は脱税容疑のある高額所得者を重点的に追跡調査することに力を入れているが、個人の脱税行為を追及するのは初めてである。

 最近、北京で行われた会計検査では、一部の北京駐在外国企業の首席代表の個人所得税申告にも同様に問題が多く存在しており、1000余社の外国企業の高額所得職員の納税申告に各種の問題が存在していることが発見された。政府メディアの報道によると、会計検査を行った結果の一つとして、税務機関は約770万ドルの税金を追徴した。

 朱鎔基総理は高額所得者の個人所得税上納状況に強い不満を示した。これは税収問題が国の財政収入の減少に直接影響するばかりでなく、中国政府が市場経済秩序、とくにかなりの社会影響力をもつ高額所得者の行為規範化にいっそう力を入れることを示している。税収制度を完全なものにする立場から言えば、「劉暁慶脱税事件」の処理はほんの手始めにすぎない。

 納税の意識が薄い、脱税行為をなんとも思わない、法律と制度に抜け穴があるため、脱税は一部の高額所得者の冒険的なゲームとなっている。

 「公司は私のもので、公司はすでに企業所得税を納めたのだから、私はどうしてまだ税金を納めなければならないのか」。取材の時、一部の高額所得者はこう言った。

 税務機関が調査した結果では、一部の高額所得者が個人所得税の上納を避けるため、いつも個人収入を企業税に組み入れて納めることが判明した。このほか、一部の高額所得者が被災地区に寄付しながら脱税する現象もよく見られる。これに対し、税制専門家、中国人民大学教授の銭晟氏は「これは人間評価体系の中に納税の要素を入れておらず、それを被災地区に寄付し、正しいことを勇敢にする行為と同じように扱っていないことを物語っている」と語った。

 米エール大学でポストドクトリンの研究をしたことのある中国科学院―清華大学国情研究センター主任の胡鞍鋼教授は次のように指摘した。多くの国では、大衆はスターがいくら税金を納めたかを知っているが、中国の庶民は「劉暁慶ら」の個人が納めるべき具体的な税金の数字を知るすべがない。公衆人物としてはまず法に依って税金を納め、自ら進んで自分の納税状況を公開すべきであり、これは公衆人物となる資本である。

 銭晟教授は「公司の税制設計に対し、わりに科学的で整った制度を確立しているにもかかわらず、一部の個人所得税の面では、制度の不完全性はいろいろな問題を生む原因となっている」と見ている。

 分析によると、税収制度の抜け穴は確かに脱税行為に乗じる機会を与えている。現段階では、中国の税務査察が納税者の自己の申告行為に対する事後監督であるため、納税者の税法違反問題に対する調査・処理はどうしても手くれとなる。税務査察は主に税金徴収管理情報分析、税収特別検査、大衆の摘発、その他の情報の総合分析などの結果に基づいて行われるもので、これもある程度の局限性が存在している。

 現行の個人所得税制度および徴収方法は「公平に分配し、格差を調節する」という役割を効果的に発揮することができず、逆に社会の富の分配がますます不公平となるようにしていると胡鞍鋼教授は見ている。

 調べによると、中国は貧富の差が深刻な現状に直面しており、しかもその差は大きくなっている。国際の貧富の差を示し、評価するギニ指数からすれば、中国は0.4の警戒線を上回る0.47に達している。

 中国の各銀行の8兆元に及ぶ住民の預金の中に、80%の富はこれら20%にならない少数者のものとなっているが、この20%の高額所得者が納める個人所得税は総量の10%にもならないのである。最も多く税金を納めるのはサラリーマン階層ひいては農民のようなより多くの富を持っていない人たちである。

 「政府は力を入れて貧富の差を縮小することを望んでおり、その手段の一つは税収である」と中央財経大学税務学部の副主任の劉桓教授は見ている。

 『北京青年報』のベテラン評論員の張天蔚氏は、「個人収入の状況を効果的に追跡、統計できなければ、法に依って納税しようがない。このようなばつの悪い局面の形成は財務、金融、法律など一連の制度あるいは技術にかかわってくる」と見ている。

 「個人所得税法」は制定されてからすでに20年余りになるが、いまから見て、この法の一部分の改正が必要であると銭晟教授は語った。

 全人代の関係筋によると、「個人所得税法」改正案は現在、立法計画に組み入れておらず、それに組み入れられるかどうかは、来年の全人代がどう行動するかを見る必要がある。これは新しい税法が早くとも来年にその結果がわかることを意味するが、この法律の改正研究活動は関係部門がずっと積極的に進めている。

 7月の「劉暁慶脱税事件」が発生したあと、反応が最も強かったのは自分も問題があるかもしれないと考える高額所得者と企業である。7月に、多くの高額所得者は自ら進んで税金の不足分を追納したいと申し出、追納するスピードもわりに速くなった。

 最近、国家税務総局はつくつかの重要な措置を講じている。

 これらの措置の中には、著しい位置におかれることは個人所得税の徴収管理情報化建設のテンポを加速し、報告のために、支払部門が税務機関に個人収入申告明細表を送付する制度を実施し、高所得業界では全員申告制度を推進することである。同時に、政府諸部門と納税者と関係のある公共資料とデータを十分に利用するため、税務機関はできるだけ早く個人所得税監察システムをその他の政府公共部門とネットワーク接続させる必要がある。

 その他の措置は、個人所得税の重点納税者に対する監察システムの確立を急ぎ、全国で高額所得者の重点納税者を対象とする書類管理システムを確立し、その各地にある多項目の所得に対し追跡管理を行うこと、演芸、広告市場の俳優・従業員に対する税金徴収を一段と強化し、映画・テレビ、文芸団体などの個人所得税の代理控除、代理納入状況を全面的に検査し、労務報酬を前もって控除、上納する方法を推し進めること、高額所得者の個人所得税の徴収管理を強化すると同時に、その投資企業の流通税、企業所得税とその他の税種を厳しく管理し、高額所得者の税金徴収管理を強化する合力を形成することを含んでいる。

 「劉暁慶ら」の行為はすでに民衆の怒りを引き起こしたため、上記の措置は人々の支持を得ている。インタビューを受けた高額所得者のほとんども高額所得者が法にのっとって納税することに反対しないが、自分の高額所得の身分が違った目で見らるのを望んでいない。

 法制は最も彼らを安心させるものである。北京大学の黄恒教授は次のように指摘している。中国税制改革の当面の急務は法制を健全にすることである。現在、中国はいまなお個人資産の蓄積段階にあり、高額所得者の合法的収入を保護する必要があり、高額所得者に対する徴税を強調しすぎると、社会生産全体の積極性を傷つけ、生産効率を低下させる。

 国家税務総局のスポークスマンは次のように指摘している。脱税問題の取り締まりは非公有制経済の正常な発展に影響を及ぼさないだけでなく、かえって公平な競争の環境の形成に役立ち、中国の各種所有制経済を公平な競争の市場環境の中で健全に発展させるように促すことができる。

 個人の脱税を取り締まると同時に、中国政府は徴税の手続きを簡略化し、特に国内の低額所得者の負担を軽減することを計画している。