復興を期待する数学の古い国

 ――第24回国際数学者会議をきっかけとし、中国は「数学大国」の目標に向かって挺進しつつある。

             唐元かい

 8月下旬、100余カ国地域の4000余人の数学者が北京で集まった。彼らは、中国は「十進法」と最古の幾何学、連立方程式、最古のマトリックスなど数学の面で世界に重要な貢献をしていると多くの人に注意を促した。

 今回の会議主席を務めた呉文俊氏(84歳)は中国の第1回最高科学技術賞の受賞者であり、位相幾何学と数学機械化などの面でいずれも創始的な貢献をしたことがある。氏は中国の数学がこの会議をきっかけとして復興し、急速な発展をとげることを望んでいる。

 「もともとこの会議が純粋な学術活動だと思っていたが、これほど大きな関心を集めるとは考えなかった」と北京で会議に出席した米カリフォルニア州立大学の劉克峰教授は今回の会議参加の感受を語った。

 事実は確かにそうである。メディアは会議を全方位に報道し、人びとはホーキング氏ら科学者の学術報告を聞くために長い列をつくった。百年余りの歴史をもつ数学の盛典が初めて中国で催されて、すぐにも長年来見なかった数学のブームが盛り上がり、一般の人も中国学術界の復興を期待する息吹を感じることができた。

 多くの中国人にとって、このブームは知っているようである。20余年前、人びとを感動させるルポ「ゴールドバッハの問題」が発表されて、「陳景潤」という名前は中国でだれもが知るようになった。当時、この数学者が病気に苦しまれながらも世界の難題を研究する精神に心を打たれ、少しもためらわずに数学研究を自分の生涯の職業に選んだ若い人が少なくなかった。今回の会議組織委員会秘書長、中国科学院計算数学研究所所長の袁亜湘氏はその中の1人である。氏は「数学ブーム」が中国で2回も盛り上がったのは絶対に偶然なことではないと見ている。

 国内外の多くの権威筋も、数学は中国の科学界が世界一流のレベルに最も近づいている分野の1つであると見ている。ノーベル賞受賞者の楊振寧氏はかつて、中国で最初のノーベル賞クラスの成果を上げる分野が数学である可能性は非常に高いと予言したことがある。

 1998815日、激しい競争を経て、中国は99票の多数で今年の第24回国際数学者会議の主催権を獲得した。1897年から開催し始めたこの会議は早くから世界の最高レベルの数学科学会議となり、国際数学界の「オリンピック」とたたえられている。ほかならぬそのために、多くの国はそれを主催できることを光栄と考えている。呉文俊氏は、主催国がその数学発展のレベルを代表するばかりでなく、同国の国際的地位と総合的国力をも代表すると見られていると指摘した。

 20世紀の初め、中国の数学者は世界先進レベルを学び、それに追いつき追い越す困難にみちた努力を始めた。80年代に入ってから、中国の数学はなおさら空前の発展をとげた。現在、中国はすでにわりに整った現代数学教育と科学研究体制を構築し、中国科学院と中国工程院のアカデミー会員を核心とし、千人にのぼる数学者を中堅とし、一万人以上の数学関係者が参加する隊列をつくり上げ、多くの研究成果をあげた。

 中国の数学者は数論、代数、幾何、トポロジー、関数論、確率論、数理統計、数学史などの伝統的な学科で絶えず新しい成果をあげているほか、また微分方程式、計算方法、オペレーションズ・リサーチ、数理論理と数学基礎などの分野でも突破するところがあり、「ゴールドバッハの問題」の研究で際立った成果をあげ、関数論、確率応用、オペレーションズ・リサーチ、最適選出法などの面においても一定の独創的な見解がある。

 袁亜湘氏は、中国の数学は史上最良の発展時期にあり、「中国の学者が国外で出版した数学の専門書だけでも、その総数は現在すでに200種を上回った」と見ている。

 この会議では、中国科学院、北京大学からまた10余人の中国大陸部の数学者は招きに応えてそれぞれ45分間の講演を行った。同時に8人の大陸部から海外に赴いた数学者と2人の中国系の数学者はそれぞれ1時間に及ぶ大会報告あるいは45分間の報告を行った。この2つの報告は一般には最近の数学科学の最も重大な成果と進展を代表して高度に重視されていると見られている。しかし、1949年の新中国成立前から1994年までの間に、中国がこれまでの数学者会議で45分間の講演を行ったものは6人しかなかった。著名な数学史専門家の張宙華東師範大学教授はこれらの数字の変化を非常に重視し、「このような上昇の勢いを維持しさえすれば、わが国は数学の大国となることができる」と語った。

 中国科学院数学・系統科学研究院の鞏馥洲研究員によると、中国の数学レベルはすでにアメリカ、フランス、イギリス、日本などの数学大国に近づいており、これも個別の分野ではなく、全体のレベルが近づいているのであり、現在国際一流のレベルにある学者は450人いる。

 しかし、中国は「数学大国」の目標とまだ大きな距離がある。今回、4年に1回授賞する国際数学大賞の「フィールズ賞」がフランスとロシアの数学者に持って行かれたことはその最もよい証明である。会議組織委員会の馬志明主席によると、2人の中国数学者がフィールズ賞審査委員会に評定参加を申請したが、残念ながら、選ばれなかった。

 「中国の大家レベルの数学者はやはり少なすぎ、世界に対する影響も大きくない」、フィールズ賞を受賞した唯一の中国系学者である丘成桐氏はこう語った。

 中国では、「ゴールドバッハの問題」はほとんどだれもがよく知っている。数学王国では、それは多くの問題の中の一つにすぎず、これらの「問題」はほとんど外国人が出したものである。

 呉文俊氏は、「われわれの独創したものが足りない」とはっきり言った。氏は例を挙げて、計算数学に従事する馮康氏が世界公認の創始的な成果をあげたが、「馮氏のこのような創造は、ひとつ、ふたつだけでなく、もっと多くあってこそはじめて世界の数学大国と称することができるのである」と語った。

 多くの数学者は中国の創始的な成果が少ない状況に言及した際、現在の中国の数学研究は追跡を主とし、創始の勇気と胆力、見識に欠けていると指摘した。数学大国を建設するには、一つは人材に頼り、もう一つは創始的な成果に頼るので、追跡から超越までの戦略的部署がなければならないと語った。

 そのほか、ここ数年中国の中高生が国際「数学オリンピック」などの競技に参加して獲得した金メダルの総数がしばしば首位を占めているが、専門家たちは中国数学の未来の希望を見てとって喜びを覚えると同時に、競技のためにむりやり強化訓練を行うのを心配している。これは実際には子供に数学を好きにさせそれを研究させることに逆行するものである。

 この数学会議名誉主席の陳省身氏は今回の「少年数学フォーラム」で子供たちのために「数学は面白い」という題字を書き記したが、しかし、数学の楽しみと魅力を感じない中国の生徒は大勢いる。

 中国科学院数学・系統科学院の楊楽院長は、これには教材の内容が多すぎ、繁雑過ぎ、教師のレベルがまちまちで、教え方が柔軟性を欠いており、大学入試の指揮棒に振り回されすぎるという原因がある」と語った。

 「われわれの数学教育は改革しなければならない」。北京師範大学の劉兼教授によると、現在、中学校と小学校の新しい数学課程の基準がすでに制定され、「繁雑で」、「難しい」内容を適当に削除した。新しい教材はできるだけ生徒の生活の実際を結び付けて、彼らの数学を学ぶ興味を引き出すようにしている。

 伝えられるところによると、大学の数学教育改革も関心を集め、討論されているという。

 中国政府の数学に対する資金援助から言って、数学研究経費の70%は国家自然科学基金委員会から来ている。その委員会主任の陳佳?氏は「われわれは全力あげて中国数学の発展を支持する」と一再ならず表明した。

 この基金委員会の王乃彦副主任によると、彼らは前後して多種の基金を設立して数学者たちのためによいハードウエアの設備と研究環境を提供し、特に前途有望な優れた青年と海外学者の協力研究プロジェクトを支持している。しかも、これらの基金は国の経済発展に伴って絶えず増え、1988年は100万元だったものが今年は3500万元に増えた。

 王乃彦副主任は、基金委員会はより多くの資金を獲得して数学研究を支持し、同時に大きな力を入れてさまざまな数学普及活動を組織して、より多くの人に数学を理解させ、熱愛させる。その中で生徒の数学サマーキャンプと講習会が非常に重要であり、その時には著名な数学者を招いて、子供たちのために講義させ、子供たちに数学に対する全面的な認識と興味を持たせるようにすると語った。