長期にわたる戦略的任務

中国国際問題研究所 王和興

 持続可能な発展は経済発展戦略の根本的転換であり、人類文明が新しい歴史的段階に入る標識でもある。

 国連の持続可能な発展サミットは200294日、南アフリカのヨハネスブルグで閉幕した。「地球を救うには、行動が大事だ」を旨とする持続可能な発展サミットは、今世紀における規模最大、等級最高の国際会議である。192カ国、104人の国家元首と政府首脳、17000人の代表が同会議に出席した。今度の会議では1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連の環境と発展会議のあと、世界各国の首脳と関係者が再び集まって、10年来の持続可能な発展の進展を検討し、今後の世界発展のタイムテーブルをつくった。

 会議が開催される前に、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、世界自然基金会など多くの国際機構と非政府組織が続々と研究レポートを発表し、現在の世界の天然資源の開発方式が長期にわたる地球環境保護に不利であると指摘し、各国の指導者が子孫のことを考え、世界の天然資源を開発する面で持続可能な発展に努力するよう呼びかけている。  

 生態系環境は人類が生存する空間であり、経済発展の物質的基礎でもある。しかし、長年来、西側諸国の工業化の進展、発展途上国の貧困化の激化によって、地球の生態系環境が絶えず悪化している。人類の生存空間および経済発展の頼りになる四大生物系統――森林、海洋、草原、耕地がひどく破壊されている。

 国連と関係機構の統計データは驚くべきものである。森林は現在毎年1400万ヘクタールのスピードで消失しており、2020年の世界森林面積の陸地面積に占める割合が現在の六分の一から七分の一に下がり、そのまま発展させていけば、170年後に世界の森林がすっかりなくなってしまうと予測されている。

 世界に約20億ヘクタールの土地(農業用地の三分の二を占める)が侵食されているかまたは退化し、毎年500万ないし700万ヘクタールのスピードで減っている。干ばつと過度の開墾によって、世界の100余カ国(約三分の一の陸地と85000万の人口)が砂漠化の脅威に直面している。80カ国(世界人口の40%を占める)は淡水資源が不足しており、そのような国は2010年にはさらに8カ国増える。30年内に世界人口の55%以上が水不足に直面する。現在、世界で11億人が安全で清潔な飲料水が不足し、毎年水と関係ある疾病が300余万人の命を奪っている。

 大量の汚染物が海洋に投棄され(世界が毎年海洋に投棄する廃棄物は数十億トンに達する)、沿海の河口、港湾の汚染がひどくなり、近海の汚染範囲が拡大され、一部の著名な漁場で漁期ができなくなった。20世紀の560年代に工業先進国の沿岸水域でしか発生しなかった赤潮は、いまではグローバルな海洋環境危害となっている。現在世界の12%の鳥類と四分の一の哺乳動物が絶滅に瀕し、過度の捕獲で三分の一の魚類資源が枯渇した。国連の予測によると、今後230年内に25%の種が絶滅するおそれがあり、そのうち、熱帯森林生物は今後30年内に510%が消失する可能性がある。

 そのほか、温室効果、オゾン層破壊、酸性雨、化学汚染が日増しに深刻になっている。気候温暖化の原因はまちまちであるが、その中の最も重要な原因は二酸化炭素などの温室気体が大幅に増加したことである。予測によると、21世紀に空気の中の「温室気体」の濃度が引き続き増加し、気温が引き続き暖かくなり、そのスピードが過去1万年のいかなる時期をも上回るものである。世界気候の引き続き温暖化にともなって、干ばつ、洪水、飢饉、急性伝染病などが21世紀の人類に対する重大な脅威になるであろう。

 貧困軽減は生態系環境の持続性を守る前提条件である。ムベキ南アフリカ大統領は開幕式で「大多数の者が貧しく少数の者が豊かで、富が高度に集中する社会は持続可能な発展を実現できない」と述べた。

 現在、世界の一人当たり国内総生産GDP(購買力の公定価格で計算する)は6490ドルであるが、そのうち高所得国は24430ドルで、サハラ以南諸国はわずか1450ドルである。国連、世界銀行などの国際機構は南北の格差の縮小を21世紀の最大のチャレンジとしている。2000年に国連が公表した「2000年宣言」は、2015年に貧困人口を半減する目標を達成するよう要求している。

 発展途上国の環境悪化の根源は貧困にあり、貧困によって人々が天然資源を乱用している。例えば、多くの発展途上国は燃料、食糧、住宅などの焦眉の急を解決するため、往々にしてほしいままに森林を伐採する。森林の壊滅は生態のバランスを破壊し、水土流失など一連の問題をもたらし、農業の発展を妨げ、飢餓状況を激化させている。

 発展途上国の貧困人口の約半数は環境が破壊しやすい農村地区に住んでいる。これらの人は生態系環境を破壊する責任者であるが、環境破壊の被害者でもある。土地を切に求める農民たちは険しく、侵食されやすい傾斜地、土壌が退化した半干ばつの土地、熱帯の森林地区など耕作に適しない土地を開墾している。発展途上国の狭いスラム区に住んでいる住民は、安全で清潔な飲用水とバスルームやトイレットなど設備がなく、その上洪水や地滑りに脅されているだけでなく、工業事故や工業排出による空気汚染の危害をも受けている。

 持続可能な発展は新しい発展観で、単に経済成長を求める「工業化発展観」を否定するものである。持続可能な発展についての理論によれば、世界の資源、特に再生できない資源は限られるもので、一旦グローバルな資源不足が現れると、各国の経済発展を遅らせる。経済発展と環境保護は互いにつながって、不可分のものであり、二者は互いに補完しあい、互いに因果をなしている。発展を放棄すれば、持続的発展がない。ひたすら発展させるだけで持続性を考慮しなければ、長期にわたる発展は基礎を失うことになる。

 実践が証明しているように、今後発展途上国は先進国の生産と消費のモデルをまねることができず、またそうすべきでもない。経済成長は社会発展の基礎であるが、成長は必ずしも発展するとは限らず、ひいては思いもよらない結果を招くことすらある。国連のレポートによれば、発展途上国は先進国の発展モデルをそのまま実行するなら、現在の固形燃料の10倍と鉱物資源の約200倍を必要とする。大量の資源を消耗する在来の工業発展モデルの代わりに、長期にわたって資源を節約し環境の質を保証する新しい工業発展モデルを実行しなければならない。持続可能な発展は新しい発展モデルとして、現在世界の大多数の国に広く認められている。これは経済発展戦略の根本的転換であり、人類文明が新しい歴史的段階入る標識でもある。

 持続可能な発展という考えは経済、社会、環境、生態系の内在的つながりに合致している。これは一方的に経済成長を強調する伝統的な戦略、社会、経済の各方面のバランスのとれた発展をおろそかにするやり方と鮮やかなコントラストをなしている。しかし、多くの国はまだ持続可能な発展の意義を十分に認識しておらず、そのとっている措置も役に立たないものである。そのため、今後新しい経済、社会の発展戦略を制定する時、持続可能な発展を際立った重要な内容とすることは、依然として大多数の国が直面している差し迫った、非常に困難な任務である。