中国は新たな製造中心となるか

 欒 頡

 つい最近、IBMアジア地域副総裁は「東莞・深せん(土へんに川)間の高速道路が渋滞すれば、世界のコンピューター製品に70%の品不足を来すだろう」と感無量に語った。

 この話は決して誇張してはいない。現在、広東省の東莞・深せん間の産業回廊には、世界の90%以上のコンピューター産業界の大手企業が集中しており、東莞だけでも各国と各地域からきたコンピューター諮問企業が2800余社もあり、世界企業ベスト500の中の28社が東莞に進出し、東莞のコンピューター部品補給率はほどんと100%に達している。東莞はすでに世界最大のIT制造業拠点の一つとなっており、その製品は世界市場でかなりのシェアを占めている。

 国際企業界は、中国が新たな世界製造業センターになる可能性があるといういま現実になりつつある事実に言及する人が増えている。

 アナリストによると、当面、アメリカを代表とする世界経済の大調整の全般的な趨勢として、先進国はより先端な産業チェーンへに移転し、製造業中心は発展途上国に移転している。

 このような大調整において、中国が13億の人口を擁する巨大な市場と安価の土地、エネルギー、優れた労働力など製造業の強みをもつ条件で、世界製造業中心となるのは必然的な選択であるかまたは必然的に選ばれるものである。

 中国の製造業の規模は相当なところにまで達している。現在、中国の工業発展の中に占める製造業の割合は60%以上に達し、中国のGDPに占めるその工業生産額の比率は20%以上に達している。

 中国はすでに世界の製造業大国になったが、まだ強国ではない。WTO加盟後、中国の製造業は国際市場の競争に参与するだけでなく、外国経済の進出でもたらされるきわめて大きな衝撃にも直面するだろう。

 製造業は経済の土台

 国家経済貿易委員会総合司の李寿生副司長は次のように見ている。世界経済発展の勢いは、製造業が一国の経済発展の土台であり、国の競争力の基礎でもあることを示している。20世紀に、ほかならぬ製造業がアメリカ、日本とヨーロッパに巨大な経済発展と市場繁栄をもたらした。中国は発展途上の大国で、工業化の全過程において、自らの強大な製造業がなくではならない。

 中国社会科学院工業経済研究所の呂政所長は、中国の製造業を発展させるための有利な条件にふれて、次のように語った。

 労働力はコストが低く、資質が高い。現在、中国では毎年約100万人の理工学部の大卒生が国内で就職し、その上数十年来、生産面でトレーニングを受け、必要な労働技能を身につけた大勢の産業労働者がおり、これらの人は世界で人数が最も多く、資質が最も高い労働力群体を形成している。

 工業インフラは工業発展の必要を保証することができる。20世紀90年代中期、中国の通信、電力、交通運輸、建築工事の供給能力がすでに工業発展の必要に完全に適応するようになり、経済発展のボトルネックを克服した。

 工業自体のセット化能力がかなり強い。少数の産業を除き、圧倒的多数の工業製造業が必要とするエネルギー、原材料、加工設備、部品と電子部品は国内で解決することができる。これは生産、買付、セット化のコストを低下させ、製品に市場競争の強みをもたらせるのに大いに役立つ。

 経済運行方式の転換に従って、国内産業の競争の枠組みが形成され、経済は活力に満ちあふれている。国内市場が大きく、スケール経済の形成に有利である。

 呂政氏は、単に優位の点から見れば、貿易自由化と資源配置グローバル化の背景の下で、中国で大多数の工業製品を製造するのは経済法則に合致している。競争戦略全体から考慮すれば、世界の製造業中心となることも中国の経済発展の戦略的趨勢となるべきである。

多国籍企業、生産拠点を移転

 20016月末、フィリップス電子グループと中国電子情報産業グループは北京とアムステルダムで、フィリップスの携帯電話の生産力をすべて中国深センの合弁企業フィリップス桑達に移転することを明らかにした。これはフィリップス社がその携帯電話を完全に中国で生産することを意味する。モトローラ、ノキア、シーメンスなど有名な携帯電話メーカーも次々と中国での携帯電話製造工場の規模を拡大している。例えば、シーメンス社は上海にある工場の携帯電話年産量を現在の1000万台から2002年の1400万台へと40%増加する考えてある。上海シーメンス移動通信公司はシーメンス社のドイツ以外の唯一の携帯電話生産拠点となり、シーメンス社のアジア・太平洋地域における生産センターである。このほか、エリクソン社の携帯電話生産の対外請負の発注書の大部分を手に入れた世界第2の大手電子製造サービス企業の偉創力は、2年以内に大量の携帯電話製造業務を中国へ移し、広東省珠海にその主な携帯電話生産拠点をつくり、上海、北京、南京などに投資して工場を建設し、製品を世界各地に出荷すると発表した。偉創力の中国での携帯電話生産能力は今後毎年1億台までに伸びる可能性があると予想されている。

 こうした中国を目的地とする生産拠点の大移転は家電業界でもブームとなっている。

 松下電器は米ケンタッキー州での電子レンジ生産をやめ、その生産拠点を上海に集中させた。東芝は日本国内でブラウン管テレビの生産をやめ、デジタルテレビを含めてテレビ生産ラインをすべて中国に移すことを明らかにした。これで、日本の主だったカラーテレビメーカーである松下電器、東芝、三洋電機、三菱電機の四社は、主なカラーテレビ生産拠点を中国に移し、しかも生産する製品はすべて日本最新型のビック・スクリーン平面ブラウン管カラーテレビである。

 日本経済新聞社と日本経済研究所が20017月下旬、東京証券市場で上場した1143社の企業を対象として行った調査の結果は、日本製造業の49.1%の企業が今後3年内に海外での生産比例を引き上げる予定であるが、そのうち、70%の企業は中国を主な目的地とすることを顕示している。

 多国籍企業は次々とその製造拠点を中国に移すが、製造コストが無視できない原因の一つである。

 上海松下電子レンジ公司の総経理は「中国で生産せず、コストを下げなければ、松下というブランドが中国の電子レンジ市場から消え失せる可能性大きい」と語った。  

 日本経済産業省は20009月から11月にかけて、152種の工業製品、33種の産業サービスを対象として、7つの国と地域の価格を比べた結果、日本の価格はドイツの2.08倍、韓国、中国台湾地区、香港地区、シンガポールの2.293.83倍であった。中国大陸部と比べて、工業製品の価格は中国の2.49倍、産業サービスは8.44倍で、開きがとても大きなものであった。

エリクソン社のある責任者によると、いかなる多国籍通信企業も、資質がよく、優れた技能を身につけた労働力と世界一の移動大国の市場空間という二つの重要な条件から、中国を自社の最良の生産拠点と見なすだろう。

 先進国の今回の産業調整は戦術段階から戦略段階に入っている。外国ブランドの生産ラインを中国に移すのは、将来の世界市場において中国の製品と競争するために準備を整えるもので、ある意義から言えば、外国ブランドのこの挙動は実際には側面から中国の製品を狙い撃ちしているのであるとあるアナリストは指摘した。

 しかし、積極的意義から多国籍企業のこの挙動を評価する学者もいる。

 中国社会科学院日本研究所の馮昭奎研究員は次のように見ている。多国籍企業が大挙中国に移転して、中国で珠江デルタと長江デルタなどグローバルな生産拠点が形成された。これのため、中国の輸出製品構成に質的変化が生じ、一次製品を主とすることから工業完成品を主とすることに変わり、同時に中国が世界各国から先進技術と管理経験を導入するのにもきわめて有利である。

世界工場

 日本電子業界の先導企業ソニー社は1998年から、日本市場で売り出してからまもない「織女」シリーズ平面ブラウン管カラーテレビを上海で生産しはじめた。大きな工場の中で、25型以上のビック・スクリーンカラーテレビのブラウン管生産から組み立てに至るまでの作業を一気してなしとげる情景が見られる。これらの製品の80%は日本に輸出される。ソニー社は短い期間に、2000人の従業員を雇い、年産100万台の規模をもつカラーテレビ工場を建てた。ソニー駐中国首席代表の正田氏は「中国だから、短い期間にこれだけ優れた人材を集めることができるのだ。ほかの国では不可能のことだ」と語った。

 日本の各大手家電業界は次々と中国で工場を建てた。ビデオコーダーは主に東芝の工場が生産し、CDとウォークマンは主に三洋電機とシャープの工場が生産し、DVDは主に三洋電機の工場が生産している。話によると、日本の市場ではDVDがあまり見かけず、あっても値段がかなり高いという。そのため、これらのものを買って日本に持ち帰る日本人が大勢いる。そのほか、電子レンジは主に松下電器、三洋電機の工場が生産し、エアコンは主にシャープの工場が生産し、複写機は主にシャープとミノルタの工場が生産している。

 2001年に日本通産省が発表した白書では、中国がすでに「世界の工場」となったことに初めて言及した。

 国連貿易開発会議(UNCTAD)が公表した「2001年世界投資レポート」の調査データは、米『フォーチュー』誌に選ばれた企業ベスト500の中の約400社が中国で2000余件のプロジェクトに投資したことを顕示している。世界のコンピューター、電子製品、電信設備、石油化学工業などのモ最も主要なメーカーは、その生産ネットワークを中国にまで広げている。中国はすでに8年連続して、世界で外国の直接投資の最も多い発展途上国となり、中国に投入される外資は年平均400億ドルを超えている。

 この世界工場で生産された製品は絶え間なく世界各地に出荷されている。データによると、IT製品だけでも、現在、中国の電話機、カラーテレビ、ビデオ・ディスク機、拡声器、テープ・レコーダー、電子レンジ、磁気ヘッド、磁性素材、フロッピィーディスク、アルミニウム電解蓄電器、圧電気石英結晶体部品などの生産量は世界の第1位にランクされている。そのうち、テープ・レコーダー、電話機、拡声器、磁気ヘッドなどは世界総量の40%以上を占め、輸出量は世界最大である。コンピューターのメインボード、CD−ROMドライバー、ハードディスク・ドライバー、ディスプレイ、プリンター、プログラム自動交換機、プリント電気回路板、高周波同軸ケーブル、円柱式カドミウムニッケルバッテリー、電気冷蔵庫、洗濯機、家庭用エアコン、カラーブラウン管なども上位にランクされている。

 中山大学の管理学部教授呉能全氏は、中国は科学技術の開発と教育を受ける水準などの面で、先進国とまだ大きな開きがあることを認めざるを得ないが、豊富にある安価な労働力は中国が強みをもっていることを決定づけている。製造業のプロセスは互いにつながった価値チェーンで、研究・開発、設計、買付、生産、在庫、セールスから運送に至るまではいずれも欠いてはならない環であり、いかなる企業もいかなる国も価値チェーンの各環で世界で最大の競争力をもつのは不可能であるが、中国は生産の面で疑いなく世界で最大の競争力をもっており、そのため、「中国製造」は速やかに「日米製造」に取って代わって、新世紀の製造業の代名詞となるだろう。これは中国が世界の経済強国になるための最初の踏み板でもある。

 中国企業は「世界の生産工場」を設立するには、外国の技術と設備を全面的にマスターすべきで、ある環が短期間によい経済効果をあげ、投資コストが低いと見て、それを盲目的に導入し、長期の経済効果がよく、投資規模が大きな中核技術の価値チェーンを捨ててはならない。

OEM 

 OEM(Origin EntrustedManufacture)――原産地委託加工は、ここ数年に、急速に発展してきた国際貿易の形式であり、国際市場でとても流行し、効果をあげている生産方式である。

 世界最大の電子レンジメーカーである格蘭仕は中国家電のOEMブームの典型的な代表である。年間に電子レンジを1500万台生産するこの小型家電メーカーは、毎年、60%の製品がいろいろの世界的に有名な電子レンジのブランドを貼られ、「格蘭仕」というブランドを使っている製品は40%しかない。

 このような現象は中国でどこでも見られ、広東省順徳市にはエアコンメーカーが40社余りあるが、そのうち、本当に全国的に有名な企業は指折り数えるほどわずかで、残りのほとんどは内外のブランド品の生産を手伝っているだけである。

 業界では、これに憂慮と不安を覚え、「手伝い」をするなら、肝心な技術をマスターして、中国の世界ブランド品を作り出すのは難しいと見る人が少なからずいる。このほか、外資のブランド品は委託加工を通じて、中国の原材料生産企業をコントロールし、中国の完成品製造企業のルートを断ち切って、もともとからブランド品の影響力をもっていない中国企業の製品市場を徐々に萎縮させることができる。

 しかし、格蘭仕の兪尭昌副総経理は次のように見ている。中国の家電業振興はスローガンを叫び、概念をもてあそぶことに頼るのではなく、多国籍企業の産業移転の機会をとらえて、速やかに大がかり、徹底的に自社の製品を生産すべきであり、これこそ実務的なやり方である。格蘭仕は次元のより高いOEMに向かう路線を進んでいる。

 ここ数年来、格蘭仕は多国籍企業の最も先進的な生産ラインを移してきて、日本の電子レンジの中核技術を完全に買いとり、毎年、技術開発に2億余元を投じている。

 ある専門家は、将来の数年間に、中国大陸部は世界のOEM生産拠点となり、2005年になれば、世界のOEM市場から1兆ないし3兆ドルの業務を獲得することができ、とくに中国のWTO加盟後、世界の3分の1OEM業務が中国に移される可能性があると予言した。

 またある専門家は次のように語った。世界経済大戦の角度から見れば、われわれは改めてOEMが中国企業にもたらす機会をじっくり見守ることができる。一方では、これは国内の既存の生産ラインと労働力資源を十分に動かし、企業の短期利益の必要を満たすことができ、他方では、企業はOEMを通じて、外国の経験、技術、管理を学び、自分のブランド品作りのために時間をかせいで、企業の長期利益をサポートすることもできる。それと同時に、国内企業の間ではOEMの運用を通じて、ブランド品の資源再編を加速することができる。

世界の買付センター

 2001年に行われた調査で、約76%の国際買い手は中国を真っ先に選ぶ買付拠点としていることが判明した。中国は徐々に多国籍企業の買付センターとなっている。

 世界最大の小売企業であるウォルーマト社の説明によると、同社は中国における買付費用は100億ドルを上回り、そのうち、中国から直接買い付けて、米国に輸出した商品総額は30余億ドルに達した。つい最近、ウォルーマト社の世界買付本部は香港から深センに移った。

 もう一社の世界的な大手小売企業のカルフールも中国で世界買付センターを設立することを計画している。伝えられるところによると、現在、カルフールの中国で買い付けた商品は同社のアジアでの買い付け量の58%を占めている。中国の供給業者の商品はカルフールの買付システムを通じて、20カ国の数千軒の店に輸出され、昨年だけでも、中国から輸出された商品は3億ドルに達した。カルフールは、2003年までに、中国商品の買付量が現在の2倍に増やすことを目指している。カルフールの世界買付部門の高級支配人は、中国商品が世界各地のカルフールの顧客に喜ばれているため、条件が同等でさえすれば、中国から商品を優先的に仕入れるとはっきり語った。

 2001年、中国製のカラーテレビはアメリカ市場でよい売れ行きを見せた。アメリカ最大の区域の小売業者であるAmes社の今年14日の統計データは、2001年のクリスマスまでに、中国製カラーテレビのアメリカ市場における販売状況がわずか日本に次ぐだけで、中国のトップのブランド品である海爾カラーテレビの発注量は30万台を突破したことを示している。同時に発表されたアメリカ最大のアフターサービス・チェーン会社であるVAC社の調査データによると、海爾カラーテレビの昨年1月から9月までの修理率は累計0.055%で、アメリカ同業界の3%の平均値と比べて、ほぼ60倍の差がある。