海外の投資家に「ダメ」と言ってはならない

 ――北京は今、海外の投資家やビジネスマン向けに高効率なサービスを専門に提供する総合システムの確立に努めているところだ。

唐元かい

 「ある同業者が私に言ったことがある。海外企業が北京に投資するには、公印を揃えるため奔走する用意をしっかりしておくことだと。だが、これが今では“過去形”であることを、私は発見した」

 米国のビジネスマン、エリン・スウィナートン氏は、最近の北京での経験について、「北京市海外企業投資サービスセンター」に一度足を運んだだけで、認可手続きはすべて“OK”だったと話す。2時間以内で手続きが終わった企業もあるが、仏企業のローレント・タレード総裁には信じられないようだ。

 彼らは職員の態度に強い印象を持つ。「中国人は“いいですよ”と口にするようになり、“ダメ”とは言わなくなった」。

 認可手続きとサービスの効率が、北京にいる海外のビジネスマンにとって最も頭の痛い問題になっていた。こうしたことから、北京市政府は今年、投資プロジェクトを円滑に進めるための専門機関、海外企業投資サービスセンターを設立。域内の投資環境政策に関する相談や投資パートナーの紹介、企業設立申請書類の準備、認可手続きや各種変更手続きの代行などを行う。

 同センターの孫長泰主任によると、投資に関する相談、投資プロジェクトや協力パートナーの紹介、プロジェクトの立案やフィジビリティー・スタディーの認可手続き、契約や規約の認可手続き、登録・登記手続きの代行、クレームの受理と処理、商談室の提供などはいずれも無料だ。

 「自動車がゴールに向かう場合、速く着かせるには2つ方法がある。1つは距離を短縮すること、いま1つは加速することだ。投資のソフト面の環境を改善するため、北京市政府は今この両面から作業を行っている。距離の短縮とは、認可手続きの簡素化、加速は効率を高めることだ」。北京市対外経済貿易委員会の陳剛副主任は、センター設立の作用をこう形容した。

 設立以後、投資関連政策について相談に訪れる海外企業は後を絶たないという。今年17月までの相談件数は延べ9978件にのぼる。

 北京市は「電子業務」も開設したが、多くの外国人には意外だったようだ。北京の生活が10年になる米企業のジョージ・マーティン代表は「効率は管理レベルの高低を測る物差しだ。先進国でさえ、ようやく普及したばかりの電子業務を、北京がほぼ同時に進めるとは。その速さには実に驚かされる」と話す。

 ネットによる認可手続きは、対外経済貿易委員会や計画委員会、企画委員会、工商局、地方税局など15の省庁で試験的に行われている。対外経済貿易委員会が既に受理した申請件数は25件。加工貿易契約の場合、その日のうちに認可されるという。

 北京市対外経済貿易委員会のホール。長年にわたる厳しい保安体制を改めた受付けカウンターには現在、サービス管理部の幹部が並び、タッチ式の紹介パネルも設置されている。プロジェクトを認可・審査する部署は大半を1階または2階に配置。統一的に製作された80枚のプレートには各部署の責任、事務手順、審査期限などが明示されている。同委員会では8つの面で電子業務を試験的に実施。その内容が公表されているので、企業職員が足を運ぶ回数は最低ラインまで減少した。外資部門では各職員に、海外企業の投資プロジェクトに対し“ダメ”と言ってはならない、と釘を打った。

 北京市海淀区対外経済委員会の趙金生主任は「様々な状況を見ると、海外の投資企業に高効率のサービスを専門に提供する総合システムは順調に運営されている」と評価する。

もちろん、総合サービス・システムは投資関連に限らない。入国や子女の入学手続き、お手伝いさんの紹介、保険、診療などのサービスも行っている。北京市海外企業投資サービスセンターでは「総じて言えば、良い投資環境と多くの支援を提供することで、外国人の生活や仕事の環境はより快適、便利になった」と評価している。

 北京市は今後、外国人用マンションや国際学校、医療機関、大規模な娯楽・ショッピング施設の建設を速めていく計画だ。

 北京市計画委員会の黄艶介副主任によると、ほぼ設計を終えたビジネスセンター・ゾーンが5年以内に市内に完成する予定。第123大使館区を除けば、外資系企業の60%以上、ホテルの半数以上、数多くの国際交流の場がこのゾーンに集中し、オフィスビルが50%、マンション25%、ビジネス・サービス・カルチャー・エンターテイメント施設などが25%を占める北京で最も活力と現代感覚に溢れる地区となる。

このほか、海外企業が進出している「北京経済技術開発区」や「中関村科学技術団地」も、次第に経済と環境の調和が取れた「生態重視型の団地」になってきた。環境に対する管理を、従来の末端の整備から汚染防止のための全過程をコントロールする方向へと転換し、経済発展と都市建設、環境保護を同時歩調で進めたことから、北京で初めてIS01400環境管理システム認証を取得した。

 北京市対外経済貿易委員会の周河副主任によると、海外の投資家は今後、内国民待遇を享受できることになる。今年91日以降、北京市の商品住宅予約販売許可証と『商品住宅売買契約』から従来あった本国人と外国人の区別条項が削除され、北京在住者だけに販売していた住宅を外国人も購入できるようになった。

従来の制度は90年代半ばに開始。当時の規定では、住宅販売は一般向けと外国人向けに区分されていた。前者は国内資本が開発した住宅で、北京市の企業や組織、個人が対象。後者は一般に外資によって建設されたもので、海外の企業や組織、個人のほか、国内のその他の省・直轄市の企業・組織が購入。こうしたことから、外国人向け住宅は国内向けに比べ品質や豪華さで上回り、また価格も30%近く高かった。

 スペインのビジネスマン、ディーゴ・フロレスタン氏は「ここでビジネスをする外国企業が必要としているのは、平等に透明性、それに公開性だ。北京の新政策はそれを実現してくれた」と興奮を隠さない

北京市が公布した『外資系企業クレーム管理法』は、海外企業にとっては合法的権益を保障してくれる“お守り”だ。市センターがこれまでに処理したクレームは数百件を超し、政府と企業、社会による投資環境の監視システムがほぼ確立されたと専門家は評価する。

 北京市が新たに打ち出した『基本医療保険に関する規定』。この規定の一部に対しては、ネスレ(中国)有限公司など外資系企業26社から企業や職員の経済負担が重くなる、とのクレームが出されていた。市政府は具体的状況を把握したうえで、「外資系企業職員の前年の月平均賃金が本市職員の月平均賃金を上回る部分については、基本医療保険の徴収保険料の基数に組み入れない」に合理的に調整、この規定変更は外資系企業職員に歓迎された。

 北京で仕事をする外国人からは、生活面でも世界のその他の都市と同様、「不便さはなくなった」との声が聞かれる。

 だが、「文化的差異」に戸惑いを感じているのも事実だ。それでも多くの外国人は「“カルチャー・ショック”が生活や交渉に致命的打撃を与えることはない。グローバル化の進展で、各国間の文化の溝が大幅に縮小されたからだ」と指摘する。この数年、外国人は中国人と交流するなかで、いかに文化的差異がもたらす煩わしさに対処するかを学んできた。こんな例がある。ある外資系企業の社長は、もう安易には中国人に時計を贈らないと話す。時計の発音は「埋葬」を意味するからだ。またある企業では、価格設定から250元は外しているという。「二百五」は北方地区では「愚直」を意味している。

 当然、海外企業は投資環境を以前より重視するようになった。シーメンス(中国)有限公司の役員は、北京は世界で投資環境が最も魅力的な都市だと強調した。

 北京市政府は昨年、投資環境を鋭意改善するため、著名な調査会社に調査を依頼する一方、全市の外資系企業を対象に、政府機関や区・県の業務態度について点数を付けてもらうアンケート調査を実施した。

 調査会社の報告では、前年に比べ総体的に満足していると答えた企業は11.98%、4998社から回答のあったアンケート調査では、22の部署で応対の姿勢や事務効率などが向上したとの結果が出た。だが市政府はこれに満足せず、全市の関係する委員会や弁公庁、局、各区・県の54の省庁は、調査会社による調査とアンケート調査で明らかになった問題点を深く検討したうえで、公務員の資質の向上とサービス意識の強化をめざした教育を幅広く展開。その結果、「ハード面からソフト環境を改善」する新たな理念が広まった。

 市政府の関係部署や区・県はこれまでに、サービス意識の増強や行政手続きの簡素化、事務効率の向上、法に基づく行政の強化、より多くの利便性の提供など、投資環境をさらに改善するための具体的措置を100項目以上打ち出している。対外貿易経済合作委員会は認可手続きの期限を15日以内に短縮する、経済技術開発区はすべての行政関連費用の徴収を取り消す、工商局は全部署で実労働日数5日以内に許可証を発行する、財政局はネットによる登記手続きを実施する、首都空港の税関は24時間体制で業務にあたる、などがその例だ。

「彼らの熱心さには感激させられるが、一部細かな問題を解決してくれれば、もっと満足できるのだが……」。こう語るのは、英国企業のジョンソン・マシィー氏だ。外資導入に関する分厚い書類を手にしたマシィー氏は、「投資の回収予測などの面で科学的な説明がなされていないため、プロジェクト自体にどれほどのリスクがあるのか理解できない」と指摘した。

 米中全国貿易委員会北京事務所の代表は「数多くの中国企業が投資を模索しており、ワシントン本部や駐在事務所には毎週、23の代表団が訪れるが、投資環境の紹介や外資導入プロジェクト、優遇政策を除いては、財務や労働力、土地価格、資源の利用状況、投資の回収、計画建築要件、環境保護要件といった参考になる具体的かつ詳細なデータを持ってくる企業はむしろ少ない。必要な資料を提供してくれれば、状況は完全に変わるだろう」と指摘している。