相対的に安定した大局・過小評価できない相違

 長い眼で見れば、中米関係の長期安定を楽観視できるのは確かだ。

郭震遠(中国国際問題研究所研究員)

 「9・11」事件が起きてこの1年来、中米関係の大局は相対的に安定し、昨年上半期に関係が深刻になったのとはかなり対照的である。ブッシュ米大統領と江沢民主席は事件後、4カ月余りの間に2回会談を行った。その後、中米は反テロを中心に多方面で極めて実効性のある協力を進め、1度中断した軍事交流も再開され、胡錦濤副主席の訪米も重要な成果を収めた。今年8月3日、台湾の陳水扁市は「1辺1国」論を打ち出したが、米政府は「1つの中国」政策を堅持し、「台湾独立」を支持しないことを何度も重ねて表明している。これらは、中米関係の大局が相対的に安定していることを示すものだ。

 中米国交樹立20年余来、中国の対米政策が一貫して非常に安定している一方で、米国の対中政策が揺れ動くたびに、中米関係に幾度となく軋轢が生じた。過去2年間にわたる軋轢は、中国を牽制しようとするブッシュ政権にとって対中政策の要と言えるものだった。選挙期間中、ブッシュ氏と腹心の幕僚たちは何度も、中国は米国の「戦略的パートナー」ではなく、「戦略的競争相手」だと称してきた。つまり、中国の台頭は新世紀において米国の脅威となり、中米間には経済貿易面を主体に共通の利益はあるが、重大な共通の利益は存在しないため、いわゆる「中国脅威」を重要な位置に据えることができる、という考えだ。

 「9・11」事件が起きたことで、ブッシュ政権は国際テロリズムを米国が新世紀に直面する最も重大な脅威であることを明確化にし、その活動の撲滅を米国の主要な安全戦略目標に位置づけた。こうした変化によって、中米間に重大な共通の利益が生まれたのである。中国は長年にわたり国際テロリズムの危害を深く受け、責任を担う大国として、一貫して様々な国際テロ活動に反対する姿勢を示してきた。米国にとって、中国とのこうした共通の利益は「中国脅威」に対する懸念を超えるものなのだ。

 反テロ活動の複雑さと長期化もまた、ブッシュ政権をして中米による反国際テロを重視させることになった。まさにこうした共通の利益により、中米関係の回復と改善は加速され、中米関係の大局が相対的に安定を維持する基盤が築かれたのである。明らかに、「9・11」後、ブッシュ政権は対中政策の重点を、牽制から反テロでの協力へと明確に調整した。

存在する相違

 「9・11」事件の発生から1年来、中米関係の大局は相対的に安定しているものの、いまだ過小評価できない相違が存在しており、しかも再び顕在化してきた。中米双方は反テロ問題で効果ある協力を展開してきたが、その基準や方法などで食い違いがあり、それは中米の価値観の相違を反映したものだと言える。米国防総省と議会は「中国脅威論」を振りまき続けており、国防総省が7月に発表した「中国の軍事情勢に関する評価報告」と8月に出した「国防報告」、また議会の米中安全関係委員会が7月に発表した報告でもそれは顕著だ。米国は台湾問題に手を挟み、台湾当局を支持する姿勢を堅持している。「2002財政年度補充資金拠出法案」にも台湾当局支持の内容が盛り込まれており、また米台関係、とくに軍事安全面での関係は拡大しつつある。こうした相違によって相対的に安定した中米関係の大局はまだ損なわれていないが、長期的に見れば、中米関係に与えるマイナスの影響は過小評価できない。

 世紀の変わり目に、米国では「中国脅威論」を強調する動きが見られ、政界や学界、軍事関係者は経済と軍事力の増強を誇大することで、中米間の社会政治制度やイデオロギー、文化・歴史的伝統の差異を際立たせ、中国は米国にとって脅威になる可能性があると振りまいた。「中国脅威論」は実際、中米間に数多くある相違の中でも核心的問題であり、その他の面での相違、人権や大量破壊兵器の拡散の問題、ひいては中米関係で最も敏感な台湾問題なども「中国脅威論」と重ね合わせて、この問題の一部となっている。事実が示すように、「9・11」事件後、「中国脅威論」に対する関心は依然としてブッシュ政権の対中政策における要の1つであり、中国に根強い不信感を示していることは当然、中米関係にマイナスとなる。

 上述した相違によって相対的に安定した中米関係の大局はまだ損なわれていないが、反テロという重要な共通の利益がそれを覆い隠しているのは明らかだ。だが、中米関係の大局は相対的安定を維持し、中米の反テロ協力は効を奏しているが、同時に、こうした相違は存在し続けているのみならず、同時に顕在化し、かなり長期的かつ深刻なものとなってきた。従って、それらが中米関係に及ぼすマイナスの影響は過小評価できない。

信頼の増強・問題の減少

 実際、中米間の差異や相違、共通の利益はいずれも従来から客観的に存在しているものであり、これらを正しく処理できるかどうかが信頼の増強、問題の減少のカギとなる。

 「9・11」事件の後、中米関係が改善された主因は、双方が反テロという重要な共通の利益を高度に重視するとともに、相手が不可欠な協力パートナーだと見なすと同時に、双方の相違に対して抑制、慎重な姿勢を取ったことで、相違の拡大と激化を回避することができたからだ。しかし、昨年上半期に明らかな軋轢が生じて以降、中米関係が依然として信頼を増強させる課題に直面していることを明確に認識する必要がある。米国には「中国脅威論」の影響がまだ根強くあり、中米間の相違、その主たる台湾問題は拡大し、激化して重大な問題に発展する可能性があり、これらは中米関係を破綻しかねない。

 しかし、長い眼で見れば、中米関係の長期安定を楽観視できるのは確かだ。21世紀に入ってより国際環境は複雑かつ多角的になっているため、中米間の従来からの共通の利益は存在し続け、また重要な共通の利益が出現するかも知れず、中米双方にとっては、こうした共通の利益を肯定・重視することが信頼を増強し、問題を減少させる上で最も有効な原動力となる。江沢民主席が今年10月に訪米して約1年ぶりに行うブッシュ大統領との3回目の会談は、21世紀における中米関係の円滑な発展に重要かつ積極的な影響を与えるだろう。今回の訪問は中米関係という大局の安定をさらに強固にし、中米間の信頼をさらに強めて、中米の友好協力の新たな発展を推進するものと予想される。