積極的な対話

ケリー米特使の平壌訪問はブッシュ政府が朝鮮を再び重視し始めたことを示している。

王文峰 (現代国際関係研究所アメリカ処)

 ブッシュ大統領の特使としてケリー国務次官補(東アジア・太平洋担当)は103日から5日まで平壌を訪問した。米朝高官による本格的対話はブッシュ氏の大統領就任後2年近く以来初めてのことであり、これによって、2年間中断された両国高官間の安全協議が再開した。  

 ケリー次官補の訪朝は7月に予定されていたが、6月末に朝鮮と韓国の間に海上交戦が発生したため延期された。ケリー次官補訪朝の前に、米朝両国の高官が接触したこともあり、7月末、バウエル米国務長官と白南舜朝鮮外相が非公式会談を行い、双方とも両国間の対話に前向きの姿勢を示した。

 ケリー次官補は訪朝期間に姜錫柱第1外務次官と金桂寛外務次官ら朝鮮外務省の高官と会談を行っただけでなく、朝鮮のナンバー2である朝鮮最高人民会議常任委員会の金永南委員長とも人目を引く会談を行った。2000年、オルブライト米前国務長官はクリントン大統領の特使として訪朝した時、金正日主席の接見を受けた。それと比べて、ケリー次官補はクラスが低く、それに今回両国が実質的突破をとげていないため、金永南氏と会見したことは今回の訪朝の人目につく挙動とも言える。日本と韓国のメディアは、金永南氏の顔出しは朝鮮側がケリー次官補の訪朝を重視し、朝鮮側がアメリカと関係改善を望んでいる姿勢を示したとしている。

会談で、ケリー次官補は朝鮮の大量破壊兵器、ミサイル開発と輸出、通常戦力配備の脅威および人権問題に対するアメリカの「強い懸念」を伝え、朝鮮側がこれらの問題について相応の措置をとるよう希望を表明した。報道によると、朝鮮が核問題で国際決議を遵守し、ミサイルの発射実験を2003年以降にまで停止するなどの議題について、双方はそれ以前に朝鮮と日本が合意した「朝日平壌宣言」を踏まえて、いっそう協議した。ケリー次官補の訪朝は双方の対話継続のために基礎を築いたもので、両国高官が公式対話の中で踏み出した第一歩であると見ることができる。

 米朝両国はこの時を選んで対話を回復したのにはそれぞれの考えがある。アメリカ側から見ては、最近、朝鮮が外交活動を活発に行い、対日関係と対欧関係で進展をとげ、それと同時に、朝鮮の指導者がすでに国内で経済改革を行うことを決め、しかも多くの措置を取っていることに留意している。アメリカは朝鮮の一連の変化を知り、その真実の意図をはっきりつかむことに焦り、朝鮮の将来の発展にある程度影響を及ぼすことを望んでいる。また、朝鮮が訪朝した小泉日本首相に大きく譲歩したため、アメリカも懸念する若干の問題について朝鮮の譲歩の可能性を打診したいのである。

 朝日関係が突破を見せると同時に、朝鮮半島の南北双方の関係もスムーズに発展している。先般、韓国と日本の指導者はともに強硬な対朝政策を変え、朝鮮との対話を再開するようアメリカを促した。これらはブッシュ政府に大きなプレッシャーを感じさせた。アメリカは東北アジア地域に現れた変化に対し、長く局外に身を置くことに甘んじず、韓日両国がアメリカの歩調に合わせてことを運ぶのを望んでいる。これもブッシュ政府が行動をとるいま一つの要因である。ケリー次官補は訪朝を終えた後、アメリカが今後米日韓「3者協調監督グループ」を通して韓日両国と対朝政策を協調すると述べた。アメリカが3国が対朝関係改善で歩調を保つことを望み、同時に朝鮮半島問題の主導権が他国に渡るのを防止する意図は明らかである。

 目下、反テロとイラク攻撃がアメリカの関心事となっており、対イラク戦争の配置はブッシュ政府の当面の最も重要な任務である。この背景の下で、アメリカは世界のその他の地域で問題が発生せず、大局が撹乱されないように情勢の安定の確保に取り組んでいる。ブッシュ大統領がこの時点でケリー次官補を朝鮮に派遣したことに、朝鮮を落ちつかせる意図があることははっきりしている。また、朝鮮との関係改善では、アメリカが外交面でひたすら強硬な態度をとるようなことがないことを国際社会に顕示することもでき、反テロと対イラク攻撃の問題で国際社会のより多くの支持を得ることにも役立てる。

朝鮮側から見れば、ブッシュ氏の大統領就任後の朝米関係の対立局面を変える面でも重要な意義がある。まず朝鮮側はアメリカの強硬な対朝鮮政策による大きなプレッシャーを緩めようとしている。ブッシュ氏は大統領就任後、クリントン政府の朝鮮と対話する政策を変え、高圧政策を実行しただけでなく、金大中韓国大統領の対朝鮮の「日光政策」にも反対している。今年初め、ブッシュ大統領は朝鮮をイラン、イラクとともに「悪の枢軸」と名指ししたため、アメリカの攻撃に対する朝鮮の懸念がさらに強くなった。朝鮮は2番目のイラクにならないように朝米関係を谷底から脱させるのを急いでいる。  

 朝日関係は最近突破的進展をとげたが、朝米関係が改善されず、アメリカの同意と支持を得られなければ、朝日関係もより大きく発展するのも難しいことを朝鮮側はよく知っている。というのも日本が東北アジアにおけるアメリカの最も重要な同盟国であり、どんな対朝政策をとるかは必ずアメリカの態度を考慮するに違いないため、朝米関係を緩和してのみはじめて朝日関係のさらなる改善のためにいっそう緩やかな国際環境を作り出せるからである。

朝鮮はいま経済改革を行っており、国際投資をより多く導入し、市場をいちだんと拡大しなければならないため、安定した外部環境が必要となっている。アメリカとの関係を安定させることは朝鮮の国際イメージを改善し、国際社会の信頼を得るのに有利なだけでなく、外資の導入にも有利である。

ケリー次官補の訪朝は両国高官の公式対話の門を大きく開いた。対話が今後の朝米関係の主な内容となると考えられる。これはケリー次官補の訪朝後に双方の伝えた情報からもはっきり見て取ることができる。ケリー次官補の訪朝で朝米両国は関心事について具体的な合意に達することができなかったが、ケリー次官補は訪朝が「率直で有益なものだ」と外界に述べた。朝鮮の政府関係のマスメディアも106日に、アメリカが敵対政策の放棄を望むなら、朝鮮は引き続きアメリカと対話し、安全面のアメリカの懸念を解消すると積極的に態度を表した。このほか、アメリカ側はまた、双方が会談で取り上げた問題に対し、「朝鮮に考慮の時間を十分与える」と表明した。これはブッシュ政府が今後の対朝政策の基調を対立から対話へと変えることを示している。

 それにもかかわらず、目下、朝米関係にはまだ多くの困難と障害が存在し、両国関係が近い将来に実質的な突破をとげるのを期待できない。まずカギとなる問題に対する双方の立場に大きな違いがあり、短期内に一致するのは難しい。アメリカが最も懸念するのは朝鮮の核計画とミサイルの開発・輸出であり、そのため、朝鮮が直ちに核査察を受け入れるよう求めている。しかし、朝鮮側は、アメリカの要求が受け入れられないものとしている。だが、朝鮮はケリー次官補が平壌を離れた後、朝鮮は朝米対話の立場が変わっていないと表明した。

 目下、双方の間の不信感が強く、しばしば冷ややかな言葉を相手に投げかけている。ケリー次官補の訪朝前に、ホワイトハウスのスポークスマンは、ブッシュ大統領の朝鮮指導者に対する見方が変わっていないと述べた。朝鮮側は、ケリー次官補が5日に朝鮮訪問を終えるに当たって、「平壌放送」はゴア米前副大統領がブッシュ氏の外交政策の一極主義傾向を批判するニュースを流した。7日、朝鮮外務省スポークスマンは談話を発表し、ブッシュ政府が依然として朝鮮を「悪の枢軸」と見なしており、朝鮮に対し引き続き一方的に強硬な敵対政策を推進し、朝鮮を先制攻撃する対象とする計画を改めようとしないと批判した。双方のこれらの行動は両国関係の雰囲気を「低温」状態に保つことしかできないのである。