APECと反テロ闘争

テロリズムに効果的に打撃を加えることができなければ、アジア太平洋地域ないし
世界の共同の繁栄などは全然話にならない。

中国の元APEC高官 王嵎生

 最近、メキシコで開かれたAPEC指導者非公式会合は、テロ反対問題について再び声明を発表した。最初の声明は昨年中国の上海で発表されたものである。当時は「9.11」事件の1ヵ月余りのあとであり、APECの指導者はすかさず共通のテロ反対の立場と決意を表明して、国際テロ反対闘争を力強く支持した。1年余りたった現在、国際経済情勢に多くの不確実な要素が現れ、楽観が許されず、政治情勢はなおさら起伏し、天下は非常に泰平ではない。一方では、アフガンにおけるアメリカの反テロ戦争はまだ全勝を収めておらず、テロリズムは依然としてたけり狂って活動し、ニューヨーク、ワシントンばかりでなく、クウェート、フィリピン、バリ島、モスクワでも悪行を働いた。他方では、アメリカの対イラク攻撃は一触即発の情勢にある。アメリカの反テロ戦争の政策と企みはますますはっきりしており、APECの各加盟国も体得と認識を新たにし、互いに共通の認識を求める必要がある。ほかならぬこのような状況の下で、彼らはメキシコで二つ目の反テロ声明を発表した。この声明は、実際に一年余りの経験を総括し、上海声明を踏まえてさらに一歩前進し、しかもいっそう強烈、具体的になった。

 ここで注意に値するのは、「テロ反対と(経済)成長促進に関するロスカボス声明」と題するこの声明が、明らかにテロ反対を経済発展と結びつけ、テロ反対がその根本的問題を解決しなければならないという戦略的意義を帯びていることである。「APEC地域の貿易安全」の促進に関する部分も大きな現実的意義があり、彼らは集団安全の新装置の強化を決意するばかりでなく、貨物と人員の効果的かつ安全な流動をも速めようとしている。

 それと同時に、APECの指導者はもっぱら最近APEC加盟国経済体内に起こったテロリズム事件について声明を発表し、最近バリ島、フィリピン、モスクワで起こったテロリズム行動を強く非難し、これは国際平和およびこの地域の安全、経済の持続的発展に対する脅威であると考え、直ちに対処しなければならないと表明し、国際協力を強化し、この地域のテロリズムを撲滅し経済への自信を回復する努力を支持するよう呼びかけた。これも非常に適時と力強いものである。

 APECは政府経済フォーラムであり、一般の状況の下で政治と安全の問題を討議しない。しかも、反テロ問題をこれほど重視しているのはなぜか。テロリズムと反テロ闘争はAPECにどんな重要な影響を及ぼしているのか。

 主な原因として次の二つの方面がある。

 一、APECは冷戦がまもなく終結するという時に結成した最も重要な大型地域組織であり、仲睦まじい大家庭の精神と共同の繁栄を主張し、この地域の人びとの平和と発展に対する普遍的な願望に合致する。テロリズムはこの地域の安全と安定に大きくショックを与えており、それに効果的に反対し、打撃を加えなければ、後顧の憂いが絶えず、アジア太平洋地域が永遠に安寧せず、平和と発展が破壊され、共同の繁栄などなおさら話にならない。最近インドネシアのバリ島で起こったテロ爆発事件がインドネシアの政局と経済に与えた重大な影響はこの点を十分に物語っている。モスクワの劇場占拠事件の影響もきわめて劣悪であり、世界を驚かせた。プーチン大統領はそのためにAPECのメキシコ会議に出席することができなかった。幸いにもロシアは断固として、勇敢に、これをスムーズに解決した。これらの事件は疑いもなくAPEC加盟国の反テロ協力強化の緊迫感を強めた。

 二、テロ反対の基本的立場と政策の面では、アメリカはマクロの面ではその本土の絶対的安全および世界におけるその覇権地位により多く関心を寄せ、ミクロの面では金融、通信、交通、貿易(税関、安全検査、包装などを含む)の安全により多く関心を寄せている。発展途上の加盟国(少なからぬ先進国の加盟国を含む)はマクロの面ではテロリズムの枝葉の部分と根本となる部分を同時に解決することおよび二重の基準をもつべきでない問題により多く関心を寄せ、ミクロの面ではテロ反対が正常の貿易往来と人的交流に影響を及ぼすことにより多く関心を寄せ、商業のコスト増の問題を心配している。効果的かつ突っ込んでテロリズムに反対するため、APECの指導者は協議、協調して、新しい共通の認識あるいは各側とも受け入れられるある種の合意を求める必要がある。この反テロ声明特にその中の「APEC地域の貿易安全の促進」という部分は、まさにこのような状況を表している。

 今日の世界では、経済と政治の発展はアンバランスであり、安全情勢の発展もアンバランスであり、人びとに「東は晴れているが、西は雨が降っている」という感じを与えている。われわれのような繁栄と平和の日光を浴びている人びとは、決してテロリズムが人類の公害であることおよびニューヨークとバリ島の悲劇を忘れてはならない。われわれは自国の安全に十分な注意を払う必要もあれば、世界各地特にAPEC地域の安全情勢に関心を寄せ、国際のあらゆる正当な反テロ闘争を断固支持する必要もある。それと同時に、APECの大家庭の精神を発揚し、絶えずAPEC加盟国間の経済発展レベルの格差を縮小し、共同の繁栄を促進することに努める必要もある。わたしは中国のAPEC高官を約6年務めて、APECには覇権主義活動の空間もなければテロリズムの温床もない、われわれの上記の努力が成功を収めさえすれば、客観的には反テロ闘争に貢献をすることになり、反テロ闘争を通じて「根本的問題」の一部分を解決することもできるだろうことを肌で感じた。