広がりつつあるバリ島爆弾テロ事件の衝撃波

インドネシアのバリ島で発生した爆弾テロ事件で東南アジアの真の反テロ戦争がついに始まった。

さい

中国現代国際関係研究所南アジア・東南アジア研究室

 ブッシュ米大統領はアフガン戦争が終わる時、東南アジアは反テロの第二戦場だと警告した。しかし、1012日までは東南アジア諸国の反テロ行動はいずれも小規模なものであった。東南アジアの真の反テロ戦争は、インドネシアのバリ島で爆弾テロ事件が発生したためついにその序幕が切って落とされた。爆弾テロ事件の衝撃波はインドネシアから絶えず広がっていき、小国のシンガポールから超大国のアメリカに至るまで、全力あげて対処しなければならない「反テロ事業」に巻き込まれている。

戦わなければ再生が難しいインドネシア

 1997年以来、世界最大のムスリム国であるインドネシアはずっと危機−危機反対−新しい危機が循環する中でもがいている。金融危機の後、社会は宗教と人種の対立によって動乱し、政局は政治人物の盛衰によって激動している。スハルト後期の動揺、ハビビの無能、ワヒドの茶番劇を経験した後、メガワティ政権の支配するインドネシアは綱渡りをしているようなものである。反テロが21世紀初めの世界の潮流になった時、隣国のフィリピンの女性大統領アロヨは時機を捉え、機運に応じて反テロの「鉄の女」となったが、他方同じ女性大統領のメガワティはジレンマに陥っている。「911事件」直後、メガワティはアメリカを訪問し、高い調子でアメリカの反テロ戦争に支持の意を表明した。しかし、彼女がまだ帰国しないうちに、国内のイスラム政治勢力は大騒ぎになり、メガワテ打倒、米国反対のどよめきが耳に絶えなかった。メガワティはその時から反テロのことを口にしなくなった。アメリカが何度警告したり抱き込んだりしても、インドネシア政府は自国にテロ組織がないと宣言し、過激分子を逮捕したり釈放したりしている。それよりひどいのはイスラーム政党開発統一党党首、副大統領のハムザ・ハズがあろうことか自ら刑務所へ行ってイスラム過激組織の頭目を訪ねたことである。

 インドネシア政府の優柔不断はほかでもなくテロリストの襲撃に対処する力がない致命傷である。専門家は次のように指摘している。バリ島爆弾テロ事件の後、インドネシアは金融危機以来の最大の危機に陥っている。それは四つの方面に現われている。一は回復の危機である。インドネシア経済はもともと投資と安全面の環境がよくないため回復が遅れており、その上、インドネシアの観光業収入の3分の1を占めるバリ島の外貨獲得の見込みがなくなり、石油と天然ガスの生産基地と施設もテロリストの次の攻撃の目標となった。アメリカ国務省はインドネシア在住のアメリカ人に速く帰国するよう命令を下した。このような危ないところに誰が投資する勇気があるだろうか。二は政権の危機である。爆弾テロ事件が発生して、誰もが今度こそメガワティも奮起して、極端勢力を厳しく取り締まるだろうと思った。しかし、パキスタンのムシャラフ大統領が国内のイスラムの過激政党を怒らせた後苦境に陥ったことと考え合わせて、オブザーバーたちはメガワティが敵をやっつける気持ちはあるが、衰えた勢力を盛り返す力がない境地に陥るのではないかという疑惑をもっている。三は自信の危機である。回復の望みがなく、社会が安定しないといった一連の打撃を受けた後、インドネシア人民はメガワティ政権を支持する自信がまだあるのかどうか。四は国際イメージの危機である。インドネシアはこれで「失敗の国」というレッテルを貼られ、国際危機組織のウェブサイトはわざわざインドネシア危機というホームページを設けた。現在、インドネシアは前にもまして衆人の指弾の的となっている。

 どうしたらよいか。利害得失を比較して損の少ない方を選ぼう。風当たりの強いところにある以上、いろいろと気をもむよりか、国際協力でテロリズムに打撃を加えたほうがいい。

東南アジアの反テロ協力は不動の局面

 インドネシアが東南アジアの反テロ戦線の中心にあるため、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどの周辺隣国は困難を共に切り抜け、リスクをともに分担するという反テロ戦略を選ぶしかできない。爆弾テロ事件の後、東南アジアの反テロ協力という共通の認識と緊迫性が強まった。まず、東南アジアの反テロは四つの緊迫した任務に直面している。第一は多くの国際的に有名な観光地や、マラッカ海峡など船舶が最も多く通過する海上の通路、インドネシアにあるアメリカの石油施設、外国、特に西側諸国の在外公館及びインドネシア在住の外国人に対する保護を強化する。第二はインドネシア、マレーシア、タイ、ミャンマー、フィリピンなどの国が中東諸国とテロ組織アルカイダの通路や避難港となるのを防止する。第三は新たなテロの襲撃を予防し、アメリカのイラク攻撃や、インドネシアなど諸国政府の国内の極端勢力に対する強硬手段などはいずれも、テロリズムの報復を誘発しかねない。第四は東南アジア諸国の指導者の安全を保護し、マハティール、アロヨ、メガワティの諸氏が特に重点的に保護する対象となる。

 幸いにも、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどの国は反テロの方策がある。シンガポールにはアメリカと協力してアメリカ、イギリス、イスラエルなどのシンガポール駐在大使館を爆破しようとする自国のイスラム組織の企みを粉砕した戦果もあれば、国民全体による防御という基礎及び地域の反テロ協力を推進する情熱もある。マレーシアは絶えず自国の過激組織を取り締まっており、マハティールは地域反テロセンターをマレーシアに設置するようアメリカに提案した。フィリピンはアメリカと第二回の共同軍事演習を行っており、アロヨ大統領は最近サンボアンガとフィリピンの首都の近くに起きた爆弾事件で反テロの決意をいっそう固めた。そのほか、ASEANは反テロ協力についての綱領的文書を制定、公布する可能性がある。フィリピン、マレーシア、インドネシアはさる5月に三国反テロ協力取り決めに調印した。マレーシアはずっと東南アジアのすべての国がこの取り決めを受け入れることを主張しており、タイ、ラオス、シンガポールはそれに参入する意向を示したが、ASEANのほかの加盟国はあまり積極的ではない。爆弾事件の後、セヴェリーノASEAN事務総長はASEAN諸国に反テロ協力を強化するよう呼びかけ、ASEAN諸国も今月末に開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力機構)会議で協議することを決定し、また11月に開かれるASEANサミット会議で、域内の国際テロ活動とテロ組織に打撃を与えるというASEAN十カ国の共同宣言の発表を推し進める可能性がある。同文書は三国反テロ協力取り決めを原本とし、その内容はテロ組織の資金の追跡と凍結、情報交換及び不法入国取締などがある。

手を携えて介入する米と豪

 東南アジアを反テロの第二戦場と見なしている以上、アメリカは今年に入ってからずっと手をこまねいているわけではなく、段取りを追って東南アジアではびこっているテロリズムに対する打撃を配置している。中央情報局(CIA)の専門家、合同軍事演習部隊、連邦捜査局(FBI)局長、アメリカ太平洋艦隊総司令官から国防次官のウォルフォウィッツ及びパウエル米国務長官に至るまでみな相前後して東南アジア諸国を訪れ、テロ対策を協議した。ウォルフォウィッツとパウエルの二人は特に触れてみる必要がある。ウォルフォウィッツはインドネシア駐在米国大使になったことがあり、名実ともに東南アジア問題の専門家であり、メガワティ家族と関係が密接であり、絶えず公私関係を利用してアメリカの反テロ同盟に参加するようインドネシアを説得している。パウエルはさる8月に東南アジア6カ国を歴訪し、81日にはASEANと、双方が共同で東南アジアのテロ組織を取り締まる法律的基礎となる「協力して国際テロリズムを取り締まる共同宣言」に調印した。

 爆弾テロ事件の後、ブッシュ大統領はインドネシアと協力して元凶を逮捕するよう呼びかけた。双方が爆弾テロ事件後、宣言の内容の実施を急ぎ、機構を設立するか委任して、移住者と国境の管制強化、情報交換、東南アジア諸国への軍事訓練提供、テロ組織の人員、資金、物資の東南アジアでの移動の阻止など、宣言に盛り込まれた反テロ措置を実行に移させることを予見できる。双方はまたASEAN地域フォーラム(ARF)の枠組内の金融分野の反テロ協力を強化する。アメリカのいまの中心活動はインドネシアを中心とし、メガワティ政権を脅したりすかしたりして、東南アジアで反テロ同盟を設立する最後の障壁を取り除くことである。

 オーストラリアはずっとブッシュ政府の反テロ政策を最も力強く支持する国の一つであり、東南アジアから一番近い国として、地域安全事務の面で役割を果たすことを望んでいる。オーストラリアはバリ島爆弾テロ事件の最大の被害国として、反テロの決心を固めている。オーストラリアのハワード首相は外相と法相をインドネシアに派遣して交渉を行わせ、東南アジアの反テロ戦争に介入する勢いが明らかである。そのため、一方ではオーストラリアはアメリカが反テロ戦略を推進する重要の依頼対象となり、他方ではオーストラリアはASEAN地域フォーラム(ARF)の枠組内で、あるいはさる8月に調印されたオーストラリア・マレーシア反テロ取り決めのパターンで、東南アジアの反テロ協力を深める可能性がある。

 インドネシア・バリ島爆弾テロ事件の衝撃波はインドネシアに反テロの決意を固めさせ、東南アジアの反テロの激情を燃え上がらせ、アメリカとオーストラリアが共同で参与する反テロネットワークを拡大している。東南アジア諸国はなんとかして金融危機から脱出したが、これらの諸国が順調にテロリズムという災難を乗り越えるよう希望する。