近隣とパートナー

―中国-ASEAN自由貿易区プロセスの本格的なスタートおよび双方が南沙諸島などの主権紛争の平和解決を目指す「南中国海各側行為宣言」の調印によって、中国とASEANの経済・政治関係はいっそう緊密になった。

                        肖 賛

 中国とASEANは最近、中国-ASEAN自由貿易区プロセスを本格的にスタートさせ、同時に南沙諸島などの主権紛争の平和解決を目指す「南中国海各側行為宣言」に調印した。これは中国とASEANの経済協力が実質的な一歩を踏み出したことを示し、同時に中国とASEANの政治信頼関係が新たなレベルに発展したことを示している。

 朱鎔基国務院総理とASEAN10ヵ国の指導者が114日に調印した「中国とASEANの全面的経済協力に関する枠組み取り決め」によれば、双方は遅くとも20041月から最初の600余種の製品の関税を引き下げ始めることになっているが、これは自由貿易区の関税引き下げを待つ製品総数の10分の1に相当するものである。最初に関税を引き下げる600余種の製品は主に農産物であり、それには家畜、肉類製品、水産物、チーズ、栽培物、野菜、果物などが含まれている。

 中国とASEAN諸国は、2004630日以前に残りの5000余種製品の関税の引き下げに関する交渉を終え、2005年からこれらの製品の関税を引き下げ始め、2010年に自由貿易区設置計画を全面的に実行に移すことに同意した。そのほか、同枠組み取り決めは中国とASEAN2003年初めにサービス業と投資制限の緩和について交渉を行うことに同意したことを物語っている。

 中国-ASEAN自由貿易区の設置は、中国とASEANの指導者が経済グローバル化が絶えず深化し、区域経済協力がめざましく発展する情勢の下で、双方の善隣友好協力を強化するために行った重要な戦略的決定であり、中国とASEANの経済関係がたえず深化する必然的な結果でもある。将来の中国-ASEAN自由貿易区は世界の人口が最も多い自由貿易区であり、発展途上国によって構成される最大の自由貿易区でもある。

 10月中旬バンコクで開催されたシンポジウムでは、中国学者の李偉曾氏は、中国−ASEAN自由貿易区の発足後、ASEANの対中輸出額が48%伸び、中国の対ASEAN輸出額も55%伸びると予測した。自由貿易協定の締結は双方にとってメリットになる戦略である。

 ロドルフォ・セべリノーASEAN事務局長は「ASEAN-中国自由貿易区の設置によって、ASEANで運営する企業は17億人の消費者、国内総生産の和が15000億ドルないし2兆ドルに達する潜在的市場を擁する」と語った。

 ゴーチョクトン・シンガポール首相は「ASEANと中国が自由貿易区を設置することは大きな戦略的意義を持っており、中国とASEANの経済にたいへん役立つのである」と見ている。

 ここ数年来、中国とASEAN諸国の経済貿易関係は急速な発展をとげた。1995年以来、双方の貿易額は年平均15%伸びた。昨年は世界経済不景気と「911」事件の影響の下でも、双方の貿易額は依然として前年同期比5%増の416億ドルに達した。現在、ASEANは中国の5番目の大貿易パートナーで、中国はASEAN6番目の大貿易パートナーである。今年第1〜第3・四半期の中国とASEANの貿易額は27.19%増の3855000万ドルに達した。

 シンガポール貿易工業省スポークスマンの分析によると、ASEAN-中国自由貿易区は外資誘致に役立つ。ASEANに投資する多国籍企業は中国市場を開拓するとき、より低い関税を享有することができる。同時に、これらの企業はASEANに投資すれば、すべての投資が中国に集中しないようにすることができる。

 そのほか、中国経済の急速な成長に伴って、中国沿海都市の運営コストが逐次上昇し、中国の企業はどうしても一部の業務をコストのわりに低いASEAN諸国に移転する。これは中国企業がASEAN諸国に投資するを意味する。自由貿易区プロセスの完成後、ASEANは中国の企業が優先的に考慮する投資先となる。

 中国-ASEAN自由貿易区設置の提案は2000年に朱鎔基総理が提出したものである。2001年のASEAN−中国首脳会議では、双方は10年以内に自由貿易区設置の計画を実行に移すことで合意に達した。中国とASEAN6回の交渉を経て、ついに今年114日、プノンペンのASEAN−中国首脳会議で枠組み取り決めに調印し、自由貿易区設置計画の「早期実施」を促した。

 近年の中国の国民経済の力強い成長は、世界とくに近隣諸国の関心を集めている。中国の近隣と主な貿易パートナーの一つとして、ASEANはアジア金融危機と世界経済不景気の衝撃を経て、中国の経済発展の中から最大のメリットを得られるかどうかは、ASEAN諸国の指導者が注目する焦点となっている。

 マハティール・マレーシア首相はある国際シンポジウムの席上で、日本と韓国に学ぶという「東洋を見る」政策に中国を含ませるべきだと語った。ASEANの内部では、中国との「共同の繁栄」を望む呼声が高まっている。

 中国とASEANの自由貿易区設置は強みを互いに補完しあい、連合して自ら向上し、新たな発展のチャンスを開拓し、共同で経済グローバル化によるリスクを防止し、国際経済貿易事務におけるアジア諸国の地位を強化する上できわめて重要な意義を持っている。

 自由貿易区の設置は中国とASEANの経済協力が新たな段階に上がったことを示すと言うなら、南中国海行為宣言の調印は中国とASEANの政治協力が新たなレベルに発展したことを示している。

 1980年代から90年代後半にかけて、南中国海海域でしばしば軍事衝突が発生し、人員の死傷を招いた。中国とASEAN1999年から、紛争防止を目指す「行動規則」の制定に取りかかった。今回、中国とASEAN諸国が調印した行為宣言は、中国とASEANが善隣と相互信頼のパートナーシップの強化に力を入れ、共同で南中国海地域の平和と安定を守ることを確認している。

 宣言は友好的な話し合いと交渉を通じ、平和の方式で南中国海の関係ある紛争を解決することを強調している。争議が解決される前、各側は自制の態度を保ち、争議を複雑化、拡大化する行動を採らず、協力と諒解の精神にのっとって相互信頼を確立するルートを探し、海洋環境保全、捜索と救助、国際犯罪の取締りなどの協力を展開する。

 この宣言は中国とASEANが調印した最初の南中国海問題に関する政治文書であり、中国の主権と権益を守り、南中国海地域の平和と安定を維持し、中国とASEANの相互信頼を強化するうえで重要かつ積極的な意義を持っている。それは、当地域の各国が対話を通じて相互間に存在する食い違いをりっぱに処理し、協力を通じて南中国海地域の平和と安定を守ることが完全にできるというはっきりしたシグナルを外部に出した。

 中国外交部の王毅副部長は、「ASEANは終始中国の対外関係において独特かつ重要な地位を占めており、中国とASEANにとって、共通の利益が食違よりはるかに大きく、協力のチャンスが挑戦よりはるかに大きい。中国とASEANは善隣と相互信頼のパートナーシップを確立するのは双方の根本的利益に完全に合致するものである」と語った。