10日に1回、「健康デー」

 ――より適切に言えば、多くの中国人は毎日を自分の「健康デー」にしたいと考えている。医療保険制度は完備されるつつあるが、最終的には、健康は自分自身で、との認識が広がっている。

唐元かい

 過去、中国人が子どもを可愛いとほめる場合、「太っている」、という言葉がよく使われた。だが今、親にとって「太っている」のは悩みの種。より問題なのは、太っているのが子どもだけではないことだ。肥満の数では、北京は全国最多。このため、衛生機関は、社会の関心を呼ぼうと、「肥満予防デー」を設ける方針だ。だが、まだ日にちは確定していない。現在、「健康デー」なるものが非常に多いのが理由。

「健康デー」を最も早く設立したのは、WHO(世界保健機構)だ。この数年、衛生機関は国民の体質の特徴に合った「健康デー」を数多く設置、現在、その数は30を超す。平均して10日に1回、「健康デー」がある計算になる。

「健康デー」が増加し、細分化されたことで、市民は自身の健康を重視するようになった。また、健康に関する様々な問題が存在または潜在しているために、健康に特別注意を払うようになったは確かだ。

「衣食の問題を解決する」。政府が一貫して追求してきた目標だが、現在では、経済発展にでこの心配は無くなり、現代文明の成果を心ゆくまで享受すると同時に、「文明病」、いわゆる「生活習慣病」も流行し始めてきた。高血圧や冠心状疾患、糖尿病、脂肪肝、増え続ける肥満などがそうだ。

 栄養バランスの維持が健康のカギだが、実施はそれほど容易ではない。専門家は「中国人の飲食構造は以前からバランスが取れていない」と指摘する。昔は貧しかったため、栄養補給として肉は十分に摂取できなかったが、豆製品や野菜は大量に採っていた。今では経済が急成長する国となり、飲食がアンバランスになってきた。食卓に並ぶのは高カロリー、高脂肪、高タンパクの食品が多い。栄養過剰とアンバランスで生じるカロリー過多が脂肪として体内に蓄積し、その結果、肥満が続出している。

医師が“スター”に

 今年63歳になる洪昭光氏は北京市安貞医院の医師。洪氏は全国各地に開設された健康講座で今、引っ張りだ子でスター並みの人物だ。

 8年前、洪氏は病床で患者に健康法を説いたことがある。同室にいた患者がそれに感動し、次々に集まってきた。やがて、別の病室の患者へと広がり、患者の家族も病室で聞くようになった。洪氏は「これほど多くの人が健康を渇望している」と感じ、また責任感から、「専門家が健康教育を行う場合には、患者を多く診るよりも社会への貢献が大きくなければ」との信念を持つようになり、また40年以上にわたる臨床医学の実践という蓄積を活かして講座を開くことにした。回数は重なり、講座は病室から病院へと、病院から会議室へと、1都市から別の都市へと広がり、倦まずたゆまず健康法を提唱していった。

 洪昭光氏は全国のメディアで紹介された。筆録講座の内容は小冊子となり、その数は68種を数える。郵送された小冊子は数え切れないほどだ。上海の「解放日報」は洪氏の『いかに100歳まで生きるか』を単独掲載、市内3000ヵ所にあるブックスタンドでは1時間で売り切れになった。そのため、出版社数十社が競って出版契約に奔走。講座内容を本にした『健康快速列車に乗る』は1日に1万冊も売れるほどの人気で、多くの書店で売上ベストワンを記録した。現在、500を超す団体から講座の要請が来ているという。

 そんな洪氏にプライベートな時間はない。最も忙しい時には、1日に3ヵ所で講座を受け持つ。1回、2時間余り。洪氏が教えるのは知識や考え方、経験、心得に留まらず、専門家として見れば、一種の新しい「信仰」と言えるかもしれない。

 上海に住む小学校を退職した李さん。友人から借りた3冊の小冊子を貸したり、コピーして持たせた人は100人近くにのぼるという。数十年も牛乳を飲んだことのない李さんだが、今は「言うことを聞いて」飲むようになったそうだ。

 洪氏は「講座や著作がこれほど歓迎されるとは、自分自身すら思わなかったことです。でも、確かなのは、人々が益々自分の健康に関心を持ってきたことです」と話す。さらに洪氏は「自ら養生して健康を維持する意識を高めることが今、急がれています。何故なら、多くの患者が発病した原因は、非常に簡単なもので、大多数が養生して予防すれば、完全に防げる病気だった」と強調する。

 統計によると、去年の衛生・医療費は国民総生産(GNP)の6.4%、疾病や傷害で若くして死亡したことによる経済損失は7800億元余りと、GNP8.2%を占め、両者を合わせると14000万元近くに達する。この膨大な数字は、多くが健康と医療に関する知識の無さがもたらしたものだ。洪氏は「科学的な生活という考えを持って、早くから健康な生活をすれば、お金をかけずに病気を半分減らし、寿命を10年延ばすことができる」と指摘する。

 人々が健康を追求するのに合わせて、北京など都市の住宅団地をはじめ随所に様々な公共のスポーツ健康施設が登場、路上市場の跡や非衛生的だった場所がクリーンな健康広場に変わった。

 この「国民健康プロジェクト」は、国家体育総局が1998年から全国範囲で開始。多くの人に自覚的に、日常的に身体を鍛えてもらう、というのが目的だ。現在、健康運動は急速に盛り上がっている。「一般的」な生活、単に「美食」な生活やリラックスした生活だけでは満足せず、より質の高い、より健康的で、より長生きできる生活を求める人が増えてきた。

 また政府は、農民の健康レベルを全面的に向上させるための政策も決定した。8年以内に農村部の衛生事業を発展させる具体的課題と目標を打ち出した政策は、来年から正式に実施される。政策では「各地方政府は衛生関連資金の投入を毎年増やし、増加幅は同期の財政形状支出の増加幅を下回ってはならない」と明確に規定された。この決定の実施によって、農民の主要な健康指標は2010年までに発展途上国の先進レベルに達すると予想される。

経営順調なフィットネスクラブ

 都市部の2040歳までのホワイトカラーにとって新たな「必修科目」、それが健康づくりだ。だが、彼らは老人のように公園や街角、家の前で伝統的な太極拳をするわけではない。また「ナイキ」を穿いた学生のように、緑陰の小道をジョギングするわけでもない。彼らが出入りするのは新興の西洋式フィットネスクラブ。色鮮やかなスポーツウエアに最先端の健康機器、躍動感あるエアロビックスが目的だ。

 健康づくりは決して、単なるナルシズムからではない。フィットネスクラブは今ではすごい人気だ。とくに北京や上海、広州など生活レベルの高い都市では静かなブームとなっている。海外企業の投資も始まり、経営は順調で、健康・生活関連機器メーカーにとって新たな市場目標だ。

 過去、西洋式のエアロビックスを楽しめる場所やフィットネスクラブは高級ホテルに限られ、豊かな外国人だけに開放されていた。年間2000ドルにのぼる会費は大多数の中国人にとっては高嶺の花だった。だが今、新世代のフィットネスクラブは、会員対象を一般消費者に絞っている。しかも、会費はホテルよりずっと安い。

 シンガポールのIntelligent Corp. Holdingsグループ(ICH)は中国で有名な企業、中国航空技術輸出入総公司(CATIC)と合弁でNew Life Resources社を設立し、一気にフィットネス市場に進出。2006年までに全国に100店オープンさせる計画だ。

 ICHの幹部は、この業界の市場規模は年間、10億元に達すると予測している。

 総じて言えば、中国は健康な生活スタイルを志向する消費社会へと入った。フィットネスクラブ会員の増加は、こうした消費の流れの一部に過ぎない。

「健康な体にしたいと思いませんか? 専門のスポーツ・インストラクターの場をあなたに……」。湖北省の省都・武漢市で、“スポーツ家庭教師”を求めるチラシが町のあちこちに貼られた。

「高速の生存」が心の健康に影響

 現代の中国社会では、多くの人が主動的または受動的に生活のテンポを速めて時代のリズムに合わせるようになり、益々多くの人が張りのある生活を求めることに以前より熱心になってきた。もはやテンポの遅い生活は望まない。だが、多くの疾病がこれによってもたらされた。

 ある研究結果で、「高速の生存」が多くの人の生活で特徴になっていることが判明。こうした緊張したテンポの速い生活は確かに人を損なう。しかも、少数派と思われていた性格の性急な人の多忙な生活様式が広がりつつある。だが、ゆったりとした生活に慣れていた多くの中国人が、以前より緊張感があり、一心に時間を節約し、物事のリズムも昔より速まり、コントロールできなくなり、深く考えることもなくなった、と感じるようになっているのは確かだ。

 社会の進歩と科学技術の発展で、期待する結果はすぐに得られるようになった。例えば、ファーストフードはすごい人気だし、家でもオフィスでも、電子レンジを使えばすぐにアツアツの食事ができる。新聞の報道の周期も株取引の時間も短縮された。ファクシミリや携帯電話、電子メールでより速くより効率的な仕事が可能になり、無くてはならない存在になった。人は常に迅速なサービスを期待する。エレベーターを待つのも長いと感じるほどだ。ある科学作家によると、人が耐え得る待ち時間は15秒、40秒待つと、イライラして落ち着かなくなるらしい。

 私たちの時間を節約してくれるものは少なくない。コンピューターや自動車、飛行機などだ。だが、それでも「時間がない!」と言う。“狂乱する足”で命を燃やし、その日のストレスを11日と蓄積していく。「高速の生存」はムチで休むことなくコマを回転させる。急速な生活様式は大脳や心臓にかなりの負担を与えている。

 「本質は健康だということを認識している人は少ない。生活は物質的には豊かになったが、心の状態はむしろ良くない」。北京市安貞医院の医師、洪昭光氏はこう指摘し、「どんな環境にあっても、自然に耳を傾けることができれば、心の状態は良くなる。それこそが健康の基礎だ」と強調する。

 ある専門家は「生活と仕事上の圧力は、いずれも健康を失う理由にはならない。健康の秘訣で人々が軽視しているのは、休息とリラックスである。現代社会に生活する人は、自己調整して、生活と仕事の歩調を適当に緩やかなものにしていくことが大切だ。『1日だけを生きる』、つまり『今日』生きたら、『明日』や『あさって』のことは考えない。過去を絶えず思い、あるいは将来を憂慮すれば、休むことはできない」と教えている。