マイカーを制限、それとも発展させるか

 今年の夏以来、時流を求める北京市民の間で自動車がホットな話題となっている。会った際のあいさつは、「車を買った?」。北京市では運転免許を取得したが車を持たない人は200万人といわれる。

 北京市交通管理部門の統計によると、今年9月初め現在、北京市の自動車保有台数は年初に比べて15万台増の185万台。来年34月までには、200万台を突破し、100世帯当たりの保有台数は15台に達すると予測される。

 国家発展計画委員会技術経済研究所の予測によると、2010年に全国の需要は約400万台に達する。経済学者は、2015年までに、販売台数は年間1000万台となり、アメリカに匹敵する大市場となると予測している。

 関係機関の統計によると、1986年の北京市の自動車保有台数は27万台、市街地の道路面積は2145万平方メートルで、2000年には、158万台増と、14年前の7倍となったが、道路面積は4200万平方メートルで伸び幅は倍以下だ。

 関係機関が昨年行った住民の交通利用状況に関する調査結果では、地下鉄と公共バスの利用率はそれぞれ29%、自転車は32%、公共バス、公用車、タクシーは約40%だった。1980年代初めには、公共交通の利用率は70%だったのに比べれば、今はかなりの落ち込みだ。

 同時に、交通渋滞も日ましに深刻化している。一部の区間では走行時速は10キロ以下、歩くスピードより遅い5キロ以下という区間もある。

 車両の急増に伴い、北京など大都市では人々の間で交通問題が関心事となってきた。自動車産業を発展させ、マイカー所有を奨励するかどうかに関する論争が再燃し、意見は二分化している。一つは「車で大きな中国を変える」は、自動車産業を新たな段階にまで発展させることだ、というもの。一つは専門家を代表とする人たちで、北京の交通事情を例に挙げ、渋滞や環境保全、管理など一連の問題について、「自転車のみが最も中国の特色をもつ交通手段で、自動車は制限する必要がある」という意見だ。

 北京市の交通渋滞、マイカーが依然として、急増する現実を前に、劉淇北京市市長は先日、「交通問題を解決するために、政府がマイカー増にストップをかけることはない。交通全体の管理レベルを高めることが必要だ」と語った。

自動車文明の末路

 楊東平・北京理工大学教授 自動車消費は一種「外的」な特徴を持っている。少数のマイカー族はより多くの公共資源を占有し、消耗することで社会と公衆全体の利益に極めて大きな影響を及ぼしている。そのため、マイカーの発展は一般の消費政策と全く異なり、単に経済部門の産業政策と見なすべきではなく、それは都市計画や住宅建設、エネルギー政策、公共交通、環境の質、市民生活など多方面に関わっており、経済成長を促す短期的な効果があるからと言ってそれに代替させることはできない。社会政策や公共政策の面からマイカー発展政策を見極めて、社会利益と全体の利益を第一位に置き、異なる階層の利益のバランスを図るべきである。指摘する必要があるのは、政策の制定者や管理者、メディアの記者の大多数が車族(公用車またはマイカー)であり、必要な社会参与とプロセスの公正さがなければ、このような利益のバランスは決して容易に実現できるものではないことである。

新しい技術、新しいエネルギー、新しい概念の出現に伴って、自動車によってもたらされたエネルギー不足、大気汚染などの問題は多少緩和することはできるが、交通の改善、出掛けやすいという最も根本的問題については、自動車自体は無能である。これがマイカーの発展を制約する最も重要な原因の一つである。これは「近代化」に反する論理でもある。われわれは出掛けやすく、より大きな自由、より速いスピードを目指して車を購入する。だが、マイカーが増えれば増えるほど渋滞はひどくなり、かえって効率とスピードを失うことになった。深センのようなもともと渋滞のなかった都市では、マイカーの激増で、人々は渋滞の苦しみを自ら味わうはめになった。この賭けで、勝利したのは自動車メーカーであり、損害を受けたのは車を持つ人と持たない人である。

多くの人は依然として、この問題の解決案は道路を多く建設することだと単純に考えている。しかし、事実が立証しているように、これは現実的ではなく、道路建設のスピードは永遠に車の増加率に追いつくことはない。全国で道路の建設が最も多い北京を例に挙げてみると、1990年代以来、自動車の年間伸び率は28.8%で、道路のわずか1.6%に過ぎない。また、簡単な事実を挙げれば、都市では道路が無限に拡張させるのは不可能だということであり、道路しかない都市はやはり都市と言うべきか。車やマイカーを根本とする都市では、立体交差橋が腹を露出している至るところに出現しており、醜く人間性に欠けると言っていいだろう。

交通渋滞は主に管理の問題だと見る人もいる。国外の大都市ではマイカーは中国よりはるかに多く、道は北京に比べ広くはないがスムーズである。確かに管理の問題だが、異なる公共政策の結果でもある。しかし、国外の大都市の住民は出掛ける際には公共交通、特に地下鉄に依存しており、公共交通の利用量はわが国よりずっと多い。同時に、大中都市ではマイカーへの制約がわが国より厳しい。マイカーは通勤に使用するのではなく、レジャー用とされているのである。

 マイカー消費は最終的にはやはり、中国の国情と地球環境に制約される。1994年、ドイツの『ディー・ヴェルト』に「中国では車の所有は1000人あたり1.2台だが、ドイツ西部は510台である。中国が同様なレベルに達するには、6億台が必要であり、これらの車を並べれば、地球を67周回ることになる。地球は我慢できるか」との記事が掲載された。 

 解璽璋・『北京晩報』記者 私は本当にマイカーを持つ必要があるかと繰り返し自問したことがある。答えは、必要性はないということだった。歩くことができるという点から言えば、虚栄心を満たそうと思わない限り、あちこちドライブする必要は全くないと思う。

 運転好きな人は、自動車文明には取って代えることのできない優位性があることを証明できるかも知れない。しかし、実際には、このような優位性は人々に目先のまた表面的な益しかもたらず、それによってもたらされた問題は深刻で長期的なものだ。最も直接的な問題は交通渋滞、エネルギー不足、環境汚染、ヒートアイランドなどである。

 これに対して、われわれは聞かぬふりをするわけにはいかない。制限のない発展は、遅かれ早かれわれわれに悲惨な代価を払わせることになる。もちろん、私は現代文明の成果の一つである自動車を「悪魔」とは見なさないが、自動車の増加を促す際に見られる非理性的な要素に人々は注意を払わなければならない。この都市では、公共交通とタクシーを積極的に発展させることこそが賢明な選択だと考える。

 ?烈山・コラムニスト 単に大中都市について言えば、仮に3億の市民のうちの10分の1の人口からなる家庭が乗用車を購入する可能性があれば、その消費量はカナダに匹敵するものになる。資本の目が見れば、これはもちろん放棄すべきでない市場だ。しかし、13億人を擁する中国の国土面積は3000万人を擁するカナダより小さいことを銘記しなければならない。人口密度が非常に高い中国の大中都市では、車を持たない90%の人の利益が重要なのか、それとも車を所有する10%の人の利益が重要なのか。事実、このような利益を対立させる言い方はあまりに単純だ。一つの都市に居住しながら、共通の利益というバランスの接点を見出せなければ、誰もがスムーズに生活できなくなる。

 一歩譲って、中国の人口がそれほど多くはなく、都市と農村の格差、貧富の格差もそれほど大きくはなく、圧倒的多数の家庭が乗用車を買えるとすればどうなるか。自動車の無制限な発展がもたらす大気汚染、騒音、エネルギー消耗、交通事故などのマイナス影響も耐え難いものだ。欧米諸国の多くは次々と措置を講じて公共交通を発展させ、マイカーの都市乗り入れを制約している。中国には「後発としての強みがある」とよく言われるが、われわれは先進国の経験と教訓を参考にすることができる。都市のマイカーでも外国が歩んだ回り道を恐らく避けられるとは思うが、頭を冷やすことが必要だ。

自動車工業の発展に議論の余地はない

 楊合湘・国家発展計画委員会マクロ経済研究院産業工業研究室主任 われわれは1993年に家庭用乗用車の発展について研究し、中国でマイカーを発展させることを提起した。これは主に自動車産業を発展させるには必ず乗用車を発展させなければならず、乗用車を発展させるにはマイカーを発展させなければならない、という考えに基づいている。これは必ず通らなければならない道である。中国では、過去、自動車の消費は主に機関や集団の購入を主体とし、その費用は主に政府の財政に転嫁された。集団を主体とする自動車購入は中国全体の自動車産業の発展にマイナスとなるだけでなく、市場経済の長期的な需要にも合致しない。そのため、個人を主体とする消費が自動車産業を発展させる上で主要な方向となる。ここ数年、住民の収入レベルが大幅に伸びるに伴い、個人の乗用車購入がブームになっている。多くの都市でマイカーのシェアは50%またはそれを上回り、これが国内のマイカー発展の基礎となっている。

 自動車工産業の発展を巡る論争は今に始まったものではなく、様様な議論は今も続いている。私個人は制限を加えるのではなく、発展させていく中で存在している一連の問題を解決するよう主張したい。自動車産業を発展させるのは大きな流れであり、論争の余地はない。

 他国の経験から見て、アメリカや韓国、日本、またメキシコにも自動車工業が経済発展を促進した成功例がある。自動車工業は他の産業と異なり、単なるものではなく、都市建設、化学工業、ハイテク応用、金融、保険、サービス業などと関わっており、関連産業と国民経済全体のグレードアップでかなりの効果を上げる。これが自動車工業発展で主要な面だ。マイナスの影響から見て、自動車工業によって道路や環境保全などの問題がもたらされるのは避けられず、これも正常だ。先進国にも似たような経験があった。しかし、自動車工業は高税収の産業であり、税収の蓄積によって、インフラ整備や環境保全問題も解決できる。環境保全のような問題については、代替品や電気自動車を探求して改善することができる。道路の問題は、財政収入を増やして、都市のインフラ整備に力を入れて解決する。国外の自動車発展の規制に関しては、主体とするのは民間人の環境保全運動であり、政府に関連する問題の整備や改善を促うことはできるが、国全体の経済利益から見ればはやり、自動車の発展と使用は主要なものであり、これを覆すことはできない。

 江小河・人民出版社編集者  合理的な道路建設計画を立てマイカーの増大は制限すべきではない。大都市で交通渋滞を解決する方法の一つは公共交通のサービスを高め、道路事情を改善し、道路の利用率を高め、合理的な道路建設計画を立てることで、マイカーの増大は制限すべきではないと考える。

 車を購入する個人が多くなければ、中国の多くの自動車製造メーカーが生産する車はどこに売ればいいのか。また不合理な道路料金を減らす必要もあり、その費用をガソリン価格に含める。こうしてこそ、週末のマイカー利用は実現される。