外資系企業の「人心」哲学

−−蘇州ハイテク産業開発区の外資系企業の管理理念について

 蘇州ハイテク産業開発区に、外資系企業が620余社あり、一部の企業は生産基地と研究開発センターをここに設立しており、企業は人的資源の量と質により高い要求を出している。国籍が異なっているとはいえ、「人心」哲学を推し進めて人心を経営の基礎とし、人を本とし、人材を本土化させることが外資系企業の共通の認識となりつつある。ますます多くの本土の人材が中・高級管理職を担当しているだけでなく、これまで無視されがちな操作員も思いきり才能を発揮する舞台を見つけ、従業員の様相は耳目を引くものがある。

大黒柱となった本土の人材

 改革・開放を実行した当初、中国にある外資系企業の中・高級管理職はほとんど外国人であり、中国の従業員はほとんどが端役をつとめる小身者であった。1990年代末から「本土化」がちくじ外資系企業の経営理念となり、ますます多くの本土の人材がその豊富な学識と経歴で頭角を現し、外資系企業の中・高級管理職に進出し、外国側経営者の有能な助手となっている。

 富士写真フイルム株式会社は世界二大フイルムメーカーの一つであり、1995年に設立された蘇州富士写真フイルム映像器機有限公司は富士写真フイルムが海外でカメラを生産する唯一の基地であり、地元の7人は普通の従業員として働き、優れた業績をあげて中・高級管理職に抜てきされた。彼らは本土の市場や風土人情をよく知っており、業務の開拓に大いに役立ち、公司の経営コストと人件費もそのために下がった。富士写真フイルムの大西実社長はとても喜び、「蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司は優秀な従業員とすばらしい組織機構を持っており、従業員は有能で、よく訓練されている。これは目標を実現する先決条件だ」と語った。

 多くの外資系企業は従業員の技術と管理をレベルアップさせるため、彼らを外国に派遣してトレーニングを受けさせている。蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司も技術水準向上の主な方法として従業員を日本に派遣して、カメラと関係ある技術を学ばせている。蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司に現在従業員が1500余人いるが、そのうち170余人が相次いで日本に送られ、富士写真フイルムやその他の会社でカメラ製造技術を学び、それをりっぱにマスターし、研修成果を工場に持ち帰り、すばらしい効果をあげている。従業員を日本に派遣して養成するほか、自ら計画的に国内で養成することも重要な手段であり、線長(生産ラインの責任者)の養成を含めて、内容と形式はさまざまである。蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司は従業員養成を担当する専門要員を設け、毎年の養成費は約100万元に達している。大西実社長は「人材の養成は蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司の最も重要な課題であり、とくに技術要員と管理要員の養成はなおさら当面の急務である。というのは、製品が要求する技術水準がますます高くなっており、従業員がそれに相応する水準を確保できなければ、より大きな発展をとげることができないからだ」と語った。

 蘇州エプソン有限公司は投資総額が33000万ドルに達し、規模と投資額をとわず、蘇州市の外資系企業の中で上位にランクされている。名取美明総経理は、蘇州エプソン有限公司は人を本としており、いま従業員は8500余人いるが、普通の従業員でも、500人ほどを管理することがありうる。わが公司に現在、日本側の高級管理職が24人おり、3年後、日本人管理職の人数が半減され、そのポストは地元の優秀な管理要員が引き継ぐことになっていると強調した。

大改善活動で才能を見せる操作員

 蘇州富士写真フイルム映像機器有限公司では、主人公は決してつかみどころのない概念ではなく、名が知られない操作員たちは自ら大改善活動課題グループをつくって、企業の省エネのために頭を働かせている。大改善活動は日本の製造業で始まったもので、その特徴は操作員が参与の主体となっていることである。操作員たちは自主性を発揮し、自由意思でグループをつくり、自分で課題を選び、生産でぶつかった問題をみんなで解決するようにしている。毎回の大改善活動は3カ月も行われる。

 19999月、最初の大改善活動を行う通知がはり出されてから、60余人の操作員は自発的に五つの課題グループをつくった。活動が終わると、優秀なグループは3人の代表を日本に派遣して富士写真フイルムの交流活動に参加させ、特別賞を獲得した。受賞した課題はNC3-4生産ラインの生産能力を高めるというもので、技術とプロセスを改良して、即時現像カメラの日産量は765台から850台に増え、毎年コストを100余万元節約することができる。

 その後、大改善活動の参与者はたえず増加し、二回目は149人で、三回目は180人に増えた。参与者の学歴は中学卒から大学本科卒までいろいろある。操作員は普段は受動的に命令を受けているが、大改善活動はその才能を示す舞台を提供している。交流のため日本へ派遣された課題グループ責任者の葛?さんは、中等専門学校卒業後塗装工として働き始めたが、後に線長を担当した。葛さんは「本当の知識は実践から生まれるものだ。操作員が選んだ課題は持場で従事している仕事と関係があり、成功すれば成就感がひとしお身にしみる」と感慨深げに語った。多くの操作員は潜在力を発揮し、共同で一流のものをつくり上げることを主旨とする大改善活動に参加して頭角を現し、多くの人は線長、副線長に抜てきされた。同公司はそのために大改善活動事務局を設置し、住田孝司副総経理が顧問に就任している。

在学の大学生に先行投資

 スイスロジテックグループが独資で設立された蘇州ロジテック電子有限公司は世界最大のマウス生産基地である。ロジテックグループ会長は、世界的な生産基地になるには、十分な人的資源は欠かせない重要な要素であり、技師、管理職から作業員に至るまでみな人的資源の一部分であると見ている。蘇州ロジテック電子有限公司は数年前から管理要員養成計画、品質管理計画を実施し、管理水準、製品の質が大幅に向上した。

 一部の外資系企業は類似の従業員職業生涯計画を推し進めている。新しい社員が入社後、部門の経理は彼と長時間話をし、特徴と目標を理解し、彼のために発展計画を立てる。年末になると、その年の計画に照らしてチェックし、翌年の計画を立てるようにしている。職業生涯計画は従業員のために発展のはしごをかけてやったばかりでなく、公司の発展に永遠に涸れることのないエネルギーを得させている。

 優れた人材を引き付けるため、蘇州ロジテック電子有限公司は「水を入れて魚を飼う」という策略をとり、「人材獲得」から「人材養成」に変わり、有能な人を争奪するだけでなく、潜在力があり、革新意識と能力のある人材にも先行投資するようにしている。蘇州ロジテック電子有限公司は名門大学にねらいをつけ、多くの方面から人材を網羅し、毎年、中国人民大学、中央財経大学などの大学に行って募集するほか、蘇州大学に奨学金を常設して、大学生の間でその影響力を拡大している。人事部経理によると、同公司は名門大学の大学生に同公司で実習させ、プロジェクトを実施させているが、長時間の接触を通じて、公司は学生の実際の能力を客観的に評価することができ、学生も公司をある程度知るようになり、高い透明度は双方の選択に役立ち、その効果は大学へ行って人材を募集するより優れている。ロジテックグループは人材導入に全力あげているということができ、同グループは技術要員と管理要員を養成のため外国に派遣する、社内でのポストを交換する、多くの大学に奨学金を設けるなどいろいろの手を尽くして、優秀な卒業生を網羅するようにしている。

 競って大学に奨学金を設けることは、外資系企業が優秀な卒業生を導入する重要な手段となっており、外資系企業と大学の協力の形式が日ましに多様化になり、哈曼蘇州電子有限公司は南京師範大学に哈曼育英資金を設け、蘇州中化薬品工業有限公司は蘇州大学に中化王致権奨学金を設けている。

仕事に励む日本側の人事部長

 人的資源市場では、人事担当の若者が山ほどの応募者の履歴書を受け取り、大急ぎでそれをめぐって、採用するかどうかを決めることがよく見かける。これとは反対に、蘇州市呉中区胥口鎮にある高嶺(蘇州)電子有限公司の日本側人事部長とその通訳が蘇州ハイテク産業開発区の人的資源市場で腰を据えて人選びする様子は耳目を引くものであると言ってもよい。

 日本独資の高嶺(蘇州)電子有限公司の職員募集担当の人事部長の前に公司概況の説明書が置いてある。彼は応募者に向かって、その説明書を指差しながら、日本語で関係あるポストや製品、設備の特徴について詳しく説明し、そばにいる通訳はそれを通訳する。応募者が気に入るなら、応募者の望む月給を尋ね、自分が技術と財務に詳しくないから、技術と財務の担当者が用事があって、今日は来ていないが、後で面接して決めると話した。技術要員に応募するある若者はこれまでアメリカの企業で働いていたが、日本人の仕事に励む精神に敬服して、応募に来たと語った。12時半になったが、ほかの会社の募集スタッフはすでに離れたのに、高嶺電子(蘇州)有限公司の二人の募集スタッフは相変わらず応募者に詳しく説明し、ひっきりなしに通訳し、日本人の真剣な仕事ぶりをみせていた。

 外資系企業は人材を探す場合、本当に才能があることを重視している。蘇州ロジテック電子有限公司は蘇州ハイテク産業開発区の人的資源市場を借り切って同公司の職員募集会を開き、財務分析、品質管理技師、光電気技師など18の専門技術職位を出し、ほとんどが本科学歴、堪能な英語を要求している。1500平米のホールでは、各求人部門の主管が募集を担当している。カウンターの上にマウスの見本および関係ある英語資料、設計図が置いてあり、現場で技術問題を通訳し、解答し、対応性が非常に高い。ふるいにかけたあと、60余人の20歳代の若者が残って1回目の試験を受け、その場で4人が採用され、そのうちの一人はなかなか求めにくい企業資源計画系統技師である。これに対し、人事部経理は意外だと言い、「世界が人材危機に直面しているが、その中でもっとも不足しているのは情報技術人材だ」と語った。

無償献血に熱心な松下電工の従業員

 2000927日、蘇州松下電工有限公司は普段のように、生産が秩序だって行われていた。違っているところと言えば、工場構内に蘇州市紅十字センター血液ステーションの移動採血車がとまっていることである。中番、遅番の退勤した17人の従業員はうちに帰らないで、無償献血するために移動採血車が来るのを待っていた。この日、65人が自発的に献血した。

 蘇州松下電工有限公司は中日合資企業で、396人の従業員の平均年齢はわずか28歳である。同公司は従業員の資質の向上を最も重要な任務としてそれに力を入れ、そのためにわざわざ7S管理委員会を設置し、教養がその中の重要な内容であり、社会公徳を重んじ、積極的に向上することが一種の気風となっている。蘇州松下電工有限公司では、公益活動が行われれば、指標がなくても、動員しなくても、いつも任務を超過達成することができる。

 蘇州ハイテク産業開発区の多くの外資系企業は公益活動の熱心な参加者である。蘇州市紅十字センター血液ステーションによると、蘇州明基コンピューター有限公司、蘇州フィリップス消費電子有限公司などの外資系企業は毎年進んで無償献血を要求し、従業員は熱心にそれに参加している。

 人材資本は企業の最も重要な資源であり、企業が従業員が成功をおさめることを支持し、従業員が主人公となった感じを体得させている。これは実際には互恵のものである。従業員が才能を発揮し、抜てきされれば、収入が増え、同時に企業も人材を獲得し、利潤を創出する。

  (樊寧)