ユーロの流通に直面する中国

柴 米

 199911日から20011231日までの3年間の移行期を経て、ユーロのキャッシュは今年11日から正式に流通し、ユーロ地域で流通する唯一の合法的通貨となった。

 中国の各銀行は11日の午前8時からユーロのキャッシュを市場に放出した。

 ヨーロッパ連合(EU)加盟国のうちの12カ国、3億を超えるヨーロッパ人がその時からユーロを使い始め、経済総量が69000億米ドルの統一された大きな市場が形成され始めた。それは中国にどのような影響をもたらすか、中国はどう対応するか。

もう一つの「タマゴを入れるかご」

 「タマゴを一つのかごの中に入れない」というのは投資の基本的な理念である。中国にとって、ユーロはもう一つの「タマゴ」を入れる「かご」となるだろう。

 有名な学者の楊帆氏は、リスク回避からいっても、価値増大からいっても、中国は国の外貨準備高に占めるユーロの割合を引き上げるべきだ、と見ている。

 資料が顕示しているように、昨年11月末現在、中国の外貨準備高は20831000万ドルに達し、世界第2位にランクされた。そのうち、米ドルが約60%と絶対的優位を占めていたが、日本円とマルクの割合は15%前後しか占めていなかった。

 楊帆氏は次のように語った。

 国と企業は個人と同じく、いずれも財産の価値保全の割合があるべきである。各国の通貨が切り上げもあれば切り下げもあるから、価値を保全するために外貨準備高に占める各国の通貨の割合を合理的に定めて、為替レートのリスクを小さくすべきである。アメリカ、日本、イギリス、ドイツ、フランスの五大貿易国の対中貿易の割合に基づけば、今後外貨準備高に占める米ドルの割合を45%前後に引き下げ、ユーロの割合を20ないし30%に引き上げるべきである。

 楊帆氏はまた次のように指摘した。

 現在、米ドルが弱くなり、ユーロが強くなっているから、国の外貨準備高の構造調整を行う絶好の時機であり、米ドルの割合を引き下げて、その代わりにユーロの割合を引き上げる場合、引き上げ部分は切り上げの潜在力が明らかにある。これはユーロが世界の第二位の堅実な通貨になる可能性がきわめて大きいからである。しかし、ユーロが近い将来に米ドルと同じような金融地位を得ることがあり得ず、ユーロの将来性はドイツの経済発展とEU諸国間の協力にかかっている。

 目下、中国はユーロの準備高を増やすことに取りかかっている。早くも昨年11月中旬、中国人民銀行はユーロの準備高を増やすことを明らかにした。項懐誠財政部長は先日、外貨準備の米ドルへの過度の依存を避けるため、中国はできるだけ早くより多くのユーロを買い入れることを考慮すべきだと改めて表明した。

 項懐誠氏は16日の記者会見で次のように指摘した。

 中国は従来からユーロを重視している。ユーロはきっと米ドルと同じように世界に通用する通貨になるものと考えている。私はこの二、三日にユーロが強くなりつつあることに気づいたため、中国の関係方面の責任者に、われわれは自分のタマゴを一つのかごに入れないようにし、できるだけはやくユーロを買い入れたほうがいいと提案したい。ユーロが一部の国の備蓄貨幣になるのは必然的なことである。

中欧の経済貿易協力を促進

 ここ数年来、中欧貿易は急速に発展している。現在、EUは中国の三番目の貿易パートナーであり、中国はEUの四番目の貿易パートナーである。2000年の中欧貿易総額は690億米ドルを超えた。

 ユーロ地域の総人口、国内総生産(GDP)及び貿易額が世界総額に占める割合は、アメリカと同じぐらいである。現在、EUの対中貿易は日本とアメリカに遅れており、EUの対中投資はその対外投資の2.24%しか占めていない。多くの専門家は、中国とユーロ地域はかなり大きな経済補完性があり、双方の経済貿易協力の分野と規模はいっそう拡大する基礎があり、しかもユーロの全面的な流通はある意味において中欧経済貿易協力拡大のために空間を切り開いた、と見ている。

 中国銀行国際金融研究室主任の譚雅玲氏は、ユーロの流通後、通貨決算の多様性と複雑性が少なくなり、通貨リスク及び中欧経済貿易の中で発生する可能性のある各種の費用と機会コストが減少した、と語った。

 専門家の見方では、ユーロ地域の大多数の国のもとの貨幣と比べて、流通開始後ちくじ安定しているユーロは、その国際地位と信用度及び安定性がいずれも大きく向上し、これで中国とユーロ地域諸国との貿易の中で通貨の為替レートのたえまない変動のために生じるリスクが小さくなる。統一されたユーロ地域の市場では、商品の値段はすべてユーロで表示され、異なる通貨による値段表示と為替レートの要素によってもたらされるわりに大きな価格差が再び現われることがないであろう。統一された大きな市場がそれまでの12カ国の分散した市場に取って代わり、多国間貿易の取引コストが下がり、中国の商品がユーロを使用する国の港に輸出されさえすれば、ほかのユーロ使用国に分け売りすることができ、輸出手続きが簡略化され、費用も下がるだろう。

 事実上、ユーロが1999年に流通し始めてから、中国とユーロ地域の貿易額は年々大幅に上昇する態勢を見せている。

 EUはずっと中国が外資と技術を導入する重要な地域である。ユーロが流通し始めてから、ヨーロッパの投資家、とりわけ中小企業の投資家の投資リスクはいちだんと小さくなるだろう。そのうえ、中国の現段階の発展趨勢が良好で、市場潜在力が大きいため、より多くのユーロ資本を誘致して中国に直接投資させ、外国投資家の対中投資構造を改善するだろう。

 譚雅玲氏はまた、ユーロキャッシュの流通が中国の外資利用の多元化を効果的に促し、中国がヨーロッパ資本市場で資金をより多く調達するようになるだろう、と見ている。

 EUには非常に発達した債券市場がある。EUの債券発行額は世界債券発行総額の34.5%を占めている。ヨーロッパ中央銀行が低利率政策を実行しているため、ヨーロッパでの債券発行のコストはわりに低い。ユーロ地域の中央銀行の統一的な金融政策は、ヨーロッパを統一された、効率が高く、成熟した資本市場に変えた。これは中国の企業と金融機関がユーロ地域の資本市場での資金調達と投資に広い空間を提供した。

 譚雅玲氏はまた、ユーロ市場での資金調達は、為替レートの変動のリスクを避けるため、前期は短期資金を主とすべきであり、市場が安定してから長期資金の割合を大きくするように、と提案した。

 報道によると、ヨーロッパの一部の大型証券会社、仲介会社は中国企業のヨーロッパでの債券上場と発行を誘致するため、すでに準備を整えているという。

マイナスの影響もある

 譚雅玲氏によれば、現在、ユーロ地域の経済は半閉鎖の、ひいては閉鎖の状態にあり、保護貿易主義が相対的にひどく、そのうえ通貨の為替レートの調整が困難なため、短期内には中国の対ヨーロッパ輸出と投資に若干のマイナスの影響を及ぼす可能性がある。

 専門家の分析では、ユーロのキャッシュが流通してから、ユーロ地域が内部貿易を強化するため、市場競争はいっそう激しくなり、労働集約型の製品を主とする中国の一部の企業は、市場、取引先、製品などの面でより大きな競争に直面する。そのほか、ユーロの流通によって生まれる新しいタイプのヨーロッパの金融機関が銀行、保険、証券などのサービスを全面的に提供するため、中国金融業の国際市場開拓により大きな圧力をもたらすだろう。

 アジア開発銀行(ADB)のレポートは、ユーロの流通後、国際市場の競争がいっそう激しくなるとし、アジア諸国と企業が冷静に観察するとともに、ユーロのもたらす挑戦に対応するため、全面的に戦略を制定しなければならないと戒めている。

ユーロ売買が盛んになる可能性は暫時ありえない

 ユーロが誕生した後、ヨーロッパ中央銀行は統一的な通貨政策を確定し、銀行間の高額決算や各金融市場の決算もユーロで使われるようになった。その当時、ユーロは記帳式通貨として市場に歓迎された。それは主としてユーロの為替レートが持続的に安定して上昇することに現れ、最初の価格は1.17米ドル対1ユーロであったが、その後持続的に上がって、最高は199914日の1.1835米ドル対1ユーロに達した。

 今回、ユーロキャッシュの発行で、投資家はユーロを盛んに売買することがあるだろうか。中国銀行北京分行の張震氏は、庶民が早くからユーロに接触しており、ユーロの衝撃力が三年来だんだん弱くなったため、ユーロを盛んに売買する現象が現れない、と見ている。

 中国工商銀行北京分行の王博民氏は次のように語った。

 ユーロキャッシュ流通の政治的意義がその経済的意義より大きい。今後のユーロ為替レートの趨勢は主に欧米間の経済比較を見なければならず、投資家も主にユーロ地域の今後の経済情勢を考慮するだろう。

 王博民氏の説明では、ユーロ取引に参与するものは大体以下の3種類に分けられる。一はユーロとその他の通貨の売買を通じて、為替レートの差額をかせぐことを目的とする個人投資家であり、これらの投資家は比較的慎重である。二はユーロを必要とする個人購入者であり、このような投資家は今後も増えるだろう。三は外貨を買い入れたりやみ取引をする公司や機関であり、この業務は国家外国為替管理局の許可が必要とするため、ある程度制限されている。

 そのほか、昨年11月に中央銀行がユーロの準備高を増やすことを打ち出したため、投資家が競って見習い、ユーロの為替相場に積極的な影響を及ぼす可能性がある。しかし、短期から見て、ユーロを現在の状態から抜け出させることができない。ユーロが本当に強くなるには、依然として経済回復の速度と質に頼る必要がある。