選択に直面する9億の農民

李 吉

 国外に、中国のWTO加盟後、最初の5年間に最も大きな衝撃を受けるのは農業で、500万ないし1000万人の農民が失業し、農民の実際の収入が下がると見られるという論議がある。

 2001116日、朱鎔基総理がブルネイで東南アジア諸国連合10カ国と中日韓3カ国および東南アジア諸国連合と中国のサミット会議に出席した際、中国のWTO加盟後、外国が農産物を中国に大量にダンピングするならば、中国農民の生活に影響を及ぼすだろう、WTO加盟後、「わたしが最も心配するのは農業だ」と述べた。 9億の農民をもつ農業大国として、中国の農業経済と農民にとって、WTO加盟はいったい何を意味しているのか。

 約束

 中国政府はWTOの「農業取り決め」に基づいて市場参入、国内支持、輸出補助および動植物衛生検疫など主な面で約束をした。

 市場参入の面では、中国の2000年の農産物輸入関税率は平均21.3%であったが、中国政府は、200411日から、中国の農産物関税を17.5%に引き下げ、2005年には15.6%に引き下げると約束した。

 WTOの規定によれば、WTO加盟後、中国は農産物の輸入量を制限することができない、そのため、中国政府は、小麦、トウモロコシ、米、植物油、砂糖など一部の重要な農産物について、もとの絶対的な割り当て額管理制度を関税割り当て額管理制度に変えると約束した。関税割り当て額の開始の額は輸入国が交渉前の3年の輸入平均額あるいはこの3年の国内消費量の3%に基づいて確定され、大きい方の数字を関税割り当て額とする。関税割り当て額内の輸入に対し低い関税税率を実施し、関税割り当て額より高い部分に対し高い関税を実施する。

 農産物の輸入関税割り当て額管理制度の面で、中国政府は次のように約束した

 一、関税割り当て額の管理は透明で、予測できる、統一、公平、非差別のものでなければならない。伝えられるところによると、国家発展計画委員会はすでに「農業の関税割り当て額管理規則」を公開に掲載して、社会から広く意見を求めた。

 二、関税割り当て額は全世界の統一管理を実施し、一般貿易と加工貿易を問わず、関税割り当て額管理制度を適用する。

 三、関税割り当て額はいま主に国営貿易の中で使われているが、今後は関税貿易割り当て額を享受する貿易の中で非国営貿易の割合をちくじ高める。

 輸出補助の面では、中国政府は農産物の輸出補助取り消しを約束した。

 国内支持の面では、中国はWTO加盟後、農産物の補助率を8.5%とすることを約束した。

 動植物検疫の面では、1986年から1993年にかけて交渉した結果動植物衛生協定(SPS)が結ばれたが、中国はそれと一致を保つことを約束した。

 衝撃はどれほど大きいか

 中国がWTOの関係規則を順守する基礎の上で農業貿易保護の程度を下げ、国内の農産物市場をちくじ開放することを約束したが、これは世界の農業貿易自由化に参与する過程で、中国の農業発展にリスクと挑戦がもたらされることを意味している。

 国務院発展研究センター研究員、中国政府のWTO加盟交渉に参加した農業専門家の程国強氏は、移行期が短く、市場開放度が高く、コントロール手段が制限されるため、WTO加盟で中国の農業は非常に厳しい情勢に直面すると見ている。

 中国農業部農村経済研究センター研究員の徐柏園氏はこのような挑戦を次の五つにまとめている。

 第一は政府の管理体制に対する影響である。中国の農業生産、農産物流通、農産物貿易がそれぞれ農業、国内貿易、対外貿易の3つの部門によって主管されているが、このような状態は明らかにWTO加盟後の国内外の市場化のニーズに適応しない。

 第二は強みのない農産物が衝撃に直面することである。例えば小麦、大豆、トウモロコシ、綿花、食用油と搾油原料、砂糖と製糖原料などの農産物の国内価格はいまのところ国際市場より10ないし70%高い。国外の農産物が国内に大量に入っていくと、中国の栽培業は極めて大きな衝撃を受ける。小麦だけでも、アメリカは毎年対中輸出量を300万トン増やして、中国の小麦栽培農家に50億元以上の損失を蒙らせるだろう。これが食糧、綿花、搾油原料、製糖原料などの初級農産物を主な収入源とする中国の広範な農民にもたらす眼前の問題は、増収が更に困難になり、失業者数も増加するということである。食糧や綿花と比べて、中国の食糧以外の農産物、製品例えば肉類、野菜、果物、水産物などの価格は国際市場より40ないし80%低いが、その品種、外観、味および鮮度保持、高度加工の面は国際市場の要求と開きがあり、近い将来に次の3つの問題を誘発する。@国内の主要農産物の「売りにくい」という矛盾を先鋭化させ、流通ルートの圧力を大きくする。A国内市場の一部農産物の価格が下がり、市場の変動を誘発する。B一部地区の農民の収入増加と農業生産の積極性に影響を及ぼす。

 第三は農業生産構造に対する影響である。WTO加盟後、中国の農産物は国内外市場の厳格な選択を受け入れ、値段が安く品物がよい健康な農産物は、国内外消費者に歓迎されるだろう。現在の中国農産物の質、品種、構成が市場の消費ニーズに適応しない問題はすでに際立って現われている。できるだけ早く構成と質を調整しないならば、中国の農産物が国際市場に進出するのは難しくなる。

 第四は中国の農産物市場に対する関税減免と非関税障壁減少の影響である。中国の農産物は長期にわたって輸入ライセンス、輸入割り当て額および非関税措置に頼ってコントロールしてきたが、WTO加盟後、各種非関税措置の使用が禁止され、関係ある等量の関税に転化してから、規定に基づいて削減することができない。関税を減免し、非関税政策手段をとらなくなれば、国外の農産物が大挙して国内市場を占領するのに便利な条件をつくり、そのため、中国のマクロコントロールに影響を及ぼす。

 第五は中国農業の市場化の程度が高くなく、WTO加盟の情勢にとても適応しない。

 農産物の対外開放はまた市場参入、輸出補助、衛生と植物検疫などいくつかの重要な面にもかかわっており、これを見て、中国の農業に対するWTO加盟の影響は全面的なものであることが分かる。

 しかし、ある程度衝撃を受けるが、むちゃくちゃの程度にはならないと見る観点もある。

 農業部発展計画司副司長の馬有祥氏は、「中国の農業はここ数年、すでにWTO加盟の積極的な準備を少なからず進めた。それには自ら進んで四回に分けて税率を46%から21%に引き下げた。輸入すべき農産物も入ってきた、たとえば大豆の年間直接輸入量が300余万キロに達している。中国がアメリカの小麦、トウモロコシ、米、綿花により多くの輸入割り当て額を与えるが、畢竟2005年になれば関税割り当て額管理を実行しなければならなくなるので、割り当て額内で優遇するにすぎない。これは依然として保護措置の一つである」と述べた。

 中国国務院発展研究センター農村部の陳錫文部長と農業部政策法規司の杜鷹司長らは次のように述べた。拡大後の農産物輸入割り当て額も依然として受け入れられる範囲以内にある。中米のWTO取り決めは、輸入割り当て額が年どとに増加し、2004年には最高に達し、輸入量は2180万トンしかない。実際には中国が最も多い年の1995年に食糧を2081万トンを輸入したのであり、10年間に100万トンを余計輸入しても受け入れられるものである。ましてこのように大きな輸入量も国内生産量の5%にもならない。そのため、国外の大口農産物の大量ダンピングは現れるようなことはないだろう。

 しかも、中国が食糧を大量輸入するならば、国際市場の価格は明らかに上昇する。中国の輸入量が2000万トンに達すれば、国際市場の食糧価格を30ないし40%上がらせる。こうすれば国際食糧はもはや価格の強みがなくなり、これ以上輸入しなくなるのは当然である。移行期が過ぎて、割り当て額がなくなっても、価格は調節作用を果たすだろう。

 一部の小麦と大豆の主産地は比較的大きな影響を受けるが、全国から見て、影響は人を恐慌させるほど大きなものではない。

 チャンスもある

 中国のWTO加盟は、農業経済の発展にもたらすのは衝撃だけでなく、チャンスもたくさんある。専門家は、全般的に見て、WTO加盟は中国の国家農業現代化の実現を速めることに積極的な影響を及ぼすと見る。

 第一は農業の対外開放拡大に役立つ。WTO加盟後、中国は国際規則に従って、国内の政策・法規をいちだんと整備し、農業の投資環境を最適化させ、国内市場を開放し、国外からより多くの資金、技術、管理経験を農業分野に導入して、中国農業の国際のとリンクを促し、農業の対外開放のプロセスを加速する。

 第二は農業の産業構造と農産物の輸出入構成の調整に役立つ。中国は労働力が豊富であるが、耕地資源が十分ではない。WTO加盟は中国が資源集約型製品を輸入し、労働集約型製品を輸出するのに役立ち、資源コストが相対的に高いトウモロコシ、小麦、搾油原料、製糖原料、大豆、綿花など農作物の農作物作付け総面積と総収量(生産総額)に占める割合をちくじ小さくし、野菜、一部の果物、花卉など園芸作物の割合をいくらか大きくする。牧畜業(牛乳、羊毛を除く)は主な受益の業種である。

 第三は中国の農産物の輸出環境の改善に役立つ。WTOの現有メンバーの無差別貿易待遇を享受することができ、農産物の貿易交渉と取引のコストを減らし、農産物貿易問題を解決する規範的な「ルート」を獲得し、中国農産物の国際市場進出を促す。

 清華大学人文学院経済学研究所の孔祥雲助教授は、WTO加盟後、国際貿易環境をいっそう改善し、農業の国際協力を強化し、国際市場における中国農業の競争力を強めることに役立つだけでなく、中国が農業の中で市場経済を発展させ、国際市場とのドッキングを加速することにも役立つ。これは非常に得難い積極的な要素であると見ている。

 専門家、とるべき対策を提案

 WTO加盟が農業にもたらす衝撃とチャンスを前にして、専門家たちは、WTO加盟のもたらす不利な影響を減らし、チャンスをつかむには、中国の農業は必要な対応措置をとらなければならないと見ている。

 中国国務院発展研究センター農村経済部の徐小青主任は次のように述べた。中国の農業が実現しなければならないのは、農業の生産構造を調整し、国際市場の規則に適応する農業管理と農産物流通体制を確立し、市場の全面的な開放がもたらすリスクをできるだけ取り除くことである。

 中国のWTO加盟は、中国の農業管理体制と農産物流通体制の改革を促進するが、体制上の改革は、製品の競争よりいっそう重要な意義がある。

 2001年に入ってから、中国は綿花の流通体制を改革し、八つの食糧主要販売区を全部開放した。これは中国の綿花の買付け市場がすでに全部開放され、農民に対する政府の食糧強制買付けのやり方がちくじ取り消されていることを示している。

 中国のWTO加盟後、食糧経営と国内・対外貿易が国によって独占される流通体制が打破され、新しい流通の主体を育成することは、中国がとらなければならない対応措置である。

WTOの農業問題を研究する専門家、中国農業大学経済管理学院の田維明教授は、長期から見て、中国は単に現有土地の生産率の向上に頼って9億の農民を豊かにする目標を実現するのは不可能であり、そのため、経済構造調整はどうしても行わなければならない。中国は力強く秩序だって、農村の労働力の非農業分野への移転を推進しなければならないと見ている。

 国務院発展研究センター研究員の張忠法教授は、ウルグアイ交渉は「特殊な例外規定」があり、発展途上国が2004年以前に、農業保護標準が先進国の1995年の保護量に達するよう要求されている。この期間を利用して、農業への投入を増やすなど一連の措置をとって、農業をできるだけ早く先進国に追いつかせる必要がある。

 次に、国はマクロの面で農業を保護する一連の政策と法規を制定する。2001年から2010年までの間に農業保護率を15ないし20%に高めるように努める。

 第三に、産業政策の手段を運用して資本と技術集約型の産業をある程度支持し、それによって農業に対する貿易自由化の不利な衝撃を相殺し、中国農業のグレードアップとモデルチェンジを促進する。

 第四に、国内の税収政策は収入再分配の面でより大きな機能を果たし、これによって中国のWTO加盟が農業にもたらす収入格差の拡大を小さくして、各群体にわりに均等に貿易自由化の福祉向上を享受させ、これによってもたらされる社会の不安定を防止する。

 第五に、農業労働力の移転のために必要な条件を整える。農業労働力の農業から第二次と第三次産業へ、農村から町への移転は基本的な趨勢であり、中国が工業現代化を実現する必須条件である。

 第六に、わりに高い貯金率を維持し外資の流入を引きつけることを促進する。農業労働力の移転は、力強い資本供給の支持が必要である。中国の労働力が多く資本/労働比が非常に低いため、資本の増加は依然として今後かなり長い期間における重要な要素である。

 専門家たちによれば、中国の農業はWTO加盟後に若干の代価を払わなければならないが、全体と長い目から見て、利益が弊害より大きく、措置が適切であるならば、中国の農業はまもない将来に質的飛躍を実現する。

 政府の対策

 WTO加盟のもたらす挑戦に対応するため、中国政府はすでに若干の努力を払った。

 国の規定によると、2001年に新しい食糧が出荷される時から、質が劣り、市場に歓迎されない一部の食糧の品種は保護価格による買付けの範囲からはずさなければならない。これは中国の農民に、良質のものの値段も高く、何を植えるかには、自分で決めるという重要なシグナルを出した。朱鎔基総理は全国人民代表大会の会議で何度も農民の代表に、何を植えるかについては、市長に尋ねるのではなく、市場を探さなければならないと話した。区域協力は近代的農業の重要な一側面であり、統一も必要だが、その地の状況に合わせて地区の特色を形成する必要もある。東部は市場に近く、良質農業を発展させるのに適し、西北地区は水が不足するため節水農業の発展に向いている。

 西部大開発も農業構造調整の契機である。中国政府は西部地区の生態環境を保護、整備し、耕地を森林や草原に戻し、山での伐採を止めて緑化を保たせ、救済の代わりに食糧を生産させるなどの措置を打ち出したが、これらの措置は国の食糧備蓄が相対的に富裕である当面の状況下では確かに実行可能なものである。国は耕地を緑化させる農民に食糧を提供し、彼らに一心不乱に木や草を植えさせているが、これは西部の水土流失問題を解決するとともに、食糧が売れないという圧力をも小さくし、西部地区に幸せをもたらすだけでなく、全国の農業と社会・経済の持続可能な発展に対しても計り知れない意義を持っている。

 農民の選択

 「食糧がなければ腹をすかし、食糧があれば頭が痛くなる」。中国の農民はいつか食糧を売れないために頭が痛くなるのを考えてみたこともなかった。

 「WTO加盟後、なにを植えたらいいか」。いまこれを心配している農民が少なからずいる。

 鞍山市の篤農家、海城市西柳鎮東柳村の農民黄憲国さんは心配していない。黄さんは2000年初め自分のいる村の約87ヘクタールの耕地を請け負い、期限は30年である。

 黄憲国さんは次のように語った。「わたしと妻はともに50歳を越え、その地で生まれ育った農民だ。2000年のトウモロコシのできがよくなかったが、その原因は主にこんなに大面積の農作物を栽培するのが初めてで、技術と管理が追いついていけず、その上干害に見舞われて、コストがわりに高いものとなった。2001年は経験と教訓を総括し、気候の条件もよかったので、トウモロコシのヘクタール当たり収量が11250キロに達し、年収は30万元近く達する見込みだ。

 「中国のWTO加盟後、食糧栽培は依然として利益がある。一つはスケール経営の強みがある。機械耕作、手間、病虫害防除、刈り入れ、貯蔵、販売などの各環で、スケール栽培はローコストの強みがある。もう一つは農作業が細部でも科学技術を応用し、科学的に管理することだ。たとえば、種子を選ぶ時、優良品種を選びながらふるいにかけ、種子の粒を平均にし、被覆剤で包装し、殺菌、消毒し、種子の地力を増やす。以前、みんなは窒素肥料と燐酸肥料を施すだけだったが、わたしはカリ肥料も施し、しかも深く施した。わたしはこのために吉林から二台の種まき機を買い、種をまく時にカリ肥料を施し、作業のプロセスを減らした」。

 「病虫害防除の面では、わたしは機械で除草し、トウモロコシのメイチュウを防除するため、人手と飛行機の両方で薬を撒き、効果がとてもよかった。昨年の秋、わたしはコンバインを賃借りして、トウモロコシを刈り取りながら、その茎を粉砕して畑に戻し、土壌の有機物含有量を増やしたが、今年のヘクタール当たり収量が1500キロ近く増加できると見られる」。

 「種子、化学肥料、農薬、労働力、機械の請け負い費用などを含めて、ヘクタール当たりの投資は3900ないし4050元で、販売に大きな問題がないと思う。要するに、農作業はわりに楽観的で、手間があまりかからず、貯蔵し易く、リスクが小さく、しかも収入がわりに安定している」。  

 黄憲国さんは、一意専心にある事をし、時間が長くなると、市場で自然に位置を見つけることができると考えている。