曲折しながら発展する中米関係

中国国際問題研究所副所長 蘇 格

 ホワイトハウス入りしてから1年になるアメリカのブッシュ大統領は22122の二日中国を公式訪問する。一年来の中米関係の発展の過程を振りかえれば、「変化と起伏に富み、曲折しながら前進する」という表現で形容することができる。

1、困難と曲折が多く、変化と起伏に富んでいる

 外交政策は国の総体的な戦略目標に奉仕するものである。新世紀の初め、アメリカ政府の基本的な戦略目標は、世界の新しい枠組みにおけるアメリカの「主導的」地位を維持し、強化することである。一般的に言って、アメリカの共和党と民主党の二大政党の施政綱領には違いがあり、前者は「政治的現実主義」をその理論基礎としているが、それよりも「実力」で政策の目標を推進することを強調している。共和党が総選挙に勝ち、ブッシュ氏がアメリカ大統領になるにつれて、強硬な外交政策を全面的に推し進め始めた。アメリカ外交の一方主義の傾向が際立っている。例えば、一方的に朝鮮との関係を緩和する過程を中止すること、イラクを爆撃すること、チェチェンの「外相」と会見すること、ロシアの「スパイ」を追放すること、「京都議定書」からの脱退を公言すること、ヨーロッパ同盟国の反対意見を無視し、ミサイル防衛(MD)の発展を急ぐことなどがそれである。中米関係にも、このような傾向がある程度見られる。

 2001年の初め、アメリカが中国を「戦略的競争者」と見なす言論がアメリカの政界から度々伝わってきた。保守党が政権を担当する背景の下で、4月初めにアメリカの偵察機が中国の軍用機に衝突して墜落させた突発的事件は中米関係に極めて大きな破壊力をもたらし、中米関係を急激に悪化させた。アメリカの世論は「中国威脅論」をわめきたて、アメリカの軍部も軍事配置のいわゆる「東への移転」の考えを温めていた。中米関係におけるすべてのマイナスの要素が大きくなり、中でも安全問題と台湾問題がとりわけ際立って現れた。アメリカ政府は中米関係をひどく傷つける一連の措置をとった。例えば、ダライ・ラマと会見し、李登輝にビザを発給し、陳水扁のアメリカ経由を許可し、人権会議で提案を行うほか、台湾への兵器売却のグレードを大幅に高めた。

 しかし、全面的と発展の観点から分析しても、これで中米関係が全面的な対抗に向かうと見ることができない。原因は以下の三つを挙げられる。(1)国際関係の枠組みから分析すれば、グローバル化と多極化の背景の下で、いかなる人が独りで全面的に中国を「抑制する」政策を推し進めようとしても、おそらく効果をあげるのが難しい。(2)国家利益から分析すれば、アメリカがその利益を守るためにも国際協力を求めなければならない。中国との関係を悪化させるなら、一部勢力の短期利益に合致するかも知れないが、経済利益を含むアメリカの長期と根本的な国家利益に背く。(3)二国間関係の相互利益の角度から見れば、中国政府は原則を堅持し、アメリカ側と「道理があり、有利であり、節度がある」闘争を行う一方、大局から出発して、中米関係の安定と発展の方向の把握に努めている。

 軍用機衝突事件が解決された後、アメリカの対中政策は緩くなり、米中の「戦略的競争関係」の位置付けを公に放棄した。7月末、パウエル米国務長官が中国を訪問した。江沢民主席はパウエル氏と会見した時、中米関係正常化の歴史的成果を十分に確認するとともに、二国間関係の発展は両国人民にその中から利益を得させるだけでなく、その他の国の人民にもその中から利益を得させることができるという考えを明らかにした。未来に向かう中米関係について、江沢民主席は高遠な見識をもって「両国は新世紀の高度に立ち、遠い将来まで見通して、ともに世界の平和と発展を促進すべきである」と指摘した。

2.相互利益を調整し、緊張から緩和へ

 昨年911日午前、テロリストにハイジャックされた民用航空機がニューヨークの世界貿易センタービル、ワシントンにある米国防総省などの目標にぶつかって、数千人の死傷者を出させた。「9.11事件」の爆発は、偶然性もあれば、ある程度の必然性もある。それは世界じゅうのいろいろな矛盾が入り混じることによって、時には激しい衝突に変わる可能性があることをはっきり示している。その影響は短期的なものもあれば、長期的なものもある。

 「9.11事件」の後、テロ反対がたちまちアメリカの最も重要な任務となり、アメリカ政府はやむを得ず一方主義の態勢を変え、対外政策目標の軽重と緩急を調整せざるを得なくなった。アメリカのテロリズムに打撃を加える行動はより多くの国際支持を求める必要があったため、これは大国関係と地域安全関係の調整のために直接と間接的な影響を及ぼした。これは国際関係の民主化に一定の機会を提供したと言うこともできる。

 国際テロリズムが世界の平和と安定に対する重大な脅威となったことにかんがみ、中国政府は次のような立場を明らかにした。(1)断固としてあらゆる形の国際テロリズムを厳しく非難し、それに反対し、「9.11事件」の罪なき被害者とその家族に深い同情と慰問を表明する。(2)国際社会は対話を強化し、協力を展開し、ともに国際テロ活動に打撃を与えるべきである。(3)テロリズムに対する軍事行動は、目標をはっきりさせるべきで、罪なき人を巻き添えにしないようにしなければならない。同時に、国連と安全保障理事会は国際テロ反対問題で主導的役割を果たすべきである。(4)テロリズムはごく少数の極端な邪悪勢力に属し、テロリズムを特定の民族あるいは宗教と同列に扱ってはならない。(5)中国もテロリズムの危害に直面しており、「東トルキスタン」反対は国際テロ反対闘争の重要な一側面である。

 テロ反対は中米関係の改善にチャンスを提供した。年初、アメリカは対中政策の重点を中国がアメリカの将来の相手になるのを防止することに置き、「軍用機衝突事件」によって中米関係が一時低迷状態に陥った。しかし、「9.11事件」によってアメリカは外交議事日程を調整せざるを得なくなった。テロ反対行動の中で、アメリカは中国の支持を必要とし、中国との関係を発展させることを望んだ。江沢民主席は要請に応えてブッシュ大統領と通話し、アメリカ側や国際社会との対話を強化し、協力を展開する意向を表明した。これを見て、テロリズムに打撃を加えることが急にアメリカ政府のさし迫って解決が待たれる問題になり、その上中国も一貫してあらゆる形のテロリズムに反対していることから、中米関係は共通点と新たな協力の基礎が増えたことがわかる。もちろん、「テロリズム」についての定義とそれに反対する方法の問題の上では、両国はまだ交流を強化する必要があった。10月下旬、国内外のテロ反対という二つの緊迫任務に直面しているとはいえ、ブッシュ大統領は依然として計画どおりに上海で開かれるアジア太平洋経済協力機構会議(APEC)に出席することを決定した。会議期間中、江沢民主席とブッシュ大統領は初めての両国首脳会談を行い、両国の指導者は一連の重大な問題について突っ込んで意見を交換した。国際情勢全体の発展の趨勢と両国の根本的利益の考慮に基づいて、中米双方はともに中米の「建設的な協力関係」を推進する意向を示した。

 こうして、中米関係の前途が明るくなり、道が開かれた。

3.広範な協力分野

 今回、ブッシュ大統領が北京に到着する日は、ニクソン大統領が30年前に中国を訪れた日と同じ日である。歴史を振りかえって、中米関係は何回も困難を経験し、ひいては長い「冷戦」時期もともに経験したと言えることができる。中米の間には確かに多くの相違、ひいては深刻な相違が存在している。しかし、歴史は、中米両国が協力すれば相互に有利であるが、対抗するなら双方にとって害があることをわれわれに教えている。

 「9.11事件」以来の国際情勢を分析して、中国の現実の総合的実力と発展戦略はいずれもアメリカに対する脅威と見なすべきではない。ここ数年来、中米双方は一連の重大な問題について効果的な協力を行い、地域と世界の平和と発展のために積極的な役割を果たし、両国の共通の利益をも力強く促進した。重要なのは、中米双方が互いに尊重しあい、共通点を求めて相違点を残し、互いに内政に干渉せず、共通点の拡大と発展に努めるべきことである。利益上の衝突については、交渉を通じて協調することができるが、価値観の違いについては、対話を通じて信頼を深め疑いを解くことができる。たとえ構造上の調和しにくい矛盾であっても、あらゆる手を尽くして危機処理メカニズムを構築し、それが対抗にエスカレートするのを防止しなければならない。

 未来を展望して、中米関係の基礎はほかでもなく両国の国家利益の融和である。中米両国の国家利益の融合と矛盾は、当面、ひいては今後かなり長い時期における二国間関係の協力と相違が共存する基本的態勢を決定するものである。中米両国には相違が存在しているにもかかわらず、両国の互恵と協力はやはり広範な基礎を持っている。「平和と発展」をテーマとする時代において、天下は依然として太平ではない。中米は世界で重要な影響力を持つ国であり、双方のアジア・太平洋地域の安定を擁護する責任は軽くなったのではなくて、重くなったのである。経済の「グローバル化」と科学技術革命が絶えず加速する背景の下で、経済の相互依存は中米両国の経済協力の範囲を縮小したのではなく、それを拡大したのである。「多極化」という国際趨勢の下で、一部のグローバル化の問題と地域問題の解決は国際社会の一致した協力を必要としている。中米両国の共通の利益と協調の必要は減ったのではなくて、増えたのである。

 中米両国は二国間関係の全局にかかわる四大分野の中で共存と協力を選ぶことができる。

 戦略安全の分野では、正常な中米関係を維持することは地域の安全、ひいては世界の平和にとってもいずれも重要な意義を持っている。中米両国はともに国連安保理常任理事国と核大国であり、両国が平和共存五原則を踏まえて関係を発展させ、互いに敵としないならば、それ自体は当面だけでなく、将来に対しても非常に重要な戦略的意義を持っている。

 経済関係の面では、世界最大の発展途上国としての中国と、世界最大の先進国としてのアメリカの相互補完性は言わずもがなである。アメリカの経済と科学技術が発達し、その管理経験も中国の参考に供することができる。改革開放後とWTO加盟後の中国は巨大な市場と発展の潜在力を持っている。平等互恵の往来と経済協力は二国間関係の基礎になるべきである。経済往来の中の摩擦と協力の中に現われた矛盾は話合いを通じて解決することができ、「制裁」や「報復」は問題の解決に役立たない。

 イデオロギーの面では、中米の文化的伝統、歴史的経歴、発展の道、社会制度の違いによって、両国に違いがあるのは避けられないことである。しかし、われわれは豊富多彩な世界で生活している。各種の文明と社会制度は長期にわたって共存し、比較の中で長所を取り入れて短所を補い、相違点が存在する中でともに発展すべきである。中米両国の格差と相違は相手の内政に干渉する理由ではなく、互いに交流、往来する原動力となるべきである。

 台湾問題は本来中国内部の両岸関係の問題であり、中国政府は「平和統一、一国二制度」の基本方針を引き続き堅持する。しかし、国際関係の情勢が変化したため、台湾問題は中米関係の中の最も核心的、最も敏感な問題になり、中米関係を正常な軌道から離脱させられる唯一の問題でもある。中国政府と人民の国家の主権と領土保全を守る立場は確固不動のものである。台湾の中国の一部分としての地位は決して変えるのを許さない。中米の三つの共同コミュニケは両国関係と台湾問題を処理する基本的な枠組みである。

 中米間の関係をどう表現するかは検討する余地があるが、中米関係の内包は豊富で、決して「相手」、まして「敵手」といった語で完全に概括できることではない。また、中米という二つの大国の関係がいい方に発展しても悪い方に発展しても、その意義は戦略的、全局的なものであることも指摘しなければならない。

 中米が健全で安定した関係を発展させる具体的な協力分野は以下の五つの面を含むことができる。

 一、世界と地域の平和と安定を擁護する。中国の経済建設は周辺の平和な環境を必要としているが、アジア太平洋地域におけるアメリカの多くの利益も地域の激動を望まない。中米双方は朝鮮半島非核地帯と地域の安定を維持する面の協力を含めて、区域問題をめぐる協力を探究することができる。

 二、二国間の経済関係。アメリカは中国の二番目の貿易パートナーであり、中国はアメリカの四番目の貿易パートナーである。中国のWTO加盟にともない、中米経済協力の見通しはさらに明るくなるであろう。もちろん、経済関係が深まるにつれて、新たな対立と問題が現れる可能性もある。中米は中米合同経済委員会(JEC)と中米合同商業貿易委員会(JCCT)の協議を強化することができる。

 三、国連の枠組み内での協力。中米はともに国連安保理の常任理事国であり、中国の支持が得られなければ、アメリカが国連でなにかやろうとしても難しい。

 四、軍縮と軍備抑制の分野。中米はミサイル防衛などの問題で食い違いがあるが、双方は共に努力を払って、核兵器不拡散条約(NPT)と包括的核実験禁止条約(CTBT)などの条約の締結を促進した。中米は兵器拡散防止問題での協力を探究することができる。

 五、国際テロリズム、組織的な国際犯罪、麻薬密輸、不法移住、紙幣偽造、マネー・ロンダリングなどを取り締まる面の協力。持続可能な発展を保障するため、エネルギーと環境分野の協力を展開する。科学技術協力を展開し、教育と文化の交流を促進する。人権などの問題について、中米間は平等と相互尊重の精神にのっとって、異なるクラスの対話を展開することもできる。危機防備と処理メカニズムの確立を探究する。例えば、海上の軍事安全協議メカニズム(MMCA)を強化し、安全分野についての対話と意思疎通ルートを探求することもできる。