ボランティアの遭難によって引き起こされた論争と思考

 2002121日、ホフシル(可可西里)自然保護区の中の「緑色の川」と呼ばれる民間環境保護組織、ソナンダジェ(索南達傑)保護ステーションのボランティア、馮勇さんと運転手の李明利さんは保護区以外のところに閉じ込められて遭難した。    

 同自然保護区管理局の分析によると、遭難の原因は気候が寒く、酸素が非常に欠乏し、その上野外生存の経験が乏しいため、脳水腫にかかり、知覚を失ったあと凍死したのかも知れない。

 あふれる情熱や理念に対する認識に頼って、無償でなにかをやるというボランティア精神は「公民精神」とたたえられている。1979年に、国連のボランティアが初めて中国を訪れてからの20余年間に、中国のボランティア組織は逐次発展してきたが、現在、中国のボランティアは2000万ないし3000万人(法に依って登録したボランティア組織に登記したメンバー)に達している。現在、中国の登録済みの非営利的組織が21万あり、登録していない組織は70万以上ある。

 2001年に発足したソナンダジェ保護ステーションは長江の源にできた最初の保護ステーションであり、中国民間最初の自然生態保護ステーションでもある。海抜が4500ないし6000メートル、冬季の気温がセ氏マイナス度で、8月で吹雪に襲われるというひどく劣悪な環境長期にわたってボランティアを派遣するのは中国でも初めてのことであった。馮勇さんが遭難する以前の2年来間に、ボランティアは20余回もこの保護区にきて無償でサービスした。

 遭難事件が発生した後、ソナンダジェ保護ステーション責任者の楊欣さんは、「今後保護ステーションのボランティア活動は大きな調整を行い、前よりも科学技術を多く活用し、単に「環境保全」をテーマとするのではなく、人間と自然の関係の研究に重点を置くようにする。活動の内容は人類学調査、氷河調査、生物種群調査に及び、これによって、現地の経済を発展させる生態観光調査などを指導すると語った。

 中国初の「ボランティアの死」と呼ばれるこの事件は全国を驚かせた。人々は死者に深い哀悼の意を表すと同時に、ボランティアをホフシルに派遣する行動に疑問を抱き、中国のボランティア事業について、ボランティアの行動は理想と熱情だけあれば十分なのであろうか、できるだけ早く一連の関係制度を充実させ、ボランティア組織自体の管理、育成・訓練、プロジェクト評価を強化することがとても必要ではないのだろうかなどの考えを明らかにした。

ボランティアを募集してホフシルに派遣する意義は大きくない

 張志和・環境研究専門家張志和氏  チベットカモシカはホフシルに生息しているだけではなく、現在、中国国内に生存しているチベットカモシカは約75000匹あり、主な種群はチベットのチャンタン(羌塘)保護区にあり、残りはホフシルと新彊のアルジン(阿爾金)山にある国家クラス自然保護区に生存している。後の二つの自然保護区はいずれも外部の人が入るのを抑えている。理由は、ボランティア派遣が保護区の「緊急救助式の保護」という初志に背くからである。自然保護区では人間の活動をできるだけ減らすべきで、青海・チベット高原の生態はどちらかというとあまりにも脆弱で、なおさら人為的な活動を制限すべきである。環境保全の角度から見て、資金不足は正常なことであり、これは社会全体の協調が必要である。このような大規模なボランティア募集の短期行為は、ホフシル生態体系にメリットを得る前になにかを犠牲にすることを代価とするものである。

 ボランティアび対する正しい理解は、資源が限られているという前提の下で、ぼう大な人的資源を活用して、社会により効果的なサービスを提供し、運行コストをより合理的にすることである。しかし、ホフシルでは、このボランティアのやり方は贅沢すぎるきらいがある。

 『北京青年報』の辰詩氏 ボランティアはホフシルで主に環境保全を宣伝することができるという人がいる。しかし、ここ23年間に、メディアはホフシルやチベットカモシカについての報道は、数量から質に至るまで、空前の情熱を傾けたと言える。そのため、ホフシルやチベットカモシカは国宝のジャイアントパンダに劣らず、だれにも知られるようになった。このような背景の下で、多くのボランティアを募集し、無人地区へ派遣してホフシルとその環境保全をPRする必要があるだろうか。

 周知のように、国家クラス自然保護区のきわめて重要な機能は科学研究である。自然保護区は世界の生態環境が日ましに悪化する状況の下でとられている「緊急救助式の保護」であり、保護区の中には危険に瀕する珍しく希少な野生動植物の種が集中的に分布しており、その価値は計算できないほどのものである。そのため、広範かつ詳細な科学研究は自然保護区(特に国家クラス自然保護区)が担っている重要な任務である。

 アルジン山保護区とチァンタン保護区は終始科学研究をきわめて重要な地位に置いている。近隣のホフシルがメディアによって大量に報道されて知名度が急に高くなった時でさえ、彼らは依然として自らが歩むべき道を着実に歩み、自らがやるべき事をやり、科学研究およびその他の活動を整然として展開している。彼らの活動は尊重され、国際的に認められ、外国の科学者がたえず彼らと協力して科学考察を行い、科学研究経費を援助している。

 しかし、早くから科学研究を展開するよう呼びかける熱心な人がいたにもかかわらず、ホフシル保護区では今なおそれが展開されていない。数年前は、砂金採集や、不法狩猟の影響で、科学研究を展開できなかったと言うならば、今日ではチベットカモシカを捕って殺す事件がすでにかなり少なくなったのに、科学研究が依然として議事日程にのせられていない、これは「教養全体」の問題であると言わざるを得ない。

 ソナンダジェ保護ステーションのボランティア趙伯生氏 われわれは少し特殊で、管理がほとんどなく、各自がめいめい好きな勝手なことをしている。

 30日間ステーション駐在すべきだが、最後まで頑張らず、繰り上げて撤去した。私個人から見て、このステーションでボランティアの仕事をするのは意義があるが、その意義は想像するほど大きなものではないと思う。

 たとえば青海・チベット高原の沿線では、メディアはどのように環境保全に注意を払うかとさかんに強調したが、実際には、それほど多くの人、それほど多くの農民の臨時就労者の中にごみをゲルム(格爾木)に運んで焼却する人は一人もいないだろう。私たちのステーションは青海・チベット鉄道沿線から100余メートルしか離れていないが、毎日のように、ほこりが部屋の中へ漂ってきている。

 ソナンダジェ保護ステーションはホフシルの自然環境の保護に対し不滅の貢献があると言うべきだが、今回の事故に対しても責任を負うべきであるが、それを取り消すことを意味しない。

ボランティアの保護や行動に依るべき法律が必要

 丁元竹教授・北京大学ボランティアサービス・福祉研究センター主任丁元竹教授 死者の遺族が補償を請求する場合、ボランティア組織とボランティアがいずれも依るべき法律がないことを発見するだろう。というのはまず、ボランティアが自由意志でそれに参加するからであり、次は法律上賠償を請求することがないからである。「緑色の川」は正式に登録した合法的組織であるが、法律の面から言えば、なんら責任がないのである。

 法規について言えば、現在、全国では、広東、福建、山東三省だけに「青年ボランティア管理規則」があるが、これは青年ボランティアに対する法規にすぎず、すべてのボランティアをカバーするものではない。

 現在までのところ、中国政府はまだボランティア事業を展開し、充実させる法規を整備しておらず、まだボランティアの活動とその管理に対し、系統的な総合的政策を提出しておらず、とくにボランティアの育成、管理、募集の面には詳しい規定がない。ボランティアの生命保険と医療保険はなおさら言うに及ばない。

 中国の民間ボランティア組織はいずれも資金不足の状態にある。その資金源はほとんど国際組織の援助に依存しているが、国際組織の援助プロジェクトにはほとんどボランティアの生命保険と医療保険が含まれていない。広東、福建が条例の中で「青年ボランティア組織は特殊な条件の下で活動をするボランティアのために生命保険をかけなければならない」と規定しているが、これらの組織はそのようにする金がない。

 中国のボランティア組織の経済的窮乏は法的地位の窮乏から来ている。少ない報酬と無償の公民奉仕については、イギリス、アメリカなどの先進国には「公民奉仕法」を制定したかあるいは「労働法」の中で規定を行っている。その非政府組織の活動、社会地位はいずれも法律面で明確な規定がる。そのため、これらの組織は法的保護を受けており、法に依って資金を調達することができる。アメリカでは、非政府組織(NGO)の資金源は公共機関が43%、個人組織が47%、個人の寄付が10%を占めている。政府が制定した納税政策は企業が慈善事業を支持するのを励ましている。

 われわれはずっとボランティアに関する立法問題をめぐって討論している。その目的は立法を通じて、ボランティアとボランティア組織の法的地位を確認し、政府と各界がボランティアを認め、支持する社会環境を形成することにある。

 すばらしいボランティア組織は、すばらしいプロジェクト、すばらしいプロジェクト管理、適格なボランティアがあることを意味しており、これらの人は人を感動させるボランティア精神があるだけでなく、ボランティアとしての技能も身につけていなければならない。

 中国のほとんどのボランティア組織はまさにこれらのものに欠けている。考えや情熱だけを頼りに、方々へ行って金を探し、探した金を使うだけで、その効果がどうなのかというと、誰も知らない。これは当面の中国の大多数のボランティア組織の現状である。

 ボランティアの死については、「緑色の川」は二つの面に問題があると思う。まずはプロジェクトの構想に問題があることであり、この季節に高原で活動するのは適当ではなく、プロジェクトを構想する際に周到に考えていないことである。次は募集したボランティア自体が高原の生活に適応せず、育成・訓練も追いつかず、ボランティアの高原での生存技能が足りないという結果をもたらしたことである。

 ボランティア・サービスには、ボランティアの募集、採用、育成・訓練、管理、評価、奨励など多くの部分が含まれているが、中国ではマクロには関係法律がなく、ミクロには相応の政策がないというのが現実である。

 国外のすべてのプロジェクトには担当官がいる。彼らは一般には高い学歴がおり、専門知識を身につけ、プロジェクトの立件、管理から評価に至るまでワンセットのプロセスがある。現在、中国にはまだこのような評価組織が設置されていない。